5章 人生という名の演劇舞台
第116話 海の旅の始まり
【前書き】
お待たせしました、本日よりついに5章開始です。
よろしくお願いします。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ふぅ……。よし、みんな着いたよ!」
「おおぉぉぉ……おお?」
約束の花園を出発してから早1週間。
次なる目的地である『海王国オリュンポス』を目指して旅を続けるハルマ達は、長旅の末ついに目的地に辿り着いた……ようなのだが?
「……、……? えっと……ソメイ、これ……本当に着いたのか?」
「ああ、着いたとも。いやー、バビロニアからここまではなかなか長い旅路だったね……」
「……」
不思議そうな表情をしながら質問するハルマに、ソメイは清々しい雰囲気を纏いながらそう答える。だが、そんな返答を受けてもハルマ達の顔から不思議そうな表情が消えることはなかった。
何故なら、彼らの目の前にあるのは立派な王国などではなく……、
「……ねえ、ホムラ。今、俺達の目の前にあるのってさ……国じゃなくて、海だよな」
「そう……ね」
「……」
見渡す限りに広がる、広大な青い青い海なのである。……そう、つまり今ハルマ達が居るのは国などではなく、ただの何もない海岸なのだ。
……まあ、確かに目的地のオリュンポスは『海王国』と言う名が付いているのだし、海と縁のある国ではあるのだろうが……だとしても、これは一体どういうことなんだろうか……。
「……え、えっと、ソメイちゃん。これは……あれか? 騎士王流のジョークなのか? 『海王国だけに国土は海そのものなんでーす』……的な?」
「え? いや、別に特にジョークとかは言っていないけど。どうして?」
「……マ? え、じゃあ何? お前には……今、目の前に国が見えてるのか?」
「国? いや、別にそんなものは見え……あ、ああ! なるほど! ハルマが何を言いたいのか分かったよ。そうだね、そう言えばまだみんなにはオリュンポスがどういう国なのか説明していなかった」
「……へ?」
納得した様子のソメイは笑いながらそう言うが……それでもハルマ達は一体どういうことなのかまるで分からない。
『オリュンポスがどういう国なのか説明していなかった』とは、一体どういう意味なのだろうか?
「ごめんね、それじゃあどういうことなのか説明しようか。まず、現状の僕達が目指している『海王国オリュンポス』なんだけど……実はこの国は、他の国と違って地上にある国ではないんだ」
「……はい?」
「うん、まあ口で言われても分からないよね。……ちょっと待ってて、今起動させるから」
「起動……?」
次々と出てくるよく分からない単語に困惑するばかりのハルマ達。
そんななかソメイは困惑するハルマ達を横目に見つつ、近くの岩肌に触れて何かの作業をしていた。
「……え? マジでどういうこと? ジバ公、お前は何か知ってる?」
「悪い、今回ばかりは僕も分かんないな。実は僕も海王国にはまだ行ったことがないんだよ」
「まあ当然と言えば当然ですが、私も今まではずっと集落に居たのでどういうことなのかは分からないですね……。ソメイさんは何か作業しているようですが……」
しばしソメイの作業が終わるまで、一体これから何が起こるのかを予想しながら待つハルマ達。
しかしその後もいろいろと話してはみたのだが、結局何の予想も出てこないままソメイの作業が終わってしまった。
「良し! これで準備完了だ! さて、それじゃあこれから始めるけど……多分これにはみんなびっくりすると思うよ?」
「……?」
ニヤリ、と珍しく少し子供っぽい表情をしながらそう言うソメイ。
その言葉にハルマ達はより一層疑問を抱きつつ、その場に起こる何かを待っていた。すると次の瞬間――、
「……、……!? な、なんだ!? な、なんかめっちゃ地面揺れてない!?」
「ああ、大丈夫。心配しないで。これが正しい状態だから。……っと、ほら、そろそろだよ!」
「は!? いや、だからどういうことなのか説明して……って、はあああああああああああ!?!?!?!?!」
ソメイに対し文句を言おうとしたハルマだったのだが……その言葉は突然目の前に現れたそれによってかき消されてしまった。
突然の地響きと共に現れたもの、それが一体何なのかと言うと――、
「う、海の中からデカい城が出てきたー!?!?!?!?」
なんと、それはケルトやキャメロットの城にも劣らぬ中世風の巨大な城。
凄まじい轟音と振動を纏いながら、巨大な城が突然海を掻き分けて現れたのである!
