第16話 ガダルカナル大魔書館
「でっか……」
ツートリスの村から、次の目的地『港町スリーム』に向かっていたハルマ達。
しかし、今ハルマ達はそことは違う場所で足を止めていた。
「なにこれ……」
向かっている途中にホムラが見つけた謎の塔。
その搭は恐ろしく高く、上の方が霞んで見えない程だった。
「……。……ああ、これ『ガダルカナル大魔書館』だ。……ホムラちゃんとハルマはこれ知らないの?」
「ガダルカナル大魔書館?」
しばし何なのか外から様子を探っていた3人。
が、突然ジバ公が思い出したかのように、目の前の塔について語り始める。
しかし、それはハルマはもちろん、ホムラにも分からないものだった。
「そうだよ、ここはガダルカナル大魔書館。かつて世界を救った伝承の勇者の仲間、『伝承の賢者 ガダルカナル』がその溢れんばかりの叡智を形にしたものさ。だから知恵を求める旅人とかがたまにここを利用したりするんだよ」
「へえ……」
――溢れんばかりの叡智……か。
ジバ公の説明を聞いて、ハルマは一つ気になることがあった。
――ここなら……異世界転生のことについて何か分かるんじゃないか?
可能性はあるだろう。
伝承の賢者とやらがどれほどの知恵を持っていたかは知らないが、ここ以上に物を調べるのに適したん場所もない。
それに本として残されているならハルマ一人で調べることも出来るから、都合の良いことこの上なかった。
ハルマは別にホムラ達を信用していない訳でもない。
そろそろ『自分は転生者だ』と言っても、真摯に対応してくれるだろうとは思っている。(ジバ公は分からないが)
だが、それでもハルマは自分が転生者であることを隠そうと思っていた。
それにはもちろん理由がある。
――なにせ転生者だ。ホムラが大丈夫でも、世界的にどう扱われるかは分かったもんじゃない。最悪『危険分子は今のうちに殺しておく』とか言われるかもしれないしな……。
そう、ハルマはまだこの世界を信用した訳ではなかった。
そもそもゼロリアで『中世風の横暴な権力』の醜さを見ているのだ。
自分のことを明かしても別に大丈夫だろう、なんて楽観的な考え方は出来なかった。
故に、ハルマは自分のことを隠しているのだった。
もちろん、ホムラ達に対しては若干の罪悪感がありはしたが。
「ねえ」
「ん?」
「ちょっとさ、ここ寄ってかない? 折角ここまで来たんだし、溢れんばかりの叡智が詰め込まれた大魔書館だろ? 寄って行かないなんて損だよ」
「……まあ、私は別にいいけど。ジバちゃんは?」
「僕もいいよ。でも意外だ、ハルマって本読んだりするんだな」
「するよ。どういう目で俺のこと見てたんだ」
「馬鹿、アホ、マヌケ」
「お前、ホントストレートだな!!!」
……ともかく、そんな訳でハルマは秘密裏に情報を集めるべく、ガダルカナル大魔書館に立ち寄ることにしたのだった。
―館内―
「うおお……」
外からの見た目も凄かったが、中からはさらに圧巻だった。
異様に高いこの建物の中は吹き抜けになっており、下からでも上の方がある程度見ることが出来る。
が、それよりも凄いのが所狭しと並べられた本の群れだ。
何処を見ても、本、本、本。
まさにハルマ達は今、本の群れに囲まれていた。
「……何冊あるんだよ、これ」
「さあ? まあ少なくとも1億以上はあるんじゃない?」
「1億……」
途方もない数。
こんなの絶対何処に何があるのか、誰も把握出来ていない気がする。
……果たして目的の本は見つかるだろうか。
「……じゃ、じゃあ俺はあっちで本探すから。後でまた合流しような」
「え? 一緒に見て回らないの?」
「……あ、えっと……ちょっと個人的に気になることがあってさ」
「ふーん、まあ良いけど。じゃ、12時にここに集合ね。本はちゃんと大事に扱うのよ?」
「ガキじゃねえんだから……。大丈夫だよ」
とりあえず上手く別れることに成功したハルマ。
てな訳で……情報探し、開始である!
