第189話 夏の大型コラボ!②

 先ほどから運営さんの出入りが激しく、あたしたちは邪魔にならないようベンチに座っておしゃべりしながら準備の様子を眺めている。

 会議室に置かれているようなテーブルや配信用のパソコンとかマイクがプールサイドにある光景なんて、なかなか目にする機会はない。

 ついでに言えば、あたしたちは水着ではなく私服を着たままプールサイドにいる。

 配信が始まったら、まずは企画全体の流れをリスナーさんたちに説明する時間がある。

 水着に着替えるのは、プログラムの発表を終えてからだ。

 水着姿を見てもらうことはできないけど、『いまから水着に着替えてくる』という情報はリスナーさんたちにとって嬉しいはず。多分。

 嬉しいよね?


***


 配信開始の直前となり、あたしたちは特設の配信スペースに移動した。

 三台の長机にそれぞれパソコンが一台ずつとイスが二脚ずつ設置されている。

 エリナ先輩とシャテーニュ先輩、あたしとミミちゃん、ネココちゃんとスノウちゃんという同期同士の組み合わせで着席して、予定の時間になると同時に配信を開始。


「みんな、こんユニ~! メインMC担当の一角ひとつのユニコだよ~! 企画について説明する前に、まずは一期生の先輩から順に自己紹介よろしく!」


「ごきげんよう豚共、すめらぎエリナよ! アタシのリスナーはコメントでブヒブヒ言わないように気を付けなさい!」


 エリナ先輩いわく、配信内容によってはコメント欄に流れる豚の鳴き声が人間の言葉を凌ぐ割合になることもあるらしい。


「どもー、栗夢くりむシャテーニュだよー。今日は後輩たちを叩き潰しちゃうよー」


 なにやら物騒なことを言っているけど、ほわほわした声と話し方のおかげで少しも恐怖を感じない。


「あたしはさっき名乗ったから、次ミミちゃん!」


「こんにちは、闇神やみがみミミです。全力で頑張りますっ」


 決して特別なことを言ったわけではないのに、コメント欄に『かわいい』が溢れる。

あたしも視聴者側だったら確実に同じコメントを送っていた。


「にゃんにゃんにゃんっ、猫目ねこめネココだにゃん♪ たまにおっさんって言われるけど、ネココは断じておっさんじゃにゃいにゃ!」


 脳を蕩けさせる萌え声の持ち主でありながら、配信で「ハツは塩に限るにゃ」と言ったりイカの塩辛について熱く語ったりするうちにおっさんと言われるようになってしまったネココちゃん。


「やぁ、皆の衆。スノウ・フレイムサンダーの活躍は、運命によってすでに確定している」


 ふとした拍子に垣間見える素の姿がかわいいと評判のスノウちゃん。

 最近ホラゲーをプレイした際には、驚きのあまりゾンビに慌てて謝罪。その切り抜き動画を見た感想としては、本人には申し訳ないけど確かにかわいかった。


「全員の自己紹介が終わったところで、今日のプログラムを発表するよ~! ここでは大まかな流れを説明して、細かいことは追々伝えていくからねっ」


 あたしがそう告げると、運営さんの操作によって配信画面に本日のプログラムが表示される。


「この後は水中バレー大会! ビーチバレーのルールを改造した特別ルールで行うよ!」


 企画の最初は、今日のメインとも言える水中バレー大会だ。

 みんなで話し合った結果、万全の状態で臨むため最初に持ってきた。


「体を動かした後は、いったんスタジオの方に移動して休憩の時間! みんなでかき氷を作って食べるんだけど、ただ市販のシロップをかけるだけじゃないんだよ~。楽しみにしててね!」


 甘く冷たいかき氷は運動の疲れを癒やしてくれるに違いない。


「デザートを食べたらまたプールに戻ってきて、スイカ割りをするよ!」


 この企画の締めくくりとしてふさわしい、いかにも夏っぽい遊びだ。

 もちろん、割ったスイカはあたしたちがおいしくいただく。


「水中バレー大会、かき氷休憩、そしてスイカ割り! プログラム表に書いてある時間から多少前後すると思うけど、みんなついてきてね~!」


『楽しみすぎる』

『何時間でも付き合うよ』

『有給取ったから安心して見れる』

『まさに夏って感じの企画だね』


 盛り上がるコメント欄を見ながら、あたしはさらに続ける。


「このあと水中バレーのために着替えてくるから、更衣室での様子とか水着姿とか、いろいろ想像して楽しんでね! よかったらファンアートもよろしく!」


 本当に喜んでもらえるのか半信半疑だったものの、心配は杞憂に終わった。

 水着姿や着替え中の様子を実際に見れるわけではないにもかかわらず、もともと凄まじかったコメントの勢いがさらに加速する。


「それじゃあみんな、また後で!」


 ここでマイクを切り、席を立つ。

 水着に着替えたら、いよいよ水中バレー大会本番だ。

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