「は、ああああぁぁぁぁぁ……!!!!」
「驚いたかな? こんな風に海王国は普段は海中にある国でね、こうやって来客が来た時だけ一時的に海の外に姿を見せるんだ。で、この海岸はそんな海王国の入り口の一つだったという訳なのさ。ほらね? ちゃんと着いていただろう?」
「そうだね! ちゃんと着いてたね! こんなの説明なしじゃ絶対予想出来る訳ないけどな!!!」
「……ま、まあ確かにそうだね」
ハルマのツッコミに対しソメイは小さく苦笑い。
……まったく。本当に異世界というやつは元の世界と比べてぶっ飛んだことが多すぎる場所である。ホント、海の中から巨大な城とか一体誰がそんな事予想出来るのだろうか。
まあ、今回の件に関しては……、
「そ、外の世界にはこんな風なお城もあるんですね……。全然知りませんでした……」
「いや。これに関してはかなり特殊なパターンだよ、シャンプー。いろんな所を旅した事がある僕でも、こんな城は初めて見た」
「そうなの? じゃあ他の場所にはこういうお城はないのね……」
「……なんでちょっとがっかりしてんの、ホムラちゃん?」
こんな風に異世界出身のホムラ達も驚いているので、異世界的に見てもかなりメチャクチャなものではあるようなのだが。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、そんな訳であまりにも予想外だった海王国の事実に、今までで一番レベルで驚かされたハルマ達。
正直まだ少し心臓がバクバクしているのだが、あまり長いこと城や橋を外に出しっぱなしにするのも申し訳なかったので、とりあえず城に向かっての移動を再開することにした。
「……だ、大丈夫だよな。これ、急に沈んだりしないよな。あ、事前に言っとくけど俺はもちろん泳げないからな!」
「なんで若干自慢げなんだよ」
「ははは……、それに関しては今度練習しておこう。で、橋の方だけどこちらはその心配は無用さ。外に出した城や橋を再び沈めるのは浮かばせた人にしか出来ないようになっているからね、だから誰かが操作して沈んでしまう……なんてことにはならないよ」
「そ、そうか……」
と、ソメイは安心させるようにそう言ってくれたのだが……。
それでもやはりどこか不安にはなってしまう。なんせ今歩いている橋は数分前までは思い切り海の中(一部浅い部分は砂の中)に沈んでいたのだ。そんな場所を歩いていたら、また沈むんじゃないだろうか……と心配してしまうのも無理はないだろう。
「……ダメだな、こういう時は違う事を考えて気を紛らわすに限る。……と、いう訳なのでソメイ、なんか気が紛れるような面白い話しておくれ」
「なッ、急だねハルマ!? そんな事突然言われても困るのだけど……。……というか、なんで僕を指名したんだい?」
「え? そんなの決まってるだろうよ。ホムラやシャンプーにこんな無茶ぶりするは可哀そうだし、ジバ公はどうせそんなネタないに決まってる。なら、消去法で必然的にお前になるだろ?」
「おい待て! 誰がネタがないだ! 面白い話の一つや二つくらい持ち合わせるわ!!!」
「……なるほど。それならしょうがないか」
「おい! お前も納得するなソメイ!!!」
と、猛烈にツッコミを入れるジバ公。がしかしソメイはそれを華麗にスルーし、何を話すかじっくりと考え始めた。
……この騎士王、ホント意外にこういう所はしたたかである。まあ挑発したのはハルマ自身なのだが、それでもよくこの状況でジバ公をスルー出来るもんだな……。
「……よし。それじゃあ折角だし、これから来訪するオリュンポスについて少し話そうか。みんなはオリュンポスがどういう国なのか、まだあまり知らないみたいだしね」
「お、その話題良いな。それで頼む」
「分かったよ、それじゃあ始めにオリュンポスの騎士と王について話そうか」
「ほうほう」
「まずは海王国の王、海王トライデント。この方は御年100歳を超える老齢なお方だけど、その分知識量は凄くてね。別名『賢王』なんて呼ばれたりもしているんだよ」
「賢王か……」
これはまたなかなか凄そうな人物である。てか、100歳を超えても現役で王様、というのも凄い話だ。
……まあ、フォリスにも100歳越えの似たような老人が居たが。
「そして海王国の騎士は、その名をヘルメス・ファウストという人物でね。この人はその凄まじい強さから通称『最強の騎士』なんて呼ばれているんだ」
「最強の騎士……ですか。ちなみにそのヘルメスさんはどれくらいお強いのですか?」
「そうだね……。まあ、あくまで憶測だけど、多分彼以外の直属騎士4人で一斉に襲いかかっても、抜刀すらさせられないと思うよ」
「はぁ!? 嘘だろ!?」
彼以外の直属騎士4人、というのはつまり覇王国のモラと聖王国のソメイと森王国のエリシュ、それに加えてまだ出会ったことのない天王国の騎士の4人という事である。そんな4人で挑んでもなお抜刀すらさせられない……とは海王国の騎士は一体どうなっているんだろうか。
一応補足しておくと、モラは自国では『薄紅の悪魔』と呼ばれるほどの実力を持った騎士であり、我らがソメイも暴走したアルファルドを(ある程度傷を負っていたとはいえ)簡単に倒してしまう程の強さを持っている。
