第192話 夏の大型コラボ!⑤

 両チームともに準備運動をしっかりと行い、プールに入って軽く動いて体を水に慣らす。

 全員の準備が整ったのを見計らって、ネココちゃんとスノウちゃんが声をそろえて試合開始を告げる。

 最初のサーブ権は、連戦となる二期生チームに与えられた。


「速攻で決めちゃうよ~!」


 一回戦の疲労はほぼ回復できたけど、さすがに長期戦になるとこちらが不利。

 あたしとミミちゃんは先ほどの休憩中に作戦会議を開き、この試合は短期決戦を仕掛けようということで意見が一致した。


「開始早々、ユニコ先輩の強烈にゃサーブ! しかし、にゃんとシャテーニュ先輩! ボールの威力をプールに流したかのようにゃ絶妙すぎるレシーブを決めたにゃ!」


「いや、これは……そうか、シャテーニュ先輩は能力を隠していたんだ。あらゆる力を無にする、恐るべき異能を……っ」


「同期がにゃんか言ってる間に、トスを受けたエリナ先輩が強烈なスパイクを打ったにゃ!」


 エリナ先輩が放ったスパイクをミミちゃんがどうにか拾う。

 やや離れた場所に飛んだけど、ボールが高く上がったことでどうにか追い付けた。

 ボールの威力で攻めるには体勢が悪く、コントロール重視で比較的決まりやすい二人のちょうど真ん中を狙う。

 完璧に狙い通りの場所へは行かなかったものの、先輩たちがギリギリ追い付けない位置にボールを落とすことには成功し、どうにか先制点をもぎ取った。

 抜群の手応えを感じたサーブがあっさり返されてしまった時はヒヤッとしたけど、結果的に点を取れたのだから問題ない。


「よ~し、この調子で次も取ろう!」


「はい!」


「気合入ってるところ悪いけど、勝つのはアタシたち……よっ!」


 エリナ先輩の放った一撃が、ビーチボールとは思えない速度でこちらの陣地に飛来する。

 ただ、幸いにも少しポジションを調整すれば正面で捉えられる軌道だ。

 一瞬のうちに思考を巡らせ、最適な体勢でボールを待ち構える。


「んぶっ!」


「ユニコちゃん!?」


 前腕に当たったボールは勢いよく跳ね、顔面を踏み台にして宙へ舞う。

 驚きはしたけど、思ったほどダメージはない。ビーチボールで助かった。


「ミミちゃん、一撃で決めちゃって!」


 心配そうにこちらへ視線を向けるミミちゃんに、無事であることをアピールする意味も込めて大きな声でエールを送る。


「任せてください!」


 ミミちゃんは腕を鞭のように勢いよく振り下ろし、手のひらでボールを叩きつける。

バチィィンッと今日一番大きな音が鳴り響き、次の瞬間には二人の間を射抜いて相手陣地の後方にボールが着水。

 ボールの周りに広がる波紋が、スパイクの威力を如実に物語っていた。


「こ、これはすごい! 同期であり同居人でもあるユニコ先輩の仇を討つかのような、雷に例えるのがしっくりくるほどの凄まじいスパイクが炸裂! あまりの鋭さに、エリナ先輩とシャテーニュ先輩は目で追うことすら許されなかった! ……にゃ!」


「魔神であるミミ先輩は雷魔法を球技に応用することすら容易い、というわけか。これはもう、ネココが『にゃ』を付け忘れるのも仕方ない」


 確かにすごい威力だった。

 これはもう、愛の力と言っても過言ではないというか、これこそが愛の力だと断言してもいいんじゃないだろうか。

 顔面レシーブという面白ハプニングが起きたりもしつつ、2-0という理想的な状況を作ることができた。

 疲れはあるけどスタミナ切れを心配するほどではないし、この波に乗って勝利を手にしたいところだ。


***


「ユニコちゃんっ」


 体力的にまだ余裕だと考えていたのも束の間、お互いに好機を掴めないまま本日最長となるラリーが続く。

そんな中、先輩たちがコートのやや左側に寄っているタイミングで、ミミちゃんのレシーブが絶妙な位置にボールを運んでくれた。


「任せてっ!」


 目にも留まらぬ速さとはいかないけど、あたしが放った渾身のスパイクは誰の手にも触れさせることなくボールを相手コートへと叩き込んだ。


「やった~! ミミちゃんっ、勝ったよ!」


 勝利を手にするや否やミミちゃんの元へ行き、ギュッと抱きしめる。

 さらには、そのまま我慢できずキスもしてしまう。


「見事に連勝を果たしたユニコ先輩とミミ先輩が、プールの中で熱い抱擁を交わしてるにゃ! てぇてぇにゃあ、これはファンアートが爆増するにゃ!」


 キスに関しては伏せて実況してくれたネココちゃんに心の中で感謝しつつ、一向にキスをやめないあたしとミミちゃん。


「ほらほら、早く上がるわよ」


「嬉しいのは分かるけどねー」


 いつの間にか近くに来ていた先輩たちに肩をポンと叩かれ、そのまま四人一緒にプールから上がる。

 タオルを持ってベンチに腰かけると、全身にじわじわと広がるように疲労感が襲ってきた。

 改めて、三点先取で勝ちというルールにしたのは大正解だったと思う。


「ミミちゃん、体拭いてあげるねっ」


 体を拭くという大義名分のもとタオル越しにミミちゃんの体を触りまくっていると、疲れが大気に溶け込むようにスーッと消えていく。


「ありがとうございます。それじゃあ、次はわたしが――」


 一通り拭き終わった後、今度はミミちゃんがあたしの体を拭いてくれた。

 冷静に考えると、大人になってスク水姿で恋人に体を拭いてもらうというのは、なかなかにマニアックなプレイかもしれない。

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