2章 英雄と王者
第21話 おん・ざ・しっぷ えぶりでい Ⅰ
「はぁ……」
「……」
「ふぅ……」
「……、……」
船旅1日目。
ハルマは自室でツートリスで貰った剣を眺めながら、何度も思わせぶりにため息を吐く。
ジバ公は何度か無視していたのだが……。
「はぁぁ……」
「もう! 何だよ!?」
「おわ」
流石にうっとおしかった。
そのウザさはまさに耳元でプンプンいってる蠅の如く。
……この世界に蠅がいるのかどうかは不明だが。
「うるせえのお前! 『はぁ……』だの『ふぅ……』だのグチグチグチグチ! 言いたいことあるなら言えよ! 面倒くさい女かお前は!!!」
「その発言は女性に失礼では?」
「『面倒くさい』って付けただろ!? 別に全世界の女性に向けた発言じゃねえよ!!!」
いつも以上にジバ公の毒舌に磨きがかかる。
まあ、今回はハルマの自業自得なのだが。
「で!? お前は何が言いたいんだよ!」
「……うん、実はさ。欲しいものがあるんだよね」
「欲しいもの? それなら買えばいいじゃん、お前お金はいっぱい持ってるんだろ?」
「世の中には金で買えないものもあるんだよ、ジバ公」
「……何が欲しいんだよ」
どうにも……今日のハルマは若干面倒くさいムーブが掛かっている。
もう無視してやろうかともジバ公は思ったが、この状態のハルマがホムラに絡むことを想定し断念。
ウザいの嫌だが、自分のせいでウザイのが好きな人に流れるのはもっと嫌だった。
「俺が欲しいもの……それはな」
「それは?」
「……必殺技」
「……は?」
無駄にシリアスな雰囲気を作ったかと思えば……出てきた言葉は嫌に子供っぽい。
子供嫌いだとか言っている人間の言うセリフではない気がする。
もうこの時点でジバ公はそっと居なくなりたい欲が限界を突破していた。
「いや、だから必殺技だって。こう、ここぞというところで使う決め技、大技のことよ」
「必殺技が何かくらいは分かってるわ!!! 今の雰囲気の中で、その言葉が出てきたことが驚きなの!!!」
「そうか? 男なら誰しも憧れるものだと思うんだけど?」
「謝れ! 全世界の男に謝れ!!!」
微妙に噛み合わない会話。
改めてハルマがズレている事をジバ公は再認識するのだった。
「そんな酷いことは言ってないだろ!? 俺の地元じゃ、『10万■ルト』とか『かめ■め波』とか『ア■ンストラッシュ』とか『インビ■ブル・プロヴィ■ンス』とかみたいに必殺技なんて一人に一つ、当然のようにあるんだぞ!?」
「知らねえよ! あと例えも一つも分からないんだけど!?」
「……とにかく! 俺も俺の必殺技が欲しいのだよ! その技を聞いた瞬間、俺の顔が思い浮かぶような必殺技が!!!」
「……」
当然のようにかつ、一切恥じる様子もなくハルマはそう断言する。
一体この思考はどこから湧いてくるのか。
「……お前はまず『必殺技』以前に基礎がなってないだろうが。何でまともに剣を振る事も出来ない奴がそんなこと言ってんの?」
「……う。まあ、そこは後々なんとかするよ」
「必殺技の方を後々なんとかしろよ!?」
「よし、必殺技会得の為にまずは情報収集だな! ジバ公、お前はなんか必殺技とかある?」
「話聞け!!!」
どうもハルマの耳には雑音(という名の聞きたくないこと)を弾く、ノイズキャンセリング機能が付いている様子。
もう当然のようにジバ公の正論は無視してくる。
「で? ないの?」
「ある訳ないだろ!? あったらこんなに反論してねえし!!!」
「そっか、つまんねえ奴」
「はあ!? え、何!? 僕が悪いの!?」
「しょうがない、じゃあレオ船長に聞いてみようかな」
「おい、ちょっと待て!!! 今の反応は何だ! おい!!!」
ジバ公の怒りは相変わらずキャンセリングされながら、二人はレオ船長の下に向かって行った。
―食堂―
さて、10分程の捜索の末、二人はレオ船長を発見。
レオ船長はちょうど食堂でお昼を食べているところだった。
「あ! レオ船長! ちょっとお話良いですかー?」
「ん? 別に構わねえよ? 何か用か?」
「はい、ちょっと聞きたいことがありまして」
ハルマは頭にジバ公を乗っけたまま、スッとレオ船長の前に座る。
そして真面目な雰囲気のまま、当然のようにあの事を質問した。
「レオ船長って必殺技とかあります?」
「……ん?」
「ですよね! 普通そういう反応になりますよね! 僕がおかしい訳じゃないですよね!!!」
流石のレオ船長もこの質問にはすぐに答えられなかった。
ジバ公はそんなレオ船長を見て一人心底安心するが、ハルマはもちろんそんなジバ公は気にしない。
「……ちょっと待ってくれ。必殺技……必殺技か……」
「いや、そんな真面目に答えなくて大丈夫だと思いますよ? コイツの訳の分からない妄言なんで」