だが、そんな2人にさらに同等の地位に居る2人が加わってもなお、海王国の騎士には歯が立たないとソメイは言っているのだ。
……如何に海王国の騎士が規格外か少しは理解してもらえただろうか。
「凄いわね、そのヘルメスさんって人……。一体どうしたらそんなに強くなれるのかしら」
「それは僕も知りたいくらいだよ。僕にもあの人の半分の実力でもあれば、もう少しいい働きが出来るんだけどね」
「お前は現状でもクッソ強いから別に良いだろ……。それより俺の方にその実力の100分の1でもいいから分けてくれないかな……」
「1000分の1でも大分変りそうだよな」
「いや! 流石にそこまでは弱く……いや、どうかな……」
「ハルマ君がツッコミを放棄しました!?」
ジバ公のセリフに対し一瞬言い返そうと思ったハルマだったが、途中で自信がなくなり言葉を止めてしまった。ハルマはよくよく今までの事を考えてみると、自分には最強の騎士の1000分の1の実力さえない気がして来たのである。
だって、仮に最強の騎士の強さを戦闘力53万だとした場合、その1000分の1は戦闘力530。戦闘力530というとこの数字が出始めた頃の某10円より遥かに強い、ということになるのだ。
だとしたら1000分の1はおろか、1万分の1さえ盛っているような気がしてきてしまう。1万分の1だって戦闘力53だ、普通のおっさんが5なんだからその10倍は強いという事になってしまう。
「いや、まあ流石に最強の騎士といっても『53万です』はないと思うけど……。いやでも話的に『8000以上だ』くらいはあってもおかしくないような気もするんだよな……」
「……もういつもの事だけどさ。お前、何の話してんの?」
「なんでもない。ただ俺は普通のおっさんと戦った場合、果たして勝てるのどうかを考えていただけさ。今の俺なら素手ならワンチャンあるような気もするけど、あの人ライフル持ってるんだよなぁ……」
「ハルマ君、素手だったとしても普通のおっさんに勝てますかね?」
「辛辣だなシャンプー! 流石に今の俺ならそれくらいはいけると思うよ!?」
「ええー……」
「ちょっと微妙なラインよね。普通のおっさんって案外強いわよ?」
「俺の戦闘力に対する評価低すぎない!?」
どうやらハルマはもうそれなりに異世界で旅と戦いを重ねてきたのに、なおもおっさんにすら勝てないと思われていたようである。
まあ確かに今まで強いところなんて1回も見せたことはないが……だとしてもちょっと評価が低すぎやしないだろうか。
「……え? 俺ってそんなに弱く見えるの? 最近はそれなりに活躍してない?」
「サポート方面ではね。でもそれって一人で戦った場合はあんまり意味ないでしょう?」
「うっ……」
「それに武器もなしですもんね。その場合ハルマ君、エクスカリバーも使えませんよ?」
「た、確かに……そうだけど……」
「……まだ納得いかないのか、お前。それじゃあ今から実践形式で名誉挽回するか?」
「え?」
ジバ公の発言が理解出来ず首を傾げるハルマ。故に実戦形式、とは一体どういう意味なのかと質問しようとした――その時。
「おらぁ!」
「ごらぁ!」
「!?」
突然、海の中からイカとタコのような何かがハルマ達の目の前に飛び込んで来た!
「そりゃ当然海にもモンスターは居るからね。自分は弱くない、って言いたいならアレを倒してみてくれよ」
「無茶言うな! おっさんとモンスターじゃ強さに違いがあり過ぎるだろうが! あんなの相手にしたら余裕で死ぬわ!!!」
「あんなの、という程のモンスターではない気もするけれど……」
「お前視点だったらな!!!」
相変わらずの天然ソメイにツッコミと入れつつ戦闘態勢に入るハルマ達。
するとそれを察したのか、イカっぽいのとタコっぽいのはうねうねと動きながらハルマ達に話しかけてきた。
「イカカカカカ! ここは俺達の縄張りだ、ここを通りたいってんならこのイカ様が相手になってやるぜ! 果たしてお前らにこの赤いボディーを傷つけられるかな?」
「そういう事だぜ人間達。もちろんこのタコ様の白い身体にも一切ダメージは与えさせねえから覚悟しな!」
「……」
「……ん? どうした、恐怖でも何も言えなくなっちまったか?」
「いや……その……」
「?」
「お前ら……逆じゃね?」
「「……え?」」
……これはまた、なんだかトンチキな事になりそうな気がする。
ああ、今から既に頭が痛くなるというものだ……まったく……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
【後書き雑談トピックス】
ちなみに海王国の騎士の強さを10とした場合、ソメイとモラは2、エリシュと天王国の騎士は1くらいの強さになります。
つまり4人合わせても6くらいの強さにしかならないので勝てない。まさに『最強』の名に恥じない強さを持った騎士なのである。
なおここにユウキを入れるとそれこそ53万くらいになるんじゃないでしょうか。(もっと大きいか)
次回 第117話「ハルマ、初めての魔術」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます