第105話 伝承の戦士

「貴女ならきっと、この遺跡に入ることが出来る……と」


 密林の中でなお圧倒的な存在感を放つレンネルの遺跡……改め、遥かなる遺跡。それを前にして、セレスは期待するかのような口調でそう言う。

 ……一体、『シャンプーなら入ることが出来る』とはどういうことなのか。それはこの遺跡のとある特殊な事情が原因だった。


「……うん、やはり昨日セレス殿が言っていた通りだ。この遺跡のマナはやけに熱い、これはそう簡単に入って行けるものではないよ」


「そうね……。もしこんな所に普通の人が何の対策もなしに入ったら……最悪死んじゃうかもしれないわ」


「……」


 まだ入り口の前だというのに、既にホムラとソメイは神妙な表情でそう言う。

 そう、この遺跡の事情というのはこの『遺跡内のマナの異常』だった。これが原因で、この遺跡は人は愚かモンスターすら入ることは出来ず、もう何十年もずっと無人の状態が続いているらしい。そこでセレスは『子孫のシャンプーさんならワンチャン行けるのでは?』と思い結果、今に至る……のだが、


「……あの、ちゃっといい?」


「? どうしたんだい?」


「あのさ、多分みんなからすればその『マナが熱い』っていうのも、そう珍しいことじゃないのかもしれないけどさ。俺にはまだそれがよく分からないんだよね……。えっと、具体的にはどういうこと?」


 まあ当然。ハルマには『マナが熱い』とだけ言われてもピンと来るはずがない。

 そもそも『マナ』という概念自体、元の世界でもゲームやラノベで知っていたとはいえ、実際に詳しく触れるようになったのはこの世界に来てからなのだ。故に、そんな魔術初心者のハルマには今回の件はいきなり分かる内容ではないのである。


 ……なので少し今更ではあるが、この『マナが熱い』という現象についてゼロから説明し直してもらうことにしよう。という訳で急遽森林の魔術レクチャー開始、ちなみに今回の先生はシャンプーだ。


「……えっと、まずハルマ君も流石に『マナ』と『オド』くらいは知ってますよね?」


「うん、そのくらいはね。確か、マナが空気中の魔力で、オドが体内の魔力でしょ?」


「はい、その通りです。マナは自然に発生した魔力を指し、オドは体内で発生した魔力のことを指しますね。……で、それを踏まえて今回の事態なのですが。今回は単刀直入に言えば『マナがオドに汚染された』という状態です」


「……汚染?」


 汚染……とは、これまた少し難しいワードが出てきた。某英雄のゲームの一マスターであるハルマからすれば、その単語はよく聞くものではあるのだが……今回すぐに意味合いを理解することは出来なかったようだ。

 しかし、少なくともあんまり良くない状態なのは単語からして読み取れる。


「汚染って、つまりマナが汚れてるってことなの?」


「はい、まあ簡単に言えばそうなりますね。……本来、マナとオドは同じ『魔力』と呼ばれるものであっても、構成が違うので混じることはないんです」


「ふむ」


「ですが、もしこのどちらかがあまりにも強力だった場合……少し例外的な事態が発生してしまいます。それが今回の事態ですね」


「……ほう」


「もしどちらかの魔力が強すぎた場合、弱い方の魔力は強い方の魔力に塗りつぶされてしまうんですよ。結果、マナやオドが普通ならあり得ない状態に変質してしまい、様々な悪影響を及ぼすんです。ちなみにこれらはそれぞれ『マナ喰い』『オド喰い』と言われています。マナを喰うから、マナ喰い……といった感じで」


「へえ……」


 それはまた……なんとも異世界ならでは現象だ。

 少なくとも元の世界では絶対にない問題である。やはり、異世界には元の世界に存在しないものがたくさんある反面、こんな風に元の世界にはない問題もたくさんあるらしい。……まあ、それに関しては逆も然りなのだが。