「ジバ公、静かに」
「だから何でお前は僕がおかしいみたいに言うのかな!?」
二人がワーワーとコントみたいなことをしている前で、レオ船長はしばし考え込む。
が、しばらくしてハッと何かに思いついたようだ。
「必殺技……と呼べるほど崇高なものかは分からねえけど、一応操船技術になら自信があるぜ。上手いこと船を操縦してこっちの被害が最小限で済むように、モンスターやら海賊やらを追い払うのさ」
「おお! かっこいい!!!」
「……何だ、兄ちゃんもしかして必殺技が欲しいのか? なら、俺から一つアドバイスでも出してやるか。いいか? 必殺技を作るコツは『自分の特徴をよく理解する』ことだ。そしてこれをいい感じに発展させていく。これが必殺技会得の鍵だぜ」
「――! ありがとうございます!」
「どういたしまして。まあ、頑張るんだな」
「はい!」
「あれ!? なんかレオ船長もハルマ側な感じなの!?」
微妙に疎外されていることにジバ公は疑問を感じたが、それに対する答えは返ってこない。
何故なら、返事を聞く前にハルマは食堂を出て行ってしまったからだ。
―船の甲板―
そんな訳で二人は甲板へ。
サンサンと降り注ぐ日光の下、必殺技特訓開始である。
「そっか、『特徴を理解する』かぁ……」
「ハルマの特徴って何? 『最弱』とか? それどういう必殺技よ?」
「いや、他にもあるだろ? 俺の特徴」
「……え? 何?」
「……」
アドバイスに従って特徴を探すが……『最弱』が印象深過ぎて何も他に出てこない。
……いきなり行き詰った。
「いや、待て待て。なんかある、なんかあるはずなんだ。だから特徴は後からどうにかしよう」
「早速アドバイス放棄!?」
「問題ない。何故なら俺はもう一つ技を考えてしまったから!」
「早!?」
ふっふっふと笑うハルマ。
なんとなーくジバ公は嫌な予感がしたが……とりあえずは見てやることにした。
「で? どんな技?」
「ふふふ、聞いて驚け見て笑え! 名付けて『ローリングサンダー』だ!!!」
「微妙にダサいな、おい!」
何とも言えないネーミングセンスを発揮ししたハルマは、剣を手に取り――回転。
駒のようにグルグルと回りながら剣を持って近づいてくる!!!
「ど、どうだー! これならー! 反撃も出来ないーだろー!?」
「いや、うん、まあ、そうだけど……」
「どーしたー!?」
「……」
「? なんで黙――、……、……!」
突然沈黙するハルマ。
そして回転の勢いはどんどんと弱くなっていき……止まった。
そしてハルマは……。
「お、おぇぇぇぇええぇぇぇえぇぇぇぇ……」
回り過ぎて気持ち悪くなっていた。
「凄いよ、僕は今究極の馬鹿を見ているよ。こんなのを必殺技にしようとかマジで何考えてるんだよ」
「はぁ……はぁ……。うっかりしてた、大事なところを見落として――うおぇぇえぇぇ……」
「頼むから吐くなよ? あと、『見落としてた』のレベルじゃないからな?」
必死に吐き気を抑えるハルマ。
そんなハルマにもはや憐みすら抱き始めたジバ公だったが……ハルマはこの程度では、めげない、しょげない、諦めない。
「大丈夫だ……次の技は……成功するはず!」
「まだあるの!? もういいよ!!!」
「そんなこと言うなって! 凄いから本当に!!!」
「……」
ここでジバ公が逃げたら、これを見せられるのは誰か。
十中八九ホムラだろう。
……ジバ公、逃走を断念。
「……どんな技?」
「ふふふ、腰ぬかすなよ? その名も『エクスカリバー』という技だ」
「……」
相変わらずのネーミングにはツッコみは放棄し、ちょっとはまともな技であることを祈りながらハルマの技を待つジバ公。
そんなジバ公に向けて、ハルマは剣を逆手に構え腰を低く捻る。
そして――
「エクス……カリバー!!!!!!」
「うおわ!?」
剣を切り上げる!
瞬間、ジバ公を眩い光が包み込む。
思わずジバ公はその眩しさから目を瞑ってしまった。
――嘘だろ!? 急に技の完成度上がり過ぎだろ!!!
続いて、一体どんな攻撃が来るのかジバ公は恐れながら待っていたが……。
「……、……、……あれ?」
追撃が来ることはなく、結果光だけで技は終了した。
「……終わり?」
「うん。剣で良い感じに太陽光を反射して相手の目を眩ませる技。それがエクスカリバーだからね」
「ダッサ!!! いくらなんでも名前負けし過ぎだろう!?」
……こうして、ハルマは新必殺技『エクスカリバー』を会得したのだった。
【後書き雑談トピックス】
ハルマは多分若干の中二病。
子供っぽい人嫌いなくせに、本人が子供っぽい。
次回 第22話「おん・ざ・しっぷ えぶりでい Ⅱ」
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