第28話 遥かの信仰
「デテイケェェェエエエェエエ! デテイケェェェェエエエェェエェエエ!!!」
「――ッ!!!」
弱点であるはずの日光と、上級火炎魔術を思い切りくらったはずなのに、亡霊は未だ倒れることはなかった。
いくら死した存在だからといっても異様なまでのしぶとさだ。
それはまさに怨念としか言いようがないだろう。
「デテイケェェェエエエェエエ! デテイケェェェェエエエェェエェエエ!!!」
「それしか言えないのかお前は! 勝手に住み着いただけのくせに……!」
「アアアアアアァァァアアアァァァァアアアァアアア!!!!!」
だが、もう眼前の亡霊はただ立っているだけといった様子。
もうこちらに攻撃をするだけの力は残っていないだろう。
しかし、それでも亡霊は一切退く気はないようだった。
「悪いけど、俺達は奥の部屋に用事があるんだ。退かないなら瀕死のお前でも容赦はしないぞ」
「デテイケェェェエエエェエエ!!!!!!」
「退かないか。なら、仕方がない! ……エクスカリバー!!!!!」
「グ、アアアァァァアアアァァァァアアアァアアア!!!!!」
2度目の閃光。
亡霊はそれでもなお消えることはないが、ハルマももうそれは分かっている。
「ゴアアアァァアアアァ……、グオオアアァアアアァア……」
「今だ!」
「ハルマ!?」
悶える亡霊に突撃するハルマ。
閃光を受けて怯んでいる隙に直接斬りかかろうと思ったのだ。
いくら弱くてもあれだけ瀕死の亡霊になら攻撃も当たると思った、のだが……。
「グ、ガアァァアアアアァア……!!!」
「あれ!?」
「ちょっと!?」
案外ヒョイっと身軽に躱されてしまう。
結果、思い切り斬りかかったハルマはバランスを崩し壁に突撃。
結構な衝撃が旧聖地全体に走る。
「痛ってぇ……! くそ、これだけ弱ってれば当てられると思ったんだけどな……」
「馬鹿! 早くこっちに戻れ!!!」
「分かって――え?」
ジバ公に返事をしている途中、嫌な音が響く。
それは『ミシミシ』といった何かが崩れる前になりそうな音であり――
「やばっ――!」
事実、それは天井が崩れる音であった。
元々ボロの建物の屋根に穴をあけ、加えて思い切り壁に体当たりしてしまったのだ。
ならもう限界が来てもおかしくはないだろう。
結果として、まるで狙ったかのように屋根は崩れハルマを押しつぶそうと降りかかってきた!!!
「ハルマ!!!!!」
慌ててホムラが駆け出すが……もう遅い。
無情にも崩れ落ちた屋根は容赦なく、ハルマを押しつぶした。
「そ、そんな……」
激しい砂埃が辺りを包む。
そのせいで前がよく見えないが、ハルマの上に屋根が降ってくるところはホムラにもよく見えてしまった。
「嘘……でしょう?」
ガクっと膝から崩れ落ちるホムラ。
悲しみがその場に漂い始めた――と思ったのだが。
「……、――! ホムラちゃん! 見て!!!」
「?」
段々と晴れていく砂埃。
それと同時に視界も澄み渡っていき、その先には――
「なッ!? え、どうして!?」
「……お、お前」
「グオオアアァアアアァア……」
屋根からハルマを庇う亡霊の姿があった。
「……? ……!?」
あまりにも想定外の事態に言葉を失うハルマ。
まさか直前まで敵対していた亡霊に命を救われるなど思ってもいなかったので、ハルマは混乱と動揺を隠しきれなかった。
おまけに亡霊は身を挺してまでハルマを庇ったのだから、尚更理解が出来ない。
「お前、何で……?」
「グオオアアァアアアァア……」
「?」
しばらく混乱末に呆けていたハルマ。
しかし、よく見ると亡霊が目にしていたのは、自分でないことに気付いた。
亡霊が目にし、身を挺してまで庇ったのは、ハルマの後ろにあった……。
「女神像……か?」
「グウウウゥウウゥウウ……」
女神像だ。
亡霊はハルマではなく、ハルマの後ろにあった女神像を庇ったのだ。
「……お前……もしかして……」
「オオオアアアァァアアアァ……」
「この聖地の人間か……?」
「ガ、アアア……」
「ハルマ、大丈夫!?」
「うん、俺は平気。でも……」
「……コイツはもう流石に限界だろうな」
残酷だが、ジバ公の読みは正しかった。
亡霊のゾンビのような身体はもう殆どが崩れている。
元々ハルマ達の攻撃で瀕死だったところに、屋根を身を挺して庇ったのがトドメになったのだろう。
だが……。
「デ、デテイ、ケ……」
「……」
「ココ、カラ……、デテ……イケ……」
亡霊はまだ立ち上がろうとしていた。
崩れる身体を無理矢理支え、未だにここを守ろうとしている。
もうホムラ達も戦いたくはないのだが、ここから先に進もうとすれば亡霊は無理に戦うだろう。
一体どうするべきか悩むホムラとジバ公。
だが、ハルマ迷うことなく亡霊の前に立ち、何かを差し出した。
「……これに、覚えはないですか?」
「ア、アアア……?」
「ハルマ……それはフォリス院長に貰った……」
ハルマが亡霊に差し出したのは、フォリス院長に貰った癒し水。
