最英EX 最弱勇者の〇〇譚
【前書き】
ちょっと5章開始までもう少しかかりそうなので、間に一つ番外を挟むことにしました。いつもとはちょっとテイストが違いますが、楽しんでいただければ幸いです。
……え? この感じのタイトルどこかで見たことがある? ハハハ、そりゃアンタ。気のせいってやつ……ですよ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
【最弱勇者の奉公譚】
「と、いう訳でメイド服着てみました! どうですか! 似合ってますか、ハルマ君!」
「その前に『どういう訳』でそうなったのかが、まるで分からない! いや、似合ってはいるけどもね!?」
嬉々としてメイド服に身を包むシャンプー。そんな彼女の姿にハルマはいかんと分かってはいつつも、つい心の奥底で喜びを感じてしまった。
流石は『三大男が女の子に着てほしい服』なだけはある、やはりその破壊力たるや……凄まじい。
「ふふっ、ありがとうございます! ……では、早速始めましょうか」
「始まる? 始めるって何を?」
「決まってるじゃないですか! メイドさんのご奉公ですよ! ささ、ハルマ君どんどん私に命令しちゃってください! ささ!」
「え、な、はあ!? い、いや、そんな急に言われても!!!」
草食系人間のハルマが突然『命令』と言われても思いつくはずがない。
いや、まあ正確に言えば一瞬碌でもない考えが浮かんだりはしたのだが……流石にそれはグッと心の奥底に封じ込めておく。
少年ハルマも確かに一匹の飢える狼とはいえ、それ以前に彼は生徒会長。自らの欲望に負けてしまうなどあってはらないのである。
「えー……。……うーん、それじゃあご飯とか作りましょうか?」
「いや……、それは俺が自分でするよ」
「……ま、まあ確かにハルマ君は料理上手ですもんね。……では! 部屋のお掃除とかしましょうか?」
「いや……、それも俺が自分でするかな?」
「う。そ、そうでした……ハルマ君は掃除も得意なんでしたね……。で、では! 洗濯などは!?」
「それも……」
「……」
ことごとく撃墜されていくシャンプーの意見。
まあ、それも当然だ。だってハルマは天職メイドの超家庭的男子、そもそも彼自身が並みのメイドを上回っているので、メイドなんて必要ないのである。
「……なんですか! それじゃあ、ハルマ君メイドなんて必要ないじゃないですか!!!」
「急な逆ギレ!? そもそも俺はメイド欲しいなんて言ってないんですけど!?」
「あー、もう! ……ていうか、そもそもが間違ってました! よくよく考えれば、メイドになるべきなのはハルマ君の方だったんですよ!」
「え、ちょ!? はあ!?」
「ほら! これ着てください! 大丈夫です! 全然違和感はないですから!」
「何を言ってるんだお前は――って、ちょっと!!! マジで服脱がさないでー!!!」
虚しくこだまするハルマの絶叫。
その後、それに続くようにやけに甲高いシャンプーの声も響き渡ったそうだが……それはまた別のお話。
【最弱勇者の西部劇】(もはや『○○譚』じゃないじゃねえかっていう)
……ここはとある西部の街。
黄昏靡くこの街で、今日また熱い決闘が繰り広げられようとしていた……。
「いいかジバ公。三歩歩いたら、バンだ」
「分かった」
「いいか、三歩だぞ? 三歩歩く前に不意打ちとかするなよ?」
「……わ、分かってる」
……コイツ、絶対やる気だったな。
まったく……油断の隙もない奴だ、危うくもう少しでネタ被りするところだった。
「やれやれ……。……それじゃ、始めるぞ」
「おう」
と、開始前から早速問題があったが……。まあ事前に釘を刺しておいたので、もうジバ公も不意打ちをすることはないだろう。
と、いう訳でハルマとジバ公の決闘は開始。
両者は互いに緊張感を纏いながら一歩、二歩と進んで行き――!
