第44話 ケルト武術大会 壱
「いやいやいや! 俺が参加するのはおかしいって!!!」
さて……モラによって残酷な事実を突きつけられてから早30分。
未だにハルマ達は口論を続けていた。
「馬鹿なの!? ねえ、理解してよ! 俺が大会に参加したって勝てる訳ないじゃん! 時間の無駄じゃん!! 余計の怪我じゃん!!! 分かるでしょう!? 俺が悲しいくらい弱いの知ってるでしょう!?」
「しょうがねえじゃん! お前しか出れないんだから!!! 僕だってそんなお前なんかに任せたくねえわ! 出れるならソメイとかホムラちゃんに出てほしいわ!」
「じゃあ俺出なくて良くない!?」
「だーかーらー! それでもお前しか出れないんだから、お前が出るしかないだろ!?」
船を入手するために今一番効率が良いのは、ケルト武術大会で優勝することだ。
がしかし、厳しい(実際には常識的な)ルールによって見事にホムラ達は弾かれてしまい、参加権があるのがまさかのハルマオンリーという状況なのである。
そして現在、参加するかしないかで大口論が発生していたのだった。
「良いじゃねえか! もうダメ元で参加しろよ! 別に特にデメリットないんだし! 僕らだってお前が負けても文句は言わねえよ!!!」
「怪我するってデメリットがあるんだよ! こんな国を挙げてのスーパーイベントだぞ!? 死にはしなくても俺なんかが出たら大怪我間違いなしじゃねえか!!!」
「でも他に方法ないだろ!? それともあれか!? スリームにまで戻って超迷惑なの分かっていながら土下座して連絡船勝手に1週間くらい借りるのか!?」
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……」
それは……それは避けたい。
ハルマが最も嫌うのは他人に迷惑を掛けること。
特に自分の弱さや失敗で、他人の足を引っ張るのは出来る限り避けたいと思っていた。
(割とこっちに来てから多々他人の足引っ張ってることは気にしないで)
なら……やはり負けイベのつもりで参加するべきなのか……。
「ハルマ、僕からも頼むよ。まあ本当は僕がちゃんと帰りを用意していれば良かった話なんだけど、忘れてしまった物をどうにかすることは出来ないし。今この状況を打破出来る可能性を持っているのは君だけなんだ」
「ソメイ……」
「私もお願いしたいな。……大丈夫よ、怪我は私がすぐに治してあげるから。その……あんまり無茶はしてほしくないけど」
「ホムラ……」
集中する期待と羨望の視線。
ズルい……こんな状況になったら、もう断れないじゃないか!
「分かった……分かったよ! 参加するよ!」
「ハルマ! ありがとう!!!」
「ただし、負けても絶対文句言うなよ!!! 初戦で瞬殺されても何か言ったりするなよ!!!」
「大丈夫だって、言わねえって」
渋々かつ嫌々ではあったが……。
こうなればもう半分ヤケだ、最初から負けるものだと思ってせいぜい足掻いてやろうではないか。
ハルマはそんなに心境に至っていた。(至ってしまっていた)
「……えっと、じゃあハルマさんも参加、ということでよろしいですか?」
「はい、お願いします。モラさん」
天宮晴馬、大会出場決定。
―次の日、参加者控室―
さて、宿屋で一晩休んで次の朝。
参加者の一人たるハルマは現在参加者の控室に居た。。
居た……のだが。
――か、帰りたいよぉぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉお!!!
あまりにも気まずかった。
控室には30人くらいの人が居るが、その誰もが見るからに強そうな人達ばかり。
そりゃそうだ、だってこれは覇王国の武術大会。
町内会の運動会とか、学校のスポーツ大会とはレベルがあまりにも違う。
本来、ハルマはこんな場所に居るはずない人間なのである。
――ヤバいヤバいヤバい! なんか教室間違えて上級生の中に紛れ込んだ奴みたいになってる!
