第36話 泣いて泣いて泣き切るまでは
「――ッ!」
突然、途切れていた意識が繋がったかのようにハルマの目が覚める。
気が付いた場所はベットの上。
ハルマはてっきり死んだかと思ったのだが、なんとかまだ生きていたようだ。
「ハルマ!!! 大丈夫か!?」
「え……? あ、うん……。大丈……夫かな? ……、……いや、なんで大丈夫なんだ!? 俺全身の骨折れてたよね!? なんか、どこも痛くないんだけど!?」
「……元気そうだな。いや、僕もびっくりしたんだけどさ。お前、なんでかメチャクチャ癒術が効くんだよ。だから気絶してる間に掛けた癒術でもう全回復したんだ」
「ああ、そういえば前にホムラにそんなこと言われたような……。って、ホムラは?」
「……」
俯いて黙ってしまうジバ公。
具体的な返事はなかったが、それだけでホムラがどういう状態なのは理解出来た。
「まあ、無理もないか……」
「……ホムラちゃん、昨日からずっと部屋に閉じこもったまんまなんだ。よほど辛かったんだろうね……。僕がなにかしてあげられれば良かったんだけど……」
誰よりも信じ、誰よりも敬愛し、誰よりも大切に思っていた兄の裏切り。
しかもよりにもよって本人からそれを突きつけられてしまったのだ。
この状態で元気に振る舞えというほうが無理だろう。
「それで……あの後どうなったんだ? なんで俺に生きてるの?」
「あの後、これ以上被害を出さないようにって王様がアイツにオーブを渡しちゃったんだよ。だから、まあ、あれ以上は被害は出なかったけど……」
代わりにオーブは盗られてしまった……ということか。
まあ、王様の判断も間違いではないだろう。
アイツは人を殺すことに躊躇なんて微塵もなかった。
あれ以上粘っていたら確実に死人が出ていた。
「よいしょ……」
「!? お、おいハルマ! いくらなんでもまだ立たないほうが……」
「大丈夫だよ、実際どこも痛くないし。それよりも……ツートリスとの連絡手段ってあるか? ちょっとセニカさんに聞きたいことがあるんだ」
「長老と? そりゃまあ王国だし、電話くらいならあると思うけど……。何聞くの?」
「こっちの世界にも電話あるのか、良かった。……聞きたいのは、ツートリスの襲撃者のことさ。もっと言うと……ソイツが何を盗んでいったのかが聞きたい」
「……もしかして!?」
「ああ、ツートリスとここの襲撃者は同じヤツかもしれない……からな」
『長老、お電話ですよ。なんでもアメミヤさんが聞きたいことがあると』
バトレックスから電話を借りてツートリスと早速連絡を取り始めたハルマ。
すると、まず最初にウォーガーの声が聞こえてきた。
彼に事情を説明すると、すぐにセニカと交代。
なんかうやたらとドタドタいっていた気がするのは気のせいだろうか?
『ア、アメミヤさん! お久しぶりです!』
「久しぶりです、セニカさん。そっちは特に変わりありませんか?」
『はい、お陰様で。あれからは順調に復興も進み、平和に過ごしていますよ。……それで「聞きたいこと」とはなんでしょうか?』
その言葉を聞いてとりあえず一安心。
ツートリスはあれ以降は特に問題はないようだ。
さて、一安心したところでハルマは本題に入っていく。
「……ちょっと、嫌なことを思い出させるのは申し訳ないのですが。ツートリスに現れた襲撃者は『村の宝』を盗んでいったんですよね?」
『そうですけど……』
「その『村の宝』っていうのは、オーブではありませんか?」
『! そ、そうです! そうなんですけど……どうしてそれを、突然?』
「実は……昨日マルサンク王国に同じような襲撃者が現れたんです。それでその襲撃者が盗んでいったのが……」
『オーブであった、ということですか……』
「そういうことです」
……やはり、今回の襲撃者はツートリスの襲撃者と同一人物だった。
襲撃者……もといホムラの兄はオーブを探して世界を旅している。
一体何のために人を殺してまでオーブを集めているのかは……分からなかったが。
『大丈夫ですか……? 何か、出来ることがあれば何でもしますが……』
「その気持ちだけありがたく受け取っておきますよ。俺達は大丈夫なので、そう気にしないでください。それじゃ、お時間ありがとうございました」
『いえ、それこそ気にしないでください。また何かあったら言ってくださいね』
「はい。……あ、それと」
『?』
「口調、また戻ってますよ」
『……、……!』
電話を切る直前に一言、そう言い残して通話は終了。
予想通りではあったが……だからと言ってそれが喜ばしい訳ではない。
それどころか寧ろ、より辛くなったと言えるくらいだ。
「……さて、これをどうやってホムラに伝えればいいのかな」
「とりあえず今はそっとしおくべきだろ!? 今のホムラちゃんにさらに追い撃ちかけるつもりなのか!?」
「今すぐに伝えはしないさ。ただ、いつかはちゃんと言わないとダメだろう?」
「……それは、まあ」
ジバ公の心配は痛い程ハルマにもよく分かる。
だが、だからといっていつまでも事実を黙り続ける訳にもいかないだろう。
「あの、バトレックスさん」
「なんでしょうか」
「そういう訳なんで……しばらく、ホムラが元気になるまではお世話になってもいいでしょうか?」
「それは全然問題ないですよ。ゆっくりと傷を癒していってください」
「ありがとうございます」
―ホムラの部屋の前―
「……ホムラ、ちょっと良いかい?」
「……」
次にハルマが向かったのはホムラの部屋……の前。
声を掛けるが返事はなく、ドアも鍵がかかって入れない。
そしてその鍵が開けられることもなかった。
「……ダメ、みたいだな。昨日もこんな感じだったのか?」
「うん、昨日からずっとこんな感じ。僕が声を掛けてもホムラちゃんは返事してくれなかったよ……」
「……」
もちろんその気になれば外からも鍵が開けられる。
だが、それでもはまったく何の解決にもなりはしない。
今回は……本人が向き合い立ち上がらないといけないのだ。
「今すぐ元気だせ、とは言わないよ。辛くて悲しいなら泣いていい。泣いて、泣いて、泣き切るまで泣いていいから。それは何日かかっても構わないし」
「……」
「俺とジバ公はちゃんとそれまで待ってるから。それじゃ、何か必要な事があったら言ってね」
それ以上ハルマが続けることはなく。
扉の前から離れ自分の部屋に戻っていく。
果たして、ホムラに今の声は聞こえたのだろうか。
それはハルマにもジバ公にも分からないことだ。
―夜―
あの後も、ハルマはいろいろな所を周ることになった。
そんなふうに仕事をやるべきことをこなしていると、いつの間にか夜に。
結局、今日1日ホムラが部屋から出てくることはなかった。
「……」
ジバ公もいつもの元気はない。
ある程度は元気そうに振舞っているが、本心からそうなることが出来るはずもなかった。
そしてそれはハルマも同じ。
心の奥の辛さはどうしても拭えないし、隠しきれない。
「寝るか、夜更かししても意味ないしな」
「そうだね」
故に2人は特に話しもせずに就寝。
夜をこんな静かに迎えたのは、一体いつぶりだろうか。
この異世界に来てから常に寝る前まで賑やかだった。
元気なホムラと、元気なジバ公と、元気なハルマ。
3人で寝る直前までいろいろ話したり、遊んだりしているのが毎日だった。
だが、今日はそんなことはなく。
静かに、静かに、夜を迎え。
眠りについた。
―夢―
弱い。
どうして、どうしてこんなに弱いのか。
何をするにも、常に足手纏い。
誰かが居ないと何も出来ない。
一人じゃどうしようもない。
弱くて、脆弱で、貧弱で……。
どこまでも、どこまでも弱い。
それが果てしなく憎い。
恨めしい、憎たらしい。
憎い、憎い、憎い。
そうだ、結局全部弱いのがいけなかったんだ。
もっと、もっと強ければ変わっていた。
あんなに弱くなかったら、もっと良くなっていた。
もっと、もっと、もっと強ければ――
―朝―
「……」
朝日に顔を照らされ、ハルマは目を覚ます。
だが、それはお世辞にも心地いい目覚めとはいえなかった。
「……嫌な夢見た」
夢、というよりは叫びに近いか。
ただ声が響くだけの悪空間。
悍ましい音の反響する軽い地獄。
そんなものを見た……というより聞いた。
「あれ?」
そんなものはさっさと忘れようと、部屋を見渡すと……。
ジバ公が居なかった。
いつもは寝坊助で、起こすまで起きないジバ公が。
「? ホムラの所に行ったのか?」
心配で夜も眠れなかった。
とかだろうか。
それはそれで健康に悪いので、ちゃんと寝て欲しいと思——
「大変だーーーーー!!!!!!!!!!!!」
「うおわ!?」
と、思っていたらジバ公が部屋に戻ってきた。
しかも、汗だくになって。
「ど、どうした!? 何があった!?」
ジバ公の様子からしてあまり良いことではなさそうだ。
実際ジバ公は本気で焦っている。
「大変だ、ハルマ! ホムラちゃんが居なくなった!!!」
「なッ!?」
そして、それは事実。
とんでもないことだった。
次回 第37話「強欲の街 シックスダラー」
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