第229話 本気の勝負②

 あたしとミミちゃんはいま、どっちが相手に腕枕をするかで揉めている。

 話し合いで解決することはできず、勝負によってそれを決めることになった。

 お互いに一歩も譲ろうとせず火花が散るほど視線をぶつけ合っているものの、争いの理由からも分かる通り敵意剥き出しでケンカをしているわけではない。

 だからこそ、淹れたばかりの熱いお茶をすすり、チョコやクッキーなどのお菓子をつまんだりしつつ、のんびりくつろぎながら会議が行われている。


「アイスの早食いはどうかな?」


「頭がキーンってなりますし、せっかくなら味わって食べたいです」


「確かに、それもそうだね」


「バドミントンはどうですか?」


「あっ、それいいね! 賛成!」


 しっくりくる案が出るかどうか内心不安だったけど、ミミちゃんのおかげで勝負内容は意外と早く決まった。

 とはいえ、お茶のおかわりを淹れたばかりなので、いますぐ公園に向かうというわけにもいかない。

 お菓子の方は個包装の物ばかりだから、お茶を飲み終えたタイミングで外出の準備を始めることになる。


***


 お茶を飲んで水分を、お菓子を食べてエネルギーを補給した。

 動きやすい服に着替え、日差し対策にキャップを被り、たくさん汗をかくだろうと予想してタオルも用意した。

 バドミントンの道具一式を入れたバッグを背負い、いざ家を出ようと玄関の扉を開けた瞬間――


「わぶっ!」


 マンションの廊下はおろか玄関の中まで水浸しにするほどの強烈な大雨に文字通りの意味で襲われ、あたしたちは外に一歩も出ることなく靴を脱いで家の中へと引き返した。


「うぅ、まさか外がこんなことになってたなんて……」


「全然気付きませんでしたね……」


 バドミントンをするということが前提として頭にあったせいか、二人そろって今日は晴れだと思い込んでしまっていた。

 天気予報はもちろん、窓の外を見るぐらいしておけばよかったと後悔する。

 汗を拭くために用意したタオルを手に取り、雨でずぶ濡れになった体を拭く。


「ここまでびしょびしょだと、シャワーを浴びた方がいいかもしれませんね」


「うんっ、温まりながら次の案を考えよ~」


 というわけで、あたしたちはバドミントンの道具を元の場所に戻し、着替えを持って脱衣所へ。

 さっき着替えたばかりの服を洗濯機に放り込み、二人そろって浴室に移動する。


「勝負内容、どうしましょうか」


「ここまでくると、単にじゃんけんで決めるのもなんか悔しいよね」


「確かに……」


「う~ん……」


 冷えた体をシャワーで温めながら、頭を働かせる。

 家の中でできて、後腐れのない決着が可能で、苦痛を伴わず楽しみながらできるような勝負。

 ――あっ。

 改めて考えてみると、さっきリビングで話していた時に思い付かなかったのが不思議なぐらい最適な案が浮かんだ。

 あたしはさっそくそれを提案しようと口を開く。


「「ゲーム」」


「ん?」


「え?」


 タイミングも言葉も声の大きさすらも完全に一致したことに驚き、あたしとミミちゃんは思わず顔を見合わせる。


「だよねっ、ゲームだよね!」


「はいっ、それ以外ありませんっ」


「どうせなら配信してもいいかもね。腕枕のことは伏せて、二期生の対決コラボってことで」


「だったら、リスナーさんにも参加してもらってチーム戦にするのもよくないですか?」


「いいね~、そうしよう!」


 意見が一致したところから話が膨らみ続け、体を洗う最中も二人の発言は止まらなかった。

 その後あたしの部屋に移動してベッドに腰かけ、どのゲームでどのように対決するか、どんどん詳細を詰めていく。

 配信の枠を立てて時間と内容の告知を済ませ、ゲームの準備もしっかり整えた。

 そしてあたしとミミちゃんは束の間の休息として、ベッドでゴロゴロしながらいつものように体を触り合ったり抱き合ったりといったスキンシップで、対決に向けて英気を養うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る