第101話 みんないつもありがとう!②

 配信開始から一時間が経過し、きりのいいところで雑談パートを終了する。

 意図せぬ形ではあったものの、思っていた以上に盛り上がってもらえたことは素直に嬉しい。


「さぁさぁ、次はみんなのリクエストに応えて歌っちゃうよ~。歌ってほしい曲をコメントで送ってね。いまから一分後に締め切るよっ」


 軽い説明を済ませ、先ほどトイレ休憩のついでに持ってきたリンゴジュースを飲む。

 一瞬お酒に手が伸びかけたけど、いまから歌パートであることも考慮してリンゴジュースを選んだ。

 ジーッとコメントを見ていると、やっぱり最近流行りの曲が目立つ。

 童謡をリクエストしてくれている人は、あたしへの配慮か、はたまた自分の鼓膜を守るためか。


「はい、ストップ! たくさんのリクエストありがと~! それじゃあ、さっそく一曲目! 鼓膜の保障はできないから、不安な人は音量を下げたりイヤホンを少し外したりして対策してね!」


 音源の準備を進めつつ注意事項を告げ、一曲目の歌唱に臨む。

 いまから歌うのはテレビやSNSでも話題のボカロ曲で、最近だとミミちゃんが歌枠で披露していた。

 短めの前奏が終わり、気持ちよく歌い始める。

 アップテンポで楽しい気分になれる曲に耳を傾けながら、リズムに合わせて声を乗せる。

 音程が合っているか否かはともかく、歌詞は間違えていないし、噛んだり詰まったりもしていない。

 英語のところはちょっと自信がなかったけど、自分的にはギリギリ及第点といったところ。

 音が消えたり配信が止まるなどのアクシデントもなく、無事に一曲目を歌い終えた。


「うんっ、我ながらいい感じ! みんな、どうだった? よかったよね?」


『なんか途中から聴覚が機能しなくなった』

『よ、よかったです』

『アクションゲームで必殺技として使えそう』

『鼓膜は無事だけど平衡感覚が狂った』

『頭がクラクラするほど刺激的だったよー』

『上手いかどうかはともかく私は好きだなぁ』


「ちょっと物申したくなるようなコメントもちらほらあるけど、水に流してあげるね~。間髪入れずに次の曲ってことで、またまたリクエスト募集するよっ」


『のど大丈夫?』

『ちゃんと水分補給してね』


「心配してくれてありがとうっ。肺活量とのどの強さには自信があるから、やろうと思えば一日中でも歌い続けられるよ~。隙を見てリンゴジュース飲んでるから、のども潤ってる!」


『安心した』

『のど強いの羨ましいな』

『ジュース飲んで偉い』


「――っと、一分経ったね。なるほどなるほど……これは初めて歌う曲だけど、原曲を何回も聞いてるから多分大丈夫だよね!」


 二曲目もラスサビのところが若干難しく感じたものの、なんとかしっかりと歌い切れた。

 実は最近、以前と比べて歌唱力が少し上がっていると一部の層でまことしやかに囁かれているという噂があるとかないとか。

 音痴のレッテルが剥がれる日もそう遠くないかもしれない。

 なんなら、近いうちに音楽番組のオファーとか来ちゃったりして。


『新しい世界が見えてきた』

『さてと、鼓膜の交換だ』

『声は最高だったよ~』

『この壊滅的なまでの音の外れ具合、一周回って癖になりそう』


 うん、慢心はダメだね。

 歌の上手さでもみんなに喜んでもらえるように、これからも精進しよう。

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