第69話 強欲で怠惰な暴食者

「なんダァ? お前もこの『緑』取りに来たのカァ?」


「……おうわ」


 ムースに頼まれ、緑色の水晶鉄を取りに鋼鉄の洞窟にやって来たハルマ達。

 幻想的な洞窟を進みながら、無事に緑色の水晶鉄がある奥まで来ることは出来たのだが……その場所には既に先客が居た。

 そこに居たのは目的の水晶鉄をむしゃむしゃと喰らう巨大なゴーレム。全身は鉄のようになっており見るからに強そうである。


「……どうする?」


「……ジバ公、同じモンスターとして少し交渉してみてくれないかい?」


「え!? ア、アイツと……?」


「危なそうだったら、すぐに助けに入るからさ」


「……ええー」


 とりあえず交渉を提案するソメイ。まあ確かに、何事も平和が一番だ。

 ……てなわけで同じモンスター枠のジバ公が話してみることにした。


「あ、えっと……。出来たら僕達もそれ欲しいんだけど……ダメかな?」


「欲しいっテェ、どれくらい欲しいんダァ?」


「出来れば3つくらい貰えると助かるな……」


「……3つカァ」


 ――あれ? 案外交渉でいける?


 てっきり、いつものように戦闘になるかと思ったジバ公だったが、意外とそうでもなかった。ゴーレムは少し悩んでいるようだが、すぐにこちらを追い払おうとするつもりはないらしい。

 これなら上手くいけば楽に3つ譲ってもらえるかもしれない。


「……そうだナァ、じゃあ一つ条件があル」


「条件?」


「そうダ、条件ダ。お前らにこの『緑』を3つ分けてやるから。代わりに『赤』を持って来てくレ。そうしたらこの『緑』を分けてやラァ」


「……いや、そもそもなんでお前のみた――ンゴォ!?」


「分かった。じゃあ俺らがその『赤』ってのを持ってくるよ。だから代わりにその『緑』はちゃんとくれよ?」


「あア、それなら良いゾォ」


 文句を言おうとするハルマを押さえつけ、ゴーレムと交渉を成立させるジバ公。

 無事、赤色の水晶鉄と引き換えで緑色の水晶鉄を分けて貰えることになった。

 ……が、当然押さえつけられたハルマは納得がいかない。


「おい! なんでアイツの言うこと聞いちゃうんだよ!? あれは別にアイツの物じゃないだろ!?」


「黙れ、今すぐ黙れ。今は正当性よりも戦闘の回避の方が重要だろうが。僕の努力を無駄にするな」


「まあ、ハルマの気持ちも分かるけどね。ここはジバちゃんの言う通り、相手の言うことを聞いておいた方がいいと思うよ?」


「僕も同意見だ」


「……まあ、皆がそういうなら」


 若干まだ不服そうではあったが、説得を受けてとりあえずハルマも納得。

 この少年、強くないくせに何故か喧嘩っ早いところがある。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 そんな訳でハルマ達はさらに洞窟の奥へ。

