第24話 巡礼の聖地 フォリス
「さて……意気揚々と出発したのは良いけど、どこ行くの?」
なんとなくいい感じに「出発だ!」と仕切ったのはいいものの。
ハルマはこれから何処に行くのかまるで理解していなかった。
というか、そもそもこのレンネル大陸にはどんなスポットがあるかなんて、まるでご存じない。
「特にここ!っていう場所はないよ。私達は道なりに進んでいくだけだから」
「そうなの?」
「うん。だって兄さんもそんな変な所には行かないだろうし、道なりに進んで街や国に着くたびに聞いて回るだけだからね」
「そっか」
まあマキラ大陸の旅もそんな感じだった。
道なりに進んで、着いた街や村で問題を解決、でまた道なりに進む……を繰り返していた訳だし。
問題解決は本来予定には入っていないのだが。
「じゃあ道なりに進むと今回は何処に着くの?」
「本っ当に何も知らないんだな……。レンネル大陸の入り口にあるスポットなんて一つしかないのにさ。それくらい子供でも知ってるよ?」
「悪かったな知識不足で! で? そのスポットってのは何なんだ? てかそういう言い方するってことは、普通の街や国ではないんだな?」
「そうだよ。これから僕たちが向かうのは『聖地フォリス』だ」
「聖地!」
RPGというかファンタジー的なワードに反応するハルマ。
まあ『聖地』は別に現実にもあるものだが、そういうのに縁のないハルマには『聖地』も立派なファンタジーエリアだ。
実際教会とかゲームでしかハルマは見たことなかったのだし。
「聖地フォリス、またの名を『巡礼の聖地』とも呼ばれてる。100年以上昔からある歴史ある場所で、世界中からいろんな人が祈りを捧げに来るのさ」
「へー」
「フォリスの大聖堂はなかなか見応えあるよ。僕は特に宗教には興味ないけど、物凄い神々しさは感じた」
「……お前、行ったことあるの?」
ジバ公がフォリスに行ったことあるという事実が意外だったハルマ。
てっきりずっとあの洞窟に引きこもっているのだとばかり思っていた。
「あの洞窟に行きつく前はいろんな所に行ったのさ。で、そのなかにフォリスがあったってだけ」
「へー。……てか、お前モンスターなのに大丈夫だったの? 『この罰当たりな怪物め!』とか言われて浄化されそうになったりしなかった?」
「言われたし、されたよ。まあされそうになったのは浄化じゃなくて、普通に討伐だけど」
「……」
ちょっとした皮肉を言ったつもりが、思いのほか暗く重い回答が返って来てしまったハルマ。
しかも、ジバ公はまったく表情を変えずに平然とそういうのだから……恐ろしさが大変なことになってる。
――……言わなきゃ良かったな。
「聖地の人達も意地悪ね……。なんで中で見物してるだけで。そんなふうに言われなきゃいけないのかしら」
「しょうがないよ、僕も一応モンスターだし。でも当然のようにそういうことが言えるホムラちゃんは本当にマジ女神。どっかの誰かとは違いますわぁ」
「?」
「――! わ、悪かったよ……」
ジバ公の視線が痛い。
今回は100%ハルマが悪いので、反論も出来ない。
冷たい視線がただただ痛かった。
「やれやれ……。っと……。見えてきたよ、あれがフォリスだ」
「ん? お、おお……。あれが……!」
視線の先あったのは巨大な建物。
まさに大聖堂の名に恥じない、立派な建物がそこにはあった。
―聖地フォリス―
「ふああ……!!!」
「……なにそのマヌケな声」
ハルマの服のフードに隠れながら、ジバ公は痛烈な指摘を飛ばす。
ハルマも自分の声が随分と間が抜けている自覚はあったが、それでもそんな声が漏れるほどの迫力がそこにはあった。
「す、凄い……!!!」
それはあまりにも神々しく、ひたすらに美しいのだ。
荘厳な雰囲気を纏いながら立ち並ぶ白亜の壁と柱、それはただの壁や柱ではなく細かく装飾のなされた一つの芸術品ともいえる代物だ。
それが一つではなく、見通すほど遠く、見上げるほど高くまで聳えているのだから圧巻としかいいようがない。
さらに、普通ならそれだけでも常人は息を呑む光景なのに、そんな圧巻の間に輝くのが美しいステンドガラス。
カラフルなガラスは日光を浴びて輝く絵画と化しており、圧巻の間に紛れていても、微塵も霞んでしまったりはしていなかった。
まさに美と圧巻のコラボレーション、本当に人が作ったのかと疑いたくなるレベルである。
「ヤバいよ、これはマジで神様が降臨してもおかしくないレベルだよ……」
「……確かに私も凄いと思ったけど……そんなに? ハルマ、教会とか行ったことないの?」
「ない」
こんな凄い光景を目の当たりにしているのに、ジバ公は全然、ホムラも普通レベルにしか驚いていない。
教会とが縁のないハルマと違って、彼女たちはこのファンタジー世界でこういう建物に慣れているのだろう。
ジバ公なんてここに来たことあるくらいだし。
そんな二人にはハルマの驚きっぷりの方が驚いたようである。
「……ホント、この子は一体どんな所から来たのかしら」
教会なんて田舎の辺鄙な村にさえあるのに、それにすら行ったことがない。
そんなハルマの言葉にますます疑問を深めるホムラだった。
―それから1時間ほど―
