第48話 覇王アラドヴァル

「王、アメミヤさん達をお連れしましたよ」


「……」


 モラに連れられハルマ達は玉座の前まで到着。

 なんとも豪華なデカい椅子があるが……肝心の王の姿は見えない。


「王? いらっしゃらないのですか?」


「……」


「アラドヴァル王?」


 留守……なんだろうか。

 モラが何度呼びかけても覇王アラドヴァルが姿を見せる様子はなかった。


「はあ……またですか」


「また?」


「ええ、またです。王はその……とても自由な方でして。時折このように勝手にどこかへと行かれてしまうんですよね」


「ええ……」


 小さい子供か。

 覇王なんてゴツイ二つ名持っていながら、その実意外とお茶目だなんて……。

 あれか? 『ぎゃっぷもえ』のつもりなのか?


「申し訳ありません。ちょっと探してきますので、ここで待っていてくださいませんか?」


「それなら俺達も探しますよ、皆もそれでいい?」


「異論ないよ」


「すみません……」


 ということで、王に謁見する前に王を探すことになりました。




 ―城内―

 人を探すときは誰かと一緒に行動しても意味はない。

 効率を高めるためにも別行動をするべきだ。

 そんな訳でハルマは今、広いケルトの城を一人で捜索していたのだが……。


「……ここ、どこ?」


 なんだかミイラ取りがミイラになった気がする。

 異世界に来てからお城は2回目なのだが、このケルトの城はマルサンクの城を遥かに凌駕する広さなのだ。

 分かりやすく言うと、マルサンクが2階建ての家くらいの大きさだとすれば、ケルトは学校くらいの大きさだろうか。


「……、……」


 先を見ても、振り返っても、自分の居場所がまったく分からない。

 こんな状況では覇王を探すとかそんなこと言ってる場合じゃなかった。

 まずは自分が帰れるようにならないと……。


「とりあえず誰かに聞くか……」


 がしかし、こんなクッソ広い城のくせに人とは全然すれ違わない。

 こんなに広いならそれ相応の人が必要だろうに……。

 あれか、一人メチャクチャ有能な奴が居るせいでそんなに人が必要ないとかいうやつか?(正解)


「誰かー、居ないですかー? ちょっと助けて欲しいんですがー……」


「助けてほしい? 何かあったのか?」


「ん?」


 情けなく助けを助け求めると、後ろからそれに答える声が。

 振り返ると、そこには10歳くらいだと思われる女の子が居た。

 金色の髪は丁寧に整えられており、服もそれなりに合成だ。

 多分だは結構いい家系の子なんだと思われる。

 まあ、普通に城のなかに居るくらいなんだし当然か。


「あーえっとね、ちょっと迷子になっちゃってさ」


「迷子? あっははは! ガキかよお前!」


「君に言われたくないけどね!?」


「……え?」


「なんで呆けてるの!? 君もまだ子供だよね!? ……え、もしかして違うの? 実は見た目の年齢と実年齢が比例してない系の人だったり?」


「いや、そんなことはねーけど……。ふふ、お前面白いな」


「俺今そんな面白いこと言った?」


 どうも……やはりハルマは子供に好かれる傾向にあるようだ。

 まあ年齢の割には低い身長、頑張れば女だと言ってもギリ誤魔化せそうな童顔、加えてそこに『最弱』なのだから、そもそも警戒される要素がないのだが。


「まあ、ここは広いから迷子になってもしょうがねーか。付いて来な、アタシが案内してやるよ」


「ありがとう、助かるよ」


「で? どこ行きてーんだ?」


「玉座の間に戻りたいんだ。覇王様を探してたんだけど、自分が何処に居るのか分からなくなっちゃってさ」


「へえ……。そっか、そういうことか」


「ん?」


「いや、なんでもねーよ。じゃあ玉座の間まで連れてってやるよ」


「サンキュー」


 まったく、こんな小さな子に迷子の助けを乞うことになるとは……。

 本当に情けないものである……、しかもこれは『最弱』関係ないし。




 ―廊下―

 少女に付いて広い城をハルマは行ったり来たり。

 なんだか全然進んでいないような気がするが……少女は一切迷いなく進んでいるので、騙されていない限りは大丈夫だろう。


「なあ、お前」


「ん?」


 と、ある気ながら少女はハルマに話し掛けてきた。


「お前、ここに来るの初めてだろ?」


「そうだね。だから迷子になってるんだし」


「……じゃあお前、覇王の顔知らないだろ」


「あ」


 そうだ、少女の言う通りだ!

「俺達も探しますよ」とか言ったけど、ハルマは覇王の顔を知らない!

 というか顔どころか性別も年齢も何にも分からないのである!!!

