第121話 海の冒険の始まり
「……」
今まで、ハルマは3人の王と出会ってきた。
見た目も言動もまるっきり子供なのに、どこか大物感が漂う覇王アラドヴァル。
人ならざる雰囲気を纏いながらも、底抜けの優しさも感じる聖王ロンゴミニアド。
一見遠く離れた存在のようでありながら、妙に一般人じみた森王エンキドゥ。
と、このように今までの王も3人が3人ともそれぞれ特徴的な存在感があったが、それでも3人は決して近寄りがたい『威圧感』のようなものまでは持ってはいなかった。
……だが、今回は違う。
今、ハルマ達の目の前に居る王、海王トライデント。
彼は今までの王にはなかった重厚な『威圧感』を、これでもかと言う程に纏っていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……、……」
「……どったの、ハルマちゃん」
「あ、いや、その……」
厳粛な雰囲気溢れるトライデントを前にごくりと唾を飲むハルマ。
そんな彼をヘルメスは不思議そうに覗き込む……が、どうやらその表情から内心をすぐに察したらしく、彼の表情は一瞬で『これは少し面白いものを見た』とでも言いたげな顔へと変わった。
「あ、なるほど。……さてはハルマちゃん、もしかして王にちょっとビビってる?」
「はい」
「……あら、えらく素直に認めたね。僕はてっきり『そんな事ない!』って言うかなと思ったんだけど」
「そういうのは俺らのなかじゃジバ公が担当ですよ。俺は辛い時は辛いっていうし、怖い時は怖いって言います。どうしようもないくらい自分に正直なんでね」
「おいこら、誰が自分に嘘つきなスライムだ」
ハルマの発言に対し不服そうな表情をしながら文句をいうジバ公。しかしその文句をサラッと無視するハルマに、ヘルメスたちは小さな苦笑を浮かべる。
「……ま、ハルマちゃんがビビるの無理はないかもしれないけどね。なんせ王も昔はいろいろとやらかしてたらしいですし?」
「ヘルメス、誤解を招く言い方をするのはやめないか。いや、まあ確かに事実昔はそれなりにあれではあったが……」
自身の過去を思い出して恥ずかしくなってきたのか、トライデントは徐々にもにょもにょと口ごもっていく。
その様子にハルマは、彼が過去に一体何をやらかしたのか気にならない事もなかったのだが、流石にそれを今聞くのはやめておいた。だって、いくらなんでもついさっきまでビビってもじもじしていた奴が、急に『え?昔、何やらかしたんですか?』なんて聞くのはいろいろとマズいだろう。
流石にハルマもそこまで空気が読めない人間ではない。
「……ま、まあ私の過去の話は良いとしましょう。それよりも今は早く本題に入るべきかと」
「あ、はい」
「ええと……まずはなのですが。アメミヤ殿達がどのような理由で国々を旅していて、そして何故我が国に来たのかはもう既に我々は把握しております。その辺りはご安心ください」
と、やけに話が早いトライデント。どうやらその感じからして、彼もまたエンキドゥやロンゴミニアドと同じく既にハルマ達の事は話に聞いていたようだ。
……まあ、覇王国や聖王国での件はともかく、森王国に関しては割と本気で救国に活躍したので、流石にある程度有名になるのは仕方がない事ではあるのだが。
(まあそれ以前にアラドヴァルのおしゃべりも結構原因ではあるのだけど)
「一応、確認いたしますと。我々の聞いたところでは、アメミヤ殿達は魔王に憑依されたホムラ殿の兄上を追っていて、その故に魔王が訪れそうな国や街……即ち、『オーブを所有している国や街』を旅の目的地として巡っている。……と、伺っているのですが、お間違えありませんかな?」
「はい、それで問題ないです」
「それは良かった。それならば皆さまが我が国にいらっしゃた理由も我々の思っていたとおりでしょう。……で、早速結論から申し上げるのですが、残念ながら魔王はこの海王国には訪れてはおりません」
「そう……ですか」
申し訳なさそうにトライデントから語られた事実に、ハルマ達……とくにホムラは目に見えて落ち込んだ様子を見せる。
だが、まあ来ていないものは来ていないのだからしょうがない。それはトライデント王やヘルメスにはどうしようもないことであり、彼らに何か文句を言うのは筋違いというものだ。
「……さて、まあじゃあ来てないならしょうがないな。アイツは今回は俺達よりも大分先に進んでるはずだから、いつ間にか追い抜かしてるなんて事もないだろうし。……で、どうしようか? さっき着いたばっかりだけど早速次の国を目指す?」
「そう……だね。僕も出来ることなら少しゆっくりしていきたい所ではあるけど、残念ながら今はそんな風な事を言っている余裕は僕達にはない」
「……それに魔王がこの海王国をスルーしたという事は、つまり奴は確実に天王国には現れるという事です。なら、私達もなるべく早くそこに向かうべきかと」
ハルマの質問にソメイとシャンプーがそれぞれの意見を返す。が、それはどちらも『早く追うべき』という主張はどちらも同じものであった。