―3分後―
「詰んだ……」
開始3分、早々にハルマは詰んでいた。
ハルマはこの情報探索において一番大事なことを失念していたのだ。
「俺、異世界文字読めねぇ……」
そう、ハルマはこの世界の文字が読めないのである。
転生ものにおいて、言葉は同じでも文字が違うというのは非常によくある展開だ。
『ΥφΥφΜγΥυΜφΦλΞφΦλ』
『ΒυΠυΦγΓμΦλΥυΦφΛγΣφ』
事実、適当に何冊か手にとっては見るものの……何て書いているのか皆目見当がつかない。
なんとなく法則性があるのは分かるのだが……。
「しまったな……これじゃあ何にも出来ねえじゃん。かといってホムラに『読み書き出来ない』っていうのもなぁ……」
そんなことを言おうものなら本格的に変に思われるだろう。
それは……出来るだけ避けたいところだ。
だが、文字を完全に独学で学ぶの困難なものである。
せめて翻訳してくれる辞書でもあればいいのだが……そんなものは生憎持ち合わせていない。
だが、この事実を前にしてハルマの以前からの疑惑をさらに深めることになった。
「……だとすると、やっぱ変だよな。トランプとか指切りげんまんはまだ納得出来るとしても……。なんでこの世界で使われていない『文字』が書かれた金が使えるんだ?」
硬貨ならまだなんとか理解は出来る。
だが、紙幣まで使えるとなると、それは明らかに不自然だろう。
あからさまに『日本銀行券 壱万円 日本銀行』と、この世界にはない文字が入っているのにワンドライでは当たり前のように使えた。
さらに言えばこの世界に『福沢諭吉』はいないはずだ。
だが、それを疑問に思うものは誰もいなかった。
「……まさか。いや、でもなぁ……」
一応、理由の推測は出てくるのだが……。
ハルマは確信付けるにはまだ早いと思っていた。
証拠も情報も足りなすぎるからだ。
だからこそ、ここで何か情報を得ようと思っていたのだが……。
「読めないんだよな……」
致命的な壁が立ちふさがるのである。
『ΜφΦλΓλΔΓλΔΩφ ~Ⅰ~』
『ΖγΦγΛλΨμΔΓμΜγ』
それからも幾つか本を手に取る……が、やはり読めないものは読めない。
「ダメだな……。なんとなくたくさん見てたら感とか法則性で読めたりしないかと思ったんだけど、そんなに甘くないか」
ギリシャ文字っぽいものが規則的に並んでいるのは分かる。
また大文字の次は必ず小文字、ただしΔの時のみ小文字無し。
恐らく大文字と小文字はそれぞれ、母音と子音を表しているのだろうが……。
「根本的にどの文字が当てはまってるのか知らないんだもんなぁ……」
流石にこれは諦めるしかないだろう。
今度、いつになるかは分からないが読めるようになったときまた来るしかない。
そう思い、ハルマは取り出した本を仕舞い始める。
「……ん?」
と、その時。
本棚にあった一冊の異様な本に気が付いた。
「これって……」
それは正確には本ではない。
正しくは『ノート』と呼ばれる学生のキーアイテムがそこにあったのだ。
もちろん他にはこんなものはなく(全てを見た訳ではないが)、この一冊だけが異様な雰囲気を醸し出しながら本棚の中に紛れ込んでいた。
「なんでこんな所に? もしかして村の子供がテストを隠してたとかか?」
そう思いながら、何気なくページを捲り……ハルマは絶句した。
「―――!!!」
そこにはびっしりと文字が書き込まれていた。
何度も、何度も同じ文字の羅列、恐らくは文字の練習をしていたのだろう。
だが、ハルマが言葉を失ったのは別に大量に並んだ文字に驚いた訳ではない。
問題は、『文字そのもの』だ。
「……これ、ひらがなじゃないか!!!」
並んでいたのは『あ』の文字。
さらに次のページには『い』、さらに次は『う』。
1ページごとに一文字ずつ、大量のひらがなが書き込まれている。
「……!」
今まで適当に読んできた本には1文字たりとも元の世界の文字はなかった。
強いて言えば数字が同じではあったが、ひらがななんて全くもって書かれていない。
そんな世界の本棚にあったこのノート。
これにより、ハルマの推測は確信となった。
「……この世界には、俺以外にも転生者がいる」
そう考えた場合いろいろと合点がいく。
この世界の不自然な『元の世界のもの』は、他の転生者が齎したものなのだろう。
そしてこのノートは転生者の仲間が文字を教えてもらった、その時の跡なのではないだろうか。
「……だとしたら、もう一人の転生者はかなりの大物だな。なんせ齎した金がそのまま世界で利用されてるんだし。……いや、待てよ? そうじゃなくても、金が存在しないくらい昔に転生したんだとしたら……」
一瞬、転生について話しても大丈夫かもしれない、と思ったハルマだったが。
すぐにその考えは消え去った。
そもそもハルマのように世間に知れ渡っていない存在かもしれないし、物凄く前の時代に転生したのかもしれない。
結局、ハルマが危険分子と思われる可能性はなくなっていないのだった。
「うーん、ダメだな。まだもう少し情報が必要だな……」
だが、それでも進展は大きかった。
この世界に元の世界から転生してきたのはハルマだけではない。
つまり、異世界転生は前代未聞の理解不能な奇跡ではないということだ。
なら……。
「帰ることが出来る可能性も十分にある……!」
元の世界に帰る、この希望は決して不可能ではないのだと。
やっと1歩進んだ希望。
まだ、そこに辿り着くまでには途方もない距離があるだろう。
それでも、それでもこの1歩はとても大きかった。
……ようやく、ハルマの元の世界に帰る為の旅が始まったのだから。
【後書き雑談トピックス】
ちなみにジバ公はモンスターだけど文字読める。
あと書ける。
手ないのにどうやって書くのかは不明だが。
次回 第17話「繋がりの街 スリーム」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます