第223話 ヤンデレごっこ④

 ミミちゃんを追いかけて森の中を走り回っていたあたしは、頃合いを見計らってピタリと足を止めて一言つぶやく。


「次は逃がさないからね」


 そして振り回していた剣をつるはしに持ち替え、探索のため洞窟へと移動した。

 松明を置いて明かりを確保しながら、めぼしい素材をせっせと集める。

 コメントを読んだり、ミミちゃんと他愛ない雑談を繰り広げたり、さっきまでの修羅場じみたやり取りが夢であったかのような明るい雰囲気のまま時間が流れていく。


「あっ、石炭いっぱいある」


「ユニコちゃん、そろそろ戻った方がいいですよ」


「えっ、もうそんな時間なんだ。分かった、すぐ戻るよ~」


 モンスターに襲われる前に帰還するべく、「あともう少し」と引き延ばすことはせず迅速に洞窟を後にした。

 何事もなく仮拠点に到着して食事を済ませたら、すぐさまベッドインして朝を迎える。


「素材もけっこう集まったし、そろそろ建設始めよっか」


「はい、そうしましょう」


「っと、ごめん! 言い出しておいて悪いんだけど、石炭放置してきたからちょっと集めてくる! ミミちゃんは先に始めてて!」


 あたしは駆け足で洞窟へ行きササッと目的を果たし、ついでに木材を集めてからミミちゃんのところへ戻った。


「お待たせ~」


「お疲れ様です。体力は大丈夫ですか?」


「うんっ、まだ平気!」


「とりあえず土台を作ってみたんですけど、もうちょっと広くします?」


「ありがとっ。ちょうどいい広さだと思うよ!」


 土台として土の代わりに足元に広がっている石の面積は、仮拠点として使っている四角い家の四倍近くある。

 今後の拠点として使うから二階や三階も作るだろうし、手狭に感じることはないはずだ。

 それに、物足りなくなったら好きなように増築もできる。


「壁はこの木材でいい?」


「あっ、わたしも同じこと言おうとしてました」


「高さはこれぐらいかな~」


「アイテムボックスはここに置いておきますね」


二人とも急いでいるわけではないのに、息の合った動きによってハイペースに建築が進んでいく。

 流れてくるコメントも、二人のコンビネーションを褒めてくれるものが多い。

 とはいえゲーム内における一日では完璧に仕上げることはできず、陽が沈む頃に作業を中断して仮拠点へ。

 朝を迎えると共に作業を再開し、ほどなくして一階部分の壁と天井を完成させる。

 この時点で仮拠点は役目を終えたものの、せっかくなのでそのまま残しておくことにした。


「そうだ……隠し部屋を作れば、そこにミミちゃんを閉じ込めてあたしだけのものに……」


『ヒェッ』

『急にヤバいこと言い出した』

『おまわりさーん』


 開けた空間を見つめながらブツブツと不穏なことをつぶやくあたしに、コメント欄がざわつき始める。

 ヤンデレごっこの一環として発した言葉だけど、ミミちゃんを独占するための部屋は割りと本気で作りたいかも。


「ユニコちゃん、なにか言いました?」


「ううん、なんでもないよっ」


「ところで、ユニコちゃんのためにシチューをたくさん作っておいたんです。そこのボックスに入ってるので、忘れないうちにどうぞ」


「やった~! ありがと!」


 あたしはミミちゃんの厚意に感謝し、すぐさまアイテムボックスを開ける。


「わ~っ、シチューがいっぱい! これ全部貰っていいのっ?」


「もちろんですよ、ユニコちゃんのために作ったんですから」


「あれ? なんかメモも入ってる。『後ろ』って書いてあるけど――ひゃあぁあぁぁあっっ!?」


 ボックスを埋め尽くすほどのシチューに紛れていたメモを手に取り、その内容に従って振り向いた瞬間、いつの間にか目の前にいたミミちゃんによって足元のブロックが壊された。

 落とし穴が用意してあったらしく、着地と同時に体力が半分近く減ったことからそれなりの高さから落ちたようだ。

 混乱しながら辺りを見回すと、ところどころに置かれた松明によって照らされた十ブロック四方ほどの空間であることが分かる。


「み、ミミちゃん、これって……」


 ここが自然に生じた空間じゃないことは一目瞭然で、ミミちゃんが故意にあたしをここへ落としたこともまた明白。


「……これで、ユニコちゃんはわたしだけのものですね」


「ひ、ひぇっ」


 思わず恐怖を覚えてしまうほどの――今日ここまであたしが見せてきたヤンデレムーブの印象を跡形もなくかき消してしまうほどの、正真正銘のヤンデレがそこにいた。


『こわ』

『これってミミちゃんがヤンデレになる企画だっけ?』

『ユニコちゃん本気で怖がってて草』

『これはヤンデレですね』


「というわけで、ちょうど一区切りついたので今日の配信はここで終わりますね」


「え? あたしこのまま?」


『おつかれー』

『面白かった』

『まさかのラストでした』

『ユニコちゃん元気でね』

『気が向いたら地上に出してあげて』


「それでは、ユニコちゃんのあいさつをお借りして……みなさん、おつユニですっ」


「お、おつユニ~」

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