2章幕間 ※消去済み事項
情報、解析。
断片、蒐集。
因果、反転。
現象、再現。
消去済み事項、限定再演。
【時点 第31話『大神神話』】
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そこには、若干不謹慎でありながらも、少し残念……な気がしないでもないハルマだった。
―深夜、外―
さて、食事も終わり夜も遅くなってきた頃。
ハルマはよく寝むれるように夜風に当たりに来ていた。
なんせ、マルサンク王国までの道のりはまだまだ長い。
しっかりと眠っておかないと後が辛くなるのだ。
『うん、やっぱりこっちは夜空が綺麗だな……』
元の世界ではもう田舎でしか見られない美しい夜空。
身近でありながら、遠い存在の美しさについ心が奪われそうになる。
『……、……?』
そんな時だった。
ハルマが異質な気配を微かに感じたのは。
その気配を察知したのはハルマの『本能』だ。
その場に漂う矛盾した空気……例えるなら『満ちた虚無』というべき謎の雰囲気を察したのだ。
『……誰か居るのか?』
嫌な予感……と言う程ではない。
だが警戒するに越したことはなかった。
暫し、返答が返ってくることはなく、静寂が続く。
しかし、途中で痺れを切らしたのだろうか。
それまでは静寂を続けていたのに、なんと気配の主は自分からハルマの前に出てきた。
『流石、鋭いですね』
『――!』
『少しワタシがでしゃばり過ぎたのもあるのでしょうけど』
少女の声が響く。
されど、それもまた異質。
まるで作り物のような声、虚ろなお飾りの声。
そんな声だった。
『だ、誰だお前は!?』
『そんなに警戒なさらなくても大丈夫ですよ? ワタシは貴方にも、貴方のお仲間の方にも危害を加えたりはしませんから』
『……』
敵意や殺意は感じない。
だが、彼女の一挙一動全てが虚ろに感じてしまい、どうにも信じることも出来ないのだ。
故にハルマの警戒心が消えることもない。
『うーん、やっぱりこんな出会い方ではそのような反応になってしまいますよね。あ、じゃあこのことを言えば少しは信用してくださいますか?』
『このこと?』
『貴方、一番最初にこの世界にやって来たとき、遥か上空から自由落下しましたよね』
『そうだけど……それがどうした? っていうかなんで知ってる?』
『知っているのは見ていたからですよ。……それで、変だと思わなかったんですか?』
『え?』
『なんで、落下死しなかったんだろうって、疑問に思わなかったんですか?』
『――!』
言われてみればその通りだ。
あの時はうやむやになったまま忘れてしまっていたが、普通に考えておかしいだろう。
これだけ貧弱なハルマなのだ、普通に死んでいておかしくない。
というか、死んでいないとおかしい。
『まさか、お前が助けてくれたっていうのか……?』
『そうなんですけど……。ああ、やっぱりダメですね。実際に目の前で権能を使っている様子を見せないと、信頼を勝ち取るのは難しいですか……』
『……』
冷や汗がハルマの頬をつたる。
どれだけ会話しても、この虚ろなお飾りの声に慣れることが出来ない。
眼前にいるのはただの少女なのに、ハルマにはそれがとても異質なものに感じてしょうがないのだ。
『では、この出会いはなかったことにしましょう。やはり然るべき時に、適切な出会い方とするべきです』
『……は?』
『貴方とは、虚ろでお飾りな関係をワタシは築きたくはないのです』
『ちょっと、それってどう意——
貴 方 と ワ タ シ の 出 会 い
『!?』
少女がそう呟いた瞬間、世界が裏返る。
裏返る、裏返る、裏返る、裏返る。
『そうですね。どうせなかったことになるんですし、最後に名前くらいは名乗っておきましょうか』
『―――』
『ワタシの名前はエキドナ、エキドナ・シャルギナです。……いつか、貴方と良き出会いが出来る日を、楽しみにしていますよ』
『』
裏返る。
【再設定、再起動、再開】
「どうだった? 私達はもう聞き慣れてるけど、ハルマは初めてでしょう?」
「え? うん、面白かったよ。もしかしたら昔本当にそういうことがあったのかも、と想像したらさらにね」
「そうね。まあ、そんなことはないのだろうけど。『7つの大罪』も神話に合わせてそう呼ばれているだけだしね」
「そっか……」
そこには、若干不謹慎でありながらも、少し残念……な気がしないでもないハルマだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
情報、解析完了。
断片、蒐集収束。
因果、反転終了。
現象、再現完結。
消去済み事項、限定再演閉幕。
以上、【時点 第31話『大神神話』】消去済み事項。
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