第10話 試練の里 ツートリス

「今度こそとっちめてやる!」


「覚悟しやがれ!!! おう!」


「……」


 さて、長旅(と言っても3時間程度だが)を経て、なんとかツートリスの村に辿り着いたハルマとホムラ。

 がしかし、疲れ切った二人を待っていたのは歓迎ではなかった。


「ちょっとあの! 多分何か誤解されていると思うんですが!?」


「誤解だと!? しらばっくれるな!!!」


「いや! 私達は今この村に初めて来たんですよ!?」


「嘘をつけ! 俺達は騙されねえぞ!! おう!」


 何故かメチャクチャに怒っている。

 もちろん二人は何もしていないので何に怒っているにかまるで分からないが……。

 このままではちょっとマズいことになりそうだ。


「ど、どうする……!? 全然話聞いてくれないんだけど!?」


「最悪ちょっと手荒な手段に出るしかないかも……」


「その場合、俺ただの足手纏いですよね!?」


 出来る事ならいきなり村人と交戦など絶対に避けたいのだが……。

 相手側が戦う気満々なのだ。

 故にいくらこっちがその意思を見せなくとも、このままだと時間の問題だろう。

 そして、そうなってしまうとハルマは本気でただの役立たず……いや、それ以下の存在に成り下がる。

 だからなんとしてもここで平和的に解決したいところだ。


「頼みますって! ちょっと話聞いてよ! ホントに今来たばっかりなんだってさ!」


「黙れ! そんなことが信用出来るか!」


「そうだそうだ! おう!」


「そんな……」


 一触即発、次に誰かが行動を起こした瞬間が開戦の時だろう。

 誰もがそれを察し、その場を緊張感が支配する。

 ――その時。


「待たんか、馬鹿者どもが!」


「!?」


「お客人に刃を向けるとは何を考えている!? 悪人と善人を見間違えるでないわ!!!」


 村の奥の方から、威厳があってそれでいて若々しい声が響いた。


「ちょ、長老!」


「……え? 長老?」


「おお、すまぬのお客人。実は先日ちょっとしたことがあって村の者どもの気が立っていたのだ。どうか許してはくれぬだろうか?」


「あ、いや、それはいいですけど……」


「?」


「あ、貴女が……長老さんなんですか?」


 村人達をピシャリと窘める威厳のある声。

 その主は村人達から『長老』と呼ばれており、確かにその存在感と威圧感は『長老』に相応しいかもしれない。

 だが、だが……ハルマの知っている『長老』と目の前の人物はあまりにも大きくかけ離れていた。


「ねえ、ホムラ。もしかして俺の知ってる『長老』って間違ってたりするのかな? 俺、長老って普通お年を召した方だと思ってたんだけど……」


「その認識であってるはずよ……多分」


「だよな、普通は子供が長老ってことはあんまりないよな……」



 ハルマ達の前に立った『長老』は子供だったのだ。


 まだ10歳を少し過ぎたばかりくらいの歳であろう少女。

 言うなれば『長老少女』とでも言うべき存在が、ハルマ達の前に『長老』として立っていたのである。


「ああ、まあお客人が不思議に思われても仕方あるまいの。実はいろいろありましてな……」


「そうでしょうね……」


「お客人、よろしければ我が家に来てはくれませぬか? お詫び、事情の説明、宿泊といろいろとこちらもしたいのだが」


「……じゃあお言葉に甘えて」


「そう言ってくれますか! では、こちらへ。……と、その前に」


