第27話 聖地に宿る怨念
「デ、デテイケ……! ココカラデテイケエエェェエエエェェエェエエ!!!!!」
「――ッ!」
開いた最後の扉の奥に居たのは一体の亡霊。
今まで見てきたどんなモンスターよりも悍ましく、恐ろしい気配を放つ怪物だった。
ハルマ達はそれだけで目の前の相手が強敵だと瞬時に悟る。
「ハルマ、下がってて! ジバちゃんはハルマをお願い!」
「任せて!」
「え!? ジバ公が俺を守るの!? 逆じゃなくて!?」
「ほら! 余計なこと言ってないで下がる!!!」
悲しいことに戦力面では1ミリも信頼されていないハルマ。
結果、抗議する間もなくジバ公に連れられ物陰に隠れることになった。
まあ弱いし正しい判断ではあるのだが。
「アアアアアァァアアアァァァアアァァ!!!!!」
「……完全に理性はない感じかしら? 出来ればあまり戦いたくはないんだけど」
「デテイケェェェエエエェエエ!!!
「くっ――!!!」
立ち塞がる亡霊にはどうやら知性や理性はないようだ。
ホムラの言葉に何かを返すこともなく、ただひたすら「出ていけ」と連呼するのみ。
さらにはホムラが攻撃をする前から向こうは攻撃を放ってきた。
しかもそれは牽制の弱い攻撃ではなく、殺意モリモリの上級魔法。
つまり問答無用で敵対してくるということである。
「交渉は無理みたいね。なら少し悪い気もするけど、貴方に出て行ってもらうから!!!
亡霊の炎を躱しながら、
詠唱と共に放たれたのは雷の魔術。
バチバチと激しい音を鳴らしながら、流れるように空気を滑り亡霊を焼き尽くす。
「アアアアアァァアアアァァァアアァァアアアア!?!?!?!!?」
「
雷に打たれ動けない亡霊に炎の追い撃ち。
逃げる暇など一切与えない魔術の連撃が亡霊を襲う。
「
トドメは水の魔術。
弾丸のように勢いよく発射された水が亡霊を思い切り吹き飛ばす。
そして亡霊は雷と炎を纏いながら凄まじい勢いで壁に叩きつけられたのだった。
「す、すげえ……」
さて、戦いの様子を後ろから見守っていたハルマとジバ公は、ただその戦いっぷりに驚くことしか出来なかった。
まさに別次元の戦い、脆弱な2人は到底届かない領域である。
「まさに……『賢者』の素質を持つホムラちゃんだからこと出来る戦い方だよ。上級魔術でこそなかったけど、あれ程洗練された魔術をバラバラの属性で放つなんて普通出来ないからね」
「そうなのか」
「そうなんだよ」
『賢者』の素質、本人から何度かは聞いている体質だ。
本来は『数』か『質』のどちらかしか選べない魔術、しかしその両方の良いとこどりが出来るのが『賢者』の素質だ。
治療をしにくく、されにくいという弱点はあるが……それでもどれ程強力な力なのかは今のでハッキリと理解出来る。
しかも、今の戦いでもまだ本領は全然発揮出来ていないと言うのだから……異世界とはやはり末恐ろしいものだ。
「……で? あれは勝ったって判断していいのかな? だとしたらかなり呆気ないけど」
「……いや、まだだ。ハルマまだ前線に出るな」
「え?」
ジバ公の声に再び緊張が乗る。
その様子に「一体何故?」とハルマが質問する……その前に、答えが動いた。
「ガアアアアアアァァァアアアァァァァアアアァアアア!!!!!」
「――!!!」
雄叫びと共に爆散する瓦礫の山。
それは先ほど亡霊が壁に叩きつけられたことで生まれた山だ。
莫大な魔力を解き放ち、瓦礫はまるで弓から放たれた矢のように殺意の塊となって飛来する。
「
咄嗟に風の魔術で壁を作るホムラ。
そのお陰でなんとか瓦礫の矢はやり過ごせた、が……。
「あれだけくらってもピンピンしてるのかよ……」
亡霊に見せつけられた恐ろしさはしっかりとハルマ達に刻み付けられた。
「……なに、問題はないわ。何度でも同じように攻撃していくだけよ!」
少したじろきはしたものの、ホムラは微塵も戦意を失ったりはしていない。
亡霊もそれを感じ取ったのか、さらに新たな行動に出始めた。
「キタレ、キタレェェェェエエェェェェェエエエェェエエ!!!」
「!?」
響き渡る「来たれ」という言葉。
しばしその声が反響を繰り返すだけだったが、数秒後その意味はすぐにハルマ達にも理解出来た。
突然、ボコッと床に膨らみが出来たのだ。
「何!?」
亡霊の周りに大量に現れた膨らみ。
それは少しづつ大きくなっていき、次の瞬間破裂し中身が飛び出してくる。
「アアア……グ……オアアアア……!!!」
「これは……増援!!!」
飛び出してきたのは大量のスケルトンやアンデット達。
つまり、亡霊の増援だった。
「おいおい、ちょっとマズいんじゃないか……?」
後方から戦況を見守る2人にも、現状のマズさは理解出来る。
優勢に見えた戦況は一瞬で逆転、一気に追い込まれてしまった。
「マズいのくらい僕にだって分かるよ! でも、無策で飛び出して行ったりしたら余計に邪魔になる……!」
「くそ、そうなんだよな。俺達は……」
改めて自分の弱さを憎みつつも、冷静に……なんとか有効な策を編み出そうと熟考するハルマ。
どうにかしてホムラを助ける方法を探し出す。
――まず、あの手の増援は多分全滅させても無駄だ。あれはボスが倒れるまで無限に湧き続ける系の取りまきだろうからな……。
数々のRPGをプレイしてきた経験から、ザコの全滅は無意味と判断。
なら倒すべきはボスなのだが……それが簡単に出来ないから厄介なのだ。
――見る限りホムラの魔術は基本単体攻撃、だからザコが邪魔で攻撃が届かない。でもそれだけどザコは無限に湧き続ける……。くそ、これじゃあ完全に悪循環じゃないか!!!
