第29話 伝承勇者の英雄譚
……さて、結果1冊の本を入手することに成功したハルマ達。
しかしボロボロの(誰かのせいでいつ倒壊するか分からない)聖堂の中で読む必要もないだろうと3人は判断。
という訳で3人は本を持ってフォリスにまで帰って来ていた。
「おお! 無事に本は見つかりましたか!」
「はい、なんとか。読めそうなのは1冊しかありませんでしたけど」
「そうですか……。……ん? では、もしやあの聖堂に住み着いていたモンスターは……?」
「――! ……安らかに、成仏していきましたよ。な、ホムラ」
「うん、確かに安らかだったわ」
「……安らか? ま、まあいいでしょう。まずは皆さまがご無事でなによりです」
亡霊の正体を知らないフォリス院長は困惑した様子。
少し悩んだ末、そのことに関して3人はまた後でしっかりと話すことにした。
そう軽く話せる内容ではないし、今大事なのは目の前の本の解読だからだ。
「さて……じゃあ、その、ホムラ読んでくれる?」
「いいけど……。まったく、今度ハルマには読み書き教えないとね……」
「面目ない……」
「……ってかさ、じゃあお前ガダルカナル大魔書館では何してたの? 僕らと離れて一人で行動してたけど」
「特に何もしてないよ、ずっと読めないなー。って思ってただけ」
「アホかお前!?」
ジバ公の痛烈なツッコミが刺さるが……事実その通り。
あの時は悲しいことに、ハルマは自分が字が読めないことを考慮出来ていなかった。
「じゃあお前あそこでずっと時間無駄に使ってたのかよ……」
「まあ、完全に無駄だったって訳でもないんだけど」
「? 何かあったのか?」
「うん、実はさ。たくさん並んでる本の中に、一冊俺の世界の文字が書かれたノートがあったんだ」
「ほ、ホントかそれ!?」
「ホントだよ。字の感じからして練習しているみたいだったから、多分ユウキに字を教わった人の練習跡じゃないかな」
「へえ……、それで? そのノート今持ってるの?」
「いや、流石に無断で持ち出したりはしないよ」
まあ、ユウキという転生者が居ると明確に分かった今となっては、そんなにそのノートも大した情報ではないのだが……。
さて、そんなふうに雑談しているうちに、ホムラが本の内容を粗方読み終わったようだ。
掛かった時間なんと僅か10分弱、持って帰ってきた本はそれなりの分厚さはあるのだが……。
「よし、大体全部読めた」
「速いな!?」
「そんなにたくさん書かれている訳じゃないからね。まあ私、結構本読むの速い自信はあるけど」
「いや、今メチャクチャ速かったよ……。それで、その本には何が書いてあった?」
「書いてあったのはユウキの英雄譚、つまり彼らの旅の一かけらってことね。ちょうど、聖地フォルトに訪れた時の話だったわよ」
そう前置きをしてから、ホムラは記されていた英雄譚を語り始めた。
―100年前―
「着いたよ、ここが目的の『聖地 フォルト』だ。ここでなら君の魔術適性も分かるだろう」
「そうか、ここが噂の……」
聖地フォルトに訪れたのは2人の若い男女。
その内の若い男性こそが、後に『伝承の勇者』となる『最強』の転生者。
ユウキこと
「カナ、俺の魔術適性は何だろうな!? 燃える情熱の炎? それとも冷静沈着な水? はたまた大自然の息吹を奏でる草? くぅー! ワクワクが止まらない!!!」
「気持ちは分らないでもないけど、落ち着きなよ。それに適性はそれだけではないよ。他の雷、風、光、影の可能性や、多重適性の可能性に、私のような例外の可能性もある」
