3章 伝承の伝説

第51話 おん・ざ・しっぷ えぶりでい Ⅳ

【前書き】

 本日の最英はショートショートです!

 ハルマ達の些細な日常を集めてみました。

 どうぞお楽しみくださいませ。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



【ギャップ】

「ねえ、ホムラ」


「ん?」


「ピザって10回言ってみてくれない?」


 つまりあれだ。

 これは『同じ言葉を何回も連呼した後は、似たような言葉に引っ張られちゃうよねゲーム』である!

 このゲーム発明した奴天才なんじゃないか、とハルマは思いながら暇だったのでホムラに仕掛けてみることにした。


「……」


 しかし、何故かホムラはピザと言わない。

 何か困ったかのような顔をしながらじっと何かを考え込んでいた。


「……どったの?」


「ハルマ」


「はい」


「――ピザって、何のこと?」


「……。――ッ!!!」


 ああ、悲しき異世界ギャップ。




【あれ、あのあれ】

「――!?」


 ハルマは完全に油断していた。

 ここは元の世界とは遥か遠い異世界。

 ならばヤツはこの世界には存在しないと思っていたのだ。……だが、それは余りにも甘い考えであった。


「どういうことだ!? 貴様がどうしてここに!?」


 カサリ、と不気味な音が響く。

 ……もしかしたら、そこにいる『それ』は『あれ』とは違う生き物なのかもしれない。

 だが、その黒金のボディーと長い触覚、そして気味の悪い蠢き方は例え違う生き物でも確実に『あれ』と同等のそれであった。


「く、来るな……!!!」


 ハルマはひたすら『あれ』らしきそれと距離を取るが……。

 『あれ』らしき『それ』に心なんてない。

 既に見た目でメンタルが抉られているハルマに対し、容赦なく『あれ』らしきそれはにじり寄ってくる。


「ひっ――!!!」


 『あれ』らしき『それ』は冷酷無比、そして残虐で残酷な生き物だ。

 実際、今もなんと既に半泣きになっているハルマに向け、その背中に内包された翅を広げ襲い掛かろうとしているではないか!


