第106話 夏休みの一大企画!④
テーブルを挟み、手前側と奥側で三人ずつ並んで立つ。
なんとなく調理実習を思い出しているのは、きっとあたしだけじゃないはずだ。
まな板と包丁が人数分用意されており、絶妙な位置に配置された二台のカメラによって全員の手元が映し出されている。
「みんな~、見えてる~?」
まな板の上でピースして、カニのように指を閉じたり開いたりする。
モニターの方に視線を向けると、コメントでみんなが『見えてるよ』と答えてくれていた。
「それじゃ、調理に入る前に誰がどこにいるか説明しておくね!」
そう前置きして、リスナーさんたちに向けて説明を始める。
テーブルの手前側には左から順にエリナ先輩、あたし、ネココちゃん。
奥側はあたしから見て左からシャテーニュ先輩、ミミちゃん、スノウちゃん。
つまり各々が同期と向かい合う形だ。
配信画面では上部に奥側の様子を捉えるカメラAの映像、下部に手前側を映すカメラBの映像が表示されている。
口頭での説明を終え、満を持して調理開始の時が訪れた。
「最初はじゃがいも、にんじん、玉ねぎを手分けして切っていくよ~。じゃがいもは一期生、にんじんは二期生、玉ねぎは三期生が担当するから、応援よろしく~!」
スタッフさんによって各々の手元に食材が配られ、ピーラーを使った皮むきの作業から始める。
玉ねぎ担当の三期生は、頭の部分とお尻の部分を切り落としてから手で皮をむく。
「いま思ったんだけど、三期生が玉ねぎ担当って先輩の圧を感じるにゃあ」
「新人への容赦なき洗礼と言わざるを得ないね」
皮をむき終えて玉ねぎを切り始めたネココちゃんとスノウちゃんが、涙ぐんだ声でつぶやいた。
「そ、そういうわけじゃないよ! 違うからね! ほんとに!」
本当に他意はないんだけど、思わず動揺してしまう。
担当を決めたのはスタッフさんであるという事実を開示することで、三期生の二人とリスナーさんたちに納得してもらって事なきを得た。
じゃがいもとにんじんは乱切り、玉ねぎはくし切りにして、それぞれまな板からボウルに移す。
ちなみに、あたしとミミちゃんが家でカレーを作る時は玉ねぎをみじん切りにする。
「さてさて、お次は配信で決めた食材の出番だよ~」
「自分がリクエストした食材を切るんですよね?」
「うんっ、その通り! あたしはコーンがすでにそのまま使える状態だから、パプリカを担当するよ!」
再びスタッフさんの手によって、野菜がまな板に載せられた。
「ところで、みんなは家で料理するの?」
パプリカに包丁を入れつつ、定番の質問をぶつける。
みんな自分の配信で話したことがあるかもしれないけど、このコラボを機会に初めて見るリスナーさんもいるはずだ。
中には、あたしとミミちゃんが同居していることを知らない人だっているに違いない。
「アタシはあんまりしないわね。たまにお母さんを手伝うぐらいよ」
「シャテーニュは自炊してるよー」
「わたしは毎日ユニコちゃんと作ってます。一緒に住んでますからね」
一緒に住んでいるということを告げる時、心なしかミミちゃんの声が弾んだような気がした。
一瞬手を止めて正面を見ると、同じようにミミちゃんもこちらを向いて視線が重なり、二人して思わず笑顔が浮かぶ。
「ネココも自分で作ってるにゃ」
「ボクはお菓子を作ることの方が多いかな」
「なるほど~。となると、今回のカレー作りが失敗する確率はゼロに近いね!」
みんなの話を聞いた感想を述べてからモニターを見ると、『フラグ立ったぞ』とか『いまのフラグ?』といったコメントが恐ろしいほどの勢いで流れている。
「ユニコ、失敗したら責任取りなさいよね」
「えっ、あたし一人で!?」
「タッパー持ってきたから、貸してあげるよー」
「いやいや、それはシャテーニュ先輩が使って!」
「ユニコちゃん、わたしたちは一蓮托生ですよっ」
「嬉しいけど失敗する前提で話すのはやめてよ!」
「実況は任せてほしいにゃ!」
「じゃあネココちゃんも一緒に食べようよ!」
「尊い犠牲、か」
「スノウちゃんが考えてる失敗の度合いエグくない!?」
メンバー全員に漏れなくツッコミを入れながら、先ほどより若干慎重な手つきでパプリカを切っていく。
こうなると失敗した方が配信的においしいのかもしれないけど、なにがなんでもフラグをへし折って味的な意味でおいしいカレーを作ってみせよう。
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