 ……なんでそんな状態で探すとか言い出してしまったんだろうか。


「あっははは! お前実は馬鹿だろ? やっぱり結構馬鹿だろ?」


「やっぱりってなんだ!? やっぱりって!!!」


「だってお前のことはアタシ知ってるからな。お前武術大会で優勝した奴だろ?」


「あ、もうそれ結構知れ渡ってる感じ?」


「当ったりめーだろ! その年になって急に現れた新人がいきなり優勝をかっさらっていくなんて、4年前のモラ以来なんだぞ?」


「マジで!?」


 知らないうちに『薄紅の悪魔』……と呼ばれていた(らしい)モラと同じ功績を残してしまったハルマ。

 一体どこの誰が『最弱』が『悪魔』と同じ功績を残すだなんて予想出来ただろうか。

 もし掛け金でも掛っていたら大穴なんてレベルじゃない、日本からブラジルまでの貫通トンネルレベルの穴だろう。


「お前どう見ても超弱いのに参加して、しかも優勝しちまったんだから。そりゃ普通とは違う馬鹿だと思ってもしょうがねーだろ」


「まあ、そうか……うーん」


「でも、アタシはお前みたいな奴嫌いじゃねーぞ。最近の大会はどいつもこいつも『実力』ばっかりを重視してやがったからな。お前みたいに常識をぶっ壊す奴が必要だったんだ」


「……君いくつ? 凄い大人みたいなこと言うじゃん」


「アタシか? アタシは今年で11だ」


「メチャクチャ子供だった!!!」


 流石は異世界。

 ツートリスの長老少女ことセニカさんや、御年100歳越えのフォリス院長のように、年齢が全然ちゃんと作用していない。

 全盛期が長すぎるだろうよ。




 ―玉座の間―

 少女に付いて歩いて15分近く。

 ようやくハルマは玉座の間まで戻ってきた。


「やっとか……。ありがとう、おかげで助かったよ」


「そうか、そりゃ良かった。じゃ、入るか」


「え?」


「アタシもここに用があるんだ」


「そうなの?」


 ……用ってなんだろうか。

 もしかしてこの子、覇王の娘とかか?

 だとしたら、ハルマは余りにも接し方に問題があったような気も……。


「あ、えっとさ、君って――



「戻ったぞぅ!!!」



 少女の耳にハルマの声は届かない。

 両開きドアを思い切りバーンとブチ開けて、堂々と部屋に入っていった。

 この感じ……やっぱり王の娘とかか!?

 だとすればメチャクチャ不敬だったのでは……。


「ああ! 王、どこに行っていらしたんですか!? 探していたんですよ!?」


「わりぃわりぃ、そんなに怒るなって。ちょっと腹減ったらから飯食って来てたんだよ」


「……え?」


 今、モラはなんと言った?

 ハルマを案内してくれた少女に向かって、今確かに……『王』と言わなかったか?


「あ、アメミヤさんも! アメミヤさんが王を見つけてくださったんですか!」


「いや、違えよ? コイツは迷子になってたからアタシがここまで案内してやった。助けてくれって頼まれたからな」


「……え? ちょっと待て、待って待って待って」


「?」


「君……一体何者な訳?」


 動揺と混乱で汗が止まらないハルマ。

 そんなハルマに向かって少女は意地悪い笑みを浮かべた後、堂々と自らの名を名乗る。


「アタシはアラドヴァル。このケルトの王、覇王アラドヴァルだ!」


「……、はああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!!?」


 後にハルマは、「この瞬間ほど人の話が信じられなかった時はない」と語ることになる。




 ―10分ほどして―

 それからホムラ、ジバ公、ソメイも玉座の間に帰還。

 少女アラドヴァルは玉座に座ってそれらしくしているが……全く全然一ミリもハルマには意味が分からない。

 なんで、どうして、何があって!? 11歳の少女が一国の王なのか!?


「申し訳ございません、アメミヤさん。王はその……とてもいたずら好きな性格でして……」


「あ、いや、えっと……。まあ、それに関しては俺が覇王がどんな人か知らなかったのもありますし、良いんですけど……」


「?」


「何で!? 何であの小さな子が王なんですか!?」


 理解出来るはずもない。

 11歳といえば元の世界ならまだ小学5年生だ。

 中学生にすらなってない、子供も子供である!!!


