第46話 ケルト武術大会 参

「うおわああああ!!!!!」


「そらそらそら!!!」


 火炎、雷撃、暴風、水流。

 ホープの繰り出す魔術の連撃は留まることを知らず、ハルマはただそれから逃げるので精いっぱいだった。

 攻撃や休憩の隙なんて一切ない。

 というか、突き刺さったままのダインのハンマーを、時折盾にしているからなんとかハルマは逃げ続けられているのだ。

 もしこれがなければ普通にばてて攻撃を受けていただろう。

 加えてシックスダラーの一件による体力増加も逃げ続けることが出来ている理由の一つである。


「しぶといね。でも、いつまでそうやって逃げ続けてるつもりかな?」


「さあ……いつまででしょうね……!?」


「いつかは君に限界が来るよ。その前に手段、思いつかないとマズいんじゃない?」


 ――そんなこと……言われなくても分かってるさ!!!


 分かっている。

 分かってはいるのだが……どうすればいいのか。


 魔術は物理攻撃以上に隙が短いために、ハルマみたいな弱者が攻め入るタイミングなんてありはしない。

 さらに、飛び道具のように遠距離から攻撃してくるので、攻撃するなら距離を詰めないといけない。

 極めつけにホープは4つの属性を扱えるので、様々な状況に対応することも出来るのだ。


 要するに、ハルマはどうしようもなかったのである。


「さてさて、来ないならそろそろ決めちゃうけど?」


「ぐっ――!!!」


 飛び込んで来た火炎が腕を掠める。

 そろそろ体力も限界、それこそあと5分もすればまともにくらってしまうだろう。

 そうなれば……ハルマは一発で終わりだ。


 ――なにか、なにかいい方法はないか!?


 ダインの時のように、ハルマは脳をフル回転させ『あるある』を探してみる。

 まず思い浮かぶのは『反射』だろうか。

 RPGとかだと相手の飛び道具を利用してダメージを与える戦法はよく見る。

 ……だが、ハルマにはそんな手段はない。

 魔術の反射の仕方なんて知っているはずもなかった。


 他には『近接特攻』などだろうか。

 この手の敵は体力や物理攻撃は弱いことが多い。

 ……逃げるので限界なハルマはどうやって近づくのか。


 思いつかない。

 疲れ切った身体では頭もあまり回転してくれず、いつもの小賢しさも発揮出来ていなかった。


「アル・フーノ!!!」


「――! しまった!!!」


 吹き荒れる暴風。

 その勢いでとうとうダインのハンマーも床からすっぽ抜けてしまった。

 これでハルマを助けてくれる盾ももうない。

 まさに……絶対絶命だ。


「これでもう盾はなくなったね。体力も底をついてきたころでしょう? ……それじゃ、そろそろアタシの魔術を味合わせてあげようか!」


「マズい……!」


 クウェインの腕輪はマルサンクの戦いで壊れきってしまったから、あの時のように受け止めることも出来ない。

 ハルマの身に纏う服はバトレックスが特注してくれたものだが……それでも魔術を防げるような特別なものではなかった。

 つまり受ける方法すら存在しない。


「ここまで長期戦になったのは初めてだったよ。……まあ、君はずっと逃げていた訳だけど」


「……」


「でも、もうこれで終わりね!!!」


 振りかざされる右手。

 そこから放たれた魔術は、容赦なくハルマを――


 ――……、……?


 何も起こらない。

 炎も雷も水も風も、ハルマに向かってくることはなかった。


「……あれ? なんで……魔術出ないの?」


「いや、それは俺が聞きた――……待てよ? ……そうか、そういうことか!!!」


「!?」


 言葉の途中で、ハルマはホープの身に何が起きたのか気が付いた。

 そういえばこれもゲームにおける魔法使い系の弱点だった。


「魔力切れだ! ずっと魔術を使ってたから、魔力が全部なくなったんだ!!!」


 魔力切れ。

 RPGなどでは長期戦で起こりうる状態である。

 ゲームなどで魔法系の技は大体『MP』のような数値を消費して使用することが多い。

 これがなくなれば、もちろん魔術は行使不可。

 今ホープはまさにこの状態なのである。

 この世界の魔術事情に合わせれば……体内魔力である『オド』が切れたと言うべきか。


「今ならいける!!!」


「やば……! ちょっとマズいかも!?」


 これはハルマにとって絶好のチャンスだ。

 いくら脆弱なハルマでも、魔術が使えない魔術師が相手なら十分勝機はある。

 ハルマは一気にホープと距離を詰めながらいつもの技を放った。


「エクス……カリバー!!!」


「ぐっ……!!!」


 地味なようでそれなりに強力な目眩まし技、エクスカリバー。

 反射するのが太陽光なので、よっぽど目が強い奴でもない限り確実に効果がある。

 もちろんホープにもそれは同じで、思わず目を瞑ってしまっていた。

 その隙にハルマは勢いを殺さず体当たり。

 ダインのように屈強ではないホープは、そのまま押された勢いで場外に落ちてしまった。


「ぐふっ!」


『勝負あり! この勝負、アメミヤ選手の勝ち!!!』


「やったー!!!」


「……マジかー。これは恐れ入ったね」


 勝利!

 まさかまさかの、ハルマ二回戦も突破である!