ハルマは極力目立たないように椅子に座って身を縮こめる。
どうか、誰からも気に掛けられませんように……。
「ん? 何だお前?」
「ひっ――!」
「小せえな、小せんな。そんな小さいくせにこの大会に参加したのか?」
「……いや」
「ん?」
「俺も確かに小さいけど、アンタはデカすぎるだろ!?」
あまり積極的に関わるつもりはなかったのだが……。
声を掛けてきた男のあまりの巨大さに、ついハルマはツッコミを入れてしまった。
目の前にいる男は上半身裸の筋肉質な体格の男。
髪型は俗に言うスキンヘッド、と言うヤツだ。
まあそれだけでも十分迫力はあるのだが、それ以上にこの男は……デカい。
びっくりするくらいデカいのだ、下手すれば3メートル以上あるんじゃないだろうか。
実際、身長161センチのハルマの倍近く丈があるように見える。
「デカくて何が悪いんだよ? デカさは強さだ、戦うならデカけりゃデカいだけいい。逆に小さいのは良くない。小さければ小さいほど弱いからな」
「……ダイン。昔からそうだが、君のその理論はあまりにも横暴だと思うよ」
「ああ? 小さいくせに偉そうなこと言ってんじゃねえよ! オルナ!!!」
「へ……?」
筋骨な大男を『ダイン』と呼び反論したのは、控室の奥で何かをいじっている青年だ。
ダインに『オルナ』と呼ばれた長い青髪を持つ糸目の青年は、落ち着いた様子で諭すように『暴論』だと言い放った。
ダインはそんなオルナを思い切り睨むが、特にオルナに恐れた様子はない。
『昔から』と言っていたので、多分両者はそれなりに長い付き合いなのだろう。
「少年、気を悪くないであげてくれ。ダインはどうも戦いのことになると、少し傲慢になってしまう悪癖があってね。まあ、悪い奴ではないんだ」
「は、はあ……」
「ああ、自己紹介が遅れた。私はオルナ、呪術を得意としている者だ。時には『因果のオルナ』なんてこじゃれた呼ばれ方をすることもある」
「そして俺はダイン、『筋骨のダイン』だ。よく覚えておけ、チビ」
「あ、えっと、俺はハルマです。六音時……いや、えっと、『六音のハルマ』とでもお呼びくだせえ」
もちろんそんな呼ばれ方したことないが。
ハルマも『筋骨の』とか『因果の』に合わせたくなってしまった。
そんな訳で『六音時高校』から『六音』だけとって『六音のハルマ』である。
『六音』って何? って言われても答えられませんが。
と、ハルマが名乗り終えたタイミングでさらにもう一人新しい声が聞こえてきた。
「へえ、ハルマ君か。初めて聞く名前だね、君は今年が初参加かな?」
「あ、えっと、貴女は?」
「アタシはホープ。今の二人に合わせると『摩訶のホープ』なんて呼ばれ方をすることもある。アタシもあの人達と同じ参加者で、あの人達のお友達って訳。ま、一つよろしくね」
ホープと名乗ったのは高身長で長髪の女性だ。
飄々とした陽気な性格のようで、初対面のハルマにも一切隔たりなくグイグイと絡んでくる。
「ほらほら、ダイン君もオルナ君もあんまり年下虐めちゃダメだよ? そんなんだから年々初参加者が減っていくんだからね? アタシたち先輩が優しく受け入れてあげないと」
「別に私は虐めてはいないのだけどね。いつものようにダインの暴論少し物申していただけだよ」
「うるせえ! 事実だろうが! 戦いはデカい奴が強く、小さい奴が弱いんだよ!!!」
「その割に戦歴はあまり良くないようだが?」
「ぐっ……」
「特に4年前なんて、まだ12歳になったばかりの小さな少女だったモラに一方的に敗北したじゃないか」
「それはお前もだろ!?」
……どうやら、この人達は毎年のようにこの大会に参加しているらしい。
故に平然と昔の話をするのだが……今年初参加のハルマには一個も分からない話だった。
「ごめんね、あの人達どうにも年下への配慮が出来ないダメな大人なんだよねぇ」
「あ、いや、別に大丈夫ですけど……。あの、オルナさんが言っている『モラ』って、騎士のモラさんのことですか?」
「そうだよ。モラちゃんは4年前にこの武術大会に参加して優勝したの。で、それが王様の目に留まって騎士になったってわけ」
「へえ……」
「モラちゃんって凄いんだよ? その年が初参加だったのに、アタシ達のこと簡単にやっつけちゃってさ。あまりの強さに『薄紅の悪魔』なんて言われてる時期もあったくらいなの」
「薄紅の……悪魔」
モラの意外な過去に驚くハルマ。
実際モラの外見は華奢でとても大人しそうだったので、そこまで強いなんて思ってなかったのだ。
まったく、人を見かけで判断するなとはよくいったものである。
と、ホープの話がひと段落着いたところでチャイムのような音が控室に響き渡った。
すると控室の参加者のうち、何人かが外へ出ていく。
「ほら! ハルマ君、早速出番だよ!」
「え?」
「今の一回戦開始の合図! さあ、頑張っておいで!!!」
「あ、はい!!!」
ホープに背中を押され、ハルマは強そうな参加者たちと共に会場へと向かって行った。
―会場入り口―
「アメミヤ・ハルマさんですね。貴方の会場は3のBですので……ここで大丈夫ですね。では、アナウンスが聞こえたら外に出てください」
「はい」
そう言われ、ハルマは暫し光が差し込む入口で心臓をバクバクさせながら待機していた。
さて、相手は一体どんな人物になるか……。
出来ればまだどうにか出来そうな相手であると祈りたい。
『では、両選手! どうぞ!!!』
「――来た!!!」
響き渡るアナウンス。
ハルマは恐れながらも会場へと足を踏み入れる。
そこに居たのは――
「ん? なんだ! お前が相手かチビ!!!」
「ダ、ダイン!?」
「お前が初戦の相手とは俺も運が良いもんだ。さて、じゃあ見せつけてやるぜデカさの強さをよぉ!!!」
「マジか……」
会場でハルマを待ち構えていたのは先ほどの筋骨のダイン。
……初戦から勝てる気がしない。
『自信満々のダイン選手! ダイン選手は過去に3度優勝した経歴を持つかなりの強者でございます! 対するアメミヤ選手は今年初参加の期待の星! 一体どのような戦いを見せてくれるのでしょうか!?』
「3度優勝!? 嘘だろ!? お前、軽く優勝候補じゃねえか!!!」
「そういうことだ! 大きさの強さ理解出来たか!?」
冗談じゃない!!!
