第37話 フレンドリーな人です
お昼ごはんを食べた後、ミミちゃんは配信のため自室へ戻り、あたしは打ち合わせのため事務所のある本社ビルへと赴いた。
予定していた打ち合わせを終えて、いまは自販機の近くでジュースを飲みながら他愛ない世間話をしている。
「ユニコさん、先日のコラボはとても好評だったみたいですね」
彼女は
温厚な性格で人当たりがよく、いつも穏やかな笑みを絶やさない。
ハーフアップに結われたダークブラウンの髪が、元来の落ち着いた雰囲気をさらに強めている。
容姿は控えめに言っても相当な美人さんで、モデルをやっていると言われてもまったく不思議じゃない。
アラフォーとのことだけど、どこからどう見ても二十代前半にしか見えない。
「はいっ。リスナーさんにも楽しんでもらえたようで、嬉しい限りですっ」
一切の圧を感じさせない人とはいえ、あたしはいま『失礼なこと言ってないかな?』とつい不安に思ってしまう程度には緊張している。
なにせ、世間話の相手はガールズパーティの運営元であるゆりりり株式会社の社長なのだから。
ついでに言えば、あたしとミミちゃんが住んでいるマンションのオーナーでもある。
さらに言うなら、超やり手の投資家であり、個人資産は国家予算に匹敵するとかしないとか。
「配信活動をするにあたって、不自由なこととか不満に思うことはありませんか? あるようなら、遠慮なく言ってくださいね」
「まったくないですよ。むしろこんなにいい環境で活動できて、ひたすら感謝の気持ちでいっぱいです」
遠慮とか忖度ではなく、紛れもない本音だ。
社長もマネージャーさんも優しくて、他の運営さんだっていい人ばかり。
あのマンションにしても、叶うことならこのままずっとミミちゃんとあそこで暮らしたい。
あと、本社ビルやマンション内に女性だけしかいないというのが、女子校育ちで異性との接し方がいまいち分かっていない身としては何気に助かる。
コメント欄の男性リスナーさんとは普通にやり取りできるけど、対面となると未だにコンビニの店員さんが相手でもぎこちなくなってしまう。
マネージャーさんや社長が男の人だったら、一方的に尋常じゃない気まずさを感じながら話すことになっていたはずだ。
「あ、もうこんな時間……すみません、お先に失礼しますね。久しぶりにユニコさんと話せて楽しかったです」
時計を見た花園社長はそう言って軽くお辞儀をすると、エレベーターの方へと向かった。
他のところに勤めたことはないけど、ここが超絶ホワイトな優良企業であることは声を大にして断言できる。
「さてと――」
飲み終えたジュースの缶をごみ箱に捨て、あたしもこの場を後にする。
今日は視聴者参加型の対戦ゲーム配信をする予定なので、帰ったら少し特訓しておこう。
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