第33話 こっそり練習

 今日はあたしの部屋でミミちゃんとゲームで遊ぶ。

 遊ぶと言っても、和気あいあいと楽しむだけではなく、近々行う予定の視聴者参加型配信に向けての秘密特訓も兼ねている。

 あたしが最下位になったら罰ゲームを受けることになるので、それを避けるために少しでも腕を上げておきたい。

 配信者としては連続して最下位になる展開もおいしい気がするけど、どうせなら全レース勝利したいというのが本音だ。


「せっかくだから、勝った方が簡単なお願いを聞いてもらえるっていうのはどう?」


「いいですね、ぜひやりましょう」


 追加ルールも決まったことで、いよいよゲームを始める。


「コンピューターに一位を取られたら、お互いその場でスクワット十回ってことで」


「それは絶対に避けたいですね。頑張りますっ」


 サラッと罰ゲームも設定し、いよいよ最初のレースが始まった。

 比較的走り慣れているコースがランダムに選択され、ここなら少なくともコンピューターに負けることはないという自信がある。


「ミミちゃん――ごめんねっ」


「ぴゃっ!?」


 ゲーム内での予期せぬ事態に、ミミちゃんが驚きのあまり素っ頓狂な声を漏らした。

 不意打ちでミミちゃんに体当たりしてコースアウトさせ、あたしはそのまま先頭を維持したままゴールを目指す。

 普通の競走だったら妨害行為は問答無用でルール違反だけど、このゲームにおいては必須の戦術と言っても過言ではない。

 途中で何度か危ない場面があったものの、狙っていたショートカットがどうにか成功し、初戦を勝利で飾った。

 ということはつまり、ミミちゃんにお願いを聞いてもらう権利を得たということだ。

 ミミちゃんは悔しそうにしながらも、素直にあたしの勝利を讃えてくれた。


「ミミちゃん、これを『あーん』って言いながら食べさせてっ」


 あたしはおやつとして用意した個包装のチョコレートを一粒掴み、ミミちゃんに手渡す。


「分かりました。はい、あーん」


「あーんっ……ん~っ、おいしいっ」


 優しい笑顔を浮かべたミミちゃんの指ごと口に含むと、舌を使ってチョコを受け取り、よく味わった。

 大好きな人に食べさせてもらうことで、おいしさが何倍にも増幅されている。


「よーしっ、さっそく次行こう! 次はどんなお願いにしよっかな~」


「気が早すぎるんじゃないですか? 次はわたしが勝たせてもらいますっ」


 お互いに勝利を求め、二回戦に臨む。

 序盤から中盤にかけてはあたしがわずかにリードした展開が続き、終盤になると一進一退の攻防が繰り広げられた。

 見事に一位の座を勝ち取ったのは、ゴールラインの直前で劇的な逆転を果たしたミミちゃん。


「うぅ~っ、悔しい! けどおめでとう! どんなお願いでも聞いちゃうよ!」


「そ、それじゃあっ……ほっぺに、キスしてほしい、です」


 ミミちゃんは途中で恥ずかしくなって赤面し、うつむきながらかろうじて聞き取れる声量でお願いを告げた。

 勝ったご褒美として、ほっぺにキスしてほしい、と。

 ……どうしよう、胸がキュンキュンする。古い表現かもしれないけど、他にしっくりくる言葉が浮かばない。


「ミミちゃんっ、かわいい! かわいすぎるよミミちゃん! ほっぺにキスだねっ、任せて!」


 あたしはミミちゃんに接近し、紅潮した頬に唇を触れさせた。


「ちゅっ。ちゅっ。ちゅっ。ちゅ~っ」


 一度や二度ではない。文字通り、ミミちゃんの右頬にキスの雨を降らせる。


「ゆ、ユニコちゃん!?」


「場所は指定されたけど、回数については指示されてないよ?」


 驚くミミちゃんにそう告げて、あたしはさらにキスを続ける。

 さらにオマケというか、自分の内側から沸き起こる衝動を抑えられなくなり、正面に移動して唇を奪う。


「んっ、ちゅっ」


 唇と唇を、隙間なくピッタリと重ねる。

 どさくさに紛れて舌を入れ、ミミちゃんの舌に絡ませた。

 じっくりたっぷり堪能して、唾液の糸を引かせながら口を離す。


「ふふっ。ミミちゃんが勝ったのに、あたしまでご褒美貰っちゃった~♪」


 なんて軽い感じで言ってみたものの、いまの濃厚なキスにはさすがのあたしも少し照れてしまう。


「ひぁ、あ、ありがとう、ございまひゅ」


 ミミちゃんに至っては、耳まで真っ赤になり、声も表情もトロンと蕩けている。

 この状態で次のレースに進むのは酷というもの。

 あたしは紅茶とチョコをおいしくいただきながら、ミミちゃんが元に戻るのを待つことにした。

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