第240話 眠れない夜のお楽しみ
なかなか寝付けない夜というのは、誰しも経験したことがあると思う。
あたしはいま、すぐにでも眠りに落ちそうなリラックス状態であると同時に、興奮のあまり眠気が少しずつ薄れていくのを感じている。
本来なら今頃は夢の中にいたはずなんだけど、恥ずかしいことにあたしの性欲は同じ三大欲求である睡眠欲よりも遥かに強いらしい。
大好きなミミちゃんに腕枕してもらって密着しながら同じ布団の中にいるんだから、興奮するのも至極当然ではある。むしろ興奮しない方がおかしい。
遠足前日にワクワクして眠れない子どものように――いや、もはや遠足当日を迎えて家を出る直前ぐらいのテンションになってきた。
いやいや、ダメだ。
ただでさえ魅力の塊と言わざるを得ないミミちゃんのかわいすぎる顔が月明かりに照らされて妖艶な色気すら滲ませているからって、瞬きを忘れるぐらいに見惚れてはいけない。
いい加減に寝ないと、このまま朝を迎えてしまう。
ここは冷静に、これまでの経験を活かして慌てず行動しよう。
「ミミちゃん、おやすみ」
あたしはミミちゃんにそう告げると、そっと瞳を閉じた。
せっかく一緒に寝るんだから、いつものように夜更かししておしゃべりするのも全然ありだけど、いまの精神状態からしておしゃべりだけでは済まない可能性が高い。
ミミちゃんにもしっかりと睡眠を取ってほしいし、今日のところは無理にでも寝ないと。
でも……目を瞑って視界が完全に閉ざされたことで、さっきまでと比べて他の感覚が鋭敏になった気がする。
めちゃくちゃいい匂いだし、あったかいし、柔らかいし。
こんなの、あたしじゃなくても眠れないよ。
とは言っても、あたし以外の人がこの状況を味わうことは絶対にないんだけど。
「あっ……」
不意にミミちゃんが声を漏らす。
「どうしたの?」
訊ねると同時に目を開けると、ミミちゃんはなにか言いたげな表情を浮かべていた。
どうしたんだろう。おしっこかな。
「も、もうちょっとだけ、おしゃべりしませんか?」
「する!」
もちろん即答だった。
「もしかしてミミちゃんもエッチな気分になって寝れなかったのっ?」
即答した勢いそのままに、早口でデリカシー皆無な質問をぶつける。
「そういうわけじゃないですけど、なんかドキドキして眠れなくて、せっかくだからもっとおしゃべりしたいなって……あれ? “も”ってことは、ユニコちゃん……」
「うんっ、あたしはエッチな気分になってたよ」
あ~、ミミちゃんかわいいなぁ。
純粋にドキドキしてるのもかわいいし、おしゃべりしたいって思ってくれてるのもかわいい。
かわいさに浄化されて、ちょっとだけムラムラが収まってきた。ミミちゃんありがとう。
癒されすぎてうっかり口が滑っちゃったけど、言ってしまったものは仕方ない。
「でも安心して、おしゃべりの途中にいきなり襲ったりはしないから!」
「じゃあ、わたしも襲わないように気を付けます」
「それはむしろ襲ってよ。腕枕してる方の手で強引に抱き寄せて唇を奪いながら、反対の手でいろんなところ触るとか。もっと過激なことも大歓迎だから、いつでもミミちゃんの好きなタイミングで襲ってねっ。シーツが汚れちゃうかもしれないけど、たまには和室以外でするのも――」
「ま、待ってください。なんか襲うのが決定事項みたいになってませんか?」
「あっ、確かに。ごめんごめん、ミミちゃんがあたしのこと襲いたいって言うから、つい」
「そこまでは言ってないですよ。でも、もしそういう気分になっちゃったら、その時は遠慮なく襲わせてもらいますね」
そう言って悪戯っぽく微笑むと、ミミちゃんはおもむろにあたしの後頭部に手を添え、そっと自分の方へ抱き寄せた。
「んっ」
唇と唇が重なり、しばらく息をするのも忘れるぐらいキスに没頭した。
キスの余韻を味わいながら他愛のないことを話して、今度はあたしの方からキスをする。
それから最近見付けた面白い動画の話で盛り上がったかと思えば、またしても静寂に包まれた部屋に二人の吐息とキスの音だけが聞こえる時間が訪れる。
楽しいおしゃべりと甘いキスを繰り返しているうちに気付けば二人とも言葉がふにゃふにゃになり、月が雲に隠されて部屋の中が完全に真っ暗になった中、もう一度だけキスをして…………。
幸せな気持ちとミミちゃんの温もりに包まれながら、今度こそあたしの意識は眠りの中へと溶けていった。
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