「取っ――って!? なんで、ジバ公居ねえじゃn」
「バーン!!!」
「おぶぐっ!?」
見事、ハルマは最弱らしく敗北したのだった。
「……ぐ、ぐふ……。こ、この身長差はズルいだろ……」
「知らねえよ。てか、それくらいはそっちで事前に考慮しておいてくれませんかね」
「た、確かに……、ガクッ……」
無念の中で息絶えるハルマ。どんなに速く振り向いたところで、身長(約)20cmのジバ公には全て無意味に終わったのだった……。
【最弱勇者の名探偵】
時は皆が寝静まった深夜の2時。
そんな夜の最中、とある旅館では一つの悲劇が起きていた。
「なッ……! あ、兄貴が死んでる!!!」
「……助手のハルソン君、被害者の身元は分ったかい?」
「はい、ソーメイ先生。被害者の名前はウダッツ、どうやら彼は少し前に再登場を果たした序盤キャラのようです。そしてこの旅館に来た理由は、作者が被害者役を誰にするか悩んだ挙句、悲しいことに選ばれてしまったからだとか……」
「なるほど……」
被害者の悔しそうな顔を見ながら神妙な顔つきになる名探偵ソーメイ。
彼は幾多の難事件を解決してきた名探偵なのだが、今回はその軽快な推理も少し難航している様子だった。
なぜなら……、
「先生……この部屋さっきまで鍵が構っていましたよね?」
「ああ、そうだね。おまけにこの部屋には他に出入り口はない」
「では……やはりこれは……」
「ああ、これは間違いなく密室殺人ということになる」
「――ッ!」
ソーメイの発言に旅館の客たちはどよめきと驚きを隠せない。
当然だ、こんな推理漫画とかでしか起きなさそうなシチュエーションが現実に怒ってしまったのである。そりゃあ、動揺もするだろう。
「……ハルソン君、これは少々厄介な事件になるかもしれないぞ」
「……」
さらにはあの名探偵でさえ難しい表情をしてしまっているのだ。
これはつまり、推理もの展開に沿って行けば、これから次々と旅客たちが謎の死を遂げる連続殺人が始まってしまうのではないか……。と、皆がどよめきだした……のだが、
「あの、先生」
「ん?」
一人、助手のハルソンだけは何故か涼しげな顔をしていた。
「一つ、言いたい事があるのですが」
「何だい?」
「……これ、ジバ公の奴なら鍵穴から出入り出来るんじゃないですか? アイツ、水みたいに身体の形変えられますし」
「……確かに」
「え!? ちょ、はあ!? ちょっと待て! ここはソメイの番で僕は関係な――!」
「捕まえろー!!!」
「ええええええ!?!? ちょ! 待!! おい、こらハルマァーーー!!!!」
「……ふっ、流石は先生ですね。また一つ、事件を呆気なく解決してしまいました」
「……いや、別に僕は何も」
結果、問答無用で連行される休憩中だったジバ公。
そんな連行されるジバ公をハルマ……じゃなくてハルソンは、それはそれは良い笑顔で見送るのだった。
「……これが『受けた借りは必ず返す』か。末恐ろしいね……」
【最弱勇者の看病譚】
「ゲホッ……」
「大丈夫?」
「まあ、なんとか……」
なかなか止まらない咳。どうやらハルマは風邪を引いてしまったようだった。
……このご時世で『風邪』というとシャレにならない気もするが、ここは異世界なのでご安心を。これはあくまで普通の風邪です。
「もう……無茶ばっかりするからよ?」
「悪い……」
「ま、いいわ。それなら今日は私が看病してあげる。だからハルマはちゃんと休んでいなさい」
「ありがとう……ホムラ」
「いいのよ、別にこれくらい。それに友達ならこれくらい当然でしょう? それじゃ、ちょっと準備して来るから」
と、言いながらホムラは優しく微笑みながら部屋を出ていく。
本当に……ホムラは優しい子だ。まあ、実際の事を言うと友達であろうと看病イベントなんてものはなかなか発生しないのだが……それを言うことはせず。
せっかくなのだし、ハルマも今回はこの厚意に甘えることにした。
「いやー……。まさか姉さん以外の人から看病なんてされる日が来るとはね。人生何が起こるか分かったもんじゃありませんな……」
と、少し不謹慎ながらもハルマは風邪に感謝。正直、かなり嬉しいです。
さて、そんな訳なのでハルマはめくるめく繰り広げられるであろう看病イベントを楽しみにしながら、布団で横になっていた……のだが。
「看病イベントと言えばやっぱり、おでこくっつけて熱計ったりとかかな……。流石に身体を拭くってのは恥ずかしいけど……。あと、他にはお粥とか……、……ん? お粥? ……?」
と、何故か自分の発言に何か凄まじい違和感を感じるハルマ。何かとんでもないことが起きてしまっているような気がする……のだが、これは一体?
「……、……、……。……ッ!!!!!」
暫しの熟考の末、ハルマは一つの答えに辿り着く。
そしてその答えを理解した瞬間、ハルマは自らの体調も顧みずにすぐさま窓から逃走をしようと起き上がった! ……が、
「お待たせ。はい、お粥作って来たわよ」
「――ッ!!!!!」
既に時遅し。こうしてハルマはホムラの優しさによって、完全にトドメを刺されることとなったのだった……。
【最弱勇者の名探偵(修正版)】
「先生! このスライムでさえ入って来れないような密室で殺人が起こりました!」
「なッ! それは本当かい、ハルソン君!?」
「はい! ここは完全に蟻んこ一匹通れない穴一つない密室のはずなのですが……それでも……!」
「え? 穴一つない?」
「はい。小さな穴一つありません」
「……ええと、ハルソン君。それなら僕達は一体どうやってここに入ったんだ?」
「……さあ」
「そして、どうやってここから出るんだ?」
「……さあ」
「……」
リアル絶対安全カプセルがここに。
スライムについて考慮しながら密室殺人をした結果、それは入り口も出口もない異空間となってしまったのでした。めでたしめでたし。
「……ジバ公ぅ」
「ええ……。……え、えっと。なんかごめん……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
【後書き】
これ楽しい(率直)。
またいつかどっかでやりたいですね、これは。
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