「で? ちなみに、悪影響って例としてはどんなのがあるの?」


「そうですね……。まあ代表的な例はやはり、今回この遺跡で起こっているような事態ですかね。これはその場に居る者のオドが強すぎて、本来無害のマナが毒になってしまってる状態です」


「それと……敢えて他に言うなら今回の逆だな。マナが強すぎる場所だと、オドがマナに侵食されて体調が悪くなったりすることもある。……まあ、どっちにしろ体調が悪くなるってことだ。オドってのはデリケートだから、すぐに拒絶反応が出るんだよ」


「……なるほどね。ありがとう、よく分かった」


 と、最後にジバ公の補足も受けて完璧に理解。

 以上が異世界に置いて起こり得る問題の一つ、強すぎる魔力による『マナ喰い』『オド喰い』現象についてだ。

 なんともまあ『過ぎたるは猶及ばざるが如し』とは……よく言ったものである。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ……と、魔術レクチャーのおかげで状況はしっかり分かったのだが。今回の本題はそれではない。

 今回の本題は、『では何故そんな場所にシャンプーなら入れると思ったのか』という点である。あくまで今までの説明はこれの前置きの話に過ぎないのだ。


「で? どうしてセレスさんはここにシャンプーなら行ける、と? やっぱりシャンプーがレンネルの子孫だから?」


「はい、その通りです。この『マナ喰い』現象なんですが、まあそう簡単には発生しないものなんですよ。その理由は簡単で、これはよっぽど強力な魔力でないとそもそも魔力が塗りつぶされないからなんですね。……で、そんなよっぽど強力な魔力をこの遺跡で放っていそうな存在と言えば――」


「レンネルってことですか。……でも、ここはあくまでレンネルを祭ってるってだけでしょう? まさか100年前の伝説のレンネルが今も居るなんて――


 と、ここまで言ってハルマは言葉を止める。

 本当は『居るなんてことあり得ないでしょう』というつもりだったのだが……よく考えればハルマはその『あり得ない』を既に一度体験している。


 そう、賢者の領域に住むガダルカナルだ。彼女は確かにユウキやレンネルと同じ100年前の人物なのだが……それでも今も特別なアイテムの力で生きていた。なら、それと同じようなことをレンネルがしていても、おかしくはないのかもしれない。


「……いや、でも流石に……。ああ……でも、ゲームじゃ先代の勇者以外が今も生きてるって結構王道のパターンだよなぁ……」


「どした、ハルマ? 急に黙ったりして。いきなり自分の無力さが恥ずかしくなってきたのか?」


「いくら弱っちいからって、流石にそんな急に反省会始めねえわ! ……で、今のはちょっと考え事してただけで、特になんでもない」


「そう」


 熟考の結果、『レンネル生存説』は否定しきれないことが分かったのだが……。それをみんなに言う訳にもいかなかった。何故なら、その根拠であるガダルカナルが今も生きていることは、他の誰かには言ってはいけないことだからだ。もしうっかり口を滑らせようものならハルマはガダルカナルと仲良く消滅することになる。……流石にそれは嫌だ。


「……ったく、口滑らせた時のペナルティが厳し過ぎるだろ。あの魔女のペナルティでさえ、まだハートキャッチで済むのに……。……いや、流石に『済む』って表現は良くないか? あれも他人なら余裕で殺すし、普通に激痛は激痛なんだよな……」


 果たして泡のように一瞬で消え失せるのと、激痛はあるけどとりあえず死にはしない、のはどっちがマシなんだろうか。

 ……まあ、正直どっちも嫌なのだが。それでもまだ、ハルマ的には痛みがない方がマシな方がしないでもなかった。ここまでいろんな怪我をしてきたが、それでも流石にリアルハートキャッチはご遠慮したいところだ。


「と、話がズレたが……。要するに、仮にレンネルが原因なら、似たようなオドのシャンプーなら問題ないんでねえの? ってことね。……で、実際のところどうなの、シャンプー?」


「そうですね。確かに少し感じるものはありますが……言う程でもないかと。私的には外の方がよっぽど暑いくらいです」


「そうなの。じゃあ、やっぱり原因はレンネルなのかな……。……でもさ」


「? どうかしたの、ハルマ?」


 気になることが一つ。

 まあ、子孫のシャンプーが特になんともないのは理解出来る。しかし――、


「じゃあなんでその場合、俺はなんともないんでしょうね?」


「……え?」


 何故、血の繋がりも何もないハルマさえもOK判定なんだろうか。

 ……だが、それでも実際ハルマはここに着いた時から特に何も感じてはいなかった。だからこそ、わざわざ『マナ喰い』の説明をゼロからしてもらったのだ。でなければ流石にあんな根本的な説明は要求しない。


「……ハルマ、何ともないの?」


「うん。というか、多分シャンプーよりもなんともないと思う。だって俺マジで何も感じないもん。……と、こんな風に遺跡に近づいても、熱いっていうのも全然分かんないくらいね」


 と、そう言いながらハルマは少し遺跡に足を踏み入れる。

 しかしやはり特に何かを感じることはなかった。今感じるのは今までと変わらず、森林の自然のクソ暑さだけである。

 これにはホムラやソメイもびっくりしたようで、ぎょっとした様子で目を見開いていた。


「これは……どういうことなんだろうか。どうしてレンネルと関係のないハルマまで……。……まさか! ハルマにはレンネルの血が流れているのか!?」


「ええっ!? で、では私とハルマ君には血の繋がりが!? ということは、やはりこの出会いは運命だった!?」


「いや、おかしいだろ! なんで異世界から来た俺にレンネルの血が流れてるんだよ!? あと『やはり』って何さシャンプー!!!」


 シャンプーの真顔のぶっ飛び発言が怖い。

 あと、騎士王ことソメイちゃんの真面目天然も怖い。その『確信を突いた!』みたいな顔で素っ頓狂なこと言うの止めてもらえませんかね? どう考えても思いっ切り的外れでしょうに……。


「……まあ、普通に考えれば魔術適性の問題じゃないかしら。ほら、ハルマって魔術適性ないでしょう? だから、そのおかげでマナ喰いが起きていても拒絶反応が出ないんじゃない?」


「なるほど! 流石は賢者、冴えてるなぁホムラ」


「え? いやー、それでほどでも……」


 褒められ、赤面しつつも分かりやすく照れるホムラ。犬(系の半獣)らしく尻尾もぶんぶんしている。

 と、いう訳で賢者の論理的な説明により、無事謎は解決した……かと思われたのだが。


「……ふむ。では、ジバさんまで特に問題ないのはどういうことなのでしょうな」


「……え?」


「いや、だってジバ公さんも普通にしてますよね。ハルマさんの頭に乗っているのに」


「……ホンマやん。え? なんともないの、お前」


「……うん。僕もなんともないや。てか、それに関しては言われて気付いた」


「いや、鈍感かよ」


 ……さて、これはどういうことなんだろうか。

 ジバ公にはレンネルとの血の繋がりはないはずだし、かといってハルマのような特殊な魔術適性もないはずだ。

 なら人間ではなくスライムだからなのか? いや、それなら別のスライムだってここに入って来れるだろう。だが、この遺跡は何十年も『無人』のはずだ。つまりここにはスライムだって入って来れないはず。では、何故――。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……よし。まあ、よく分からないことは考えないようにしよう。別に何か悪い事がある訳じゃないんだし。『なんか知らんけどジバ公は入れる』ってことで」


「……そうね」


 考えても分からない。なら、考えても仕方ない。

 実際、何もデメリットはないのだ。ならばどうしてそこに拘る必要があるのだろうか。そう、こういう分からないことは『分からない』で済ませてしまえばいいのだ。

 ……まあ、めっちゃモヤモヤするけど。それはまあ、うん、しゃーなしだろう。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 と、いう訳で。

 結果、遥かなる遺跡の探索はハルマ、ジバ公、シャンプーの3人で行うことになった。まあ探索と言ってもモンスターは一体も居ないし、特に罠とかがある訳でもないので、ただ奥に進むだけなのだが。


