第26話 退廃せし旧聖地

 さて、そんな訳で旧聖地フォルトに向かうことにした3人。

 昨日は聖地で一晩泊めてもらい、現在は確実に発生するだろう戦闘にそなえ、念入りに準備をしているところだ。


「まあ、準備したところでハルマが役に立つとは僕には思えないけどね」


「弱くてすみませんね! ……ってか、それはお前もだろうが」


「ん……。……お前よりは強いわ」


「そうじゃねえよ! 微妙に論点をズラすな!!!」


 相変わらずそりが合わない2人。

 準備を整えながらワーワーと口論していると、いつの間にかハルマの後ろに人が。


「よろしいですかな?」


「どぅわ! なんだ、フォリスさんか……。なんですか?」


 後ろに立っていたのはフォリス院長。

 彼はなにやら不思議な色をした水の入っている瓶を持っていた。


「よろしければこれを。少しは役に立つでしょう」


「……なんですか、これ? ジュース?」


「いえ、それは癒し水というものです。ただ普通の癒し水とは違って『祝福』をかけてありますが」


「祝福……?」


 RPGではよく聞くワードだが……実際に言われてもイマイチピンとこない。

 なにかメリットが付いたのは分かるのだが。

 そんな首を傾げるハルマにホムラがサポートを入れる。


「えっとね、それは『加護』っていうものなのよ」


「かご」


「そう、『加護』。……ほら、フォリス院長のお名前は『ブリカエル・セシル・フォリス』でしょう?」


「……それが何か関係あるの?」


「天恵苗字。この世界では名前は授かるものなんだよ、産まれたときに教会でね。その時に受け継がれていく『家名』とは違う苗字が一緒についてくることがある、それが天恵苗字さ。んで、天恵苗字を持って生まれた人は特別な能力を行使出来る『加護』っていうものを持ってんの」


「へえ……」


「これも……ユウキ殿が世界に齎したものです。ユウキ殿が世界に現れる前は『加護』なんてものは存在しませんでしたからな。要するに彼が召喚された事で世界に変革が起きたのです。まあ、天恵苗字はまだ世界に5つしかないのですが」


「そんなに少ないのか」


 天恵苗字とはまた不思議なものだ。

 元の世界にはまずありえない概念である。


「で、フォリス院長は天恵苗字を持っているから、もちろん加護を持っている。それが『祝福』よ」


「なるほどね。……ちなみに具体的にはどういう効果が?」


「簡単なことですよ、そのものが持つ良き力を増幅させることが出来るのです。癒し水の場合は単純に回復量の増加ですな」


「分かりました。じゃあ、ありがたくいただいておきます」


「ええ。……では、どうかお気を付けて。無理だけはなさらぬように」


「……特にハルマはね」


「はい……」


 ハルマに釘を刺しつつ、一向は旧聖地へと向かって行った。




 ―旧聖地フォルト―

 フォルトはそうフォリスから離れた場所にある訳ではない。

 だいたい徒歩30分程度、そのくらいに時間で着く距離だ。


「……わお」


 そして、そこにあったのはフォリスにも劣らない荘厳で巨大な建物だった。

 ただしフォリスにあった美しさは微塵もなく、代わりにおどろおどろしさが嫌という程に漂っている。

 まさに『退廃』という言葉がピッタリだった。


「分かりやすいダンジョンだな……。これ子供とかが肝試しに来てマジで遭遇しちゃうパターンのヤツですよ」


「キモダメシ?」


「知らない? えっとね、簡単に言うと度胸を試すイベントさ。敢えて怖い所に行って、どれくらいビビらないかを競う……みたいな」


「へえ……面白そうね」


「ホムラちゃんはそういうの好きなのか……」


「ジバ公は苦手か?」


「……まああんまり好きくない」


「好きくないって……」


 ちょっとした雑談をしながら、退廃した建物の中へ。

 巨大はドアはギィーっと音をたてながらゆっくりと開く。

 そして見えた内装は……これまた酷いありさまだった。

 至る所がボロボロで、かつてのあったであろう美しさはもう見る影も無い。


「この奥にユウキの情報があるのか……、これはまた大変そうだな」


「慎重に行きましょう。なにが起きるかは話かは分からないわ。無いとは思うけど【暴食】が何かを仕込んでいるかもしれないし……」


「……」


 7つの大罪、【暴食】の罪。

 かつて自由にしていた頃は『聖地』や『教会』など、神に関わる場所を積極的に破壊していったとの話だった。

 ハルマ達は実際に7つの大罪を見たことはないが、大罪達は魔術の存在するこの世界から見ても不可思議な技を使ったという。

 なら、ホムラの懸念したように何か仕掛けられているかもしれない。

 ようするに普段以上に警戒する必要があるということだ。


「……それにしても、神さまに関わる所ばっかり襲っていくとか、随分と罰当たりなもんだね。僕にはまるで理解出来ないよ」


「まあなんかあるんだろ。俺の世界のラノベ……つまりは作り話だと、神を恨んでいるキャラとか結構いたし」


「それは作り話だろ?」


「俺にとってはこの世界自体が作り話なんだけどな……」


 実際何度もRPGあるあるをこの世界で見てきたのだ。

 なら、人物の過去にあるある展開が出てきても、まあ不思議ではないだろう。


「……てか、特にモンスターが出て来たりはしないな」


「そうね、びっくりするくらい静かだわ」


「……あんまりいい予感はしないね」


 異様なまで静かな旧聖地。

 しかし素直に「モンスター出てこなくて良かったー」と喜ぶことは出来なかった。

 それこそRPGあるあるに則って考えると、モンスターが突然出なくなるのは……。


「奥にメチャクチャ強い奴が居るってパターンか……」


 あとに強敵が控えているパターンが多い。

 ゲーム的な意味で言えば少しでも強敵と戦いやすくするための救済措置なのだが、リアルな意味ではそうではないだろう。

 リアルの場合は控えている奴が全て追い払っている……と考えるのが妥当か。


「まあモンスターが住み着いているとは聞いていたけど、この感じだと敵対的なのは確実か……。最悪話も出来ない奴のパターンも考えれるな」


「それは厄介ね……。まあ、戦う準備はしてきているけど……」


「出来る事なら避けたいところだよね」


 どれ程の強敵が控えているのかと冷や汗を流しながら、3人はひたすら静かな旧聖地を進んでいく。

 その間もボロボロに廃れた光景が延々と続いていたが、やはりモンスターが出てくる様子はなかった。

 ……そして、そのまま3人は一番最後の部屋まで到着する。


「ユウキについて記した本があるのはここね」


「……俺さ、今すげえ嫌な予感がするんだけど」


「僕も……これさ、絶対居るよね」


「そうね……」


 分厚いドア越しにも感じる恐ろしい気配。

 しかし、ここで恐ろしさから引き返す訳にもいかない。

 ……少し怯えながらも、3人はゆっくりと最後のドアを開く。

 すると、そこにはやはり――


「デ、デテイケ……! ココカラデテイケエエェェエエエェェエェエエ!!!!!」


「――ッ!」


 満遍なく悍ましい気配を解き放つ一体の亡霊が立っていた。




【後書き雑談トピックス】

 この世界に存在する加護は5つ。

 『祝福』『太陽』『星座』『剣聖』『神風』だ。

 もちろんこれから増えていく可能性もある。


 

 次回 第27話「聖地に宿る怨念」

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