第107話 夏休みの一大企画!⑤

 野菜をすべて切り終え、それぞれガラス製のボウルに移してカメラの前に並べる。

 オクラ、トマト、コーンは最後に投入するので、少し離れた場所で待機してもらう。


「この光景って、なんか料理番組っぽいよね~」


「分かるにゃ。出来上がった物がこちらです、って完成したカレーが用意されてたり……?」


 あたしの言葉にネココちゃんが共感し、チラッとスタッフさんの方を見る。

 当然ながら番組の趣旨が違うので、完成品は用意されていない。

 まな板と包丁の出番が終わり、スタッフさんによるカメラの位置調整のためいったん映像が止められた。


「カメラを動かしてもらってるから、少しだけ待っててねっ」


 当然ながら配信は続いているので、リスナーさんたちに状況を説明する。


「トイレに行きたい人は、いまのうちに行っておきなさい」


 エリナ先輩がそう言うと、『はーい』や『いますぐ行ってくる』といったコメントが流れ始める。

 再開の時間があいまいだと迂闊に離席できないんじゃないかという話になり、きっちり五分間の休憩を取ることになった。


「わたしたちもこの間に済ませておいた方がいいですよね」


「そうだねっ、せっかくだからみんなで一緒に行こ~!」


 こうして不意に訪れた休憩時間を利用してトイレに向かうあたしたち。


「外から帰って手を洗ってると、高確率でおしっこに行きたくならない?」


 なんてことを話しながら廊下を歩いていると、ふと『あれ? もしかしてこの声マイクに入ってる?』という不安が脳裏によぎり、ダッシュで部屋に戻ってスタッフさんに確認を取った。

 どうやらあたしたちが廊下に出たタイミングでミュートにしてくれていたらしく、モニターを見ると配信画面にもミュート中というテロップが表示されている。

 スタッフさんの配慮に心からの感謝をして、あたしたちは気兼ねなくトイレを済ませた。


「危うく料理配信中に絶対流しちゃいけない音が入るところだったね~。スタッフさん、ほんとにありがとう!」


 休憩時間を終えてミュートを解除する頃には、すでにコンロを捉えた映像が配信画面に映し出されている。


「映像も調理も再開ということで、ここからは一人ずつ順番に工程を進めていくよ! 一番手はやっぱりこの方、エリナ先輩!」


「たまにはデビュー順じゃなくてもいいと思うんだけど――まぁいいわ、任せなさいっ」


 エリナ先輩がコンロの前に立ち、フライパンに玉ねぎと油を入れて点火。

 あんまり料理しないと言っていたけど、危なっかしさは微塵もない。

 ほどよく火が通って玉ねぎがしんなりしてきたところで、シャテーニュ先輩と交代だ。

 じゃがいも、にんじん、かぼちゃを投入して中火で炒め、次いであたしがパプリカとナスとズッキーニを加えて炒める。

 ここでミミちゃんがフライパンの中身を鍋に移し、水を加えてしばらく煮込む。

 たくさんの野菜が入ったフライパンを持ち上げるのはそれなりの力作業となるため、あたしも微力ながら手伝わせてもらった。

 タイミングを見計らってネココちゃんが残りの野菜――オクラ、トマト、コーンを入れて、スノウちゃんがカレールーを加える。

 テンションが暴走してポテチを入れたりうっかり鍋をひっくり返したりといったアクシデントも起こらず、ホッと胸を撫で下ろす。


「透明に近かった液体が、見る見るうちに大地の色へと変化していく……なるほど、土魔法の一種というわけか」


 カレーの香りが漂い始めた中、スノウちゃんが鍋を見つめながら嬉々とした表情で述べ立てた。


「なに言ってるのかよく分からないにゃ」


「ふっ、魔力を持たないネココには理解できないのも無理はない。後で簡単に説明してあげよう」


「えっ」


「三期生による微笑ましいやり取りも楽しんだところで、いよいよ実食~!」


 二人のやり取りをもう少し眺めていたい気持ちもあるけど、カレーを前にして食欲を我慢できるほどあたしの自制心は強くない。

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