第146話 なんの音?③

「ユニコちゃん? どうしたんですか?」


「えっ? あっ、ご、ごめん、ちょっと考え事してた!」


 配信と関係ないところに思考力を全振りしてしまっていた。

 指に付着した塩を煩悩と共にティッシュで拭い、気を取り直す。


「みんな、ミミちゃんの咀嚼音に聞き惚れて問題を忘れたりしてないよね? あと十秒で答え合わせするよ~!」


『おせんべい』

『あられ』

『堅あげポ●ト』

『せんべい!』

『飴?』

『あられっぽい』

『あられ、かな』


 難易度を落としたものの、一問目と比べたら正解の割合は大幅に下がっている。

 具体的な商品名を挙げているリスナーさんも何人かいたけど、その人たちは総じて不正解だった。


「答えは、あられですっ。あっさりとした塩味がおいしくて、何個でも食べたくなってしまいますね」


「残ったあられは、後であたしが責任を持ってミミちゃんに『あーん』してもらって食べるよ~」


『なにそれずるい』

『てぇてぇ』

『羨ましい』

『職権乱用だ』

『そこも配信でぜひ』


 三問目の内容を考えている間もコメントの流れにチラチラと視線を向けていたところ、先ほどあたしが言った行為を熱望する人が多かった。

 あたしとミミちゃんは後で食べようとテーブルの隅に置いておいたあられの小袋を手に取り、一つずつ交互に食べさせ合う。

 最後の一つを食べ終えた頃にはコメント欄が感謝の言葉で埋まっていて、喜んでもらえて嬉しくもあり、ちょっと照れ臭くもある。

 そこから三問目、四問目と適度に難易度を上げていき、配信開始から五十分が経過する頃にはもはや勘で当てるしかないような問題が出題されることとなった。


「正解は、ポケットを裏返す音だよ~!」


「次が最後の問題になるので、ぜひ当ててくださいね」


 最終問題は、すでに二人で決めてある。

 あたしとミミちゃんの体を使った問題だけど決してエッチな意味はないので、リスナーさんたちにもきちんと説明しておかなければ。


「いまから説明でありヒントでもあることを言うから、ちゃんと聞いててねっ。最後の問題は、あたしとミミちゃんの肌と肌を直接擦り合わせて音を出すよ~。当たり前だけどエッチな場所じゃないから、そこだけは絶対に忘れないでね!」


 コメント欄がセンシティブワードで埋まる危険を避けるため、しっかりと念を押しておく。


『肌と肌……』

『ヒント助かる』

『了解です』


「それじゃ、最終問題スタート!」


 あたしとミミちゃんは袖をめくって腕同士をピッタリと重ね、音を発するために軽く腕を動かす。

 性的な要素なんて介在する余地すらない、極めて健全な行為だ。


「はいっ、出題タイム終了~! 一分後に答えを言うよ!」


 そう宣言するあたしの顔は、おそらく平時よりも赤い。

 隣を見れば、ミミちゃんの頬もほんのりと紅潮している。

 答え合わせの後に感想トークをして、配信は無事に終了した。

 最初の方でエッチな音は選択肢から外していいと言ったし、実際に運営さんから怒られるような問題は出していない。

 とはいえ……。


「さっき腕を擦り合わせた時、エッチな気分になっちゃった。あたしが変なだけだから、問題としてはセーフだよね!」


「じ、実は、わたしも……」


 小道具などの後片付けを済ませ、和室へ移動した二人がなにをしたのか。

 これについては、ヒントを出すだけでもチャンネルがBANされそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る