「そっか、ハルマは知らなくても仕方ないね」


「え? どういうことだ、ソメイ?」


「ケルトは代々先代の王を打ち負かした瞬間から王位が継承されるのさ。彼女は5年前、若干6歳にして先代覇王を打ち破ったからあの若さで王位に就いているんだよ」


「6歳!? それって……小学1年生じゃねーか!!! あれか!? 化け物なのか!?」


「ちょっとハルマ! 失礼!!!」


 ホムラの注意はもっともなのだが、ハルマの驚きももっともだった。

 6歳で先代覇王を打ち破り王位に就いた少女なんて、現実離れしているにもほどがある。


「あっははは! 化け物、そうか化け物か! まあ確かにそうかもな!!! アタシ、メチャクチャ強いしな! ……でも、例え転生者だとしても『最弱』のくせに20年の歴史を誇る大会に一発で優勝したお前も、あんまり人のこと言えねーよ?」


「ぐぬう……。確かにそれはそう……ってちょっと待って?」


「ん?」


「今、転生者って言わなかった?」


「言ったけど? お前、そうだろ?」


「そうだけど……何で知ってるの!?」


「んなもん見れば分かるだろうが。戦い方、動き方、呼吸の仕方……戦闘における何から何まで全部が特異過ぎるんだよ、ちょっと不気味なくらいだぞ?」


「そうなの!? 俺、そんな変な動き方してた!?」


「……いや、僕たちにはよく分からないけど。でも、アラドヴァル王には分かるんだろうね」


「……」


 その言葉を聞いてハルマは確信する。

 彼女は、アラドヴァル王は『天才』なのだ。

 生まれた瞬間からの戦いの天才、戦闘という技能における天賦の才をこれでもかというほどに持っている。

 先程の『化け物』という言葉は、本当にあながち間違いでもないかもしれない。

 人とは何か違う、一線を超えた存在なのだ。


「それで? 優勝したお前は何が欲しいんだ? あんまりメチャクチャな物でなければ、大体用意出来るぞ」


「あ、えっと……船が欲しいんだ。ガダルカナル大陸に行くために」


「……そんなので良いのか?」


「そんなの!?」


「そんなのだろうよ! だってその気になれば南国の島一個も貰えるんだぞ!? それをお前、船って!!!」


「凄いなこの大会! 改めて自分のやったことの異次元さに驚いたよ!!! ……でも、俺はやっぱり船が欲しい。今は一番それが必要なんだ」


「ハルマ……」


 南国の島に豪邸を建ててもらって一生を遊んで暮らすのことも出来る。

 でも、俺はそれ以上に叶えたいことがあった。

 シックスダラーでした未来の夢物語、あれを出来れば実現してみたい。

 別にそんな豪華で豪勢な幸せは必要じゃないんだ、ささやかな幸せがあればそれでいい。


「そっか、じゃあせめてメチャクチャ豪華な船にしねーとな。モラ!」


「はい!」


「いいか! ぶったまげるくらいすげえ船を作るんだ! 誰もがびっくりするくらいすげえ船だぞ!!!」


「分かりました。では言うまでもなく客室は100は必要ですね」


「そうだ! あとは……シアターとレストラン、それからスパも付けろ!!!」


「了解です。あとはショッピングエリア、ジム、カジノもあった方が良いのでは?」


「そうだな! それも付けよう!」


「後はデッキも最新鋭の技術にて、もっとも快適なものする必要がありますね!」


 ……どんどんとエスカレートしていくアラドヴァルとモラ。

 普通の船が欲しかっただけなのに、なんかもの凄い豪華客船が出来上がろうとしている!?


「まだまだ追加したいが……後は作りながらでいいか」


「承知しました。では、現状のそれらを纏めて……そうですね、大体5日ほど待っていただければ完成します」


「5日!? 相変わらずこの世界の建築技術どうなってんだ!?」


 ぶったまげるくらい凄い船に必要な時間が5日って。

 もし元の世界だったら間違いなく沈むことだろう。

 泥船の方がまだマシかもしれないくらいだ。


「それでは、私は早速造船に取り掛かるので! 失礼します!」


「あ、どうも……」


 なんだろう、逆に怖い。

 別にそんな凄い船じゃなくても良かったんだが……。

 勢いと迫力が凄くて断ることも出来なかった。


「よし、それじゃあお前らは5日間待っててくれ。宿はここの客間を用意するか気にしなくていいぞ」


「なんか、なにからなにまですみません……」


「気にするなって。この武術大会でこんなに無欲な注文をされたのは初めてだからな、これくらいしねーと割りに合わないのさ」


 あの豪華客船が無欲の部類って、例年の優勝者たちは一体何を願ったんだろうか。

 なんかよっぽどこっちの方が強欲な気がして来た。


「それじゃ、船の完成を楽しみにな!」


「あ、はーい……」


 そんな訳で、微妙に王に気に入られたハルマは、えげつない豪華客船を得ることになったのでした……。



 

【後書き雑談トピックス】

 先代覇王はハルマが想像していた感じの屈強な大男。

 溺愛していた娘に6歳の若さで打ち負かされて、自信喪失。

 現在は自分探しの旅に出ているとか。

 国のことはモラが居るからとあまり心配していない。

 要するにダメ親父である。


 

 次回 第49話「最弱勇者の昼食譚 ~力うどん~」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る