「そうか! カナみたいに『賢者』かもしれないのか!!!」
「その確率は……かなり低いと思うけどな」
そして、もう一人の『カナ』と呼ばれる女性。
彼女こそが後に『伝承の賢者』となる、ガダルカナルその人だ。
「ま、とりあえずここでワクテカしてても仕方がないな。よし、入ろう!」
「そうしようか」
ユウキは元気よく、足取り軽く。
カナは冷静に落ち着いた様子で、フォルトの大聖堂の中に入っていった。
―大聖堂―
「ようこそ、聖地フォルトへ。お祈りですか? そのとも適性検査ですか?」
「適性検査です! あ、受けるのは俺です」
「そうですか、では左の通路をお進みください」
「了解です!」
受付のシスターに素直に従い、ユウキとカナは左の通路をずんずんと進んでいく。
そして行き当たりにあった部屋の中に入ると……そこには巨大な水晶が待ち構えていた。
「デカ!? 何だこれ!?」
「これが魔力水晶だよ。これに触れた時の色の変化で魔術適性が判明するのさ」
「そうか、これが……。こんなに大きいものなのか」
見上げる程のサイズの水晶に、思わずユウキは腰を抜かしかける。
おまけにこれが、今は白色なのに触れると色が変わるというのだから驚きだ。
しばらく巨大水晶を驚きながら眺めるユウキ。
すると、そんなユウキに後ろから誰かが声を掛けた。
「なんだ? お前はこれ初めてなのか?」
「ん?」
「お前もう大きいのに、これやったことないなんて変わってるなー」
後ろに居たのは少年だ。
見た感じ、歳はまだ10歳になったばかりくらいだろうか。
「ユウキはいろいろと特別な事情があるのさ、それで突然現れた君は?」
「俺か? 俺はブリカエル・セシル・フォルト! この聖地フォルトの次期院長だ!」
「次期院長!?」
「そうだぞ! 俺凄いんだぞー!」
目の前の少年の意外な事実にこれまた驚くユウキ。
しかし、カナは特には何も思わなかったようで、普通に聞き流していた。
「それで? お前らは誰だ?」
「私はガダルカナル、長ったらしいからカナと呼んでくれたまえ」
「カナ、か。分かった! で、お前は?」
「ふっふっふ、聞いて驚くなよ? 俺は六音時高校生徒会長、トウガネ・ユウキ!」
「ろくおんじ……? なんだそれ?」
「うん、分かんないだろうから気にしなくていいよ」
「何だそれ!? じゃあなんで言ったんだよ!!!」
7、8年近く年下のブリカエルに的確なツッコミを入れられるユウキ。
そんな様子をカナは若干呆れながら見つつ、そろそろ本題に入っていく。
「ユウキ、目的を忘れていないかい? ここへは何をしに来たんだっけ?」
「……えっと、あ、そうだ、魔術適性! ……でもさ、今更だけどこの水晶って異世界転生者にもちゃんと反応するのかな?」
「……さあ、流石にそれは分からない。とりあえず触ってみればどうだい? 流石に異世界転生者だからといって爆発とかはしないだろうし。どうなるかは実際に触って確かめるのが一番だよ」
「それもそうだな」
そんな訳でドキドキしながら水晶タッチ。
すると、水晶の色が目まぐるしく変化し、そして……!
「……な、なあ! な、なんかヤバくないか!? これどんどん熱くなってる気ががするんだけど! なんか色もすげえ赤くなっていってるし!!!」
「おかしいな……。まさか、本当に爆発する……?」
「とりあえず水晶を離せよー!!!」
再びブリカエルの的確なツッコミ。
しかし、もう間に合わない。
水晶はどんどんと熱く、赤くなり――!!!
ドカーーーーーーーン!!!!!!!!
と、物凄い爆音と共に大爆発した!?
