第107話 烈火の街 テンガレット
――長い密林の旅を終えたハルマ達を最初に迎えたのは、活気あるにぎやかな人々の声だった。
遥かなる遺跡にてレンネルの幻影と遭遇してから早2日。
ハルマ達はようやく密林を抜け出し、次の新しい街にまで辿り着いていた。長い旅路の末ようやく辿りついた次なる街、その名も――、
「着いたね。ここがテンガレットウォール最大の山である、テンガレット活火山のふもとに居を構える『烈火の街 テンガレット』だよ」
「……ほうほう。って、まさかの火山、山脈、街で全部同じ名前!? いくらなんでも紛らわしいにも程があるだろ!」
「あはは……」
まあ『全部同じような場所にあるんだし同じ名前で良くね?』って気持ちも分からなくはないのだが……。後々、その名前を使っていく身としては紛らわしいことこの上ないので、出来ればなんかしらの差異を付けてほしかった。
これでは名前が全部同じなので、『テンガレット』だけではどれの事を言っているのか分からないのだ。故に毎回一々正式名称で言わないと伝わらないのである。……なんとも面倒くさい。
全く、一体どこの誰がこんな名前を付けたんだか……。
「……まあ、しょうがないね。これはユウキが直々に付けた名前だから。多少紛らわしくても今後この名前が変わることはないと思うよ」
「いや! 名付け親ユウキなのかよ!? ……てか、何でそもそも街とか火山にユウキが名前付けてるの? え、何? もしかして今までの地名も全部ユウキ命名なん?」
だとしたら凄すぎないか、ユウキ。
いや、まあ確かに一度世界を魔王から救った大英雄であるのは確かなのだが……。だからって世界各地の国に名前付ける権利貰えるのか? 何だ、その微妙な褒美は。そんなの10個目くらいでアイデア尽きると思うんだが……。
「……てか、そう考えると元の世界で国の名前考えてる人って案外凄いのかもな……。エルサルバドル、とか俺なら絶対思いつかないだろうし」
「いや、エルサルバドルってどこだよ」
「ああ、それは元の世界にあった国の名前。なんかカッコよくない?」
「カッコいい……?」
またもや感性が噛み合わないハルマとジバ公。
ハルマ的にはカッコいい国名ランキング8位くらいに上り詰める国名だったのだが、どうにもジバ公的にはピンと来なかったようだ。
「普通にテンガレットの方がカッコいいと僕は思うけどな……」
「いや、まあテンガレットもカッコいいとは思うけどね? それにまあ、ゼロリアとかもなかなかユウキも良いセンスしてるな、とは俺も思うよ」
「あー、いや。盛り上がってるところ申し訳ないけど、ユウキが名付けた地名はこのテンガレットだけだよ。他の、例えばゼロリアとかキャメロットとかは普通に昔の誰かが付けた地名さ」
「え? そうなん? ……じゃあ、何でこのテンガレットだけユウキが?」
「それはね。どうもユウキはこの街を大変気に入っていたそうなんだよ。で、『折角だからじゃあ記念に何か名前を付けていってくれないか?』となって、テンガレットという名前になったらしい」
「なんで記念に名前なんだよ、というツッコミはまあ置いておくとして……なるほど、まあ分かった。……それで? ユウキがこの街を気に入ったってのは? なんか美味いもんでもあるの?」
「それは……。街に入って実際に見てみれば、多分ハルマにも分かると思うよ」
「?」
思わせぶりな事を言うソメイ。
見れば分かるこの街をユウキが気に入った理由……なんだろうか。何か元の世界に関係することとか? うーむ……分からん。
「よし、答えを見よう。……てな訳だし、早速街に入ろうぜ」
「諦めるの早っ!? もうちょっと自分で考えようと思わねえの!?」
「思わない。だって考えても分からんものは分らんのだよ。てか、こないだもそうだっただろ?」
「いや、まあそうだけどさ……」
腑に堕ちない様子のジバ公だが、ハルマは特に気にすることはない。
だって、実際分からないものは分からないのだからしょうがないじゃないか。
