第173話 夏っぽい企画に向けて⑧
「ボールあったよ~!」
プールサイドに顔を出すと同時に、あたしはビーチボールを見せ付けるように掲げつつ報告した。
「運営さんがいろいろ用意してくれていて、他にもたくさんありました」
そう補足するミミちゃんの右手には、ボール用の空気入れが握られている。
お互いに片手が空いているので、あたしたちは手をつないでここまで歩いてきた。
「本当に用意周到というか、なんでもそろえてくれてるわね」
エリナ先輩の言葉に全員が同意し、うんうんとうなずく。
ふと貸し出し用水着がスク水と紐の二択だった件が頭によぎったけど、そもそも貸し出し用の水着を用意してくれていることがありがたい話なので、深く考えるのはやめよう。
「それじゃ、いよいよ試合開始だね!」
ボールに空気を入れ、念のためもう一度軽く体をほぐしてからプールに入る。
今日だけで何回も準備運動をしているけど、水に入る時は気を付けすぎるぐらいがちょうどいい。
「かかってきなさい!」
「先輩の力を見せてあげるよー」
「あたしとミミちゃんが一回戦で負けるわけないんだよね~。ササッと勝って、次の後輩チームにも圧倒的な実力差ってやつを教えてあげる!」
「ゆ、ユニコちゃん、それフラグになりませんか?」
「ふっ、どちらが相手になったところで、データを充分に取れるボクたちが圧倒的に有利だ。ネココ、狙うは全勝だよ」
「にゃんかこっちのチームにも負けフラグを立ててるやつがいるにゃ」
とりあえずのルールとして、ボールを返せなかったら相手に1ポイント入り、10点先取で勝ち。
サーブ権は、じゃんけんの結果あたしたちが得た。
「ミミちゃん、任せたよ~」
パートナーにボールを託し、あたしは敵陣をジッと見据える。
「はいっ」
元気な返事の後、背後からボールを叩く音が聞こえた。
「ミミ先輩のサーブから、ついに試合が始まったにゃ!」
「ボールはきれいな放物線を描いて相手陣地に……果たして、一期生の二人はあれを返せるかな?」
ネココちゃんとスノウちゃんの実況を聞きながら、ボールの行方を目で追う。
落下地点に近かったエリナ先輩が「任せなさいっ」と声をかけつつ移動し、シャテーニュ先輩にトスを上げた。
「んっ」
シャテーニュ先輩が放ったスパイクの軌道は、あたしから見てほぼ正面。
「任せて!」
ミミちゃんにつなげるべく、トスを上げやすい位置に向かう。
当然ながら地上と同じ感覚では移動できず、実際に動いてみると想像以上に水の抵抗が厄介だ。
どうにかボールに追いつき、トスを上げる。
ミミちゃんによって叩き込まれたボールは先輩たちのちょうど真ん中ぐらいに飛び、二人ともレシーブしようと向かったものの、ギリギリ間に合わずボールは水に浮かぶこととなった。
「ミミちゃんナイス!」
「ありがとうございますっ」
ミミちゃんのところへ行きハイタッチをして、平泳ぎで自分の持ち場に戻る。
「まずは二期生チームが1ポイント獲得! とはいえ、勝負はまだまだ始まったばかりにゃ!」
勝利を手にするには、あと9ポイントが必要だ。
いまの攻防で思ったんだけど……そこまで厳格なルールじゃないとはいえ、水中で10ポイント先取ってけっこうキツくない?
この先の展開次第では、試合中に勝利条件の変更を提言することになるかもしれない。
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