第112話 気持ちいいこと②

 外はすっかり朝日が顔を出したらしく、窓から射し込む光が湯気の白さを際立たせている。

 とは言っても、さすがになにも見えないほどではなく、アニメのお色気シーンのようにピンポイントで大事なところだけ隠れているということもない。


「さすがに、こればっかりはブルーレイ版でも解禁は無理だよね~」


 ラベンダーの豊かな香りが漂う日替わり風呂に入る直前、ミミちゃんの体を見ながらしみじみとつぶやく。

 おっぱいはもちろん、お股の方もバッチリ見えている。多少の湯気なんて、あってないようなものだ。


「丸見えなのはお互い様ですよ」


 お湯に髪が浸からないようヘアゴムで髪を束ねながら、ミミちゃんが呆れたように言い放つ。

 あたしも同様に髪をくくりつつ、


「あたしはミミちゃんに見られると興奮するから、もっと舐め回すように見てほしいなっ」


 と冗談っぽく返す。

 二人そろって爪先からゆっくりと湯船に入り、肩までお湯に浸かると同時に自然と感嘆のため息が漏れた。

 真冬に寒空の下で暖かいココアを飲んだ瞬間の感動に匹敵――いや、それをも凌駕すると言っても過言ではない。


「気持ちいいですね」


 ふにゃっと緩んだ声で、ミミちゃんがつぶやいた。

 あたしはコクリとうなずき、同意の声を上げる。

 最愛の人と一緒に大きなお風呂でのんびりと入浴を楽しむのって、何気にかなりの贅沢だと思う。


「帰ったらお昼寝しよっか~」


「賛成です」


「一緒に寝る?」


「もちろんっ」


 お湯の中でふくらはぎや太ももをマッサージしながら、他愛ない会話を交わす。

 一緒に寝るかという問いに対してミミちゃんが即答でうなずいてくれたので、あたしは嬉しくなって距離を詰め、ピッタリと体を密着させた。


「次はサウナとかどう?」


「わたしもちょうど同じこと考えてました」


 こうして話している間も、指を絡めて遊んだり、腕や太ももを触りっこしたりして、スキンシップが途切れない。

 欲を言えばここでキスの一つでもしたいところだけど、いくら貸し切り状態とはいえ大人としてさすがに我慢しなければ。


「――よし、帰ったらお昼寝の前に最低でも十回はキスするぞ~っ」


「えっ?」


「あっ、うっかり声に出しちゃった」


「もう、気を付けてくださいね。公共の場なんですから」


 冷静に常識的な意見を述べつつも、ミミちゃんの声音はどことなく嬉しそうで、横顔からも上機嫌であることがうかがえた。

 かわいすぎる。

 お昼寝の前だからと控えめな回数で考えていたけど、十回どころか百回でも済まないかもしれない。

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