第45話 ケルト武術大会 弐
「さあ来い! 窮鼠がネコを噛んでやる!!!」
「……フッ! 面白い、今の言葉はよく分からねえが、何か出来るならやってみろ!!! チビ!!!」
自身の倍近い大きさのダインに向かって、ハルマは恐れることなくそう言ってみせた。
ぶっちゃけハルマも自分の作戦が成功する確率は五分五分くらいだとは思っているのだが……このまま逃げ続けている訳にもいかない。
どうせダメ元で参加したのだ。
ここは一か八か、賭けに出てみることにした。
「――!」
「?」
高らかな宣言の後、ダインと距離を取るハルマ。
そのまま真っすぐ走っていき、行き着いた先は会場の端っこ。
あと一歩前に出れば場外負けになるギリギリである。
「……お前、何がしたいんだ?」
「さあ?」
「まあいい、自分で追い詰められてくれるなら好都合だ。このまま大きいということがどれ程強いことなのか……お前にとくと教えてやる!!!」
――来た!!!
迫りくるダイン。
真っすぐ一直線に走りながら、手に持ったハンマー(らしきもの)を思い切り振りかぶってくる。
だが、ハルマは逃げない。
決してダインから目を逸らすことはなく、刻一刻と距離を詰めるダインを睨み続ける。
「はっはっは! 終わりだ!!!」
そして、ハンマーはハルマに向けて、容赦なく振り下ろされる!
――が
「――ッ!」
「なッ!?」
ハンマーがハルマに命中する寸前。
本当にギリギリの所でハルマはダインの股下にスライディングをした。
紙一重のタイミングではあったがなんとか回避に成功。
それはダインが巨体であったからこその成功である。
もしダインが人並みの大きさしかなかったら、股下をスライディングで潜り抜けるなんてそう簡単には出来なかっただろう。
さて、避けられたハンマーはもちろんハルマに当たることなく、そのままの勢いで床に激突。
結果、再び先程までのような凄まじい突風の衝撃波が迸る。
……ホント、どういう腕力で攻撃しているんだろうか。
あんなのくらったら間違いなく死んでいると思うのだが。
「なるほど、なかなかのいい回避だった。だがそれが何になる? 攻撃を躱したくらいじゃ俺は倒せないぜ?」
「分かってら、そんくらい」
「……。ホント、一体お前は何を考え――ん?」
――上手くいったか?
戸惑うダイン。
何故彼が困惑しているのをハルマは知っていた。
というか、それを狙ってこの作戦を決行したのだ。
ダインが一体何に戸惑っているのか、それは案外簡単なこと。
彼は再びハルマに攻撃するべく、床に思い切り突き刺さったハンマーを取ろうとそたのだが……。
「んっ……ぐ……くそ……!」
抜けないのだ。
床に思い切り突き刺さり過ぎたせいで、ハンマーは押しても引いてもビクともしない。
――よし! 上手くいった!!!
そして、これこそがハルマの狙っていた結果だった。
一体どういうことなのか、それはこれから解説しよう。
ハルマが狙ったのは『あるある』だった。
『あるある』、つまりはゲームなどで非常によくある展開のことである。
例えばやたらジジババに「お前さんはいい目をしている」と言われる主人公だったり。
何故かアポ無しでも当然のように会ってくれる王様だったり。
「あ、私ったらつい……」とか言ってめっちゃいろいろ話してくれるメイドさんだったり……とあげればキリがない。
んで、本来それは『ゲームの話』で終わりなのだが、この世界ではそうとも限らなかった。
実際この世界は結構王道RPG世界であり、故に『あるある』もそれなりに登場してきた。(異様に安い物価、アポ無し王様など)
だから、今回もそれが有効なのではないか? ハルマはそう思ったのである。
では、このダイン戦で有効なあるあるは何か。
RPG……に限らず、ゲームに置いてムキムキのパワータイプによくある『あるある』、それこそがこれ。
『武器が床に刺さって抜けなくなる』である。
実際大体のゲームの剛腕キャラはこれでチャンスタイムになる。
「ぐおおおおおおああああああ!!!!!」
さて、そんな訳で見事に『あるある』してくれたダイン。
必死に床からハンマーを引き抜こうとするが、なかなかハンマーは抜けない。
ならば今、この瞬間こそがハルマの攻撃タイム。
この千載一遇のチャンスを逃す手はない!!!
「……」
逃す手はない……のだが。
――どうしようか。
そもそも手段がないことに今更気づいた。
結構危ないことしてチャンスを作ったのはいい。
で、そのチャンスをどう活用するのか。
攻撃はしたって大して効かないだろう、回復は別に傷ついてないしそもそも出来ない。
……つまりチャンスであっても何も出来ない。
――そんな! こんなアホなことあるか!? これじゃあ何の意味もないじゃんか!!!