倒すべき相手が倒せない。
ボスを倒すにはまずザコを倒さないといけないのだが、そのザコがボスを倒さないと倒せないのだ。
だが……だからといって相手も無敵ではない。
――無限に湧き続けるって言っても、一瞬で補充される訳じゃない、実際さっきも出てくるまでちょっと時間はあったし……。なら、まずはどうにかして今居るザコを一瞬で全滅させればいい。その隙にボスに攻撃……倒せるは分からないけど。
後のことを今心配しても仕方がない。
まずは目先の問題だ。
どうにか、ザコを纏めて一瞬で全滅させなくては。
――……ホムラの魔術じゃあの数は無理。だからといって俺やジバ公にそんな火力はない。……なんか弱点とかないか? アイツらを一瞬で消し去れるような……アイツらの弱点……。
眼前に居る敵は亡霊、アンデット、スケルトン。
どれも死霊系のモンスター。
それらに共通する弱点と言えば……?
――! あるじゃないか! ぴったりの弱点が!!! なら、後は……。
「なあ、ジバ公」
「何?」
「お前に一つ聞きたいことがあるんだけど」
「?」
「
「グオアアアアアアア!!!!」
「くっ――! キリがないわね!!!」
倒しても倒しても現れるモンスターの群れ。
そろそろホムラの体力にも限界が近づいてきていた。
なんとか早いうちに打開策を見つけないと……ジリ貧で負けてしまう。
「カカレェェェエエエェェエェエエ……カカレェェェエエエェェエェエエ!!!」
再び、新たな増援が呼ばれる――その時。
「行くぞ!!!」
「おう!」
「!? ハルマ、ジバちゃん!?」
後方から勢いのある声が響き渡る。
そして、そのまま2人はホムラの隣まで駆け付けてきた。
「2人とも……何する気!?」
「大丈夫、そんな無茶ではないから!」
「!?」
「行くぜ、ジバ公!!! ……燃えろ闘魂、唸れ魔球!!!!!」
「よっしゃあーーー!!!!!!」
「えええ!?」
ホムラが困惑からおかしな声を出してしまうのも無理はない。
なんと、ハルマはその脆弱な筋力の全てを振り絞って思い切り投げつけたのだ。
ジバ公を……天井に。
「何してるの!?」
「まあ見ててって! 頼むぜ、ジバ公!!!」
「任せろ!!!」
あまりの予想外の事態にホムラはおろか、亡霊たちでさえジバ公に目が奪われる。
さて、勢いよく投げつけられたジバ公はその勢いのまま天井に到着。
そして――
「くらえ! スライムスーパータックル!!!」
思い切り天井にアタック。
結果、もとからボロボロだった天井には小さな穴が。
そしてそこからハルマのお望みのものが流れ込んできた、それは……。
「日光!!!」
「そういうことだ! アンデットの弱点は日光ってのは誰もが知ってる常識だからな!!!」
もちろんアンデット達は流れ込んできた日光を回避。
しかし、もちろんこれで終わりではない。
ここからはハルマの出番だ。
「もちろんこれで終わりじゃねえぞ、亡霊ども! くらえ出来立てホヤホヤの新必殺!!!」
「!?」
「エクス……カリバー!!!」
「ガアアアアアアアアアアア!?!?!?!?!?!」
剣を逆手に構え腰を低く捻ったハルマ。
その手に握られた剣から放たれたのは……ただの日光だ。
つまり、穴から入り込んだ日光をただ剣で反射させただけ。
だが、それでも亡霊たちには致命傷になる。
「……まさか、船で編み出したあの技が役に立つとはね。僕も流石にびっくりだよ」
屋根の上から驚くジバ公。
そう、これは船旅の途中でハルマが作り出した、日光を反射させて目を眩ませるだけのヘッポコ必殺技。
しかし、これは亡霊たちには狙ったかのように非常に有効な技だった。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!?!」
燃えるように消えていくアンデット達。
流石にボスの亡霊は苦しみはしても消えはしない……が。
ボスのトドメはハルマの役割ではない。
「今だ! デカいの一発頼む、ホムラ!!!」
「ええ!
「――!!!!!!」
解き放たれた上級の火炎魔術。
凄まじい火炎は亡霊を包み込み、燃やし尽くす。
それはさながら火葬のようにも見えた。
「アアアアアァァアアアァァァアアァァ!?!?!?!?! アアアアアアァァァアアアァァァァアアアァアアア!!!!!!」
炎のなかから響く絶叫。
しかし、亡霊は抵抗することも出来ず、灰になって――
「ガアアアアアアァァァアアアァァァァアアアァアアア!!!!!!!」
「!?」
いかなった。
亡霊の朽ちた身が更にボロボロになったというのに、なおも亡霊は炎を吹き飛ばし立ち塞がるのである!
「ま、マジかよ……。いくら死んでるじゃらってタフ過ぎるだろ……」
「デテイケェェェエエエェエエ! デテイケェェェェエエエェェエェエエ!!!」
それはまさに怨念。
悍ましい気配は一切衰えることを知らず、朽ちかけた亡霊は倒れることを忘れていた。
【後書き雑談トピックス】
ハルマのアンデット系=日光に弱い認識は、多分某マインなクラフトの影響。
次回 第28話「遥かの信仰」
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