第113話 刀神村正、再び
のちに伝説となる地獄の焔祭りから早3日。
腹痛、頭痛、吐き気……など様々な症状に襲われながらも、テンガレットの街はようやく復興の兆しが見え始めてきていた。
「魔王に襲撃された『雪の集落』はその日のうちに復興し始めたのに、こっちは3日も掛かるって一体どういう事なんだろうか……」
「そりゃお前。そんなの単純にホムラちゃんの地獄3連撃の方が、魔王の襲撃より3倍被害がデカいってことだろ」
「なにそれ、怖い」
遠い目をしながらやけに冷静に分析するジバ公。
いや、ホントに。完全復活した訳ではないとはいえ、一度世界を滅ぼしかけた魔王の3倍の被害とかマジでどうなってんだろうか。もうここまで来ると、下手とか不器用とかそんな次元ではない気がするのだが……。
「……もしかしたらなんかの呪いでも掛かってんじゃないのかな。俺的にはどうしてもシラフであれっていうのは理解出来ないんだけども」
「ところがどっこい。悲しいことにそんなことはなかったよ」
「マジか。……てかジバ公お前、なんで呪い掛かってないって知ってるんだ?」
「僕もあんまりにも不思議だったもんだから昨日調べた」
「……そうか」
そして結果は健康だった……と、いうことか。
つまり、ホムラの呪いじみたメシマズ、芸術家、音痴はやはり素でそうなっているらしい。……ぶっちゃけ、ハルマ的には何かに呪われていると言われた方がよっぽど気が楽だったのだが、そんな救済措置はなかった。
「やっぱり、ちゃんと本人に伝えて矯正するべきなのかな……」
「そうかもしれないけど……。その場合……僕達は何回死んだら良いんだろうな」
「さあ……」
それが割と本気で冗談じゃないのだから笑えない。
こうして、ハルマとジバ公はいつか訪れるかもしれない地獄を前に、死んだ目をして憂鬱な気分に堕ちるのであった……。
某書記ちゃんもこんな気持ちだったのだろうか。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「アメミヤさーん、郵便です」
「あ、はい!」
と、そんな風に憂鬱な気持ちになっていたその時。ハルマ当てに一通の手紙が届いた。
「手紙? お前、誰かと手紙でやり取りなんかしてたのか?」
「……おい、ジバ公。お前だけはこれを忘れちゃダメだろうが」
「え?」
「ムースさんだよ! エイトスの!」
「……ああ! あの村正の! お前、ちゃんと律義に手紙送ってたんだ!」
「当たり前だろ!? 無視なんかしたら何言われるか分かったもんじゃない!」
「……」
エイトスのムース、とはハルマ達が前にエイトス山脈街で出会った女性の事だ。
彼女の本名は『ムース・ライ・エイトス』と言い、その名前から分かる通り天恵苗字……つまり『加護』を持っている。その『加護』は『剣聖』であり、その力は持ち主と共に成長する生きた剣を作ることが出来る、というものだった。
そして以前は紆余曲折あって、そんな彼女に鉱石採集を依頼されることになったのだが……結果は失敗。そんな訳でハルマは彼女に『新しい街に着くたびに手紙を送れ』と言いつけられてしまった、という訳なのである。
「お前らは気づいてなかったのかもしれないけど、俺はちゃんと毎回街に着くたびにこれやってたんだからな? ……ホント、あの時お前が余計なこと言わなければこんなことに……」
「いや、だからあれは僕が悪いっていうのもおかしいだろ。……まあ、それはいいとして。それで? 結果は何だって? てか、お前字書けたっけ?」
「もちろん書けないよ。書けないから適当に地図に丸付けて送ってた。まあ向こうも〇か×が書かれた紙を一枚送ってくるだけだったし」
「ええ……。なにそのすげえ雑な文通……」
まるでヴィクトル・ユーゴーの世界一短い手紙みたいなやりとりをしているハルマ達にジバ公は呆れつつも、ハルマと一緒に送り返された手紙を覗き込む。
さて、そこに書かれていたのは……、
「……〇が、書いているな」
「……だな。……ん? つまり?」
「ここに鉱石があるってことじゃねえの?」
「……マジか!!!」
なんと、ついにハルマ達はエイトス以来に鉱石スポットに辿り着いていたのだった。
△▼△▼△▼△
と、いう訳でハルマ達はすぐさま宿に戻ってホムラ達にも報告。
その後、同封されていた(雑な)手紙を読んだ結果、目的の鉱石はテンガレット活火山にあることが判明した。
「……え、またあそこ行くんですか。それは間違いではないんですよね?」
「うん、そのはずだよ。この手紙にも『大火山、赤、3』と書かれているしね」
「……いや、まあ言いたい事は分かるんだけどさ。いくら何でも雑すぎね? 暗号かよ」
「……まあ、確かにそれはそうだね」
と、ハルマの発言に対し、苦い笑みを浮かべるソメイ。
どうやら、流石の彼もこの雑さ極まる手紙にはなんとも言えなかったようである。
「……ま、とりあえず私達はテンガレット活火山に行って、赤い鉱石を3つ取って来れば良いんでしょう?」
「そだね」
「なら、今度こそはしっかりと成功させないとね。ま、流石に2回も変な邪魔が入るなんてことはないと思うけど」
「ホムラ、それフラグ」
「え?」
「……」
なんか、ホムラの発言で一気に凄い不安になったが……。
まあそんな訳で、ハルマ達は今度こそ村正を復活させるべく、赤い鉱石を求めて再びテンガレット活火山に向かうのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
と、いう訳でしばし歩いて再びテンガレット活火山に到着……したのだが、
「あー……暑いー……。ホント、なんで……こんな無駄に……」
「……」
以前までのハルマのようにシャンプーはもう既にバテバテであった。
まあもうここまで何度も見てきたが、どうやら本当にシャンプーは暑いのが苦手らしい。てか、シャンプーバビロニア以降ずっとこんな感じな気がする。
「シャンプーってやっぱり結構暑がりな感じ?」
「へ? ま、まあ……そうですかね……。でも、どっちかっていうと……私、そもそも暑いのに慣れてないんですよね……」
「……そっか。そりゃ、あんな寒い所にずっと住んでたら当然か」
そう、そもそもシャンプーが元々住んでいた『雪の集落』は、1年中雪が降るような極寒の大地なのである。なら、そこで育ったシャンプーは当然寒さには強くでも、暑さには弱いに決まっているだろう。だってずっと冬なんだし。
「ホント。改めて、慣れってのは怖いな……」
実際、同じ人間同士でも全然違う特徴を得たりするのだから驚きである。
まあそんなこと言ったらハルマも最近は『異世界慣れ』してきたせいで、若干元の世界の雰囲気がなくなってきているのだが。
「もう自転車とか随分乗ってないな……。……てか、今もまだちゃんと乗れるのかな」
……仮にも高校の生徒会長(代理)が自転車に乗れないというのはかなり恥ずい。
ホントの事を言うと、実はちょっと前まで乗れなかったのだが。
△▼△▼△▼△
さて、そんな訳で雑談を交わしながらも、一行は無事にテンガレット活火山に出来た洞窟にまで到着。どうやらムースの手紙によると、赤い鉱石はこの奥に存在するらしい。
「また洞窟か……。なんだろう、前回とパターンが同じで凄い嫌な予感がする」
「……あれだね。次にまた邪魔するモンスターが居たら、今度は戦うことも念頭に入れるべきだと思う。そうでないと最悪前回のように騙されかねないからね」
「だな」
もちろん前回のあの屈辱はハルマも未だに忘れてはいない。
故にこそ、今度はそんな失態を犯すまいと用心しながら一行は洞窟の奥に進んでいったのだが……やはりそこには、案の定な結果が待っていた。
視線の先にある目的の鉱石。
しかしその前には、何やら微妙に見覚えのある背中が行く手を阻んでおり……。
「……おい、どうなってんだ。前にもこれ見たぞ」
「あれかな……。同じような鉱石だから、同じようなモンスターが寄り付きやすいのかもしれないね」
「……なるほどね。で、どうする? 一応、話はしてみるか?」
「まあそうだね。いくらなんでも、いきなり戦闘はマズいだろう」
まあ、何か変な交渉をしてきたら即戦闘に移行するのだが。(なおハルマはやはり戦えない模様)
と、いう訳でハルマ達はモンスターが変な事を言い出さないことを祈りながら、背中を向けるモンスターに話しかけた。
「えっと……ちょっといいか?」
「……ん? それは、私に御用ですか?」
「あ、うん。そうそう。ちょっといい?」
「良いですよ。さて、一体何の御用でしょうか? 旅人さん」
と、やけに冷静で落ち着いた口調で話しながら、前回のゴーレムにそっくりなゴーレムはこちらに振り向く。
どうも同じゴーレムでも知能や性格には個人差があるらしい。このゴーレムは前回のとは違って、かなり理知的な雰囲気である。これなら今回は上手くいくかもしれない。
「あのさ、そこ鉱石が生えてるだろ? 実はそのうちのさ、赤いのが3つ欲しくて……。出来たらちょっとそれだけ採取していいか?」
「ふむ……まあお話は分かりました。ですが、ここは私が最初に見つけた場所、分けるにしてもタダでとはいきませんね」
「……そこをなんとか、とはいかない?」
「無理ですね。こう見えて私、強欲なものでして」
「……」
どっちかっていうと見た目は悪者っぽい強欲そうな見た目だよ、とハルマ達は思ったが、流石にそれを口にすることしないでおいた。言ってもなんも良いことないし。
がしかし、どうやら残念なことに結局今回も一筋縄でいかない様子。さて、今回は一体どんな面倒が待ち受けているのか……。
「ではこうしましょう。誰か一人、私と戦って勝ったらここの鉱石を好きなだけ分けましょう。ただし私が勝てばここの鉱石は私のものです」
「……え? それでいいの?」
「? 構いませんが?」
「マジか! ラッキー!!!」
「?」
と、まさかの提案に喜ぶハルマ。
まあ、最初から最悪の場合は強引に戦うつもりだったハルマ達だったのだが、なんと向こうからそれを提案してきてくれた。
そのおかげで、これならこちらも特に後ずさりなく力技で押し切れるというのもの。なおもちろん戦いにしっかりと勝つことも大事だが、それならこっちにはいくらでも勝機がある。なんせ、
「こっちには賢者に、騎士王に、英雄の子が居るんだからな! ……てか、今改めて思うと、結構ヤバいなこのパーティ」
「ホントだよな。さらにそこに最弱も加わるんだからまさにピンキリってやつだよ」
「……戦闘力に関してはお前も大して俺と変わらんだろうが、喋るスライム」
ジロリとジバ公を睨みながらハルマはしっかりと反論。
まあ悲しいことに大差ないとはいえ、戦うとギリギリハルマが負けるのだが。
「……ま、それは今は考えないようにしよう。さて、それじゃあソメイ悪いけど一発ぶちかま――
「待って!」
「え? どったのホムラ?」
「えっと……その、戦うの私にやらせてもらえないかな?」
「へ? いや、まあ別に良いけど……何で?」
「特に難しい理由はないんだけど……せっかく新しい技を覚えたから、使ってみたくて……」
「あー……」
まあ、その気持ちは分らなくもない。
実際ハルマも、ゲームでは新キャラや新技を特に適している訳ではないと分かっていても、とりあえず最初の方は使用しまくっていたし。
「分かった、じゃあ今回はホムラに任せるよ。ソメイもそれでいい?」
「ああ、もちろん。では頼んだよ、ホムラ」
「うん!」
てな訳で、ゴーレムと今回戦うのは新技を覚えたばかりのホムラだ。
見た目だけで言えば鋼っぽいゴーレムには、炎が得意なホムラは有利なんじゃないだろうか。タイプ相性がこの世界にも生きているのは不明だが。
「ほう、貴女が相手ですか。ですが、お嬢さんが相手だとしても手加減はしませんよ? 私も食事が掛かってますからね」