ハルマに出来ることと言えば精々エクスカリバーくらいだろう。
だがそれもただの太陽光による目眩まし。
それくらいじゃダウンも場外負けも狙えない。
ちょっと嫌がらせする程度である。
「うぬおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
と、こう考えている間にもハンマーは少しづつ抜けていってしまう。
これでは命懸けで作った隙も全て無駄。
ただのスリル体験イベントになってしまう!
――ああ、もう! こうなったらヤケだ! とりあえずエクスカリバー当てて、いろいろ試すしかない!!!
「くらえ! エクスカリバー!!!」
「――! ぐ、うあああ!!!」
さて、目眩ましは無事完了。
問題はこっからどうするかだ。
殴っても、蹴っても、突き飛ばして、斬っても特に意味はないだろう。
というか正攻法でダメージを与えようとするのが無理な気がする。
……膝カックンでもしてやるか?
――……いや、体格差が有り過ぎて無理だな。……なら、これでどうだ?
指をワキワキさせながら、コショッっとダインに触れる。
……つまりくすぐりである。
もう本当にこれくらいしか出来る事がな――
「ひっ! あっはっはっはっは!!!!」
「えええええ!?!?!? 効くの!?」
まさかの効果抜群。
ダインは異常なほどにゲラゲラ笑いながら眩んだ目で暴れまわり……。
「ああああああ!!!!」
勝手に場外に落ちた。
『勝負あり! 一回戦の結果は、アメミヤ選手の勝利です!!!』
「マジかよ!?」
ハルマ、まさかの一回戦突破である。
―控室—
そんな訳で、なんと過去3回優勝したことがあるというダインに勝利。
その結果に誰よりもハルマ自身が信じられない。
「いやー! チビ、お前なかなかやるじゃないか! 少し見直したぜ!!!」
「あ、えっと……」
「凄いね、ハルマ君! まさかダイン君に勝っちゃうなんて! これは期待の新人登場かな?」
「いや、その……」
「何、そう謙遜することはないよ。少年、君には誇る資格がある」
「……」
ホープやオルナはおろか、ダインすら大絶賛。
『最弱』がこんなふうな賞賛を受けることになるとは、世の中分からないものである。
多分観客席のホムラ達も驚いていることだろう。
「……さて、次はアタシ達の番だね」
「アタシ『達』?」
「あれ? アメミヤ君、トーナメント表見てないの?」
「え?」
ひょいっと渡されるトーナメント表、もちろんハルマはすぐに自分の名前を探す。
少しして見つけた名前を辿ると、一回戦の相手は確かに『ダイン』だ。
では、次の相手は……?
「『ホープ』……。……え? ホープ? ホープってホープさん?」
「そりゃそうだよ。次の相手、よろしく!」
「ぬえええええええええええ!?!?!?!?!」
……これはまた大変な戦いになりそうな予感である。
―二回戦―
『では、勝負開始!』
「それじゃ、アゲていくよ! ハルマ君!!!」
てなわけで、30分くらいの休憩を挟みホープとの二回戦開始。
ちなみに休憩中に聞いた話によると、やはりダイン、ホープ、オルナの3人はこの大会の常連のようだった。
ちなみに過去20回のうち、ダインの優勝回数は3回、ホープが5回、オルナが6回とのこと。
……なんでこう二度も優勝候補と当たるのだろうか。
なお、仮にこれに勝ち抜いてもさっきの表的に次の相手はオルナな訳でして……。
優勝など夢のまた夢な気がしてきていた。
「アル・フレア! アル・アクア!! アル・フーノ!!!」
「うおわああああ!!!!!」
さて、二回戦の相手ホープは先ほどのダインとは真逆の相手だ。
あっちはパワー重視の物理攻撃タイプだったのに対し、こちらは様々な属性入り混じる魔術攻撃タイプ。
再びハルマは逃げ惑うしかなかった。
ダインの攻撃ほどではないが、どちらにしろくらったら終わりである。
「ほらほら! 逃げてばかりじゃつまらないよ!!!」
「んなこと言われましてもねえ!?」
「そら! アル・エレク!!!」
「ひっ!」
勢いよく飛び込んでくる雷撃。
それをさっきの試合で結局抜けなかったダインのハンマーを盾にしてなんとか防ぐ。
……てか、これ刺しっぱなしなのかよ。
「さあ! さっきみたいな逆転劇、アタシにも見せてみてよ! ハルマ君!」
心底、楽しそうにホープはそう言う。
もちろんハルマに楽しんでいる余裕などはなかったが……だからって負ける訳にもいかない。
ケルト武術大会二回戦も、これまた面白い試合になる予感が漂っていた。
【後書き雑談トピックス】
なんで敵キャラは武器を抜こうとするのか。
諦めて素手で攻撃した方が効率良い気がするんだけどな。
次回 第46話「ケルト武術大会 参」
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