加えてホムラとジバ公も特に反対するつもりはなさそうな様子。ならばもう悩む必要はない。
まあ強いて言うなら、今さっき着いたばかりなのに早速出ていくというのは少しトライデント達に失礼なような気もするが……。もうそればかりは、今度アラドヴァルも絶賛する腕前の持ち主であるハルマが、お手製のお茶何かをご馳走するからという事で何とか許して頂きたいところだ。
(なお、もしそうなったら王様お茶会約束リストが更に増えることになるのだが)
とまあそんな訳で、着いて早々なのではあるが早速次の目的地として天王国を目指そうとし始めていたハルマ達。ところが――、
「ああ。お待ちください、皆さん」
「え?」
その途中で、何故かトライデントに止められてしまった。
……やはり、こんなに早く出ていくのは少し問題があったのだろうか。
「実はその、話にはまだ続きがありましてな」
「あ、そうだったんですか。すみません、早とちりしちゃって。……それで? その、続きって言うのは?」
「はい。その、先ほど私は皆さまに『魔王はこの海王国には訪れてはおりません』と言いましたね」
「ええ、はい」
「それは確かに事実です。ですが……恐らく魔王はこのバルトメロイ海域には居ると思われるのですよ」
「え? ……すみません、それはまたどうして?」
海王国には魔王は来ていないが、バルトメロイ海域には魔王が居る。
一体何故彼はそう思ったのかまるで分からないハルマ達は、トライデントの言葉にただを目を白黒させることしか出来なかった。
だって、そうだろう。魔王、即ちアルマロスはオーブを探して世界を周っているのだ。なのに何故オーブがあるはずの海王国には現れず、そこらの海に現れるというのか。
まるで訳の分からない話にただただ混乱するハルマ達。
しかし、その混乱は次にトライデントの一言ですぐに消え去ることとなる。
次にトライデントがハルマ達に向けた言葉、それは――
「……」
「トライデント王?」
「その……どうか、驚かないでいただきたいのですが」
「はい」
「実はですね。この、海王国のオーブは……この城にはないのです」
「……、……え?」
今までの常識と認識を全てひっくり返してしまうような、あまりにも衝撃的なものであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「オーブが、ない……? それは、その、どうしてなんです!?」
今までの常識を覆す一言に、驚きを隠しきれないハルマ達。
そんなハルマ達に対しトライデントは、神妙な顔つきをしながらもその訳をゆっくりと説明し始める。
「その……アメミヤ殿はご存じかどうかは分かりませんが。実はこの海王国は以前、大きな脅威に襲われたことがありましてな」
「――! あの。それってもしかして、この海王国が海底の国になった理由の……ですか?」
「おや、ご存じでしたか」
「はい。それならここに来るときにヘルメスさんから」
確かヘルメスから聞いた話だと、海王国周辺で幾度なく事件を起こした奴をある時見事捕縛したのだが、その数日後突然謎のパワーアップを果たしまさかの大逆襲。結果、海王国は国の維持と安全の為、城を海底に沈める事を余儀なくされた……といった感じだった。
……正直、ハルマからすれば『海に沈めた方が危険じゃね?』とも思うのだが、まあそれは異世界と元の世界では常識が違うので今は触れないでおく。
多分、魔術かなんかの影響で海の中の方が安全になるんだろう。きっと。
と、まあ今はそんな事はどうでも良くて。
現状大事なのは国を襲った奴の方だ。どうも話の流れからして、この一国をたった一人で滅ぼしかけたとかいう恐ろしい逸話をもったソイツが、この国にオーブがない理由と関係しているようなのだが……。
「それは話が早くて助かります。……それならばその者によって我が国は一度壊滅寸前まで追い詰められたという事も既に聞きましたかな?」
「はい。それもさっきヘルメスさんから聞きました。……って、もしかして?」
「……はい、その『もしかして』です。実は、我が国のオーブはその騒動の際に騒ぎに巻き込まれてしまったのか、その頃を境にいつの間にか国からなくなっておりまして……」
「……!」
「……果たして、それはその者に奪われてしまったからのか、はたまたドタバタとしているうちに失くしてしまったのかは定かではありません。ですが、どちらにせよ紛失してしまった事は同じ。もちろん我々はこれまでもオーブの捜索はずっと続けていたのですが……、その、見つかる可能性のある範囲が広いわりにはどうしても手掛かりが少なくて……」
「……」
と、重く沈痛な表情心底で申し訳なさそうに事実告げるトライデント。
その雰囲気からは強い強い罪悪感が感じられたが、ハルマ達はオーブが見つからない事に関してはもうしょうがないようにも思えた。
だって、そうだろう。
