第80話 新人歓迎コラボ④

「ところで、スノウちゃんの好きな食べ物は?」


 夏が終わる前に全員で遊びに行こうという話でひとしきり盛り上がった後、まだ聞けていなかったスノウちゃんの好物について話題を移す。


「ドラゴンの尻尾とワイバーンの翼とユニコーンの角の炒め物……と言いたいところですが、この世界では手に入りませんからね。この世界での食べ物から選ぶとすれば、レアチーズケーキです」


「な、なるほど~」


 レアチーズケーキはあたしも大好きなんだけど……気のせいかな?

 この世界では手に入らない物として挙げられた中に、とてつもなく身近に感じる品があったような……。


「ユニコーンの角なら、ユニコから手に入るわね」


「エリナ先輩!?」


 近所のコンビニに売ってる、みたいなノリでとんでもないことを言われてしまった。

 コメント欄のみんなも、『近くにあるぞ』とか『同僚から手に入るじゃん』とか、あたしの角を軽く見ている。


「確かに……!」


 スノウちゃんはハッと驚きの声を上げ、ゲーム内で体をこちらに向けて品定めするように視線を上下に動かす。

 手に持っているのがブロックや食べ物ではなく剣であるがゆえに、身の危険を感じざるを得ない。


「スノウちゃん! 確かにじゃないよ!」


 あたしは自分のキャラとスノウちゃんのキャラを隔てるようにブロックを置きつつ、声を張り上げる。


「ユニコーンの角、ネココも食べてみたいにゃあ」


 スノウちゃんに続き、ネココちゃんまであたしの角を狙い始めた。


「ユニコちゃん、大変だねー」


「シャテーニュ先輩っ、無乳同盟の絆はどうしたの!?」


 まるで他人事のような物言いに、おっぱいがぺったんこという共通点を持つ者として熱く訴えかける。


「ユニコちゃん、大丈夫ですよっ。今日はオンラインでのコラボですから、引っこ抜かれる心配はありません」


「その理屈だと、オフで会ったら引っこ抜かれるんじゃあ……」


 メタ的なことを言ってしまうとリアルのあたしに角は生えていないけど、背筋に軽く鳥肌が立った。


「ふふっ。冗談ですよ、ユニコ先輩。親睦を深めるために、少しからかってみただけです」


「ネココも九割冗談でしたにゃ」


 ネココちゃんは一割本気ってこと?

 いや、一割だけなら実質冗談だから、あまり言及しないでおこう。


「そ、そうなの? よかった~」


 ホッと胸を撫で下ろす。

 ひとまず、これで安心してオフで会うことができそうだ。


「あっ、そうだ。二人とも、よかったら敬語じゃなくてタメ口で話してよ! みんなもそれでいいよね?」


 エリナ先輩がしてくれたように、あたしも後輩たちに敬語をやめるよう促す。

 ミミちゃんのように普段から誰に対しても敬語を使うというのなら話は別だけど、スノウちゃんとネココちゃんはお互いに対してはタメ口だったから、その例には当てはまらない。

 あたしの一存で決めるわけにはいかないので、みんなにも同意を求める。


「もちろんいいわよ」


「シャテーニュもいいよー」


 あたしは最近までシャテーニュ先輩に敬語を使っていたけど、気付いたらタメ口で話すようになっていた。

 おそらくは先日一緒にお出かけした際、たくさんおしゃべりしているうちにそうなったのだろう。


「わたしもタメ口で話してもらえると嬉しいですっ」


 あたしたち先輩側の意見は完全に一致した。


「では、お言葉に甘えさせてもらおうかな。ボクの封印を一つ解いたこと、後悔してももう遅いよ」


「やったにゃ~っ。実は敬語って苦手だから、ちょっとだけ話しづらかったんだにゃあ」


 二人の声から、先ほどまでほんの僅かばかり感じられた堅苦しさや遠慮のようなものが消えた。

 適度にコメントも拾いつつ、建築作業は順調に進んでいく。


「完成したらいい目印になるから、コラボする時の待ち合わせ場所にも使えるよね~。よしっ、これをユニコ城と名付けよう!」


「ユニコを地下牢に閉じ込めて調教するための城、略してユニコ城ってことかしら」


「違うよ!」


 調教されるつもりは毛頭ないけど、地下に部屋を作るというアイデアはいただいておこう。

 それと、エリナ先輩に調教されるのがご褒美というコメントがたくさん流れている件に関しては、ひとまずスルーしておく。

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