「もちろん全力で構わないわよ。こっちも全力で行くから!」
「ほう……。……ふむ、それは期待してしまいますね」
フフッと笑いながら、ゴーレムはサッと構えを取る。
そしてしばし両者は睨み合った後に――
「――ッ!」
次の瞬間、速攻で戦いを始めた。
「痛――!」
まず先行を取ったのはゴーレム。
ゴツい身体つきの割りに素早く動き回るゴーレムは、高速でヒット&アウェイを繰り返しホムラにダメージを与えていく。
「ふふふ。私が見た目的に鈍重だと判断しましたか? それならば残念、私案外素早いんですよ?」
「みたいね! ……でも、私の新技の前には関係ないわ!」
「……なんですって?」
「だって、早く動くっていうのなら……逃げ道全部攻撃すれば良いだけのことだもの!」
「はあ!?」
なんとも脳筋なホムラの理論には、さしものゴーレムも困惑気味。……まあ使うのは魔術なので脳『筋』ではないかもしれないが。
まあ、とにかく。なんとも強引な作戦だが、実際その通りでもある。そしてホムラの青炎は事実それは可能にしてしま――って……ちょっと待て。
「はあああああ……」
「いけー! ……って、ちょ、ホムラ……? それはいくら何でもデカすぎるんじゃ……!?」
某元気の玉の時みたいなポーズで、ホムラは両手の先に青い炎の塊を形成していくのだが……そのサイズが少し大き過ぎる気がする。
こないだウダッツ達に使った時はドッチボールくらいのサイズでも、かなりの高威力を発揮したのだ。なのに今回ホムラが作り上げた青炎はダイエットとかに使うバランスボールくらいのサイズにまで成長している。
これはちょっと……マズいのでは!?
「その大きさは流石にヤバ――
「おりゃー!!!!!」
「え!? ちょ!? ぐおあああああああああああ!!!!!!!!」
「ゴーレムー!!!!!!!!!!!」
がしかし、ホムラはそんなことはお構いなく巨大青炎を容赦なく発射。
結果、言われた通りゴーレムは逃げ場をなくして炎に呑み込まれてしまった。無念、ゴーレム。まさかなんとなく強キャラみたいな雰囲気を醸し出していたというに、5分も戦うことが出来ないとは……。
「……って、ゴーレムの心配してる場合じゃなかった! ちょっとホムラ! いくらんでもこれはやり過ぎだよ!!!」
「え?」
「こんな高火力でぶっ放したら――!!!」
と、ハルマがその先を言う前に、その答えが目の前に広がる。
激しく燃え盛った炎の先、そこにあったのは真っ黒焦げになったゴーレムと(一応まだ生きてるっぽい)、同じく真っ黒焦げになった……、
「鉱石まで焼けちゃうじゃないか!!!」
「あ」
お目当ての鉱石が並んでいた。
「……あー、これは……。もう、完全にダメだね。ただの炭みたいになっている。いやはや、石を炭にするとはなんとも凄い火力だよ……」
「感心してる場合か! これどうすんのさ!!!」
「……うーん」
ソメイは暫し悩むが、答えは探したってありはしない。
残念なことに、ホムラのスーパー大火力は洞窟を余すことなく焼き尽くし、見事に全ての鉱石を炭に変えてしまっていた。結果、目的の赤い鉱石はおろか、違う色の鉱石もしっかり全滅である。
そして、まあもちろんのこと鉱石はここ以外では取ることは出来ない。……つまり完全な詰みである。
「……ホムラ」
「……、……てへっ」
「『てへっ』じゃねえよ!!!」
こうして、調子に乗ってしまったホムラの失敗により、ハルマ達はまたもや鉱石を採取出来なかったのであった……。なお、後日ハルマはムースに手紙越しでメチャクチャ嫌味を言われるのだが、それはまた別のお話。
【後書き雑談トピックス】
ハルマは文字読めないので手紙の内容は分からなかったけど、筆圧と雰囲気だけでメチャクチャ嫌味と文句が書かれていることだけはよーく理解出来たそうな。
次回 第114話「誓いの花園」
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