第200話 夏の大型コラボ!⑬
「チャレンジする順番はじゃんけんで決めるよ~! 万が一にもチャレンジャーがプールに落ちないよう、指示を出すメンバーたちがプール沿いに座って壁の役目も果たすから、リスナーさんたちは安心して楽しんでね!」
大まかな説明を告げ、さっそくじゃんけんで一番手を決める。
六人だからさすがに数回はあいこが続くと思っていたけど、なんと最初の一回でミミちゃんが一人勝ち。
「ミミちゃん、一人目だからって遠慮しなくていいからね! 容赦なくガツンと割っちゃって!」
ミミちゃんに目隠し用のアイマスクを付け、自分の持ち場へ行く前に激励の言葉を送る。
「はいっ、頑張りますっ」
目隠しされたミミちゃんと対面して新たなプレイの可能性を見出したものの、それはいったん胸の内に秘めておく。
スイカから一メートルほど離れたところで二回半ほど回ってもらい、いよいよスタート。
ちなみに、ここから見える位置に配信画面を映したディスプレイがあり、リスナーさんたちにはコメントで指示を飛ばすようにお願いしてある。
「ミミちゃん、左に一歩進んでからちょっとだけ右を向いて思いっきり振り下ろしたら割れるよ~! でもリスナーさんは真後ろって言ってる!」
「ボクから言えることは、ただ一つ。ミミ先輩なら、魔神の力を解き放てばスイカの位置を正確に掴めるはず」
「まったく役に立たにゃい助言だにゃあ」
「真上って言ってるリスナーさんもいるねー」
「ミミ、そこよ! 容赦なく粉砕してやりなさい!」
コメントも拾いつつ全員バラバラな指示を出し、ミミちゃんは困惑しながらも狙いを定めて勢いよく棒を振り下ろす。
残念ながらスイカを捉えることはできなかったものの、割と惜しい位置ではあった。
続いて残る五人でじゃんけんをして、次なるチャレンジャーを決める。
二番手はシャテーニュ先輩。
ゲームが得意なイメージがあるので、なんとなくスイカ割りもあっさり成功させそうな気配を感じる。
先ほどと同じく、全員がバラバラの指示を出してシャテーニュ先輩を誘導する。
「きれいに六分割してあげるよー」
ピタッと足を止めたシャテーニュ先輩が、自信満々に告げた。
なんとその場所は、真正面ではないものの振り下ろした棒が間違いなくスイカに当たる位置だ。
一巡することなくスイカ割りが終わると誰もが予想し、頭の中はスイカを割ることから食べることへとシフトしていく。
――ぽこっ。
「あれ?」
シャテーニュ先輩が振り下ろした棒は、確かにスイカを直撃した。
ただ、割れなかった。
「シャテーニュ、あんたもう少し鍛えた方がいいんじゃないかしら」
見事にスイカを叩いたのに割れなかった。という珍しい結果を残し、シャテーニュ先輩の手番が終了。
この結果を聞いて、リスナーさんたちも別の意味で大いに盛り上がっている。
続けてエリナ先輩、スノウちゃん、ネココちゃん、そして最後にあたしが挑戦。ことごとく失敗に終わり、スイカは無傷のまま二巡目へ突入した。
「さてと、そろそろ本気出しちゃおっかな~」
じゃんけんで二巡目の一番手となったあたしは、根拠のない自信を抱きながら棒を構える。
みんなの指示を受けて左に動いたり一歩下がったり、斜め前を向いたり半歩ずれたり。
「ユニコちゃん、そこですっ」
「分かった!」
不意に放たれたミミちゃんの言葉に従い、ピタッと足を止めて棒を握る力を強めた。
そして、頭上に掲げた棒を勢いよく振り下ろす。
「やった!?」
棒から伝わる手応えは確かなもので、思わず口から失敗フラグじみた言葉が漏れてしまう。
若干不安になったのも束の間、フラグを回収したか否かは目隠しを外す前に察することができた。
「すごいですユニコちゃん!」
「鋭い一撃だったわね」
「ユニコちゃんナイスー」
「先輩のかっこいい姿を見せてもらったにゃ」
「視界を奪われた中での正確無比な一閃……ユニコ先輩には剣士の素質があるのかも」
みんなからの惜しみない称賛の声を浴びながら、あたしは目隠しを外して視線を下げる。
そこにあったのは、見事なまでに真っ二つに分かれていたスイカだった。
当たり所がよかったようで、粉々になることなく左右に割れている。
「お~っ、きれいに割れてる! 六等分にはできなかったけど、大成功だよね!」
「でもきれいに分かれてるから、切り分ければきっちり六等分にできるわよ」
「向こうでスタッフさんが包丁を構えてますよ」
「それだけ聞くと物騒極まりにゃいにゃ」
あたしたちはスイカをスタッフさんに預けた後、いったん配信席に座ってスイカ割りのドキドキ感や目隠しをした時の心境なんかを話した。
いつか全員が3Dの体を手に入れた暁には、ぜひとも再びこの企画を行いたい。
割ったスイカは後ほど食べることを伝え、最後のあいさつを――と話を進めている途中にハッと閃く。
「いいこと思い付いた! せっかくスイカがあるんだし、スイカ咀嚼ASMRしようよ!」
突発的に浮かんだ案はメンバーからもリスナーさんたちからも大いに歓迎され、瞬く間に採用されることとなった。
そして大型コラボの締めくくりとしてASMRを楽しんでもらった後、一人ずつ今日の感想を語って、名残惜しさを感じつつ配信を終える。
今日か明日にでも感想配信をしようと思っているのは、きっとあたしだけじゃないはず。
あと、水分の取りすぎでトイレが近くなっているのも、あたしだけじゃないはず。
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