第25話 伝承の勇者

「貴方、異世界転生者ではありませんか?」



「……え? なッ!? えええ!?!?」


 それは、ある意味ハルマがずっと待ち望んだセリフであった。

 だが今は状況が状況過ぎる。

 一切そういう前触れもなく唐突に切り出され、誰よりもハルマ本人が驚いてしまった。


「ど、どうして!? どうやって!? そもそもなんで!?」


「ハ、ハルマ……? え? どういうこと? 転生者って……え!?」


 もちろん驚くのはハルマだけではない。

 横で聞いていたホムラとジバ公も、今までで一番の驚きを見せている。


「その反応からして間違いではなさそうですな。……では、順番にご説明いたしましょう」


「……」


 そして唯一切り出したフォリス院長本人のみが、このなかで落ち着きを保っていたのだった。




 ―院長室―

「……似ている?」


「はい、そうです」


 院長室に移動したハルマ達。

 そこで何故ハルマが転生者と分かったのか話を聞いていたのだが……。

 フォリス院長が一番最初に言った理由が『似ている』だったのだ。


「ハルマ殿、貴方はそっくりだったのです。……かつて異世界より降臨し、世界を救った『伝承の勇者 ユウキ』に」


「伝承の……勇者!」


 独特の言い回しにハルマはすぐにどこで聞いたのかを思い出す。


 それはガダルカナル大魔書館でのこと。

 ジバ公が『伝承の賢者 ガダルカナル』の説明をしている時に語っていた、かつて世界を救った勇者のことだ。

 だが、まさかその勇者が他ならぬ『転生者』だったとは……。


「ですが、ハルマ殿が転生者であると確信を持てたのはその後です。ハルマ殿はご自身のことを『六音時高校生徒会長代理』と名乗られましたね」


「はい、そうですね」


「ユウキ殿も名乗られていたのですよ、『六音時高校生徒会長』と。ハルマ殿と違って『代理』とは付いていませんでしたが」


「そ、そうなんですか……」


 ……まさか、自分と同じような名乗りをしていた人間が居たとはハルマも予想外。

 てっきり自分の専売特許だと思っていたので、衝撃の事実を知り恥ずかしさがひしひしと込み上げてくる。


「じゃあフォリス院長が泣きだしたのは……」


「お恥ずかしいことに、あまりの懐かしさについ……。申し訳ない」


「あ、いえ、それは大丈夫なんですけど……」


 段々と落ち着いて来たところで……ギロリとハルマを睨む顔が2つ。

 それはもちろんホムラとジバ公だ。

 ハルマは背後から恐ろしい気配を感じてはいたが、怖くて振り返ろうにも振り返れない。


「ハルマ? どういうことかちゃん……と! 説明してほしいのだけど?」


「今まで、お前、そんなこと微塵も言ったこともないよな?」


「……、……、……」


 ヤ バ い。

 後ろ方の視線が怖すぎる、振り返ればそれで終わりな気がしてならない。

 結果ハルマはダラダラと冷や汗を流しながら、ひたすら背中を見せ続けていた。

 そんなハルマの様子を察したのか、フォリス院長が助け舟を出す。


「まあ、そうハルマ殿を責めないであげてください。実際ハルマ殿の判断はそう間違いではないでしょう」


「……どういうことです?」


「ハルマ殿は『異世界転生者』という存在が、どれくらいまで世界に『危険分子』と見られるのか測りかねていたから黙っていたのですよ。つまりは他ならぬ貴女方の為でもあるのです。実際保守的な気質の強いゼロリア王や、天王国の王に知られればどうなっていたのか分かりませんしな。故に、少し怒るくらいにしてあげてください」


「あ、俺どうしても少しは怒られるのね!? まあしょうがないですけど!!!」


「まあ、そういうことなら……。でも! 少しはどうにかしてほしいものだわ!」


「おかしいと思ったんだよ、お前知らないことが余りにも多すぎるんだもの」


「ご、ごめん……」


 助け舟のおかげでなんとか雷を落とされるのは避けることが出来たハルマ。

 こっちに来てからずっとあったモヤモヤも消えたし、まあ結果オーライと言ったところか。


「ま、そういう訳ですので。結局は今後もあまり自分が転生者だとは名乗らない方がいいと思いますよ。まあ……ホムラ殿達ほど信頼出来る相手には話した方が良いと思いますが」