 ―控室―

「いやー、凄かったね。果たしてオド切れを狙っていたのか、はたまた偶然なのかは分からないけど。そのどちらであっても凄いことだと私は思うよ」


「あ、ありがとうございます……」


「お前、本当はもっと大きいんじゃねえか? なんか特別な方法でチビになってるんだろ? そうでもなければ説明がつかねえぞ?」


「いや、だから大きい=強いではないでしょう……。あと、俺別に『強い』なんて感じでは一切ないと思うんですが」


「んん? 確かに……そういえばそうか」


 実際、ダイン戦も今回のホープ戦も『作戦勝ち』というものであって(ホープのは偶然だが)ハルマが実力で勝利した訳ではない。

 ハルマが今も『最弱』であることに変化はないのだ。


「だが、それでも誇るべきことだと私は思うよ。4年前のモラは『圧倒的な実力』を大いに見せつけたが……君はその正反対だ。『実力と勝敗は別である』ということを見せてくれた」


「! オルナさん!」


 オルナはまるで我が事のように喜ばし気な様子でハルマにそう言った。


「これだから戦いは面白い。さて、次はとうとう君との試合だ。私にも面白い試合をしてくれることを、少し期待させてもらうとしようかな」


「ははは……」


 そう、次のハルマの試合相手はオルナだ。

 ついでに何故か決勝戦、人数が噛み合わない気がするが……気にしてはいけない。

 三回しか試合がないとはいえ、まさか決勝戦まで行けると思っていなかったハルマは現状にかなり驚いていた。


「ハルマ君、オルナ君はかなり強いよ。彼は呪術の天才だからね」


「呪術」


「そう、呪術。ハルマ君って魔術適性はいくつある?」


「……ないです」


「え?」


「俺、魔術適性ないんです……」


「ない!? そんなことあるの!?」


 呪術は魔術適性の数で効きやすさが変化する。

 恐らくホープはそれに合わせてアドバイスをしようとしてくれていたのだろう。

 がしかし、残念ながらハルマの魔術適性は前代未聞の『なし』なのだった。


「そっか、ないのか……。うーん、それじゃあちょっと私もなんて言えばいいのか分からないな……。魔術適性なしって、呪術はどうなるの?」


「さあ……くらったことないんで。癒術はよく効きますけど」


「そうなんだ。じゃあやっぱり警戒すべきかもね。まあ、魔術適性がいっぱいあっても警戒はすべきなんだけど」


「その……呪術って具体的にどんな感じなんですか?」


 話には聞いているのだが、実際に受けたことはないのでどういうものかはまるで理解出来ていなかった。

 どうも普通の攻撃魔術とは違うようだが。


「簡単に言えば癒術の反対だよ。癒術は効果がある相手の体力を無条件で回復するでしょう? 呪術がその逆、効果がある相手の体力を無条件に消し去っちゃうのさ」


「!? それメチャクチャ強くないですか!?」


「そうだね。まあそのぶん普通の魔術以上にいろいろな方法で防げるんだけど。でもハルマ君にはそんな手段はないから、絶対くらわないようにしないとだよ」


「はい……」


「いい? 呪術は癒術と同じで相手に触れないと効果はないから、それを覚えておいて。普通の魔術みたいに遠距離攻撃はしてこないからね」


「了解です! ……てか」


「?」


「なんでそんなに応援して来るんです?」


 普通の疑問。

 なんでホープはこんなに初対面のハルマを応援してくれるのだろうか。

 ましてや相手は知り合いのオルナだというのに。


「別に? 自分に勝った人がには負けないでほしいってだけだよ?」


「あ、なるほど……」


「私に勝ったんだから、ちゃんと優勝してもらなわないと。それじゃあハルマ君、頑張ってね!!!」


「は、はーい……」


 微妙な責任感を背負いながら会場へ。

 これは負けてしまうと後が怖い、なおさら負けられなくなってしまった……。




 ―決勝戦—

 ボロボロだった戦場はすっかり綺麗になっており、既にオルナはその真ん中で立って待っていた。

 既に準備は万端といった様子。

 この人……落ち着いた顔して結構実は戦闘狂なんじゃないだろうか。

 例年のようにこの大会に参加しているらしいのも、その疑惑を裏付ける。


「ホープからいろいろ聞いただろうから、私のことはある程度理解出来ているんだろう?」


「へっ!? き、聞いてたんですか?」


「いや、そうではないけど……。彼女の性格は理解しているからね。彼女は少し変わった『負けず嫌い』なのさ」


「あはは……」


 負けず嫌いは自分の戦いに起用してください……。(出来ればそもそも使わないのが一番だが)

 何でハルマの戦いの方にそれを使ってしまうのか。


「まあ、だからといって負けるつもりは微塵もないがね」


「……ですよね」


「ああ、そうだとも。……では、そろそろ始めようか!」


『では、勝負開始!』


 響くアナウンスの声。

 ケルト武術大会決勝戦の火蓋が今、切って落とされた。




【後書き雑談トピックス】

 4年前もダイン達は参加しています。

 しかし全員あっさりとモラに倒されてしまいました。

 それくらいその年はモラの独壇場で、次の年から少し参加者の数が減ったとか。



 次回 第47話「ケルト武術大会 肆」

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