「うーん……。遺跡って特に何もないんだな」


「まあ、別に宝隠したりするような場所じゃないないしな。第一ここは人が入って来れないから、そういうのがないのも当然だろ」


「それもそうか」


 これは少し残念。

 てっきりなんかこう『レンネルの愛剣』とか出て来たりしないかな、と思っていたのだが。どうもそう世の中甘くはないらしい。……まあ、仮に出てきたとしても、ハルマにはそれを使えるとは思えないが。未だに使ってる武器、マルサンクでバトレックスに買って貰った特注の軽いヤツだし。


「根本的に筋力がなさ過ぎるんだよな……。てか、この剣ももう結構なお古なのか。そろそろ買い替えるかなぁ」


「まだ全然刃こぼれしてないのに?」


「え? ……あ、ホントだ」


『そんな馬鹿な』とハルマは思ったのだがジバ公の言う通り、確かに剣はまだまだ綺麗なままだった。ていうか、綺麗っていうよりほぼほぼ新品と変わりない状態な気がする。

 この剣を貰ったのはもう3か月近く前のなのに、一体どうして……?


「ってそうか。買って貰ったはいいけど、ほとんど使ってないから刃こぼれしてないんだ。……まあ、そうだよな。よく考えてみたら、エクスカリバーの光の反射でしか剣使ってないもんな……」


「なんか、それはもう剣が逆に可哀そうだな。もっと強い人に買われてれば、こんな鏡みたいな使われ方しなかっただろうに」


「うるさいな」


 だがまあ確かにジバ公の言う事も間違っていないのがなんとも言えぬ。

 それは、まさにやけにグローブが綺麗なメガネの少年のように。いくら大分前に買って貰った物でも使わなければ古くなることはないのであった……。

 おかしいとは思ったんだ。みんな街に着くとちょこちょこ装備新調してるのに、どうして自分だけはずっと同じものなんだろう……って。その原因はこれだったのか。

(なおよく怪我するので防具は頻繁に新調しているのだが)


「……てか、じゃあその理論で行くと逆にレンネルなんかはメチャクチャ装備買い替えたりしてたのかな? 強いんだからよく武器も使うだろう?」


「いえ。寧ろレンネル様は武器の扱いが異常に上手かったそうなので、武器はほとんど買い替えなかったそうですよ」


「マジですか」


 まさに天才と馬鹿は紙一重、と言ったところか。

 てか武器の耐久力減らない使い方って、一体どういう風な扱いをしているんだろうか。某クラフトするマインだったらその能力最強な気がするんだが。


「……」


「ん? どうしました、ハルマ君」


「いや、今更だけどさ。そういや俺ってレンネルのこと全然知らないなーって思って。ユウキとかガダルカナルのことは割かし知ってるんだけどね」


「ほう……。ではいい機会です、ここで少し私がレンネル様についてお教えして差し上げましょう!」


「おお。本日2回目のシャンプー先生ですか。じゃ、おなしゃーす!」


「……なんかお前。随分と教えられ慣れてないか?」


「まあ俺、元の世界だと学生ですし」


 しかも生徒会長(代理)ですし、おまけに異世界に来てからもずっとそんな感じですし。当然、教えられることに関してはまさにエキスパートと言えるレベルなのだ。まあだからといって何かの自慢になる訳ではないのだが。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ……さて、それでは遺跡を進みながら戦士レンネル教室の始まりだ。


「まず、一番最初の話になりますが。実は、レンネル様は元はユウキの仲間ではなかったんです。彼は元々このマキラ東の密林に住む『さんぞく』でした」


「おお、山賊。あの山に出てくる走れの男を妨害した」


「誰だよ『走れの男』って」


「……えっと、その走れの方が誰かは存じ上げませんが……。残念ながらレンネル様の『さんぞく』はその山賊ではありませんよ。まあ確かに山賊でもあるのですが」


「へ?」


 山賊なのに山賊ではない、とはどういうことなのだろうか。

 あれか? 活動場所は山だけど、普段は海に住んでるから山賊じゃないです。みたいなことなのか? ……実際、その場合は山賊なんだろうか。それとも海賊なのか?


