第32話 ベッドでゴロゴロしながら
あと一時間もしないうちに日付が変わるという時分。あたしは自室のベッドに横たわり、スマホでミミちゃんの配信を視聴している。
今夜はエリナ先輩とのオンラインコラボで、お酒を飲みながらの雑談配信だ。
ミミちゃんが飲んでいるのは、リスナーさんから貰ったワイン。
エリナ先輩はノンアルコールのぶどうジュース。
冒頭でそれぞれ用意した飲み物の説明をしている時に、あたしも一人のリスナーとして『あたしはビール!』とコメントを送っておいた。
『ミミは好きなおつまみとかあるの?』
『これと言ってこだわりはないですけど、お酒と一緒に食べるなら甘い物よりしょっぱい物の方が好きです』
「分かる!」
ミミちゃんの返答に、あたしは思わず声を出して共感した。
あたしとミミちゃんは甘党寄りではあるけれど、お酒や炭酸飲料のお供として選ぶならしょっぱい食べ物に軍配が上がる。
『しょっぱい物かぁ……ふと頭によぎったんだけど、普通の焼き鮭って言って辛口塩鮭を食べさせて、どんな反応するか見てみたいわ』
『しょっぱすぎてビックリしちゃいますよっ』
『この配信を見ている豚共! 辛口塩鮭は一度にたくさん食べると塩分過多だから、食べる量にはくれぐれも気を付けなさいよね!』
『そうですね、エリナ先輩の言う通りです。決してドッキリに使ったりしちゃダメですよ』
エリナ先輩は当初ミミちゃんに対してもタメ口で話すよう要求したものの、ミミちゃんは基本的に誰に対しても敬語で話しているため、敬語のままでもいいということになった。
『例外があるとすれば、魔神とかユニコーンかしらね。なにせ異世界の生物だし』
めちゃくちゃ心当たりのある生き物だ。
ガールズパーティには他にも人ならざる者が所属しているけど、今日のコラボ相手であるミミちゃんと、先日オフコラボしたあたしを優先して例に挙げてくれたのだろう。
『この上なく具体的な例えを出しましたね』
『というわけで、今度オフで会う機会があれば楽しみにしてなさい。ふふふっ』
『エリナ先輩とオフで会うのは楽しみですけど、いまは是が非でも会いたくないです』
イタズラっぽく笑うエリナ先輩に、ミミちゃんが悲壮感漂う声で返事をする。
辛口塩鮭。かれこれ数年ほど食べていないので、久しぶりに食べたくなってきた。
お茶漬けとかおにぎりの具にちょびっと使うと、すごくおいしいんだよね。お酒の締めにもピッタリ。
『さてと、この件はいったん保留にしておこうかしら』
『保留せずに破棄してください』
『まぁ後輩をいじめるのもかわいそうだし、騙して食べさせるんじゃなく、お土産として持参することにするわ。ユニコと一緒に仲よく食べなさい』
唐突に優しい一面を見せるエリナ先輩に対し、ミミちゃんは少し動揺しつつ丁寧にお礼を述べる。
お酒やおつまみに関するトークがしばらく続き、ミミちゃんの口から先日あたしと一緒にジャーマンポテトを作った話が語られた。
「ぁふ……あれ、おいしかったから……また……作りたいなぁ……」
あくび混じりに漏らした独り言は、キーボードのタイプ音にすらかき消されそうなほど小さく、強烈な眠気に襲われているのだと自覚させられる。
ミミちゃんもエリナ先輩も声がきれいでかわいくて、和やかで楽しい雰囲気の配信に心が安らいで……眠たくなる時間ということも、あって…………。
***
気付いたら、窓の外はすっかり明るくなっていた。
体を起こし、うーんと伸びをする。
いつにも増してスッキリとした目覚めだ。ミミちゃんとエリナ先輩の会話を聞きながら眠りに就いたおかげかな。
途中で寝落ちしちゃったから、スマホの充電は切れてしまっている。自動ロック機能をオンにしておくべきだった。
「さてと……」
あたしはスマホを充電ケーブルにつなぎ、さっそく昨日のアーカイブを見直すことにした。
あとでごはんの時にでも、配信の感想をミミちゃんに伝えよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます