第130話 いろいろ昔話
「――それとも、そんな大それた二つ名を受け継いだ愚者【現・最強の騎士】……ヘルメス・ファウストのことかい?」
ニヤリと、ニヒルな笑みを浮かべながらまるで試すかのようにそう問いかけるヘルメス。
そんな少し不思議な問いを前に、ホムラがが出した答えは――、
「えっと、それじゃあ【三英傑】と【宝器】について教えてください。他のはなんとなく知ってるけど、それは初めて聞いたので」
「……。――ああ、うん分かった。三英傑と宝器ね、はいはーい」
「?」
……もし、今この場にハルマかシャンプーが居たとしたら、きっとそれはそれはキレのいいツッコミをぶちかましていた事だろう。(じめんタイプ)
まあ、あんだけ思わせぶりな態度を取られようと、全く気にせず自分の気持ちを口にするのはなんともホムラらしいと言えばらしいのだが。
「アピールが足りなかったのかな……。ま、別に良いんだけどさ」
「え?」
「ああいや、何でもないよ。……えっと。はい、それじゃあ気を取り直して三英傑のお話をしようか」
まだ若干語気に未練が残っていたが……それはぐっと内に抑え込み、最強らしくササッと切り替えたヘルメス。
そして彼は、早速ホムラリクエストの三英傑についてゆっくりと、そして不思議とどこか懐かし気に語り始めるのだった。
× ×
「三英傑ってのはね、今から大体120年くらい前に居たとある英雄達の総称さ。彼らは『宝器』と呼ばれる特別な武具を手に世界中を旅し、今のラルセルムの秩序の根幹を作りあげたって言われてる。他にも伝説はいろいろあるんだけど……やっぱり三英傑の話をするなら『妖魔ヴァルガンヌの討伐』は欠かせないかな」
「妖魔ヴァルガンヌ……ですか?」
「そう、妖魔ヴァルガンヌ。一説には『神の世界から舞い降りた』なんて言われてる、余裕で世界を滅せる力を持った超絶ヤバイ大魔獣さ」
「世界を、滅せる……」
世界を滅ぼす、とはまた実になんとも創作や伝説にありがちなぶっ飛んだ話だ。……だが、ホムラはその言葉に疑いを持つことはなかった。
何故なら、彼女は既に恐らく同じくらいの力を秘めているであろう魔王アルマロスと交戦した事があるからだ。あのどこまでも悍ましく、そして底抜けに壮大な『力』の存在を文字通り肌で感じている身からすれば、ヴァルガンヌの話もあながち間違いではないと思えてしまうのだろう。
「で、そんな超ヤバ魔獣を激闘の末に打ち破った英雄こそが他ならぬ三英傑たちなんだ。彼らがヴァルガンヌを打ち破った後、どうなったのか或いはどうしたのかは残念ながら分からないけど、彼らの戦いと勇気の結晶である『宝器』は今の世にも残ってい――ああ、いや残っていたんだよ」
「? 今はもう残ってないんですか?」
「うん。少し前までならキャメロットに勇士・アーサーが手にしたとされる『宝弓フェイルノート』が保管されてたんだけどね。……確か、8カ月くらい前だったかな。キャメロットの城に魔物とその主の襲撃があって、その時にフェイルノートは破壊されちゃったんだ」
「え、えええ!?」
サラッと明かされる衝撃の事実。
てっきり「10年前に、どこかの遺跡で~……」みたいな感じかと思ったのだが、まさかまだ1年も経っていない本当につい最近に、旅仲間の地元でそんな大事件があったとは流石に予想出来なかった。
「私、普段ソメイと一緒に旅してるに全然知りませんでした……」
「まあそうだろうね。一応これ五大王と直属騎士だけに明かされてる機密情報だし。それにちょうどソメイ君はその頃いつものポカで城を留守にしてから、彼実はめちゃくちゃ気にして――
「ちょちょちょ!? い、今機密情報って言いませんでした!?」
「? 言ったけど?」
「いや『言ったけど?』って!!! あの、これ私が聞いちゃっても良かったやつなんでしょうか!?」
「え、別に良くね? こんくらい」
「もの凄く! 軽い!!!」
機密情報とは一体何だったのか。
(一応)政治に携わる者にしてはあまりにも軽すぎる最強騎士に、ホムラはついついどこかの誰かさんみたいなツッコミを炸裂させてしまった。
……なんだかんだそろそろ付き合いも長くなってきたし、知らぬ間に影響されてしまったのだろうか。
「大丈夫大丈夫。ホムラちゃん達もう天王様意外とは知り合いなんでしょ? なら別にこれくらいは知ってても問題ナイナイ。……まあ、所構わずいろんな所でこの話をされると後々僕が大変な事にはなりますけども」
「しませんよ流石に……。でも、まさかそんな身近にそんな伝説の武器があったなんてびっくりしました。……ちなみに他の宝器はどうなったんですか? 三英傑が宝器を持っていたのなら、宝器は他にもあったんですよね?」
「流石、鋭いね。……でも残念ながら他の宝器もあんまり状況は変わらないよ。例えば勇士・ノシアが所有していたとされる『宝槍ロンギヌス』は完全に行方が分からない。果たして今も世界の何処かに存在しているのか、それともフェイルノートのように失われてしまったのかもね」
「そうですか……」
偉大な伝説が受け継がれることなく失われてしまうというのは、なんだか少し悲しい事だ。もちろん、だからと言って三英傑の偉業までもが無くなってしまうなんてことは決してないのだが。それでも出来る事ならその偉業は目に見える形でも残しておきたいとはやはり思ってしまう。
「まあ、これはある意味しょうがない事でもあるとは思うけどね。形あるもの、どう足掻いてもいつかは必ず失われるさ」
「……」
それは分かってはいる……のだが。それでもやはり悲しいのは悲しいことだ。
と、そんな訳でちょっとテンションが下がってしんみりしてしまったホムラ。だが、ヘルメスはそんな彼女を元気づけるように、元のままの声色で話を続けていった。
「ほらほら、せっかくの楽しいお喋りタイムなんだしさ。しんみりよりも明るくいこうぜ、明るく! ……あ、そうだ。ね、ホムラちゃんは妖魔ヴァルガンヌの名前に何か思うところはなかったかい?」
「え? 名前……ですか?」
と、言われても。
ホムラはついさっき初めて三英傑と妖魔ヴァルガンヌの話を聞いたばかり。
故に名前に何か、と言われても特にピンと来ることはない――はずだったのだが、言われてみれば確かにどこかで聞いたことがあるような気がした。
そう、あれはまだ兄と二人で暮らしていた小さかった頃……、
「……あれ、ヴァルガンヌって確か『厄災』の名前ですよね?」
「ご名答! そう……ああいや、正確には『ヴァルガンヌ』は妖魔の名前であってるんだけどね。まあ、世間一般では『ヴァルガンヌ』の名は妖魔としてよりも、厄災として知れ渡ってるだろう」
「厄災の話なら私も兄さんから聞いたことがあります。確か、40年前にユウキ大陸のウェルブっていう国と大きな戦争をした魔術師のこと……だったはず」
「そう。妖魔ヴァルガンヌの名を名乗り、前代未聞の魔術の才を持ってして世界を終わらせようとした大魔術師。……その名を、ワルプルギス・ヴァルガンヌ。第8の大罪とも呼ばれた正真正銘の『厄災』さ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「厄災……」
厄災、ワルプルギス・ヴァルガンヌ。
その名は歴史にはあまり詳しくないホムラでもよく知っている名前だ。……というか、ラルセルムにおいてこの名を知らぬ者はほぼ居ないであろう。(すぐ近くに例外が居たりするが)
それ程までに、この厄災と呼ばれた人物は世界に名を刻み込んだ人物なのである。
「厄災、ワルプルギス・ヴァルガンヌ。またの名をレイナ・ワルプルギス。その身に宿した前代未聞の魔術の才を持ってして、人の身で世界を終わらせようとした正真正銘の大厄災。さっき話した妖魔の方のヴァルガンヌとか、皆さんご存じの魔王も世界を滅ぼそうとしたけど、それでも本当に世界の終わりに王手をかけたのは未だにこの厄災のみだって言われてる」
「そんなに強かったんですか?」
「うーん……。そりゃまあ確かに強かったらしいけど、どちらかというと厄災の真に恐ろしかったところはその勢力の大きさとその差かな」
「勢力の大きさとその差?」
「そう。厄災は妖魔や魔王とは違ってね、何人何体もの強力な仲間や魔物を引き連れていたんだ。妖魔の方はともかくとして……魔王も確かに仲間は引き連れてはいた。でもね、それはどちらかというと『仲間』というよりは完全な『部下』とか『手下』って感じだったんだ」
つまりは信頼関係の有無や差、という事だろう。
如何に協力な味方を引き連れていようと、軍と軍での戦いにおいては個々の戦力だけではどうしても覆せないものがある。
戦場では弱者の軍が独りの強者を打ち破るなどよくある話なのだ。