初戦から優勝候補との戦いとか、割りに合わないにも程がある!!!
『では、試合開始です!!!』
しかし、ゴングは無慈悲に鳴り響いた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああ!!!!」
「ひぃ!!!」
試合開始と同時に、早速ダインはハルマに向かって一発、
樽みたいな太さの剛腕から繰り出される一撃は石で出来た床に、超巨大な亀裂を走らせる。
死ぬ
なんとか今のは避けたが、あんな一撃くらったらまず間違いなく死んでしまう!!!
「おらおらおらぁ!!! どんどん行くぞ!!!!」
「待って! 待って待って待って!!! 死ぬから! そんなのくらったら死ぬから!!!」
「安心しろ! ルールだから殺しはしねえ!!! 半年くらいは怪我治らねえと思うけどな!!!」
「イヤーーーーー!!!!!」
剛腕を振るいながら迫るダインに、ハルマは情けなく逃げ惑うしかない。
あんな化け物と距離を詰めるなど自殺行為だ。
なら、迫りくる相手からひたすら逃げるしかない!!!
少なくとも、現状は!!!
「ハルマー! 頑張ってー!!!!!」
「頑張れって! この状況をどう頑張ればいいんだよー!?」
「そ、それは……うーん……」
ホムラの応援は嬉しいが!
現状はその応援に答える余裕もほとんどない!!
頑張ってどうにかなるような相手じゃない!!!
逃げるで精いっぱいだ!!!
「チッ、ちょこまかちょこまかと!!!」
「そりゃそうだわ! お前のそんな攻撃くらったら死ぬもん!!!」
「死なねえってのに! ……面倒だ、これで一気に決めてやらぁ!!!」
「は!?」
ダインが取り出したのは……ハンマーか?
とりあえず……なんかそれっぽい打鈍器を取り出した。
「お、おい……。まさかそれで俺を叩くとか言わないよな」
「他に何に使うんだよ」
「――!」
一瞬でハルマの顔が青ざめる。
素手でさえ死を確実に感じ取っていたのに、ここでさらにダメ押し。
あんなのでぶん殴られたら確実に一発で逝く。
ハルマはモグラたたきのモグラのように打たれ強くはないのだ。
――ヤバいヤバいヤバい! なんか方法考えないとマジでやられる!!!
どうするか。
攻撃をするか?
無理だろう、ハルマのちゃちな剣技ではあの肉体には掠り傷すら付かない。
じゃあ防御か?
意味がない、そんなことしてもダメージは容赦なく貫通して結局ENDである。
なら逃げる?
それは現状は良いかもしれないが、だんだんと体力がなくなりいつかやられる。
……何をしても無駄な気がしてきてしまう。
どんな行動を取っても有効になる気がしない。
「おらあああああああ!!!!!!!!!」
「おうわああああああ!?」
またまた凄まじい一撃。
なんとか避けるも勢いが凄すぎて、謎の衝撃波が発生している。
床に武器がめり込むくらいの勢いで殴っておいて、一体何が大丈夫なんだろうか。
「よっと……。どうしたチビ? いくら小さいからってもう少しは何かしてみせてくれよ。流石につまんねえぞ」
「そんなこと言われても……」
武器を引き抜きながらダインはそう言い放つ。
もちろんハルマだって何か出来るならしたいのだが……。
と、その時!!!
「――!」
ハルマの中に一つの作戦が思い浮かぶ。
それは元の世界にて様々なゲームを遊んだハルマだからこそ、思いついた作戦だった。
「お望みならやってやるよ!!!」
「ほう?」
「さあ来い! 窮鼠がネコを噛んでやる!!!」
その作戦が成功することを願って。
ハルマは堂々とダインに宣言してみせた。
【後書き雑談トピックス】
超個人的な話。
ダインはハンガーラックな人を。
オルナは録画すればいいだろうな人を。
ホープは百の手前の人を。
それぞれイメージしていたりしなかったりしています。
次回 第45話「ケルト武術大会 弐」
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