「了解です……」


 さて、そんな訳でハルマ最大の秘密が解体されたところで話は次の展開へ。

 今の話のなかでハルマの気にならないはずがない、それは即ち……。


「あの、良ければ教えてくれませんか? そのユウキについて」


「良いですよ。私が知る限り全てをお教えしましょう」


 伝承の勇者ユウキ、ハルマと同じ異世界転生者。

 彼のことを知ればハルマが元の世界に帰る為の手がかりを見つけられるかもしれない。

 そうでなくても、知っておいて損はないだろう。


「かつて……そうもうあれは100年も前の話です。この世は『魔王』の手によって戦争と混乱に満ちておりました」


「ま、魔王……」


「はい。モンスター達を統率し、世界を次々と侵略していく『魔王』です。我々は抵抗の術すら持たず、敗北は時間の問題……という状況でした」


「……」


「そんな時だったのです。ある日、ユウキ殿は突然この世界に降臨なされました。異世界より来たりし彼は想像を絶する強さを持っていました。そして次々とモンスター達を討伐、仲間たちとともに最後は『魔王』すら打ち倒したのですよ」


「お、おお……」


「それ以来、彼の名はずっと伝承され続けている訳です。『伝承の勇者 ユウキ』と」


「すげえ……」


 まさに、ユウキの英雄譚は王道異世界ファンタジーであった。

 ある日突然異世界転生し、異世界で勇者としてチート無双。

 ハルマもそんな展開を転生したての頃は想像していたものだ。

 現実は見事に正反対だったが。


「……うーん? じゃあなんでユウキはそんなに強かったのに、なんで同じ転生者のハルマはこんなに弱いんだ?」


「ジバ公よ、それは俺が一番知りたい。……まあ、予想するならあれじゃない? 転生時に与えられるバフが俺には掛けられなかった……とか」


「なるほど、お前運悪いな」


「だな……」


 なんとも悲しい話である。

 誰もがこうなるならまだ良かったのに、ハルマ限定の現象だったとは……。

 運が悪いにもほどがあるだろう。


「あの、フォリス院長。ユウキは最後どうなったんですか? 元の世界に帰ったり……とかは出来たんですか?」


「申し訳ない……そこまでは私も知識の範囲外ですな。なにせ、彼は『魔王』を討伐した後、消息を絶ってしまいましたので……」


「ああ、勇者あるある……」


 ゲームや漫画の勇者あるある、『魔王倒した後居なくなりがち』。

 出来ればユウキにはそれを再現して欲しくなかった。

 だってこれでは後々の同じように転生した後輩が困るのだ。

 ……なんとも身勝手な文句であるが。


「そっか……。ユウキが帰れたのなら、俺も可能性があると思ったんだけどなぁ……」


「……やっぱり、ハルマは元の世界に帰るのが本当の最終的な目的なの?」


「まあ、そうだね。……なにか気になることがあった?」


「え? あ、いや、そうじゃないけど……」


「?」


 何か誤魔化すホムラ。

 少し気になるハルマだったが、それよりも早くフォリス院長が再び話始めた。


「……ハルマ殿、少々危険なのですが行ってみますか?」


「? 何処にですか?」


「『旧聖地 フォルト』です」


「旧聖地フォルト……?」


 なんとなくフォリスと似た感じの名前。

 旧聖地と言うからにはフォリスの前の聖地なのだろうか?


「旧聖地フォルト、20年前に退廃した過去の聖地です。あそこにはまだ多くの資料が残されいるので、もしかしたらユウキ殿に関する詳しい資料もあるかもしれません」


「20年前に退廃……? 何かあったんですか? 伝染病とか?」


「……襲撃です。7つの大罪、【暴食】による」


「7つの大罪!!!」


 つい先日キングの森で「今後何かしら関わってくるかもしれないから気をつけろ」と言われていたが、まさか早速出てくるとは。

 捕まっていてもなお他人に迷惑を掛けるなんて、流石は大罪と言ったところか。


「【暴食】によってフォルトは壊滅。なんとか私を含む数名は命からがら逃げられましたが、今度は退廃したフォルトにモンスター達が住み着き入れなくなりましたな」


「なるほど……」


 確かに危険ではある。

 だが、ハルマにとってこれほど有益な情報は他にない。

 なんとしてもここでユウキの情報は欲しい……のだが。

 ハルマ一人ではもちろん入ることなど出来はしない。


「……その、今回はホムラにはまったく関係ないことになるんだけどさ」


「良いわよ、一人で行けなんて言う訳ないでしょ? ちゃんと私も付いていってあげるから」


「――!」


「……まあ、僕はホムラちゃんの行く所にいくだけだし?」


「ははは……」


 びっくりするくらいすんなりと受け入れてくれた2人。

 なら、もう悩むことはない。

 これから目指す場所はただ一つ。


「良し! なら目指すは旧聖地フォルトだ! ユウキの情報、絶対に手に入れるぞー!」


「おー!」




【後書き雑談トピックス】

 フォリス院長は御年110歳。

 だけど元気過ぎて70歳くらいに見える。

 セニカの件といい、異世界は年齢がちゃんと作用しない。



 次回 第26話「退廃せし旧聖地」

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