……まあ、もちろんその逆もまた然りでもあるのだが。
「厄災単独でも馬鹿みたいに強いのに、奴は自身に勝るとも劣らない仲間達を数多く引き連れ、おまけにそこには確かな信頼関係があった。それが奴らが世界終末に至りかけた最大の要因だったんじゃないかな」
「なるほど……。あの、ちなみに厄災の仲間にはどんな人が居たのか、とかは伝わっているんですか?」
「もちろん。……聞きたいかい? どいつもこいつもなかなかにヤバい奴らだけど」
「……」
ニヤリと、少し悪い笑みを浮かべるヘルメス。
その表情と声色を前にホムラの頬には一粒の冷や汗が伝っていた。が、それでも彼女は内から湧き出る好奇心と興味を抑えられる気はしない。
ヘルメスもそんなホムラの様子を察したのか、彼は返事を聞く前に厄災の仲間達について語り始めていった。
「それじゃ、まずは厄災の仲間の中でも特に世界に大きな影響を及ぼした『魔女』について話そうか」
「魔女?」
「そう。魔女、またの名をウカレッツ・マダミンスキー。常識外れの『魔物使い』としての才能を生まれ持ったものの、あまりにも強力過ぎるその才を人々に恐れられいつしか魔女と呼ばれるようになった女。それが、厄災の右腕『魔女』ウカレッツ・マダミンスキーだ」
「……」
「彼女の魔物使いとしての才能は本当に桁外れでね。多分、この先どれだけ卓越した魔物使いが現れようと、彼女を超える事は出来ないんじゃないか――なんて、言われてるくらいなんだよ」
「そ、そんなにですか?」
「うん、そんなになんだ。なんせ彼女は、魔物を文字通りに自由自在に操る事が出来る……いや、出来てしまう程にその才能に恵まれていたからね」
「自由自在に操る……」
魔物使いとはその名通り魔物を使役して戦わせたり、生活の助けをしてもらう人々のこと。彼らは各々の手段で野生の魔物を手懐け、住処を与える代わりに使役するという形で魔物使いとしての在り方を成り立たせている。
基本、魔物使いに使役される魔物は使い手の指示に従うもので、反抗したりという事は余程の事がない限りはあり得ない。だが、それでもあくまで行動の意思や自我は魔物のものであって、魔物使いにはそこまで干渉する力はないはずだ。
だが、今のヘルメスの説明からするとどうも魔女はそうではなかったらしい。
「魔女は魔物を自在に操ることが出来た。結果、彼女は通常の魔物使いには出来ない魔物の異常な強化や、新しい魔物の創造なんて事が出来てしまったんだ」
「新しい魔物!?」
「そうさ、それがさっき話した厄災達の勢力の大きさにも繋がってる。魔女によって生み出された魔物は数多くいるけど、その中でも特に有名なのが『白猫』『月兎』『亜竜』の三体だね。その名も白猫ゾフィー。月兎ルラムーン。そして亜竜オルヴェディナ。特にオルヴェディナなは神話に出てくる邪竜ヴァルヴェディアも模したとされる、魔女の魔物の最高傑作……なんだとさ」
「そうなん……ですか。え、えーと……」
次々と出てくる新ワードに段々着いていけなくなってきたホムラ。
実際厄災の話題だけでも既にこの短時間で『魔女』、『白猫』、『月兎』、『亜竜』と4つも新ワードが出てきている。おまけに一つ前の三英傑の話もほとんど初めて聞いたものだったので、こんがらがってくるものまあ無理はないだろう。
「おっと、ごめんごめん。ちょっとまとめて話過ぎたかな。ごめんね、なんせここらへんはいろんな時代の出来事が密接に関わりあってるからね。どうしてもちょっとごちゃごちゃになっちゃうんだよね」
「みたいですね……」
「ごめんね、話が下手で。……でも、だとしたらもう今日はこれ以上は止めといた方がいいかな。多分これ以上新しい話をしてもまとめきれないでしょ?」
「そんな! 確かに……そうかもしれませんけど、でも厄災の仲間の話とか私気になります!」
「なに、それくらいならまた今度じっくり話してあげるよ。……それに君、このままだと多分当初の目的を忘れるだろ? そろそろ切り上げておくべきじゃない?」
「え?」
「やっぱりか。ほら、そろそろ寝ておいた方が良いんじゃないかな? ……まあ、眠気を誘うつもりが、寧ろ盛り上げちゃった僕が言えた事じゃないけど」
「……あ」
ヘルメスに指摘されようやく此度の当初の目的を思い出す。