「だ、誰か!!!」


 もちろんハルマに抵抗なんて出来るはずがない。

 こうして1ヶ月ほど続いたホムラ達との旅も、これで終わりを迎え――


「よっと」


 なかった。


「ふう……。大丈夫かい? ハルマ」


「ソメイ!!!」


 ハルマに『あれ』らしき『それ』が迫りくる直前。

 颯爽と現れた白昼の騎士は、なんとあの恐ろしき悪魔を見事に撃退していた。


「助かった! 本当に、本当にありがとう!!!」


「礼には及ばないさ。……だが、ハルマは意外にも『あれ』は苦手なタイプの人なんだね」


「『あれ』が嫌いじゃない奴なんてこの世にいないだろうよ。……てかどういうこと? なんで俺の元居た世界で猛威を振るっているあの悪魔がこっちの世界にも居んの?」


「ああ……それに関してはなんでも100年前にユウキと一緒に転生してきてしまったらしいよ。で、そのままこの世界にも対応して繁殖していったとか」


「マ、マジかよ……」


 なんと言う事だろう。流石は世界最悪の悪魔、ハルマがこれだけいろいろと苦労している異世界生活すら簡単に成し遂げてしまうとは……。

 『あれ』、やはり恐るべき生命体である……。




【料理】

「今日は私がご飯を作ります!」


「おー!」


 ある日のお昼時、突然ホムラは意気揚々とそう言った。

 なんでもハルマが料理をしているところを見て自分もしたくなったそうである。


「私ね、実は料理得意なのよ。今日のお昼は凄く美味しい料理を振る舞うから楽しみにしててね」


「うん!」


 これは楽しみだ。

 ハルマやソメイはもちろんのこと、ジバ公なんて嬉しすぎて半分死に掛けている。


「あぁ……ホムラちゃんの手料理が食べられるなんて……! 僕は今日死ぬかもしれない……」


「そんなに嬉しいのかい?」


「当たり前だろうが!!! ホムラちゃんの! ホムラちゃんの手料理だぞ! 嬉しすぎて身体溶けそうだわ!!!」


「いや、どんだけだよ!?」


 マジでちょっと溶けてるから怖い。

 コイツ食べたら本当に死ぬんじゃないだろうか。


「にしても、兄ちゃん達のパーティはすげえな。兄ちゃんの料理の腕も神懸ってるのに、姉ちゃんの方も料理出来るなんてな。俺も仕事がなきゃ食うんだけどなぁ……」


「それは残念でしたね……。……あ、ちなみに僕も料理は出来るよ、騎士だからね」


「いや、俺達別に料理人軍団って訳じゃねえんだわ」


 そう、別に各地で料理を振る舞う為に旅してる訳じゃないないんです。

 ……あ、あとこれは前にも言ったことだが……料理って騎士の仕事だったっけ?



 ―30分後―

 それから30分後。

 ついにお待ちかねのホムラの手料理が完成した!


「……」


 そう、完成した――のだが……。


 ――これは本気でヤバい。


 それは料理と言うにはあまりにも毒々しすぎた。

 本来料理にはあり得ないはずの色がグチャグチャのヘドロの中で混じりあい、何かの目玉のような物がぶくぶくと大量に浮かんでいた。

 そしてそんな化け物の海をミミズの親分みたいな何かが蠢いている。

 さらにその臭いはそれだけで重度の吐き気を催すレベル。


 それは、正に、人間の食べ物ではなかった。


「さあ、食べて食べて」


「……」


 冗 談 じ ゃ な い。

 こんなの食べたら間違いなく一発で死ぬ。

 もし仮に死ななかったとして、今度はそれはそれで生き地獄を味わうことになる。

 いくらホムラが丹精込めて作った料理だろうとハルマはこれを食べる訳にはいかなかった。

 なので……、


(ソメイ)


(分かった、任せてくれたまえ)


 ホムラに気が付かれないように、それらしく抜け出すことにしたハルマとソメイ。

 ハルマはソメイにそっとアイコンタクトを送り……そして、それらしくよよよと倒れた。


「……う」


「ハ、ハルマー! どうしたんだいー!?」


「……ごめん。ちょっと……船酔いしたかも」


「そ、それは大変だー! では、僕が運ぶとしようー!」


「……」


 とりあえず一つ言っていいだろうか。……ソメイの演技が下手くそ過ぎる。

 なんだこの大根役者っぷりは。あれか、誠実な騎士サマは嘘が付けなとでも言うのか。

 ……まったく、少しはハルマの素晴らしい演技を見習ってほしいもんである。

 (ハルマの場合吐き気はマジだが)


「ハルマ、大丈夫?」


「ああ……うん……少し休めば平気になると思うから」


「そう、それなら良いんだけど。……ソメイ、ハルマをよろしくね」


「ああ、任せてくれー。僕がしっかりと医務室まで運んでみせようー」


「……」


 ま、まあとりあえずはそんな訳でハルマとソメイは無事に離脱。

 だが、そうなると必然的に発生する悲しい事態が一つあった。それは――、


「じゃあ、二人で食べようか。ジバちゃん」


「……、……。――ッ!!!」


 ――ア、アイツら! 僕のこと見捨てやがったーーー!!!!!!!