「?」


 歩きだす前に、長老少女はジッと村人達を見渡す。

 そして一通り見渡した後、再び威厳のある声で村人達に話し掛けた。


「お前達、お客人に無礼を謝罪しなさい。そして今後はこのようなことがないように」


「は、はい! すまねぇ……つい気が立っちまった」


「お、俺もだ……。おう……」


「あ、いや、分かってくれればいいんですよ」


「うむ。では、参りますか」


 ――……すげえな、この子。


 そんな訳で、二人はこの長老少女の家に向かうことになったのだった。




 ―村のお屋敷―

「……」


「凄ーい……」


「だな……」


 お屋敷、という言葉がまさにピッタリ当てはまる。

 このツートリスの村はどちらかと言えば『田舎』と呼ばれる部類だろうが、このお屋敷は『王国』であるゼロリアにあるどの建物よりも豪華だった。

 ハルマとホムラがその迫力と豪華さに息を呑むくらいには。


「さて、そちらにお掛けを。そしてまずは改めてお詫び申し上げる。村に入っていきなりの無礼、本当に申し訳なかった……」


「いえ、そんな気にしないでください。誤解は誰にでもあることですから」


「寛大な対応、非常に感謝する。まあ、これは言い訳でしかないのだが、この村は先日かなり厄介事に巻き込まれたものでしてな……。村人共も根は良い奴らなのですが……」


「……あの、そのさっきから仰っている『厄介事』とは?」


「うむ、実は3日ほど前にこの村は襲撃を受けたのだ」


「しゅ、襲撃!?」


「左様。……幸い村の壊滅までには至りませんでしたが、村のダメージはかなりのものだったのは事実。何人か死人が出て、おまけに村の宝を強奪される始末でして……」


「……」


 なるほど……。

 それはかなりの『厄介事』だ。

 そんなことがたった3日前に起きたのなら、まあ村人達がよそ者に警戒心を抱いてもおかしくはないだろう。


 と、ここで俺は一つ気になることが出てきてしまった。


「ねえ、ホム――」


「もし、その襲撃者が兄さんだったんじゃないか、とか言ったらいくらハルマでも許さないからね?」


「!」


「兄さんはそんな人じゃないわ。あの人は絶対にそんなことしない。ましてや人殺しなんてあり得ないにも程がある」


「……」


 今までにないくらいの物凄い迫力のもと、そう言い切られてしまった。

 ……ここまでホムラが確信を持って言うのだからそうなのだろう。

 ホムラのお兄さんは、ホムラが全幅の信頼を寄せる善人のようだ。


「あの長老さん、ここにその襲撃者とは別に誰かが来ませんでしたか? 私の兄はここに訪れたはずなのですが」


「そなたの兄上? うむ……申し訳ないが記憶にはないな。もしかしたら交戦中に村に辿り着いたのやもしれぬが。なにせ半日近く戦いが続きましたからな」


「……なるほど。つまりホムラのお兄さんが辿り着いた時に村で戦いが起きていて、ホムラのお兄さんは村には入らなかった……ってことかな?」


「……その兄さんが村の人達を見捨てたみたいな言い方やめて」


「え!? いや、別にそういうつもりじゃ……」


「兄さんはそんなことする人じゃないわ。多分自分だけじゃ力不足だと理解して誰か助けを呼びにいったのよ。でも見つからなかった、もしくは見つかったけど争いは既に収まっていた。ってところでしょうね。村に入らなかったのは戦いの後で気の消耗した村人達を警戒させない&疲れさせないようにしたんでしょう」