「うーむ、これは悩ましい。……まあ、それはまた今度考えるか。で? じゃあレンネルは何の『さんぞく』なのさ?」


「はい。実はレンネル様の『さんぞく』は山の賊ではなく、数字の三の賊なのです。つまり『三賊』が正しい表現になりますね」


「三賊……? 何それ?」


「三賊、それはレンネル様だけに付けられたあだ名です。盗賊時代のレンネル様はそれはそれは強欲な方だったそうで……山でも、海でも、空でさえも出くわす可能性があったらしいんですよ。故に、『山賊でもあるし、海賊でもあるし、空賊でもある……。なら三か所どこでも出てくる賊で、三賊じゃね?』となったそうで」


「なにそれ、凄! てか、じゃあ何? つまり、前にあった山賊に、今度は海で海賊として出会う……みたいなことがあったってこと? え、怖。それ当事者からしたら地獄じゃん」


「まあ……そうですね」


 山賊、海賊、空賊の兼業は欲張り過ぎじゃないだろうか。

 そんなに盗賊稼業に精を出して一体レンネルは何をするつもりだったんだろうか……。てか、それ普通に目立ち過ぎて捕まらないのか?


「レンネル様はそんな風にどこにでも出てくる恐怖系盗賊として、当時の方達には随分と恐れられたのだとか。なお、一応何度かレンネル様を捕縛しようという動きはあったそうなんですが……まあ、お察しです」


「あ、そっか。そりゃそうだよな、うん。捕まえられるはずないか」


 当たり前のことだ。

 捕まえられるような奴なのであれば、普通に初期の頃に捕まっているだろう。だが、それが出来なかったからこそ、レンネルは『三賊』と呼ばれ恐れられたのである。

 ……しかしまあ、何処にでも出る上にクソ強いとか。質が悪い事この上ない気がする……。


「……俺なら絶対行きたくないな、そんな場所」


「……ま、そうなりますよね。実際、100年前の方も同じことを思ったようで、この辺りは疑似通行止めのようになっていたそうですよ。その、やっぱりみんなレンネル様が怖かったようで」


「おいおいおい! それじゃあレンネル、ただの超迷惑人物じゃん! ……え? 大丈夫? 現状俺の中ではレンネルただの傍迷惑超盗賊なんだけど? ちゃんと伝承の戦士になるの?


「ふふっ、まあ初めて聞いた方はそう思いもしますよね。でも大丈夫です。これからちゃんとレンネル様は盗賊から英雄になるのですよ」


「ホントかよ」


 だとしたら成り上がりにも程がある気がするのだが、

 皆が恐れる大盗賊が、皆が憧れる大英雄になるとか……。なんだそのラノベにありそうな展開。『恐らるる三賊の成り上がり』ってか?


「三賊だったレンネル様が、一転英雄となった理由。……その始まりは、やはりかの勇者ユウキとの出会いでした」


「……ほう」


「まあ先ほども言った通りレンネル様は恐ろしい程に強い方で、このマキラ大陸には敵なしと言われ無双しまくっていたのですが……。そんなある日、疑似通行止めとなっていたこの地に勇者ユウキと、その仲間のガダルカナルが足を踏み入れました」


「ふむ」


「恐らくユウキは旅人&転生者というこで、レンネル様の噂を知らなかったのでしょうね。結果、まあ当然ユウキとガダルカナルはレンネル様と出くわした訳です」


「まあ、そりゃそうだろうな」


「で、当然レンネル様はユウキとガダルカナルにも盗賊稼業をレッツプレイした訳なのですが……」


「あ」


「……はい、まあそういう訳です」


 ……なるほど、そこでレンネルは初めて敗北した。と、いう訳か。

 まあそうだろう。今までハルマはその片鱗を少し聞いてきただけだが、それでも伝え聞くユウキの強さは異常だった。そんな転生者のチートの前には流石のレンネルも勝てなくて当然だろう。


