第9話 ホムラの青空魔法教室

「はぁ……、はぁ……」


「……」


「ふー、はぁ……、ふー……」


「……、……」


「はぁ……、……おぇ」


「!? ちょっと、大丈夫!?」


 現在、ハルマとホムラは太陽の光が降り注ぐ草原を歩いていた。

 次なる目的地は『ツートリスの村』

 それなりの距離はあるが、今日はいい天気でまさに旅日和。

 ついつい足取りも軽く、笑顔がこぼれる……という訳でもないようだ。


「いや……大丈夫ではあったりしたいけど……出来れば休憩をしてくれたりすると……嬉しかったりしなくもないこともないよ……」


「語彙がメチャクチャになってるじゃない……。とりあえず休みたいのね? もう、なら早く言えばいいのに……」


「め……面目ない……」


 旅慣れなんてまーったくしていないハルマにはただの移動が辛い。

 というか、そもそもハルマはこの世界に適した身体ではないのだ。


 この世界の住人は生まれた時からモンスターが蠢く世界に生き、元の世界ほどは整備もされていない街で生活しているのだ。

 一方ハルマは安全な世界を生き、便利な街で生活していた。

 長い人生のたった17年とはいえ、今の場合はこの17年がとても大きい。

 これがハルマがこの世界において『最弱』である理由だろう。


 ――あれか……。漫画とかにある重力が軽い星で育った奴は弱くなるのと同じこと……かな。


 つまりまとめるとこれはもう『しょうがない』としか言いようがないのだ。

 決してハルマが悪い訳ではないのだが……。

 それでハルマは「じゃあいいか」と思えるほどは、自分に甘くなかった。


「筋トレでもするかねぇ……」


「え? 今? 今私達休憩してるのに?」


「違うよ。寝る前とかに少しずつってはなし」


「あ、流石にそうよね。びっくりしたわ……急にそんなこと言い出したから」


 ……流石にハルマも疲れ果てたが故の休憩中に、筋トレするほど変人ではない。

 だが、こうして口に出して言ってみると、なんとも言えない違和感があった。


 ――でも、俺が筋トレしても……焼け石に水だろうなぁ……。


 先ほど述べたハルマの『最弱』、実はこれにもう一つ加えられるであろう理由がある。

 ハルマはそもそも病弱なのだ。

 ……いや、正確に言えば『病弱だった』が正しい。

 生まれた時から死にかけで生まれたハルマは、結構大変な幼少期を過ごしてきた。

 今でこそ元の世界では常人よりちょっと弱い程度までに成長出来たが、幼稚園児くらいの頃までは碌に運動も出来ていない。

 故に、ハルマは生まれつき運動が得意ではないのであった。


 ――運動がダメなら……魔法……か? この世界にも魔法はあるみたいだし……。


 まだ魔法の原理は全然知らないが、ハルマはどちらかというとこっちの方が適しているような気がしていた。

 運動は苦手だが勉強ならそれなりには得意なのだ。

 ハルマは、伊達に『六音時高校生徒会長代理』は名乗っていない。


「ねえ、ホムラ」


「ん?」


「こないだ言ってた……えっと……魔術適性だっけ? それを含めて『魔法』全般について教えてもらえないかな? あの、俺そこらへん何も知らなくて……」


「良いけど……。ハルマ、貴方ホント何処から来たの? かなりド田舎でも魔術適性くらいは知ってると思うのだけど」


「あはは……」


 まあ実際ド田舎出身ではないのだから、認識に違いが出てもしょうがない。

 なにせハルマはド田舎越えて、その先の異世界出身なのだから。


「えっと、それじゃあまず『魔術』そのものについて説明するね」


「はい! よろしくお願いします、ホムラ先生!」


「……。えっと、まず最初にハルマはそもそも『魔術』のことを『魔法』って言うけど、魔術と魔法は厳密に言うと違うものなのよ」


「……どんなふうに?」


「魔術が規模が小さいもの、魔法は規模が大きいもの。まあ根本的なことは全く同じだから魔術を魔法と呼んでもおかしくはないけど……。少し違和感はあるわ」


「なるほど」


 つまりは元の世界で言うイルカとクジラやワラビーとカンガルーと同じことらしい。

 どっちも根本的には同じだが、大きいものを『魔法』と呼び、小さいものが『魔術』と呼ばれる。

 そして、人々が使うのは基本的に『魔術』の方……だそうだ。


「で、こないだ言った『魔術適性』は、そのまま魔術の適性。どの属性の魔術に適しているかを示すものよ。これが分かってないとそもそも魔術は使えないわ」


「属性……ですか」


「そう、魔術は1つじゃなくて7つの属性があるのよ。炎、水、草、雷、風、光、影の7つがね。それで魔術適性はそのどれが使えるのかってもの」


「ほうほう。つまり某ゲームのタイプみたいなものか。……質問!」


「何?」


「それはあれですか? 1人1つまでとか決まってるんですか?」


「ううん。1人で1つの人もいれば、1人で7つ全部使える人も居るわ。……実際私は7つ全部使えるし」


「マジか!? え、じゃあそれ絶対7つ全部の方が強いじゃん」


「ところがどっこい、そう簡単にもいかないのよね」


「え?」


 単純に考えれば7つ使える方が強そうだが……。

 どうもそうではないようだ。

 何やら面倒くさい事情があるらしい。


「魔術適性が多いってことはいろんな魔術に対応出来る……つまり持っている『オド』が複雑ってこと。……ってオドって言って分かる?」


「……なんとなくは。あれでしょ? 身体で作られる魔力的な」


「そうそう。ちなみに空気中の魔力は『マナ』ね」


 オドとマナならなんとなくは分かる。

 元の世界の創作ではよく出てくる単語だからだ。


「それで? オドが複雑だとどんな問題が?」


「一つ、一つの属性を極められない。簡単なことね、要するに『薄く広くか、濃く狭くか』ってことよ。適性が少ない人はその属性にオドが簡単に呼応するから、大した努力なしで極めることが出来る。でも、属性が多い人はどの属性にも対応はするけど、どの属性とも呼応はしない。……というより他の属性が邪魔で呼応出来ないのよ」