 今までにの道のりに赤色の水晶鉄はなかったので、恐らくもっと奥にあるのであろう。


「青、黄色、白、紫、オレンジ……。いろんな色があるけど、肝心の『赤』はないわね」


「それなりに希少な水晶鉄をなんだろう。でなければ交渉の条件にはしないさ」


「それもそうね」


「……ねえ、やっぱりアイツを倒して『緑』取らない?」


「そういうセリフは一人でも勝てるようになってから言えよ」


「ぐぬう」


 ジバ公の正論にはハルマも反論できない。

 実際、どう考えてもハルマはあのゴーレムには単騎では勝てないので、一人で行動する訳にはいなかった。

 故に彼は心底納得いかなくても、こうやって赤色の水晶鉄探しをするしかないのである。


「……ハルマ、そんなに水晶探すの嫌なの?」


「探すのが嫌って言うよりも、アイツの自己中な要望に従うのが嫌なんだよ。だって別にあれ、アイツのじゃないじゃん」


「まあそうだけどね」


「ああやって自分の『強さ』にものを言わせて、傲慢に振る舞ってる奴はどうも……」


「……」


 まあ、ハルマの言っていることも間違いではない。

 実際腹が立ってもおかしなことではないだろう。

 だが……。


「まあ、その『強さ』すらない奴には文句言う筋合いもないわな。厳しいけど」


「……分かってるよ」


 バッサリとジバ公はハルマの怒りを切り捨てる。

 ……そう、結局どんなに正しくても勝てなければ意味がない。

 勝てなければなければ、例え正しくても正しく評価してもらうことは出来ないからだ。

 厳しいがそれが世界のルール。特に、この世界は少しその傾向が強い。


「……」


 だからこそ、ハルマは自らの『弱さ』に何よりも憤りを感じるのだった。




 ―最奥―

「あれ?」


 さて、ハルマ達はそのまま赤色の水晶鉄を探して進んできたのだが……。

 肝心の物が見つかれる前に洞窟が終わってしまった。


「どういうこと? 私達どこかで道を間違えた?」


「いや? ここまではずっと一本道だったはずだよ」


「そうよね」


 しばしどういうことなのか悩む一行。

 が、しばし考えてハルマはすぐに答えに至る。


「そうか! マズいぞ、早くさっきの所まで戻ろう!」


「え? どういうこと?」


「いいから!」


「!?」


 何に気が付いたのか、突然急いで後戻りし始めるハルマ。

 ホムラ達は何が何だか分からなかったが、とりあえず困惑しつつもハルマに着いて行く。

 そしてそのまま最初の場所まで戻ってきた……のだが。


 なんと、緑色の水晶鉄は綺麗さっぱりなくなっていた。


「お前! 俺達のこと騙したな!!!」


「!? ハルマ、どういうこと!?」


「コイツは最初から俺達に譲るつもりなんかなかったんだよ! だから、嘘ついてありもしない『赤色の水晶鉄』を探しに行かせたんだ!」


「ふふン、そんなの騙されるのが悪いんだヨォ。『緑』は美味いからナ、分けてやったりなんかするもんカ」


「酷い! 卑怯よ、貴方!」


「知らネェ」


 これには流石にホムラも怒るが、ゴーレムは気にせずあっけらかんとした様子。

 どうやらまったく反省するつもりはないらしい。


「……その性根は少し見過ごせないな。ゴーレム、そこに直るといい。僕が直々にその曲がった精神を叩き直してあげよう」


「ヘッ、偉そうなこと言ってるんじゃネェ! 誰がそんなことされてやるかヨォ!」


「――!」


 まさに一触即発。

 睨み合うソメイとゴーレムは今にも戦いを始めそうだ。

 互いに、一歩も譲ることはない緊張がその場に漂っている。

 そして――


「行くゾォ!!!」


「ッ!」


 戦いは始まった!

 まず動いたのはゴーレム。その巨体には似合わないスピードで一気にソメイとの距離を詰め――


「あガァ!?」


「……え?」


 狭くなっている通路にすっぽりと挟まってしまった。

 まさに栓のように。


「……えっと、は?」


「し、しまっタ……未知の広さを考えてなかっタ……」


「……どゆこと?」


 ゴーレムの状況がイマイチ理解出来ないハルマ。

 そんなハルマにソメイがゴーレムに呆れながら説明する。


「ゴーレムはね、鉄を食すとその分だけ身体が大きくなる性質があるんだよ。……彼はその計算を忘れて食べ過ぎた結果、詰まってしまったんだろう」


「馬鹿かよ」


 どストレートなハルマのツッコミ。

 されど、流石にこの状況では誰もそれを咎めはしない。

 ……それどころか。


「それじゃあ出られるように僕らが手伝ってやろうか」


「そうだね。ジバ公の言う通り、僕たちで手伝うとしよう」


「火、水、草、風、雷、光、影。どれでも良いけど……どれが良い?」


「エ……ちょっと……待っテ……」


「遠慮するなよ? お前もそこに詰まりっぱなしは困るだろ?」


「……」


 容赦なく鉄槌を下したのだった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 そして10分程して……。


「畜生ー! 覚えてろヨォ!?」


 子供みたいなサイズにまで小さくなったゴーレムは、分かりやすい負け惜しみのセリフを吐いて逃げ出していった。

 最初は3メートル近くあったことを考えると、かなりいろいろな鉄槌を受けたのだろう。


「まったく……とんでもないゴーレムだったな」


「そうね……。えっと、それで……」


「ん? どうかした、ホムラ?」


「……水晶鉄どうしようか」


「あ」


 ……そうなのだ。

 ハルマ達はここにゴーレム退治に来たわけではない。彼らはここに緑色の水晶鉄を取りに来たのである。

 ……がしかし、それは全てあのゴーレムに食われてしまった。

 米粒一つならぬ、鉄くず一つまで。


「え? ないの? もう完璧にないの?」


「残念ながら……奥に行くまでの道にもなかったことを考えると、もうこの洞窟にはないだろうね……」


「……アイツとっ捕まえて吐き出させるか?」


「いや、流石にそれは使えないだろ」


「……、……。ちくしょう!!!」


 結果、ハルマ達の水晶捜索は失敗に終わったのだった……。




【後書き雑談トピックス】

 果たしてどんな鉄槌をくらったのかは想像にお任せします。

 ただし実力的に多分、基本ホムラとソメイの2人がメインだと思いますが。



 次回 第70話「刀神は一日にして成らず」

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