「なるほど……。で、レンネルは『負けたからには子分になるぜ』的な展開で仲間になったと」


「いえ、違いますよ?」


「え?」


「まあ、一瞬で負けたレンネル様でしたが……。彼はその程度では諦めはしませんでした。なのでその後もレンネル様はずっとユウキに挑み続ることにしたのです。彼らの旅路に付いて行き、行く先々で隙を見つけては勝負勝負!……といった感じに。もちろんユウキはその度に瞬殺していきました、が――」


「が……?」


「3か月程それが続いた辺りで、とうとうユウキも根負けしてしまったようなんです。で、結果135回目の挑戦で、ついにレンネル様はユウキに負けを認めさせたのでした」


「凄えなレンネル! てか普通に135回は怖いんだけど!?」


 てか、なんだその某ラブリーチャーミーな敵役みたいなポジションは。

 そしてそれを続けた結果勝ててしまうとか……普通にレンネルの執着心が怖いのだが。だって毎回瞬殺されてるんだぞ? 普通は5回目くらいで諦めたくならないか?


「で、そうしてレンネル様は無事ユウキに勝利し『最強』の座を奪還。しかしまあユウキと一緒に居ると楽しいことに気付いたので、そのまま一緒に付いて行くことにしたのでした……ちゃんちゃん。と、言った感じですかね。これでレンネル様について少しは分かりましたか?」


「……ああ、うん。よく分かったよ」


 とりあえず伝承の戦士は『凄え』ということはよく分かった。

 てか、これはもうある意味ユウキよりも強いと言えるのではないのだろうか。まさに流石は元盗賊の英雄と言ったところ、やることの豪快さと欲のデカさが尋常ではない……。


「あれだな……。最初は一番ユウキがぶっ飛んでると思ってたけど……案外そうでもないんだな。ガダルカナルもガダルカナルだったし……。この調子で行くと、もしかしてマキラも結構ぶっ飛んでる感じだったり?」


「マキラ様ですか。うーん、まあマキラ様もある意味ではそうとも……」


『ああ、そうだな。アイツはぶっ飛んでマブイ女だった。一目見た時から「あ、コイツは俺のものしねえと」と思うくらいにな』


「……。……え?」


 シャンプーに向けた質問に対し、返って来たのは豪快な雰囲気を漂わせる男の声だった。その声に驚き俺達は周りを見渡して……初めて気付く。ここは、行き止りの最後の部屋、つまりいつの間にかハルマ達は遺跡の最深部にまで来ていたのである。なら、


『おいおい。初対面なのに挨拶もなしか? ……って、まあ碌に歓迎も出来てねえ俺が言えたセリフじゃねえが』


「……おいおい、マジで言ってる? まあ確かにこの可能性も考慮はしていたけど……このパターン2回目だぞ?」


 この豪快な男の声の主も自然と読めてくるというもの。

 レンネルの遺跡の最深部で、遺跡内のマナを喰ってしまうような凄まじいオドを放つ、豪快な雰囲気の男がいる。ならば、それはやはり――、


『よう、こういう時は確か「ハジメマシテ」だったか? ……ま、挨拶はどうでもいいか。さて、俺はレンネル。伝説の大盗賊、三賊レンネル・トラムデリカだ。よーくこの面を覚えて帰るといい。ユウキにそっくりな小僧に、やけに気になりやがるお嬢ちゃんよ』


 

 その雰囲気に一切劣ることのない豪快な外見をした男、レンネル・トラムデリカは不敵にニヤリと笑っているのだった。




【後書き雑談トピックス】

 ドラ■エ3の影響で戦士って言われると赤い鎧がすぐに思い浮かぶんですよね。まあ、レンネルはそんな鎧着ていませんが。

え? じゃあどんな鎧なのかって? うーん、多分そもそも「邪魔」っていう理由で鎧着てないと思う。レンネルは普通にシャツっぽい服だけで済ませてるんじゃないかな。「攻撃は最大の防御なんだよ」とか言って。



 次回 第106話「――問おう」

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