第30話 とことん最弱、どこまでも

「……朝か」


 チュンチュンと鳥の声が聞こえ、窓から眩しい朝日が差し込んでくる。

 旧聖地での騒動から一夜明けた朝、今日はフォリスを出発する。

 次の目的地はマルサンク王国……と、いう所らしい。


「でも、その前に……」


 だが、ハルマは一つ。

 マルサンク王国に向かう前にやっておきたいことがあったのだ。

 という訳で、早速着替えるとスタコラとフォリス院長の下へ向かって行った。




 ―女神像前―

「おはようございまーす」


「おお、アメミヤ殿。おはようございます。随分と早起きですな」


 言われて時計を見てみると、時刻はまだ6時半。

 確かに、少し早起きではあるかもしれない。

 現にホムラやジバ公はまだ起きていなかった。


「そう……ですね、実はちょっと楽しみにしていたことがあって。多分それで目が覚めてしまったんだと思います」


「楽しみにしていたこと……ですか? ……ああ、マルサンク王国へ向かうから!」


「あ、いえ、そうじゃなくて」


「?」


「あの……ここで魔術適性の検査が出来るんですよね……?」


 少なくとも昨日聞いたユウキの話では出来るはずだ。

 まあ、あれは100年前かつ正確にはここではなく旧聖地の話だが……。

 それでも多分、何か雰囲気的に今も出来そうだ……! とハルマは思ったのである。

 なお根拠はない。


「もちろん出来ますよ。そうか、アメミヤ殿はユウキ殿と同じように転生者ですので、自分の適性をご存じなくても不思議ではない。では、付いて来てくだされ」


「了解です!」


 ようやく、ようやく念願の魔術適性判明だ。

 これでハルマは憧れの魔法……じゃなくて魔術を使うことが出来るようになる。

 転生してからずっと魔術を使ってみたいと思っていたので、この日が実はハルマは地味に楽しみでしょうがなかったのである。




 ―廊下―

 そんな訳でフォリス院長に付いて、長い廊下を歩いていく。

 だが、途中でハルマは大事なことを思い出した。


「そういえば……昨日の話だと、なんか爆発したらしいですけど……。俺が触っても大丈夫なんですかね」


「ああ、それは問題ないと思いますよ。ユウキ殿が触れた時に爆発したのは、ユウキ殿のオドがあまりにも強かったのが原因ですから」


「ほう……?」


「魔力水晶はですね、触れた人から微量のオドを吸い込み、そして色を変える石なのです。そのためあの石の中には様々な人のオドが詰まっています。まあ、それは普通なら何でもないただの小さな魔力なのですが……」


「ユウキは違ったと?」


「はい。彼はその微量のオドですら、百戦錬磨の魔術師レベルで濃度が高かったようで……。結果オーバーヒートして爆発したんです。さらにその爆発の副産物で巨大スライム(擬き)まで誕生するのですから……本当に凄い方ですよ」


「……」


 ほとんど化け物じゃないか。

 それがハルマの純粋な感想だった。

 まさに『最弱』のハルマとは正反対の『最強』。

 ユウキはネット小説とかでよく見た、『異世界でチート無双』をリアルにやっているのである。

 なんとも……ハルマには羨ましい話だった。


 と、そんなふうに話をしていると目的の部屋に到着。

 そこにはユウキの話に出てきた魔力水晶……よりかは小さな石が置いてあった。

 それは見上げる程のサイズではなく、大体ハルマと同じくらいの大きさだ。


「ユウキの時と比べると随分小さくなりましたね」


「まあ、大きくても見た目意外には特に良いことはありませんからな。安全を重視してこうなったんですよ」


「へえ……」


 ちょっと見上げるサイズの水晶を期待していたのだが……残念。

 だが、ないものねだりをしてもしょうがない。

 効果は何も変わらないのだから、文句は言わないでおこう。


「それでは、どうぞ。アメミヤ殿は触れるだけで大丈夫です」


「はーい」


 緊張し、ドキドキしながら白い水晶へ手を伸ばす。

 果たして水晶は何色に輝くのか。

 伸ばした手の指先が、水晶に、触れ――


「ちょっと待ったぁーーーーーー!!!!!!!!!」


「!?」


 触れる寸前、部屋に響き渡る声。

 そこ居たのは息を切らしたホムラと、その頭に乗っかるジバ公だ。


「待ってよ……! 私達も……それなりに……気にしてたんだから……勝手にやらないで……!」


「あ、ごめん」


「全く、これだから最近のハルマは……」


「最近の俺ってなんだよ。『最近の若者は』みたいな言い方すんな」


 ともかく、ホムラとジバ公も到着したので、今度こそ水晶タッチである。

 恐る恐るハルマはゆっくりと指を伸ばし、そして水晶に触れた!

