第209話 粘土で遊ぶ!④
「最終手段として、ミミちゃんにこっそりおっぱいを見せてもらうのもありかな」
あくまで作品の質を向上させるためであり、他意はない。
「なしです」
「じゃあ、揉むのは?」
「……それもダメです」
「なら、ミミちゃんが自分で持ち上げているところを眺めるだけでも! お願いっ、ミミちゃんのおっぱいを作るために、少しでもリアルな情報が欲しいの!」
正直なところ、いままで数え切れないほど揉んだり撫でたり、もっと過激なこともしてきたので、ミミちゃんのおっぱいに関する情報は本人以上に詳しいと自負している。
でも、それはそれとして配信中にミミちゃんのおっぱいを堂々と触ったり見たりしたいという謎の欲求もあるわけで。
「うーん、それなら……でも…………あれ? というか、わたしの胸を作るつもりなんですか?」
「うん、そうだよ。言ってなかったっけ?」
「聞いてませんよっ。恥ずかしいから絶対にやめてください」
確かに、完璧なおっぱいとは言ったけどミミちゃんのおっぱいとは明言していなかったかもしれない。
「まぁ、本人に言われたら仕方ないか。残念だけど、今日は違うので我慢しよ~っと」
冷静に考えると『ミミちゃんのおっぱいを作ってお披露目する』=『不特定多数の人にミミちゃんのおっぱいを見られてしまう』ってことになるから、完成する前に諦める決断ができてよかった。
「――できた! BANが怖いから乳首は付けないけど、けっこうな自信作だよ~!」
「えっ?」
あたしが声高らかに完成を宣言すると、乳首というワードが聞こえた瞬間にミミちゃんが慌てた様子であたしの手元へ視線を向ける。
ミミちゃんが作ったお寿司の横にあたしの自信作を置くと、さっそくリスナーさんたちからのコメントが――
『まな板だ』
『これにお寿司を並べたら完璧じゃん』
『結局まな板を作ることにしたんですね』
「は? まな板? 違うよっ、あたしのおっぱいだよ! ほらここっ、よく見て! ちゃんと膨らんでるでしょ! 平べったくないからまな板じゃないよ! カメラ越しだから分からないだけで、実際に見たらちゃんと膨らんでるもん!」
「ユニコちゃん、落ち着いてくださいっ」
「ミミちゃ~ん! 見栄張ってちょっと盛ったのに、まな板って言われた~!」
「それ以前に、ユニコちゃん自身の胸を作ろうとするのもやめてください。わたしのを作られるのも恥ずかしいですけど、わたしはユニコちゃんの胸がみんなに見られるのも嫌ですっ」
『てぇてぇ』
『よく分からない流れでてぇてぇ空間が生まれてる』
「ミミちゃん……っ。分かった、これはまな板ってことにする!」
ミミちゃんの熱い想いに胸を打たれ、あたしは作品のモチーフをまな板へと変更した。
「そうと決まれば、少し修正しないとね~。まな板はあたしのおっぱいと違って真っ平らだから、この膨らみをなくさないと!」
カメラの前に置いた力作を手元に戻し、手のひらで粘土の膨らみを
「よし、これで完成!」
「山かけマグロ軍艦、お待たせしました」
まな板の完成と同時に、お寿司がまた一貫カメラの前に置かれた。
赤色の粘土でマグロのぶつ切り、白色の粘土でとろろ、緑色の粘土で海苔が再現されている。
「ミミちゃんすごい! お寿司屋さんになれるレベルだよ!」
「ありがとうございます。お寿司屋さんはさすがに過大評価ですけど、嬉しいですっ」
「いやいや、これなら間違えて食べちゃっても不思議じゃないよ~。むしろ食べたい!」
『落ち着いて』
『ユニコちゃん早まらないで』
『それ粘土だよ!』
『食べちゃダメ!』
『お腹壊しちゃうよ』
「さ、さすがに冗談で言ったんだけど……ねぇ、みんな。もしかして、あたしが本気で粘土を食べそうな人だって思ってる?」
『お、思ってないよ』
『思ってるけど』
『冗談だったのかー』
『本気で焦った』
『ごめんて』
「さてと、気を取り直して次に行こ~。リスナーさんたちに食べてもらうお寿司、たくさん握ってあげるね♪」
『ヒェッ』
『粘土寿司は勘弁してください』
『わーい』
『ユニコちゃんが握ってくれるなら粘土でも食べる』
『送り先の住所はどこに書けばいいですか?』
『かわいい』
意外にも喜んでる人がけっこういる。
さすがに本気で食べようとしている人はいないと信じつつ、シャリ用の白い粘土を手に取る。
「ミミ先生、ご指導お願いします!」
「先生って呼ばれるのは、ちょっと恥ずかしいですね。えっと、力を込めすぎないように――」
ミミちゃんにコツを教わりながら、あたしはマグロやイカ、卵焼きなどシンプルな見た目のお寿司を作っていく。
二人合わせて二十貫ほど作ったあたりで違うモチーフに変えようという話になり、今度は合作で雪だるまやリンゴ、犬や猫などいろいろと作った。
***
そしてこの日の夜、あたしたちは近所の回転寿司へ行き、普段より少し多めにお寿司を食べた。
配信中に粘土で作ったお寿司のうち数貫は、オブジェとして下駄箱の上に飾られている。
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