そう、何もホムラは別にヘルメスに話を聞きに来たわけではない。ただ、なかなか寝付けないからちょっと夜風に当たりにきただけなのである。
「そうじゃん! 私別に話聞きに来たんじゃなかったわ! ああー! でも、もう今から寝られる気しないですー!」
「あはは、ごめんごめん。まさかあんなに食いつくとは思わなくて。いやね? ヘルメスさん的には途中でつまんなくて寝落ちしちゃうカナー? とか思ってたのよ?」
「全然ですよ! ていうか、寧ろさっきよりギンギンな気がします!」
実際、ホムラは中途半端に話を聞いたせいで、いろいろ気になり過ぎて眠気なんてやって来そうにはなかった。
そう、それはさながら夜テレビを見ていたらお母さんに「もう寝なさい」とオチを見る前に消されてしまったかの如く。まさに夜も眠れないというやつである。
「あー、もう! こんな事ならお昼もちゃんと起きれてば良かった!」
「ははは……。ま、まあ別にホムラちゃんが良いって言うなら別にこのまま続けても僕は良いけどね? そこは君に任せるよ」
「……私としては続き聞きたいですけど。でも、確かにこれ以上いっぺんに聞いてもごちゃごちゃになりそうだし、このまま徹夜はいろいろとキツそうなのでまた今度にします。でも! また今度お話聞かせてくださいよ!」
「もちろん。今日は話せなかった事、また今度ゆっくり聞きにおいで。今度はハルマちゃん達も一緒にね」
「はい、ぜひそうさせていただきます。……では、その、お休めないと思いますがおやすみなさい」
「うん、おやすみ」
と、いう訳で。
若干不貞腐れながらもヘルメスと挨拶を交わし、一層冴えてしまった頭と共に寝室に戻るホムラ。
結果として話を聞いて眠気カムカム大作戦は失敗に終わった……が、それはそれとして興味深い話はいろいろ聞くことが出来た。
勇者ユウキよりもさらに前の時代の英雄、三英傑。
その三英傑たちが手にした武具、宝器。
そして三英傑たちと戦った世界を滅ぼす大魔獣、妖魔ヴァルガンヌ。
さらにはその妖魔の名を名乗った魔術師、厄災ワルプルギス。
その仲間の一人の魔物使い、魔女ウカレッツ。
そしてその魔女から作られた新しい魔物、『白猫』『月兎』『亜竜』。
この夜だけでも新しい話で盛り沢山だ。
しかも、これだけいろいろ出てきてもなおまだまだこの話には続きがあるというのだから……なんともまた話を聞くのが楽しみである。
「……あ。そういえば、ヘルメスさん最初に『そんな大それた二つ名を受け継いだ』とか言ってたような」
と、話を思い返しているうちにホムラはようやく最初のヘルメスのアピールに気が付いたようだ。
まったく、あれほど分かりやすいアピールだったのにここに来てようやく気が付くとは……なんともまあやはり彼女らしい。
「なら、今度はヘルメスさんの話も聞いてみようかな。『最強の騎士』の武勇伝もなんだか面白そうだし」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
―その頃、海岸にて―
「いやー失敗失敗。まさか逆に眠気を覚ましちゃうとはね……」
そろそろホムラの姿も見えなくなった頃、ヘルメスは相変わらず小さな焚火を前に一人魔物たちの見張りを続けていた。
ホムラにはそろそろ寝る事を勧めたが、どうやら彼自身は今夜は寝るつもりはないらしい。現に、そろそろ小さくなってきた焚火にまた新しい薪を足している。
「まあ、僕も僕でちょっと調子に乗り過ぎたよなぁ。ほんと、反省反省……」
「半ば自分語りでテンション上がって話過ぎるとは、僕もまだまだ未熟だねぇ」
恥ずかしそうに、なんとも不思議な事を言うヘルメス。
だが、その不思議な呟きを聞き遂げる者はその場には誰もおらず。
故にその言葉の真意を聞く者もまたその場には誰も居なかった。
【後書き雑談トピックス】
私の構成力の未熟さ故に、1話でまとめて何個も新ワードを出してしまったのは申し訳ないです。
が、今回出てきたワードはどれもこれからのお話に関わってくる事なので、もしこれからも読んでくださるのなら頭の片隅に置いておいていただければ。
もしくはなんかそれっぽいワードが出たらここをもう一回読み返してみてもいいかもですね。(さりげない誘導)
次回 第131話「幽霊少女と夢追いの歌」
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