 ――が?


「……! ……、……? ……あれ?」


「こ、これは……?」


「色が……変わらない?」


 何故か、魔力水晶は綺麗な白色のままだった。


「フォリス院長、これ壊れてませんか?」


「おかしいですなぁ……」


 そう言いながら、今度はフォリス院長が水晶に触れる。

 だが、今度はしっかりと水晶は青色に色を変えたのだった。


「あれ? 変わるな?」


「そうですね……」


「ん?」


 がしかし、何故かハルマの時だけは色が変わらない。

 その後もホムラやジバ公が試してみるが、やはり色は変わるのだった。


「どゆこと?」


「……うむ、これはつまり水晶に不調はないということですな」


「え?」


「つまりですよ、アメミヤ殿の結果は『白』ということなのでしょう」


「……白? 白ってどの魔術に適性あるんです? 色変わってませんけど」


「いえ、白は適性はありません。即ち、アメミヤ殿は史上初の『魔術適性なし』ということですな」


「……え? はあ!?」


 なんと、いうことか。

 ここまで見事な『最弱』を見せつけてきたハルマ。

 本人も、自分はホムラとは真逆の悪いとこどりしたクソ魔術適性の可能性はあると思っていた。

 が、まさかそれ未満の結果になるとは……。


「何で!? 魔術適性なしは存在しないんですよね!?」


「ええ、確かに今までには存在していないです。まさに史上初、前代未聞ですよ」


「いやいやいや! 諦めないで! 何か、この石がおかしいのかもしれないじゃないですか!!!」


「あれだけ僕らが触ってちゃんと反応するのに?」


「うっ……。いや、でも! じゃあ本当にこういう可能性はないの!? 『変化なし』じゃなくて、実は『白』に変化していた! とか!!!」


「あの、残念だけど私達は魔力の流れが分かるから……そういうことなら理解出来るのよ。でも、ハルマのあれは『変化なし』の白だったわ……」


「そ、そんな……」


 憧れの魔術への夢、崩壊。

 何の需要もない人類初の適性『なし』を会得したハルマは、代償に魔術を全て失った。

 なんともまあ、夢とは本当に儚いものである……。


「ハルマ……」


「そんな……ずっと……ずっと楽しみにしてたのに……」


「む、惨いな……」


「別に……弱めの下級魔法が使えれば……それで良かったのに……」


「アメミヤ殿……」


「なんでだよ!!! ちくしょおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」


 あまりのショックに項垂れるハルマ。

 そんな様子のハルマに、誰もがなんと声を掛ければ良いのか分からなかった……。




 ―お昼―

「そ、それでは……良い旅を……」


「あ、ありがとうございまーす……」


 お昼、フォリス院長に見送られながら、3人は聖地を出発した。

 あれからもハルマは失った夢を求めるように、いろいろと模索していたが……結果は変わらなかった。


「げ、元気だしなよ! 世界には魔術の他にもいろいろあるんだから!」


「ホムラちゃんの言う通りだぞ! それに……ほら! 落ち込んでるなんてお前らしくない!!!」


「うん! 私もジバちゃんと同じ気持ちよ!!!」


「……」


 必死に慰めてくれる2人に、ありがたさとちょっとした悲しさを感じるハルマ。

 転生する前から持っていた魔術への夢を一瞬でぶっ壊されたショックは大きかった、が……ジバ公の言う通り、こんなことでずっといじけているのは天宮晴馬らしくない。


「……そうだな! その通りだ! メチャクチャ泣きたいくらい悔しいけど! こんなことでずっとうじうじしてるのは俺らしくない!」


「お!」


「何故なら! 俺は六音時高校生徒会長代理、天宮晴馬だから!!! よっしゃ! 完全復活! 無理矢理頑張って明るく振る舞ってるけど、問題なし!!!」


「ははは……、まあ元気になってよかった……のかな?」


「そう……じゃない?」


「さあ、行こうぜ! 次の目的地、マルサンク王国へ!!!」


「お、おー!」


 悲しいくらいにどこまでも、とことん『最弱』のハルマ。

 運動も、魔術もろくに出来ない。

 頭が良いわけでもなく、何か特別なことが出来る訳でもない。

 どこまでも、どこまでも脆弱な弱い存在。


 だが、それでも、この明るさが彼から失われることはなかった。




【後書き雑談トピックス】

 適性なしなので魔術はもちろん、癒術・呪術も使えません。

 また魔力を使う特技的なものも不可能。

 なんとまあ、残念無念……。


 

 次回 第31話「大神神話」

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