そもそもの話、いくらある程度範囲が絞られているとはいえこの広い海の何処かにあるオーブを探し出せなんてのが、根本的に無茶な話だ。
おまけにオーブは大きさも野球ボールほどのサイズでしかなく、さらには某願いを叶えてくれるボールのようなレーダーだってもちろんありはしない。
そんな劣悪な状態で、オーブを見つけ出すなんて事出来なくても無理はないだろう。
――だが、
「……これらは全て私、この海王国を管理する者の責任です。いくら大きな騒動があったとはいえ、魔王の封印に関わっていたものを紛失してしまうなんて……」
その程度の事では、彼の罪悪感を薄くする足しにはならないようであった。
その証拠に彼の表情にはやはり、どうしようもなく重苦しい感情がしっかりと浮かび上がってしまっている。
「……すみません、取り乱してしまい大変失礼いたしました。……ともかく、理由はそういう事です。流石にどこにあるのか分からないとしても、魔王は恐らく危険を冒して天王国のオーブを強奪するよりかは、この海域のオーブを狙うでしょう。故に、私はまだこの海域に魔王は居る……と、思ったのですよ」
「なるほど……」
確かにそれはもっともである。事実、アルマロスは絶大な実力を持ちながらも、今までもずっと慎重に行動を続けてきていた。
必要以上に戦闘を行うことはなく、リスクが大きそうな国はなんなくスルー。あくまで奴は確実性を一番に考えて行動している。さらにはそんな奴にさえあった余裕という名の隙も、既に『雪の集落』ので戦いでハルマとシャンプーに一泡吹かされた事で今はもう完全になくなったはずだ。
ならば。
もうアルマロスが天王国のオーブか、それともバルトメロイ海域のオーブを選ぶのかは分かりきっている。……アルマロスはトライデントの予想通り、確実に海域のオーブを狙うだろう。
「……」
と、とりあえずトライデントの話を聞き終え現状を理解し、ハルマ達は一旦沈黙と共に思考を巡らせる。
……何やら今回もまた面倒な事になっていたが、その先に行きついた答えはそう難しいものではなかった。
ようは、過去に起こった事件のせいで海王国にはオーブがなく、オーブはこの海域の何処かにいってしまった。そしてアルマロスはきっと手に入れるのが簡単なこのオーブを狙ってくるだろう。……と、つまりはそういう事だ。
で、あれば。アルマロスを追いホムラの兄を取り戻すと同時に、奴の復活の阻止を目的とするハルマ達が今するべき行動は何か。
……それは、もう深く考えるまでもない事だ。
つまり――、
「……分かりました。良いですよ、トライデントさん。分かりました」
「?」
「その海域のオーブ探し、俺達も手伝いましょう。……まあ、その、俺達が手伝ったところで何か劇的に変わるとは思えませんが。それでも、人数が多いに越したことはないと思いますし」
「――! い、良いのですか!?」
「ええ。そもそもそうすることが俺達の目的にも一番合ってますし。……みんなもそれでいいだろう?」
「うん、私も特に文句なし。それに今はこのまま天王国に行っちゃっても、意味はないだろうし」
「僕もホムラに同意見だ。こういう時は一人でも多い方がいいだろう」
「私も賛成です。それがハルマ君の考えであるなら、何よりも!」
「……あ、もう言わなくても良いとは思うけど、もちろん僕も良いと思うぞ」
総員異論なし。
ならばもう躊躇うことも、迷うこともないだろう。
新たな舞台での、新たな目的。
それは――、
「よし! そうと決まれば早速、バルトメロイ海域オーブ捜索開始だ!!!」
「おー!!!!」
こうして、ハルマ達の最強の騎士と共に巡る、広い広い海の冒険が始まった。
【後書き雑談トピックス】
やっとこさ、更新出来たべ! みんな、遅れてすまなかったなー!
……いやね、最近ほんと生意気にもスランプ気味でして。全然文が浮かびあがってこなかったのよ。おかげでこんなに遅れてしまいました。マジさーせん。
ですが、今回からはもうあまり難しく考えすぎす、あくまで趣味なんだから自由に書こうぜ! と、気楽にいくことにしました。
つきましては「なんかクオリティ落ちてね?」と思うところがあるかもしれませんが、そのあたりはもう生暖かい目で見逃してください!
……え? 生暖かい目ってどんなのかって? そりゃ、ドラ〇もんが恐竜の時にしてたあの目ですよ。
で、話は変わりますが、本日は最英連載開始から10ヶ月となります!
読んでくださる皆さん! 本当にいつもありがとう!!!
これからもスローペースではあれど、打ち切りにはしないので気長によろしくお願いいたします!!!
……ちなみに10ヶ月っていうと前作はもう完結してる頃なのよ。月日の流れって早いね。なお、今作は10ヶ月経った今でもまだ10%くらいしか終わってないよ。
つまりはまだまだ楽しめるーってことだ!
次回 第122話「海域を荒す者」
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