第145話 なんの音?②

 手元にある箱には、この配信で使おうと思って用意した様々な品が入っている。

 あたしとミミちゃんはアイコンタクトで相談し、一問目にふさわしい難易度にするべく爪切りを取り出した。


「みなさん、準備はいいですか?」


 ミミちゃんが問いかけると、動体視力の限界を試すような勢いで肯定のコメントが流れてくる。

 小道具を用意している間に、みんなの準備は完了していたようだ。


「それじゃあ一問目、いっくよ~!」


 大きな声で宣言した直後、あたしは口を一の字に結んで沈黙する。

 ミミちゃんに見守られる中、少しだけ伸びてきた爪に刃を当て、持ち手に軽く力を込めた。

 パチンッ、という音が鳴るや否や、さっそくコメント欄にみんなの回答が溢れる。


『爪切りかな』

『爪を切ってる音』

『爪の長さを整えてる?』


 みんなにとって身近かつ特徴的な音ということもあり、ほとんどの人が正解。

 プラモデルのパーツをニッパーで切り離しているという回答も、ちらほら見かけた。

 ちなみにだけど、あたしとミミちゃんは普段から深爪にならないよう気を付けつつできるだけ短い状態を維持するよう心掛けている。

 ちょっとでも長かったら、大切な人の体を傷付けることになっちゃうからね。

 という事情は伏せつつ、


「答え合わせの時間だよ~! 正解は爪切りの音! 一問目にちょうどいい難易度だったんじゃないかな?」


『やったー』

『分かりやすかった』

『プラモ作るのかと思った』


「特にご褒美はないけど、正解した人はおめでとう! 続いて二問目を用意するから、少しだけ待っててね~」


 再びミミちゃんとアイコンタクトを交わしつつ、箱の中を漁ってちょうどいい問題を考える。

 あられの小袋を手に取り、二問目の開始を告げてから開封。

 中から一つつまんで、ミミちゃんの口元に運ぶ。


「さてさて、ミミちゃんはなにを食べているのでしょうか~! 商品名を当ててね!」


『商品名!?』

『商品名はさすがに難しすぎる』

『難易度跳ね上がってて草』


 問題の内容に、コメント欄がざわつく。

 言われてみれば、確かに商品名まで当てるのは至難の業だ。


「ごめん、やっぱりいまのなし! 商品名じゃなくて、食べてる物を当てたら正解にする!」


 正解の条件を緩めると同時に、ふと指先にあられの塩が少し付着していることに気付く。

 自分で舐めてミミちゃんとの間接キスを堪能するのもいいけど、ミミちゃんに舐め取ってもらうのも捨てがたい。

 ……はっ!

 ミミちゃんに舐め取ってもらった後、自分の指を咥えれば完璧なのでは!?

 もしかすると、あたしって稀代の天才なのかもしれない。

 あるいはただの変態なのかもしれない。

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