なら、それを考えて時間を潰すだけ無駄というもの。結局のところ分からないものはどれだけ時間を考えても分からないんですよ、と推理物も一瞬で読み進めるハルマさんは思うのである。
「まあ考える考えないは別にぶっちゃけどうでも良いけど。どっちにしろちょっと待て、まだホムラちゃん達来てないだろ」
「あ、そっか。……どうする? やっぱ俺達も手伝うか?」
「……いや、その必要はなさそうだよ」
「え? ……あ、来た来た」
と、噂をすれば影。
ちょうどいいタイミングで遅れてホムラ達も森から出てきた。が、やはり状況を先程までと変わっていないようだった。それはつまりどういうことなのかと言うと、
「……シャンプー、やっぱりおぶってあげようか? 貴女、本当に辛そうよ?」
「いえ……そんな……ただ……暑いだけで……おぶってもらうなんて……」
「……」
相変わらずシャンプーさんは暑さにやられてヘロヘロなのでありました。
……と、これでよーく分かったことだが。やはり、『慣れ』というのはなんとも恐ろしいものなのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……さて、という訳でハルマ達はヘロヘロのシャンプーをサポートしながら、テンガレットの街に足を踏み入れた訳なのだが、
「……なるほどね」
その街並みを少し眺めて、ハルマはソメイの言葉の真意がすぐに分かった。つまり、それはユウキがこの街を気に入った理由なのだが……、
「そりゃ、これを見ればユウキはこの街を気に入るわな」
「やっぱりそうなんだね。……確か、異世界の言葉でこういった街並みを『ワフー』と言うんだろう? ユウキも、よくこの街に対してそう言っていたらしいのだけど」
「うん、それであってるよ。俺の地元じゃ、確かにこういうのは和風って言う」
そう、このテンガレットの街は比較的日本に近い和風な街並みをしているのだ。
今まで訪れてきた街は、どれもがよくあるRPGやファンタジーものの俗にいう『西洋風』の街並みであることが多かった。しかし、この街はそれとは違い、まるで元の世界の京都や奈良を再現したかのような雰囲気を漂わせているのである。
なら、そりゃ日本育ち(だと思われる)のユウキがこの街に来れば、気に入るのは当然だろう。実際ハルマは既にもう気に入っている。……堕ちるのが早い。
「しっかし……。異世界で和風な街に遭遇とは少しびっくりだな。いや、まあ同じ人間だから、こういう発想に至るのも不思議ではないけども……」
「うん。実はまあ、テンガレットが他とは違うこういう風な発展をしたのには、一応理由があるんだよ。ほら、この街は周りを山と森に囲まれているだろう? だからこの街には人が訪れにくくてね。だから最近までは外界の文化なども入りづらく、故にこういった独自の発展を遂げた。……と、いうことらしいよ」
「なるほどね。和風は島国系の専売特許だった訳だ」
実際、元の世界の和風の発祥地である日本も隔絶された島国な訳ですし。
やはり異世界といっても結局は同じ人間、状況が同じなら至る思考も大体同じになるようなのでした。
……と、異世界と元の世界の不思議な接点を発見したところで、ハルマ達は街の中心に出来た人だかりを発見した。
「何かしら、あれ?」
「さあ? ソメイ知ってる?」
「いや、申し訳ないが僕もテンガレットで行われるイベントにまで知識がない。ま、実際に見てみれば良いんじゃないかな?」
「……」
「ハルマ?」
実際に見てみる……その言葉にハルマは、一つのトラウマを思い出して苦虫を嚙み潰したような表情で固まってしまう。
ハルマが思い出したトラウマ、それは――ナインライブスでの出来事だった。
実際、あの時も今回と状況は同じ。街に着いたら何か人だかりが出来ており、それを好奇心に駆られて見に行ったら……いろいろあってハルマは女装する羽目になってしまったのだ。
そしてその後に襲い掛かって来たのは数々の辱め。ハルマはあの日を『異世界最大の厄日』として、今もなおしっかりと記憶に刻んでいる。故に、出来れば同じような事を引き起こしかねない今回のこの状況も、出来ればハルマ的には無視したいところなのだが……。
