1章幕間 大好きの理由

 初めてだった。

 僕を見ても嗤わなかったのは、僕を見ても怒らなかったのは、僕を見ても恐れなかったのは、僕を見ても変な顔をしなかったのは……君が初めてだった。


 どうしてだろう、僕は昔から言葉が話せた。

 それは他のスライムには出来ない事なのに、僕には当たり前のことだった。

 呼吸と同じ、どうして出来ると言われても分からない。

 何故か喋れる。

 まあ、その代わりに僕はスライムの中でも弱かったけど。



 僕のこの喋れるというアドバンテージ。

 でもこれは決して『祝福』ではなかった、寧ろ僕にとっては『呪い』だ。


 モンスター達は僕を見て嗤うんだ、仲間外れにするんだ、怒るんだ、虐めるんだ。

 『人間の言葉なんか喋る変な奴』って嗤うんだよ。

 どうしてだろうね、スライムじゃないモンスターには喋る奴なんていっぱい居るのに。

 『お前だけが喋れるなんてズルい』って言うんだ。

 変だよね、僕は別にこの力を望んだ訳じゃない。


 人間達は僕を見て恐れるんだ、殺そうとするんだ、変な顔をするんだ、捕まえようとするんだ。

 『何故か人語を解するスライム』ってだけで僕を必要以上に怖がる。

 今まで何回死にかけたかな? もう覚えていないや。

 僕を怖がらない人は捕まえようとしてきた。

 お金になるんだって、研究するんだって。

 僕の言葉が分かるから、僕がどれくらい嫌がってるか分かるくせに。

 僕の声を聞いてくれやしない。



 初めてだった。

 君が初めてだったんだ。

 僕を見てなんとも思わなかったのは。

 僕に最初から普通に接してくれたのは、僕を最初から特別扱いしなかったのは。

 君が初めてだったんだ。


 だから、僕はそんな君を好ましく思って、そんな君を大好きになった。

 もしかしたら君は迷惑に思うかもしれないし、こんな僕の事は嫌かもしれない。


 でも、それでもいい。


 僕は君に好かれたい訳じゃないから、僕は君に愛されたい訳じゃないから。

 僕はただ君が幸せになってほしいだけだから。

 僕はただそれだけを、何よりも深く深く願う。



 ……ホムラちゃん、僕は君が大好きだよ。

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