「「「ギャーーーーーーーーーー!?!?!?」」」
もちろん近くに居た3人はまとめて綺麗に吹っ飛ばされる。
空中でユウキが2人を咄嗟に抱え着地したことで、怪我はしないんで済んだが……。
目に見えて被害は甚大だった。
「ど、どうする!? これは……かなりヤバいんじゃないか!?」
「かなりなんてレベルじゃないよ! まさか本当に爆発するなんて、どれだけ君は『最強』なんだい!? どういうオドならそんなことになるんだ!?」
「こっちが聞きたいわ!!!」
「……ま、待て! なあ、おい、なんか居るぞ!?」
「え!?」
未だに小脇に抱えられたまま口論するカナとユウキ。
しかし、もう片方の小脇に抱えられたブリカエルが震えながら叫ぶので、2人は口論を止めて爆発した部屋を見る。
すると、そこには……。
「ムーーーーーーーーーーキューーーーーーーーーーー……」
「なッ!? え!? はあ!?」
「ムーーーーーーーーキューーーーーーーーーー!!!!!」
「はああああああああああああ!?!?!?!?」
何故かメチャクチャデカいスライムが居た。
「なんで!? どっから湧いて出てきた!?」
「そうか! 今の魔力爆発で発生したんだ!!! だからアレは正確に言うちスライムではなく、マナとオドが固まって生まれた『魔力生物』だよ!!!」
「魔力生物!?」
やけに冷静に考察するカナ。
がしかし、ユウキの方は冷静になんてなれなかった。
流石に『最強』であっても、これだけ意味不明な事態が続けば困惑もするというもの。
しかも……。
「ムーーーーーーーー……」
「え?」
「ムーーーーーーーーーキューーーーーーーーーー……」
「な、なんかコイツこっち来ようとしてない!?」
何故か巨大スライム(擬き)は部屋を破壊してこちらに来ようとしていた!?
メキメキと嫌な音を立て始める壁。
このままだと……破壊される!!!
「ヤバい! これ以上物を壊されると俺達が大変なことになる!!!」
「止めるよ、ユウキ!!!」
「ああ! ブリカエル君はどこかに隠れてるんだ!」
「お、おう……!」
2人を降ろし、剣……というよりは刀に近い武器を構えるユウキ。
これ以上弁償代を増やさないために……なんとしてもここで討伐する!!!
「
「サンキュー、カナ! それじゃあ一発で決めてやるか!!!!!」
刀を手に、駆け出すユウキ。
するとただ握っているだけのはずの刀が、突如眩い光に包まれていった!
「な、何だあれ……!?」
「ユウキの必殺技だよ。よーく見ておくんだね」
「うおわ!?」
いつの間にかブリカエルの隣に移動していたカナ。
そんな彼女にも驚いたが、次の瞬間――ブリカエルはそれ以上の驚愕を目にする。
「ディアグレイロード!!!」
「――!」
なんと、刀から放たれた眩い閃光の一撃は、いとも簡単に巨大スライム(擬き)を消し去ってしまったのだった。
「す、凄い……! 凄い凄い凄い!!! お前、今のどうやってやったんだ!?」
「ど、どうって言われてもな……。ほとんど感覚だから……」
「はあ!? 今の技がか!?」
「さっき言っていただろう? ユウキは異世界からやって来た、正真正銘の『最強』なんだよ。だからこれくらいなら朝飯前なのさ」
「マジか……!!!」
純粋な崇高と尊敬の視線をユウキに向けるブリカエル。
そんな視線にユウキは照れて顔を赤くし、頭を掻いてしまっていた。
が、それも次にはすぐに青ざめることになる。
「さて、それじゃあ最強さんの次の試練だよ」
「え?」
「ほら、来たよ」
「な、なんだ!? 何の音だ!?」
「あ」
やって来たのは聖堂のシスターや神父達。
さあ、ここからはユウキの弁明タイムの始まりだ!!!
―現代―
「……」
「……」
さて……そんなユウキの英雄譚を聞いたハルマ達は……当然沈黙。
なんて言えば良いのか本気で分からなかった。
唯一フォリス院長だけが懐かしそうな表情で聞いていたが……。
「……そもそも今のは『英雄譚』なのか?」
「まあ、一応そうなんじゃない? ほら……魔物倒してるし」
「マッチポンプじゃねえか!!!」
結果、ハルマ達が分かったことは、ユウキがハルマとは正反対に『最強』だったこと。
それからユウキも結構愉快な旅をしていた……ということぐらいだったのでした……。
【後書き雑談トピックス】
『技紹介』
ディアグレイロード:眩い光で相手を斬る、相手は死ぬ。
次回 第30話「とことん最弱、どこまでも」
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