「どうしたの? 急に固まったりして。早くに見に行きましょうよ」
「……」
……まあ、この状況を回避するのは無理そうだった。
何故ならホムラはもう眼前の人だかりに興味津々であり、あまり長い事引き止められそうな様子ではない。何より、この状態の彼女に「無視しよう」と言っても聞き入れて貰えないだろう。
一応言っておくと「またナインライブスみたいになるかもしれない」と言えば、多分ホムラは引き下がってくれるだろう。……だが、その場合はまた別の問題が発生する。そう、その場合、今度はどう考えてもシャンプーが引き下がってはくれないのだ。
ナインライブスでの一件以降、謎にハルマの女装に目覚めてしまったシャンプー。実は、あれ以降シャンプーは事あるごとにハルマに女装させようとしてきているのだ。
どこで仕入れたのか知らないメイド服だの、チャイナ服っぽい服だのを当然のように着せようとしてくるシャンプーには流石にハルマもどこか恐怖を感じている。そんな恐ろしい彼女が公的に(?)女装させる機会があるとなれば、それを見逃すことはないだろう……。
……ホント、初対面の頃の綺麗なシャンプーはどこに行ってしまったんだろうか……。
「ハルマ君。あんまりたくさん私の事を考えられると、流石に少し照れてしまいますよ……」
「!? な、なんで分かるの!? 何? シャンプー、俺の脳内見えるの!?」
「見れるなら私も見たいんですけどね……。流石にそこまではまだ会得していませんよ。でも、顔を見ればなんとなく考えていることが分かる領域にまでは達しました。なので脳内透視ももう少しだと思います!」
「……!」
絶句。
それはまさかの超能力者もびっくりな読心術だった。……おまけにまだ先の領域に至ろうとしてるのが純粋に怖い。頼むからその先の『思考の領域』にまでは至れないで欲しい。
「……俺はつらい、耐えられない。止まってくれシャンプー。 未だ見えないまま」
「ははは……。まあ、なんだ。頑張るんだ、ハルマ。僕は応援しているよ」
「微妙に見捨てるなよ、騎士王!!!」
ソメイの遠い笑みが酷く辛い。こいつ、『騎士王』とか呼ばれてるくせに何でこういう時だけ妙にドライなんだ。
なんだ? もう手の施しようがないってか? ……まあ、なんとなくそれはこっちも察してるけども!
「……良し。嫌な事を考えるのは止めよう。別にあの人だかりがそういうものだと決まった訳じゃないんだ」
「……それが盛大なフラグだったらくっそウケるけどな」
「やめろよジバ公! 妙に現実味帯びるじゃねえか!」
マジで止めてください。次にあれをやったら割と本気で死ぬかもしれないです(羞恥心で)。流石に恥ずかしくて享年17歳で死亡、は悲しいからなんとか避けたいとは思う。
と、そんな訳で……。ハルマは謎に祈るような心で人だかりに向かっていった。
さて、それで結局街の人達が盛り上がっていたのは何だったのかと言うと……、
「おお、今年ももうそんな季節か!」
「また美味しい料理を用意しなくっちゃねぇ!」
「……あのー、すみません」
「ん? おっと、アンタらは旅人さんかい? これは良い時に来たってもんだ!」
「……? えっと、それはどういう?」
「ああ、そりゃまあ知らなくても当然か。いや、実はな。今このテンガレットはちょうど1年に1度の大イベント。『焔祭り』が始まるところなのさ!」
「……ホムラ祭り?」
それは、何とも違う意味で聞き覚えのある名前が付いた祭りであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……いや、まあ確かにホムラちゃんはもう女神と言っても差し支えないけれども。いつの間にこの街で祭られるような存在になったの?」
「え!? いや、そんな……! 私は別に何もしてない……はず……なんだけど」
「なんで最後ちょっと曖昧なの? 何? 一応、心当たりはあるの?」
それはそれで怖いんだが。
一体、この子俺達に会う前に何したって言うんだ。いやまあ確かに稀有な存在である『賢者』ではありますけどもね?
(なお、ハルマは自分がセブンドラコで神として崇められていることは知らなかったりする)
「……それで? 焔祭りってのは、一体どういうお祭りなんです?」
「おっと、旅人さんらも気になるかい? ならばっちり教えてやるから、耳の穴かっぽじってよーく聞くんだぜ?」
と、話しかけた街の人は、どうやら気前よくハルマ達に焔祭りについて教えてくれるようだ。そのノリノリな様子からしても、これはこの街ではかなり重要なイベントらしい。
「焔祭り……それはあそこに見える大火山、テンガレット活火山とそこに住まう炎の精霊カグラに1年の温もりの感謝を伝える感謝祭なのさ」
「精霊……?」
「精霊って言うのはモンスターの一種よ。特徴としては人より頭が良くて、とっても長寿なの。あと、精霊はみんな魔術適性を一つしか持っていないけど、代わりに物凄くその属性に特化してるって特徴もあるわね。まあ、つまりは凄く強いってことよ」
「へえ……、そりゃまたなんとも」
まあ、『精霊』っていう概念自体はRPGやファンタジーではよく出てくる存在なので、ハルマも全く知識がない訳ではないのだが。
だが、どうやらこの世界では精霊はモンスターの一種に分類されているようだった。まあもちろん普通のモンスターとは明らかに扱いが違うようだが。
「それで? その精霊に感謝ってのはまたどういう?」
「簡単さ。今そのお嬢ちゃんが言った通り、精霊様は人間よりもずっと強い。だからテンガレットの住人は昔から精霊様を一種の神として奉る代わりに、危険から身を守って貰ってるんだよ」
「へー……」
まあ、つまりは『共存関係』にある、ということらしい。
人間側は精霊を崇め、住みよい環境の提供と維持をする。そしてその代償として精霊は危険や寒さからテンガレットの住民を守る……と、いう訳だ。
「うーん、これはなんとも効率的。元の世界でも神様見えればこのシステム採用出来るんだけどねぇ……」
「いや、多分そう上手くはいかないと思うよ? 精霊は強い分、気難しくてデリケートな存在だからね。このテンガレットのカグラみたいに、人間な寛容な精霊はかなり稀なんだ」
「そうなのか」
「ああ。だからこそ、俺達テンガレットの住人は毎年の感謝を忘れないのさ! ここまで俺達が上手くやって来れたのも、ひとえにカグラ様のお陰だからな!」
「なるほどね……」
と、いう訳で。
親切な住人のお陰でハルマ達は焔祭りについて詳しく知ることが出来た。流石は日本擬きテンガレット、行われているイベントもなんとなく日本っぽい雰囲気が醸し出されている。
……と、そんな風にハルマ達が焔祭りについて理解したところで。
教えてくれた住人が、少し気になっていたかのような調子で話しかけてきた。
「ところで……一つ気になっていたんだが。お嬢ちゃん」
「――! は、はい!」
「お前さん……お名前はなんて?」
「え? 名前? ……えっと、私はホムラです。ホムラ・フォルリアスと言います」
「! そうか、そうだよな! さっきそういう風に言っていた気がして気になってたんだ! いやー! 良い名前を貰ったな、お嬢ちゃん!」
「……え、えっと……?」
名前を絶賛されたことがイマイチピンと来ていない様子のホムラ。結果、どう反応すれば良いのか分からず、ホムラは混乱して目を白黒させていた。
そんな彼女にジバ公がさり気なくフォローを入れる。
「多分だけど。この街はほら、『烈火の街』なんて二つ名があるような街でしょ? だから、きっとこの街では『炎』にまつわる名前はとっても縁起が良いんだと思うよ」
「あ、なるほど……。そっか、確かに『焔』も炎に関わる言葉だもんね」
「まあ、祭りの名前が『焔祭り』な時点で、なんとなく察しは着いてたけどね」
納得が言った様子のホムラ。
実際、住人たちの様子からしても、ジバ公の予想は間違いではなさそうだ。
……と、いう訳で。
街の人がたくさん集まっていたこともあって、ホムラはすぐにこの街のちょっとした有名人になったのだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おっと! 君が噂のホムラちゃんだね。ウチの宿にようこそ! どうぞ、ゆっくり休んで行くといいよ」
「あ、ありがとうございます」
てな訳で。いろんな人に話し掛けられながらハルマ達は宿にまで到着。
ホムラは今までにない状態に少し戸惑っている様子ではあったが、案外まんざらでもないようだった。まあ、別に貶したりしてくる訳じゃないんだし、当然と言えば当然か。
「……で?」
「ん?」
「なんでお前までメチャクチャ満足そうなんだ、ジバ公?」
「なッ――! そんなのホムラちゃんが幸せそうだからに決まってるだろ!? それ以外に何の理由がある!」
「あ、うん。そうだな」
確かに、聞くまでもないことだった。
そりゃこの状況でコイツがほくほく顔になる理由なんて言えば、当然それしかない。これは無駄な質問でした。
と、そんな問答をハルマとジバ公が交わすなか。ホムラは一人静かに窓から街を眺めていた。
「……」
「……? ホムラ、どうかした? 流石にちょっと対応に疲れちゃった?」
「え? あ、いや、そうじゃないの。……ほら、私ってその、まあいろいろあるから。こういう風に思い切り歓迎されたのは初めてで……。だからその、嬉しくって」
「……」
……そうか、まあそりゃそうだよな。
実際、前にもホムラは言っていた。ホムラは『半獣』と『賢者』を同時に合わせ持ってしまった存在。故に、一般的には『獣人』や『人間』と違って精神が不安定で本能的な『半獣』は、『賢者』のように強大な力を持つことは危険とされており、今までホムラはいつ爆発するか分からない爆弾のように恐れられ嫌われることが多かったのだ。
だからこそ、ホムラは最初ハルマと出会った頃は、耳と尻尾を隠してさも『人間』のように振る舞っていたのである。
そんな彼女からすれば、こんな風に全面的に大歓迎を受けたのは初めてのことなのだろう。……まあ、まだテンガレットの住人達はホムラが『半獣』だとは分かっていても、まだ『賢者』だとは知らないのだが。それは言わぬが花というものか。
「なんて、ちょっと単純すぎるわよね」
「……いや、そんなことないよ。嬉しい時は嬉しい、それでいいと俺は思う」
「そう?」
「うん、そうだとも! ……さて、じゃあ、まあそんな訳で? 俺的にもホムラやジバ公的にもお気に入りとなった、このテンガレットの街ですが。これはぜひ、ハルマさん的には焔祭りにも参加したいと思うのです。……皆さん、いかがでしょう?」
「僕は賛成だよ。それに騎士としても、精霊への感謝祭というものには興味がある」
「そうですね……。まあ私としてはこの街は少し暑いですが……でも、確かにお祭りは少し気になります。私も良いと思いますよ、祭りの参加」
「そっか! ……それで? ホムラとジバ公はどうかな?」
「もちろん僕も賛成。たまにはハルマも良いこと言うじゃんか」
「私も賛成。自分と同じ名前のお祭りっていうのはちょっと恥ずかしいけどね」
「……っと! これは見事な全員合意! なら、迷う事はなし!」
と、いう訳で!
パーティ全員の合意の元、ハルマ達も焔祭りに参加である!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「てな訳で! 俺達も参加させてくだちい!」
まさに善は急げ。
そんな訳でハルマ達は早速街の人に話を聞いて、祭りの開催者である神主に参加させてもらいに来た。のだが……?
「あー……。うん」
「……あれ?」
先程までのハイテンションはどこへやら。
何だかやけに落ち込んだ様子で応対されてしまった。
「えっと、どうかしたんですか? ――あ、まさか部外者お断り的な感じでした……?」
「いや、そうではないないんです。そうではないんですけど……」
「?」
「……、……えっとですね。これはまだ内密にしておいてほしいのですが。実は……巫女姫様が稽古の途中に足を痛めてしまいまして……」
「巫女……姫?」
……誰のことだろうか。
残念ながらまだ焔祭り初心者のハルマ達は、いきなり巫女姫と言われてもイマイチピンと来なかった。だが、この落ち込み具合からして、結構な重要人物ではあるようだが。
「巫女姫というのは、焔祭りの要となる人物のことです。焔祭りは毎年、テンガレット活火山に感謝の篝火を奉納した後、カグラ様が直々に選んだ巫女姫が舞と料理と絵を振る舞うということになっているのですよ」
「へえ、そんな風に……。って! それじゃあ足痛めたらヤバいじゃないですか!」
「そうなんですよね……。だから私どもも困っておりまして……」
と、本気で困った様子でおろおろする神主。
そりゃそうだろう。だって巫女姫が足を痛めたとなれば、まずこの焔祭り自体が成立しなくなってしまうのだ。それがどれだけ一大事なのかは流石にハルマ達にも用意に想像がつく。
「えっと、その巫女姫という方は代理は居ないんですか?」
「残念ながらカグラ様の判定は結構厳しくて……。現状テンガレットで巫女姫の資格を持つのは私の娘一人なのですよ……」
「そんな……」
シャンプーの代理人案もすぐさま否定されてしまう。
これはまさに八方塞がり、このまま焔祭りは中止に追い込まれてしまうのだろうか……。と、思ったその時。
「……ねえ、神主さん」
「あ、はい……って!? ス、スライムが喋った!?」
「おお、久しぶりだなこの反応。……で、それとはいいとして。その巫女姫ってさ、ようはカグラが認めれば良いんだよね?」
「ええ、まあ……」
「ならさ。ワンチャン、ホムラちゃんでも良かったりしない?」
「――!? ジバちゃん!?」
「あ、なるほど。確かに……」
「神主さん!?」
ジバ公の斬新(?)なアイデアが光る。
なるほど、まあ確かにそれならいけるかもしれない。が……、そもそも部外者が巫女姫やっても良いのか? これ1年に1度の大イベントなんじゃないの?
「少しお待ちを! ……えっと、あった! ……ホムラさん、この石に触れてもらてもよろしいですか?」
「これは……?」
「まあ、簡単に言えば資格があるかないかを見極める為のものです。これに触れて光れば資格あり、となります」
「……えっと」
石を前にし、若干躊躇うホムラ。
まあ、そりゃそうだろう。流石にこんな急に街の大イベントの要になってくれ、と言われたら普通誰だって困惑して当然だ。寧ろ何の疑問もなく引き受ける奴がいるのなら、そっちの方がおかしい。
「ホムラさん、気持ちは分りますが……。どうかお願いします! 貴女しか、頼れる方は居ないんです!!!」
「……わ、分かりました。でも、光らなくても文句は言わないでくださいね?」
「もちろんです! ささ、どうぞ!」
「……」
ズズイっと差し出される資格の石。
それにホムラは、恐る恐る手を伸ばす。果たして、その結果はというと――、
「――!」
「光った!!!」
「嘘!?」
まるで狙ったかのように。
ホムラが触れた瞬間、石は綺麗な赤い光を放ったのだった。
【後書き雑談トピックス】
シャ「ところで……。何で私にはまったく話が振られないんですかね?」
ハル「え――。いや、ほら……シャンプーはさ、氷ってイメージじゃん?」
シャ「一応私、氷『炎』ですけどね。炎も使いますけどね」
ハル「――ッ」
シャ「まあ……別に良いですけど」
ハル「……」
シャ「全っ然! 良いんですけどね」
次回 第108話「巫女姫のすゝめ」
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