「なるほどね」


 一つの属性しか使えない代わりに極められるか、はたまたあらゆる属性が使えるがどれも極めることは出来ないか……。

 究極の二択だ、まさに一長一短。

 ハルマはどちらの魅力も捨てがたかった。

 ……まあ、別に選べる訳ではないのだが。


「そして二つ、癒術・呪術が効きづらい。癒術も呪術も相手に自分の魔力を送り込むものだからね、魔力が複雑だと拒絶反応が出てちゃんと効果が出ないのよ。で、それは自分が受ける時も同じ。適性が多いとオドが複雑だから癒術を受け入れてくれないのよね、まあ呪術も効きづらいってメリットもありけど」


「へー。ああ、だから昨日あんなにびっくりしてたのか」


「そう。私は適性が多くて、さらにちょっと特別だから。特別癒術が効かせにくいの。なのにハルマは物凄く回復したからびっくりしちゃって。あ、そうそう。つまりはさっきの反対で、ハルマは癒術が効きやすい反面、呪術にも弱いはずだから気を付けてね?」


「はい、肝に銘じておきます」


 魔術適性、属性、マナ、オド、癒術、呪術……。

 次々と現る異世界ワード。

 流石は異世界だ、とハルマは改めて感服するのだった。


「……それで、ホムラのその昨日から言ってる特別な適性ってのは何なの?」


「あー、えっとね。私は7つの属性全部に適性があるんだけど、どうしてか加えて属性を極めることも出来るのよ。つまり両方の良いとこどりが出来るの」


「すげえ! それはまさにチートじゃん! ……って、そうか。その分デメリットもあるのか。癒術・呪術が効かせにくいっていう」


「そう、それに私には基本的に癒術効かないし」


 ……なるほど。

 確かにただ多ければ良いってものでもないらしい。

 多いと多いで面倒なデメリットがあるようだ。

 まあこれはゲームでないにしろ、そうでもないと不平等な気はするが。


 ただ、そんななかでもやはり例外というのはあるようで。

 それがホムラだ、7つ全部使えてかつ極められるとかいうチート例外。

 ……まあ代償としてホムラにはホムラのデメリットがあるのだが。


「ってことは俺も例外の可能性もあるのか……。って、ちょっと待って! もしかしてホムラの逆とかないよな!? もし1つしか使えないのにどれも極められない、とかだったら地獄だぞ!?」


「聞いたことはないけどあるかもね。……まあ、魔術適性がないってことはないはずだから、いくらハルマが弱くてもそこは大丈夫だと思うよ? 私はハルマがそもそも魔術適性を知らないこと自体がびっくりだったけど」


「ははは……、ちょっと俺もいろいろあってな」


 いろいろがいろいろ過ぎるので、ここは適当に誤魔化しておく。

 まあ何はともあれ、ある程度魔術について理解は出来た。


 とりあえずハルマは魔術を使うには、どこかで自分の魔術適性を知らないといけないようではあるが。




 ―夕暮れ時―

「ひー! ひー! ひー!」


「ほら、頑張って。もう少しだから」


「うん……大丈夫……」


 ホムラの魔術教室が終わってから、また移動を再開したハルマ達。

 あれから3時間ほど経ってようやくツートリスの村が見えてきていた。


「はー! やっと……やっと着いた……」


「はい、お疲れ様で――」


「? どしたの?」


「……」


 突然沈黙し、村を見渡すホムラ。

 ……すると。


「みんな! のこのこと戻って来やがったぞ!」


「! 良い度胸だ! おう!」


「今度こそとっちめてやる!!!」


 何故か初対面でいきなり凄くお怒りな村人たちが現れた。


「……ホムラ、何かここでやらかしたことあるの?」


「ないわよ! ……そういうハルマは?」


「俺もないよ。ないんだけど……なんかこの人達は怒ってるみたいだね……」


 さて、またまたいきなりの問題。

 どうにもこうにも、異世界の旅は簡単にはいかないものである……。



【後書き雑談トピックス】

 とりあえず魔術関連についてまとめ。


 『魔術&魔法』……そのまま。現実では不可能な異能。


 『魔術適性』……まんま魔術の属性への適性。1つから7つ全部持ちまでいろいろ居る。少ないとあまり魔術は使えないが単純で楽。多いといろいろ出来るが複雑で面倒。


 『属性』……魔術の種類。全部で7つ。炎、水、草、雷、風、光、影の7つ。


 『魔力』……魔術を使用する時に使うエネルギー。


 『マナ』……空気中にある魔力。魔術に使う魔力の半分はこれ。


 『オド』……体内で作られる魔力。もう半分がこっち。


 『癒術&呪術』……普通の魔術とはちょっと違うもの。癒術が回復で、呪術がダメージ。誰でも使えるが適性の数で効果が大きく変わる。


 ……多!?

 まあだけど説明しない訳にもいかないし……面倒ですが少しづつ覚えてもらえれば嬉しいです。



 次回 第10話「試練の里 ツートリス」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る