 そう、悲しい事にジバ公のみが取り残されることになるのだ。

 これは流石のハルマやソメイも若干罪悪感はあったが……だからといって全員で離脱する訳にもいかない。

 まさに苦渋の決断だったのだが……残念なことに、こうするしか道はなかった。


「はい、たくさん作ったからいっぱい食べてね」


「……う、うわーい……。ホムラちゃんの手料理、嬉しいなー……」


 ――今日、僕は死ぬかもしれない……。


 先程とは違う意味で同じことを思うジバ公。

 今日この日に限り、彼はホムラのその無邪気な笑みが辛くて辛くてたまらなかった。



【ああ、無情】

 船のデッキ。

 気持ちのいい潮風を浴びながら、ハルマとソメイは暫しボーっと海を眺めていた。


「いい天気だな」


「いい天気だね」


 澄み渡る青空は自然と心の、太陽の光をキラキラと反射する海は身体の疲れを取り払っていく気がする。


「風、気持ちいいな」


「風、気持ちいいね」


 だからこそ、2人はいつまでもここに居たいと思った。

 この小さな楽園に居たいと、そう願う。……だが、世界は無情だ。

 悲しい事に、今は彼らのそんな些細な願いも叶えられることはない。


「……あの料理、絶対に余ってるよな」


「……あの料理、絶対に余ってるだろうね」


 残してきたジバ公とホムラであの量を完食出来るとは思えない。

 だって、どうみても4人分あったし。


「……食べなきゃダメだよなぁ」


「……食べなきゃダメだろうね」


 だからきっと、戻ったら少女は無邪気な笑みを浮かべて2人にあれを振る舞うだろう。

 そこに、悪意はない。


 ――……ああ、無情。


 だからこそ、2人は運命を嘆くのであった。



【相性が悪い】

「ねえ、ジバちゃん」


「ん?」


「ハルマに面白いゲーム教えてもらったんだけど、一緒にやらない?」


「――!」


 なんということか。

 まさかホムラと2人きりでゲームが出来るなんて! ジバ公にはまさにこれ以上幸福なことはない。


「やるやる! で、それどんなゲーム?」


「お互いに『好き』って言い合って、先に照れた方が負けっていうゲームなんだけど」


「……、……、……!? !?!?!?!?!?!?!?」


「ジバちゃん?」


「あ。ああああああ!!! ……ンうう\でjcヴぉくぃおせwくぉい©ンhうぇいおcjにおうぇdcヴィ終えwqhヴィ絵尾wqjcvんjくぇヴぃおうぇんくぃおvんうぇdqvんwどvんdwくぉvんwくぃおvんwdくぃvにえおwqvにえおwqvんべqvねくぉvのいえvにえおq…………………」


「ジ、ジバちゃん!? 私、まだ言ってないんだけど!?」


 だが、それはあまりにも幸福が過ぎた。

 その許容しきれぬあまりの嬉しさに……ジバ公は死んだ。



【五等分】

「これは危機ですよ、みなさん……」


「?」


 夜、食堂にて。

 食後のデザートを前にしてハルマは嘆くようにそう呟く。


「今ここに居るのは、『俺』『ホムラ』『ジバ公』『ソメイ』『レオ船長』の5人!」


「それがどうしたの?」


「ああ、どうかしたさ! だって、これじゃあケーキを分けられねえ!!!」


 絶対的関門、五等分。

 二等分や四等分なら簡単に出来るのだが、五等分はそうもいかない。

 基本、これは分度器かなんかがないと人間には不可能だ。

 ……だが、生徒会長(代理)天宮晴馬はその解決策を知っていた。


「……しかしだ、みんな心配しないでくれ。実は俺、こんな時のための方法を学習済みなんだよ。と、いう訳でまず細長い紙を用意し、帯ひもなどをたたむ要領で5角形にたたみ、次にこの紙の中心につまようじを刺してケーキに乗せる。そして5角形の角に合わせてナイフを入れれば――なんと、きれいに五等分になるのだ!」


 こんな時の為に学んでおいた知識。勉学はいついかなる時も裏切ることはない。

 六音時高校生徒会長(代理)として、これくらいの教養があるのは当然なのである!


 ……ところが、ホムラ達はこれを聞いても特に驚くことはなかった。


「……」


「あれ? なんで皆さんだんまり?」


「えっとね……。ハルマ、そんなことしなくても大丈夫よ」


「え?」


 と、ケーキに向けてそっと手をかざすホムラ。

 するとその場に颯爽と風の魔術が吹き荒れ……次の瞬間、見事に五等分のケーキがその場に現れた。


「魔術を使えば簡単に出来るから」


「……。……ち、ちきしょおおおおお!!!」


「ハルマ!?」


 確かに、勉学は裏切らない。だが、それが常に最適とは限らない。

 ああ、ハルマにも魔術が使えたら……こんなことにはならなかったのに。



【再来】

「その……ところでなんだけどね、ハルマ」


「はいはい」


「――つまようじって、何のこと?」


「――ッ!!!」


 悲しき異世界ギャップ、再来。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



【後書き雑談トピックス】

 地獄よりも、『転生したらGだった件』の方が辛いと思った今日のこの頃。



 次回 第52話「おん・ざ・しっぷ えぶりでい Ⅴ」

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