ただし普通の癒し水ではなく、特製の『祝福』が掛けられた特別な癒し水だが。
しばし、亡霊はジッとそれを見つめていたが、突然何かを思い出したかのように目を見開く。
「オ、オオオオオォォォォォォオオオオォォオォォオオオオ!!!!! ソレハ、それは!!!!!」
「――!」
明らかに理性が戻った亡霊の言葉。
それは先ほどまでの狂気に満ちたものではなく、しっかりとした意思があった。
「フォリス……院長の!!! そ、それを……! どこで……!? 誰に……!?」
「ここから少し行ったところにある『聖地 フォリス』で、フォリス院長に」
「なッ――!!! フォリス院長は……今もなお存命なされているのか……!? 聖地は……未だ……潰えては……いないのか!?」
「はい。ちゃんと、今の時代にも聖地は存在していますよ」
「――!!!!!」
その言葉を聞いた瞬間、亡霊は先ほどのホムラのように膝から崩れ落ち……涙を流していた。
それは、悲しみの涙ではない。
亡霊は今『歓喜の涙』を流しているのだ。
「ああ、ああああ……! そうか、そうか……! 今も……聖地は……この世界に……残って……! ああ、ああああああ……!」
「……貴方は、このフォリスの人……ですよね」
「そう……です。私は……ここで……この……聖地を……。――! そうだ……【暴食】は……!? 【暴食】は……どうなったのです……!?」
「【暴食】はもう捕縛されていますから、安心して大丈夫ですよ。聖地フォリスはこの20年間、何事もなく存在し続けています」
優しく語りかけるホムラ。
その言葉に心底安心したのか、亡霊から完全に緊張の雰囲気が消えたような気がした。
「そうか……そうですか……。なら……もう……安心……して……。そうだ……旅の方……」
「?」
「その……癒し水を……私に……振りかけてくださらないか……? そうすれば……私は……成仏……出来る……」
「分かりました、良いですよ」
座り込む亡霊を前に、ハルマは癒し水の栓を抜く。
そしてその水を振りかけると……亡霊は眩い光に包まれながら、少しずつ身体が消えていった。
「おお……」
「ああ、これで……これで……やっと……帰れる……」
「……」
「そうだ、旅の方……最後に……貴方の……名前を……」
消えゆく亡霊は最後の言葉をハルマに。
もちろんハルマがそれを拒否するはずもなく、空を指さしいつものポーズを取ると、お決まりの名乗りをしたのだった。
「俺は六音時高校生徒会長代理、天宮晴馬!」
「……アメミヤ……殿……。感謝……致す……」
感謝の言葉を残し、亡霊は完全に消え去った。
20年以上聖地を守り続けてきた彼に、ようやく安らぎが齎されたのだった。
「……どういたしまして、かな? それと俺もありがとう、ずっとここを守ってくれて」
「……何様だよ、ハルマのくせに」
「うるさいな!」
憎まれ口を叩きながらも、ジバ公の顔にも笑顔が。
しばらく3人は、空へと帰っていった輝きをその場で見守っていたのだった。
―奥の部屋―
と、いう訳でついに念願の部屋に到着した3人。
亡霊がずっと守ってくれていたおかげで、この部屋は他と比べてびっくりすくらいに綺麗な部屋だった。
が……。
「まあ、それはそれ、これはこれだよなぁ……」
確かに、他の部屋と比べれば驚くほどに綺麗なのだが……。
それでも20年間全く手入れされていない部屋が何ともないはずがない。
要するに結局寂れていることにはそれほど変わりないのだった。
「本も……殆どボロボロで読めないわね……」
「ここまで来て収穫無し!?」
「……いや、これならギリ読めるんじゃない?」
ジバ公が持ってきたのは、確かにこの部屋の中でも一番綺麗な本だった。
これなら慎重に読めば読めるかもしれない。
「良し、それじゃあ読んでみるか!」
「うん……!」
「ドキドキするね……」
ワクワクとドキドキを交えながら、ゆっくりと本を開くハルマ。
すると、そこには――!
「な、なッ――!!!」
「ど、どうしたのハルマ!?」
「何だ、何かヤバいこと書いてあったのか!?」
「……大変だ、2人とも」
「……」
「俺、俺……!」
「……!」
「これ、読めないや」
「……、……はあ!?」
「いや、だから俺は異世界文字読めないんだって」
「変に緊張させるな!!!」
……とりあえず、1冊の収穫はあった。
ハルマにはそれを解読することは出来なかったが……。
【後書き雑談トピックス】
建造物等損壊罪とは、他人の建造物または艦船を損壊する罪である。刑法260条で定められている。
他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処する。
ジバ「……え?」
ハル「……いや、あれは……是非もなかったし……」
ジバ「天井壊すしか……方法なかったし……」
ハル「ねえ……?」
ホム「……」
次回 第29話「伝承勇者の英雄譚」
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