「お、おう……」


 ――兄さまへの信頼すげえな……。


 別に兄妹仲が良いのは何の文句もないのだが。

 ここまで来ると流石にちょっとびっくりはする。

 どうやらホムラはお兄さん大好きらしい。


「そっか、じゃあもうここには兄さんは居ないのね……」


「すまんの、お役に立てず」


「そんな、気になさらないでください。こっちの勝手な事情ですから」


 ……さて、まあ事情は理解したが。

 ホムラのお兄さんがここに居ないのであれば、もうホムラはここに用はないだろう。

 ちょっと失礼な言い方ではあるが、多分ホムラはすぐにでも次の場所に向かいたいんじゃないだろうか。


「お客人は兄上を探して旅を?」


「そうなんです。1ヶ月くらい前に急に居なくなっちゃって……それでずっと探しているんです」


「そうですか、それは大変ですな……。……ん? ということはこれからはこの先へとお向かいに?」


「はい」


「……うーむ、そうですか……」


「? 何か不都合なことでも?」


 何故か難しそうな顔をする長老少女。

 ホムラが旅を続けると何か困ったことでもあるのだろうか。


「いえ、実は少し良くない噂を耳にしておりましてな」


「噂?」


「はい。実はここ最近モンスター達の動きが活発になっていると聞いたのです。特に他の大陸では明確に『凶暴化』しているとのことでしてな」


「……ああ、なるほど。つまり俺がちょっと不安なんですね?」


「む。……うむ、失礼ですがな。そなたからは特別弱さを感じたものでして。ただそちらのお嬢さんでも、この先の大陸を旅するのはちっとばかり辛いのではないかと」


「……そんなに凶暴化してるんですか? ……兄さん、大丈夫かしら」


 ――モンスターの凶暴化、か……。


 ハルマの頭に苦い思い出が蘇る。

 ゼロリアからここに来るまで、何回かスライムと戦ったが……。

 そのどれもが命を懸けた接戦だった。

 マジでどうやってあれを小さな子供が追い払っているのかと思うくらいに。

 ……そして、それよりも何十倍も強い奴らがこの先には闊歩しているらしい。


 ――あれ? 俺死なない?


 どう考えても勝機がない。

 ハルマは一発小突かれて終わりな気がしてならなかった。


「……お客人」


「はい?」


「お節介だとは承知しているが……もしよろしければ受けてみますかの」


「受ける? 何を?」


「試練……を」




 ―朝―

「ここが入口か」


「いかにもって感じね」


 村の奥にある洞窟の入り口。

 ハルマとホムラはその前に今立っていた。


 昨日の夜に受けた誘い、試練。

 どうもこの村は昔から『試練の里』と呼ばれており、かつて世界を救った勇者がここで試練を受けたとかなんとかいう伝説が残っているそうだ。

 果たしてそれが真実かどうかは分からないが、今でもここにこうして試練の洞窟があるのは確かな事であり、この村では成人の儀式として今も使われているとのことだった。

 果たしてこの『試練』が今後にどれほど役に立つかは分からないが、少なくともこの洞窟を突破出来ないようではこの先の旅を続けるなど不可能だそうだ。

 なら、これはもう挑むしかないだろう、と二人はすぐに合意。

 結果、一晩ぐっすり寝た二人は洞窟の前に立っていた。


「では、気を付けての。よほど馬鹿なことをしない限り命を落とすことはないと思うが、一応中にはモンスターも住み着いとるでな」


「マジですか。てかもうこれただのタンジョンでは?」


「そうかもしれんの」


「否定しない!?」


「怖気づいたのか?」


「――ッ! まっさか! さあ、行こうぜホムラ!」


「行こうって……基本戦うの私だからハルマは後ろね」


「あ、はい」


 ……なんともダサい感じはあるが、こうして試練は開始された。




 ―試練の洞窟―

「GGGGGGGGGGGGGG!!!!!!!」


中級火炎魔術フレイア!!!」


「……おお」


 ホムラの放った火炎魔術が容赦なく鳥モンスターを焼肉にする。

 さて、試練の洞窟はまさにダンジョンそのものだった。

 やけにジメジメした陰気くさい雰囲気や次々と襲い掛かるモンスターと、ハルマはRPGをやっている気分になってくる。


 ――いかんいかん。いくらメッチャそれっぽいからって浮かれるな……。


 そう思いつつも、「宝箱とかあるのかな」と思ってしまうにはゲーマーの性なのか。


「もう、あんまりキョロキョロしてないで前――ハルマ」


「ん?」


「何か居る」


「? モンスターじゃないの?」


「ちょっと……違うみたい」


 こっそりとハルマもホムラが見ている先を見てみる。

 するとそこには、通路を塞ぐように仁王立ちする巨大なオークの姿があった。



 【本日のプチIFルート:長老少女が来なかった場合】

  ハル「違う! 違うって――あー!!!!」

  ホム「ハ、ハルマー!!!」

  村人「おら! 縛り上げて牢獄に入れとけ!」

  村人「そうだな! おう!」

  ハル「ぬえええええええええ!?!?!?」


  結果、『最弱勇者の脱獄譚』へ。



  次回 第11話「ユーキ」

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