第136話 翌朝のこと②

「……んにゃ」


 口の端からちょっとばかりの唾液が漏れる感覚と共に、あたしは二度目の眠りから覚めた。

 起きたと言っても、まだ目は閉じたまま。

 三度寝したいわけではないけど、まだ少し睡眠の余韻に浸っていたい。

 それにしても、さっきから甘い匂いの温かい風が顔に当たっている。

 こんないい匂いの芳香剤使ってたっけ?

 でも、かすかにお酒っぽい香りも混じってるような……。

 寝起きで頭が回らず、思考を放棄して答えを見るべく目を開く。


「おはようございます」


「わっ!?」


 目の前には鼻が触れ合う寸前の距離にミミちゃんがいて、思わず驚きの声を上げてしまった。

 それと同時に、いい匂いの正体が分かって納得する。


「こんな息のかかる距離にまで近付いて、キスでもするつもりだったの?」


 からかうような声で問いかける。

 すると、ミミちゃんは頬をピンクに染めて照れ臭そうにうなずいた。


「は、はい。熟睡してるから、一回ぐらいなら大丈夫かなって、思って……」


 か、かわいい……!

 スパム判定されてもおかしくないほど膨大な量の『かわいい』コメントが、あたしの脳内を埋め尽くす。


「熟睡しててもしてなくても、一回どころか何回でもキスしていいよ~。強引に唇を奪ってくれても全然いいからねっ」


「じゃあ、おはようのキスを――あっ! ご、ごめんなさい、そう言えばわたし、お酒臭いですよね」


 唇が触れ合う直前、ミミちゃんがハッとなって顔を逸らした。

 昨夜は甘えん坊な本性が全面的に出てしまうほど酔っていたミミちゃん。

 ちなみに、あたし以外の人がいる状況で泥酔すると逆にキリッとした状態になる。


「大丈夫だよ! ちょっとぐらいお酒臭くても、ミミちゃんの息はいい匂いだもん!」


 フォローというより紛れもない事実を告げただけなんだけど、反芻してみると内容が何気に変態っぽい。


「こ、後悔しないでくださいねっ」


「もちろん!」


 満を持して、あたしたちはおはようのキスを交わした。

 抱きしめ合いながら唇を重ね合わせ、夢の中では味わえない確かな温もりと感触を存分に堪能する。

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