第52話 見切り発車でコラボ開始①

 ちょっとした確認作業のためマネージャーさんに会うべく、お昼過ぎに事務所を訪れた。

 奇遇なことにエリナ先輩も来ていたけど、取り込み中だから心の中であいさつしておく。


「あっ、マネージャーさんっ」


 事務所の奥から姿を現したマネージャーさんを視界に捉え、あたしはつい友達を見付けたような感覚でブンブンと手を振ってしまう。


「――ということで、よろしくお願いしますね」


「はいっ、分かりました! ところで、この前コンビニで――」


 確認作業自体はほんの数分で終わり、軽く世間話をした後、マネージャーさんは再び事務所の奥へと戻った。

 マネージャーさんいわく、事務所内の不要な物品を整理しているらしい。

 ふと、お菓子の空き箱や脱いだ靴下を放置したままの自室を思い出す。

 普段からできるだけきれいに片付けているつもりだけど、気を抜くといつの間にか散らかってるんだよね。

 帰ったら掃除しようなんて考えながら踵を返し、事務所を後にする。

 エレベーターを待っていると、背後から足音が近づいてきた。


「ゆ、ユニコさん、お疲れ様です」


 用事を終えたらしいエリナ先輩に声をかけられ、あたしは勢いよく振り向く。


「エリナ先輩っ、お疲れ様です!」


「あ、あの、敬語じゃなくて、タメ口でお願いします」


「ごめんごめん、つい……エリナ先輩ももう帰るの?」


 そう訊ねると、エリナ先輩は「はい」と控えめな声で返事をしながらコクリと首を縦に振った。

 帰るということは、特に予定はないってことでいいのかな?


「もしよかったら、いまからうちに来ない?」


「えっ、いいんですか?」


「もちろんっ。きっとミミちゃんも喜ぶよ~」


「そ、それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」


 承諾を得るや否や、あたしはミミちゃんにエリナ先輩が我が家に訪れる旨を連絡した。

 事務所やスタジオのある本社ビルを出ると、道沿いを少し歩いたところにコンビニがある。


「ちょっと寄り道してもいい?」


「あ、はい、大丈夫です」


 エリナ先輩を外に残してコンビニに入店し、そそくさとアイス売り場に足を運ぶ。

 奮発して滅多に買わない高価なアイスを三つカゴに入れ、ついでにスナック菓子とジュースも購入。

 お店を出てエリナ先輩と合流し、マンションに向かって歩き出す。

 みんなで食べるためにアイスを買ったことを伝えるとエリナ先輩が代金を全額払うと言ってきたので、当然お断りした。

 そんなこんなで家に着いたあたしたち。


「お帰りなさい、ユニコちゃん。エリナ先輩、お久しぶりです。ゆっくりしていってくださいね」


 扉を開けると、ミミちゃんがお出迎えしてくれた。

 帰宅した瞬間にミミちゃんの顔を拝めるとか、ホントに最高。あまりに恵まれすぎていて申し訳なさすら感じる。


「ミミちゃ~んっ、ただいま!」


「お、お邪魔します」


 ミミちゃんに抱き着きたい欲をグッと堪え、エリナ先輩と共に洗面所で手洗いうがいを済ませる。

 リビングでミミちゃんと半強制的に熱烈なハグを交わし、アイスを食べるべく三人でテーブルを囲む。


「唐突なんだけど、アイス食べたら配信しない? せっかくエリナ先輩が来てくれたことだし、オフコラボしようよ~」


「いいですね、やりたいですっ」


「わ、私も賛成です」


「なにするかは決めてないから、その場のノリと勢いでいい感じにやっていこうっ」


 あたしは計画性の欠片もないことを元気よく告げ、スプーンでアイスを口に運んでリッチな味わいを堪能する。

 そしておよそ一時間後、完全に見切り発車な突発オフコラボが始まった。

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