さて、大聖堂の美しさを十分に堪能した後は、本来の目的再会。
ホムラのお兄さん探しである。
といっても、ひたすら話しを聞いて回るだけなのだが。
そんな感じで1時間近くいろいろ見て回りながら、話を聞いていたのだが……。
「ないね……」
「ないわね、情報……」
特に何も情報はなかった。
「ここには来てないのかな……?」
「どうかしら。流石に私もそこまでは分からないわ」
「だよね……。……ごめん、ちょっとトイレ」
「いってらっしゃい」
もう少し粘ってみるか、それとももう次に進むか。
どちらにするか悩むホムラ。
すると、そんなホムラに声を掛ける人物が。
それは立派な髭と眉の柔らかい雰囲気を纏うお爺さんだった。
「少し、よろしいかな?」
「え? 私ですか?」
「ええ、そうです。実は貴女方が何やら探し物をしておられると噂に聞きましてな、何かお役に立てないかと思ったわけでして」
「それはありがたいですけど……。えっと、貴方は?」
「ああ、これは失礼しました。私、この聖地の院長を務めさせていただいている、ブリカエル・セシル・フォリスという者です」
「いんちょう……? え、院長!?」
「はい」
まさかの最高責任者。
突然一番偉い人が目の前に出てきて、流石にホムラもおったまげてしまった。
危うく椅子から落ちるところである。
「そ、それはどうもわざわざすみません……」
「いえ、いいんですよ。それで? 貴女は一体何をお探しなのですか?」
「ああ、えっと、私が探しているのは人でして……。あの、先日ここに若い男が来ませんでしたか? 私と同じ黒髪、黒目なんですけど……」
ハルマの居た元の世界なら黒髪、黒目は大した情報ではない。
だが、この異世界にはほとんど黒髪は存在しないので、これだけでもかなり特徴的な情報になるのだ。
「黒髪の若い男性……。ああ、訪れておられましたよ。あれは1週間ほど前でしたかな」
「! 本当ですか! えっと、その人はここで何かしましたか!?」
「いえ、特には何も。というか、少しだけ覗いたらすぐに出ていかれてしまいました。何やら『ここにはないか』と言っておられましたが」
「ここにはないか……?」
「……その方がお探しの方なので?」
「え、ああ、はい。私の兄なんです」
「そうでしたか……」
ほんの少しだけ覗いてすぐに帰り、呟いていた言葉は『ここにはないか』。
ホムラの兄もまた何かを探しているのだろうか。
だが、少し覗いただけで有無が判別出来るとはどういうことなのだろう?
「すみませんな、お力になれず……」
「い、いえ! そんなことはありません! 寧ろ、わざわざありがとうございます!」
「ごめん! 今も戻――ん? ホムラ、その爺さん誰?」
「あ、ハルマお帰り」
と、その時。
ハルマがトイレから帰ってきた。
そして、早速眼前の見知らぬ老人について質問する。
「この方はこの聖地の院長さん、ブリカエル・セシル・フォリスさんよ」
「い、院長!? なんでホムラ院長さんとお話してるの!?」
「私の事情を聞いてわざわざ来てくださったのよ。……ん? どうしましたか、フォリスさん?
「―――」
突然、絶句して動かなくなるフォリス院長。
何か信じられないものを見たかのような目で……ハルマを見ている。
「あ、貴方……」
「? 俺ですか?」
「はい、そうです……。貴方、お名前を……なんと申される……?」
凄まじい驚愕に言葉が途切れ途切れになるフォリス院長。
何にそれほどまで驚いているのかハルマにはイマイチ理解出来なかったが、とりあえずいつもの自己紹介をすることにした。
「俺は六音時高校生徒会長代理、天宮晴馬!」
「――!!!」
「ああ、気にしないください。伝わらないのは分かっ……え?」
「じゃあ何で言っ……へ?」
「……え? ……あ、すみませんぬ。つ、つい……」
「な、涙……?」
いつもの自己紹介コントをしようとした、その時。
フォリス院長は涙を零していた。
一体どうしたのだろう、まさかハルマのコントが余りにも理解不能過ぎて憐みの涙が出てきてしまったのだろうか。
「あーあ……ハルマが変な自己紹介するから……」
「え!? 俺のせい!? 俺のせいなの!?」
「どう考えてもお前のせいだろ!!!}
ジバ公もフードの中から避難を飛ばす。
事情は一切理解出来ないが、ハルマはとりあえず謝っておくことにした。
「す、すみません。……なんか俺ヤバいこと言ったみたいですね……」
「ああ、いえ、違うのです。違うのですよ……。私は、私は今、懐かしさで泣いているのです」
「な、懐かしさ……?」
イマイチ事情が見えてこない。
こんなふざけた自己紹介をする奴が過去に居たというのだろうか。
全く理解出来ない状況に眉をひそめるハルマ達だったが……。
次の一言がそれらを全て消し去った。
「ハルマ殿」
「はい?」
「貴方、異世界転生者ではありませんか?」
【後書き雑談トピックス】
よくハルマのフードに隠れるジバ公。
でもかなり軽いので苦しくはないそうな。
ちなみにジバ公は大体ミカン1個ぶんくらいの重さだそうです。
(なお可変)
次回 第25話「伝承の勇者」
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