第134話 幽霊少女と夢追いの歌 Ⅳ

「『もう二度と、暗闇で急に後ろから声掛けたりしません』。――はい、復唱!!!」


「も、もう二度と、暗闇で急に後ろから声掛けたりしません……」


「声が小さい! もう一度!!!」


「もう二度と暗闇で急に後ろから声掛けたりしません!!!」


「……」


 ……これは、出来る事ならあまり知りたくはなかった事実なのだが。

 どうやら10年以上年の離れた少女に大の大人が正座させられている光景……というのは、実に痛ましいものであるらしい。

 現に、その悲惨さや否や思わず目を逸らしたくなるレベルである。


「……、……」


「ハルマちゃん、頼むからそんな可哀そうなモノを見るような目で僕をチラ見しないでおくんなまし。その系統の視線は流石に最強騎士でも結構来るものがあるのよ」


「あ、すみません……つい」

 

 最強騎士のものとは思えないほど弱々しい悲痛な訴えが妙に物悲しい。流石に彼もこの状態は耐え難い何かがあったのだろう……。……それにしては、なんかヘルメスさんが正座させられ怒らているこの光景。つい最近も見たような気がするのだが……それは……多分きっとおそらく気のせいだ。そうに決まってる。

 そう。これは俗にいうデジャヴと言うやつなのだろう、うん。


「……まあ、なんだ。シャンプーもそろそろ許してあげたら? そもヘルメスさんも別に悪気があった訳じゃ……じゃ、ない……はず……だと、思う、から……多分」


「歯切れ悪っ! てか、そこで疑うのは酷くないかなぁハルマちゃん! 君、どんだけ僕のこと低く見積もってるの?」


「だって、ヘルメスさん前科あるじゃないですか」


「そうだね、そこは悲しいくらいに何も言い返せないね。……でも今回はほんとにそういうのは無かったんだよ。あったものと言えばせいぜい『二人とも全然気付いてないこの状況で急に後ろから声掛けたら一体どうなるのかしら』って言うちょっとした可愛い好奇心だけさ、うん。だからどうか許してたもれくださいましー」


「なるほどなるほど。良し、凍らすなり焼くなり好きにしろシャンプー。俺はもう止めん」


「それはどうも。では遠慮なく好きにしますね」


「ええ!? 無慈悲!?」


 逆に何故今の流れで慈悲を与えて貰えると思ったのか……。

 こうして、ソメイに割としっかり叱られたのに全然懲りていなかったヘルメスさんは、改めてシャンプーにしっかりと灸をすえられる事になったのでした。


「頼むからしっかりしてくれよ、最強騎士……」


「ハルマちゃん。男の子ってのはいくつになっても心は子供のままなんだよ」


「流石にある程度は大人になってくれませんかね。てか、あんた今いくつですか」


「28」


「……、……!?」



               △▼△▼△▼△ 



 さて、あまり聞きたくなかった最強騎士の事実を聞いてから約30分ほど。

 【英雄の子】シャンプー・トラムデリカによる最強騎士へのお説教もようやく終わり、やっとハルマ達は此度の本題に取りかかろうとしていた。


「……はい。それじゃあ(無駄に長い)お話も済んだことだし、そろそろずっと放置してたこの謎の演奏の正体を突き止めるとしますか」


「そうですね。それはそうなんですけど、一体誰のせいでこんなに放置する事になったと思ってるんですかね」


「ハハハ、イヤーホントダレノセイダロウネ。……はい、すみませんでした。流石に今回は反省してます」


「……」


 本当に、頼むからマジでこの人には一度しっかりと反省してほしいものである。

 まさかこの謎解明寸前の状況でこんな長時間足止めくらう事になるとは、いろんなトンチキに振り回されてきたハルマも流石に予想外だった。

 まあ、本音を言うとあんだけ怖い怖い言ってた割に30分近くもしっかり説教したシャンプーにもちょっと思う所がありはするが……それは、言わぬが花と言うものである。


「それに今回は完全にヘルメスさんが悪いしな……。……さて、それじゃあヘルメスさん。サッとドア開けてパっと幽霊退治オナシャス」


「いや、めちゃめちゃ軽いな、おい。そりゃ確かにそんな苦戦はしないだろうけど、だとしてももうちょっと何かこうあるでしょ」


「?」


「やめい、その純真無垢みたいな顔!」


 実際よく分からないからしょうがないですね、はい。

 いくら生徒会長代理の天宮晴馬と言えども、この状況でイタズラをおかましになられるような余裕に満ち溢れたお方に掛けるご心配のお言葉なんてものは持ち得ていないのでありました。残念!


「……。ハルマ君も、そういう所は結構強かですよね。別に私は良いですけど。……さて、それじゃあハルマ君! まあなんだかんだありましたが、ヘルメスさんも来てくださった事ですし。後は頼れる最強騎士さんに任せて私達は寝室に戻るとしましょうか」


「あ、先帰りたいなら一人で帰ってていいよ。俺は終わってから戻るからー」


「ッ! ぐ、ぬぅッ……!!!」


「……。えっと、良いの? なんか凄え睨んでっけど。てか顔怖」


「大丈夫大丈夫。あ、あとこういう時は気にしないのが一番ですよ」


「……」


 まさに流れ作業の如く卒なくこなされる辛辣対応。これにはヘルメスの賑やかなお口も思わず閉口である。

 まあ、なんだかんだハルマとシャンプーもそろそろ長い付き合いになってきた二人だ。いい加減ハルマもずっとやられっぱなしではないという事なのだろう。

 その割に前回はやたらと反撃に苦戦していたような気もするが。


「なーんか少年の黒い部分を見ちゃったような気がするけど……まあいいか。さて、それじゃいよいよをドア開けるよ。多分大丈夫だとは思うけど一応油断はしないように」


「はい」


「よしよし。……さて! それじゃあ御開帳、だ!!!」


「あ! ちょ待――


 ハルマのアドバイスの通り少女の必死の呼び止めを軽くスルーしながら、ヘルメスは遂に謎の演奏響く大広間の扉を勢いよく開いた。

 瞬間、バンッと軽快に響くドアが開いた音と共に、夜の宿屋には似合わぬ綺麗なピアノの旋律(とシャンプーの怒声)が廊下へと流れ込む。そして、その流れの中心では――、


「……、……!」


 どこか悲し気な表情をした半透明の少女が一人、そっと静かにピアノにその指を走らせていた。






※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「マジかー……。まさか本当に幽霊案件だったとは」


 自分達が入ってきてもなお演奏を続ける(推定)幽霊少女を目にしながら、ハルマは驚きの言葉を零していた。


 てっきり、どうせ『幽霊が出た』とは言っても実際の所はモンスターか不審者かが勝手に忍び込んでイタズラしているくらいの事だろうと思っていたのだが……。             

 こうもしっかりと、幽霊であると思われる半透明の少女を目にしてしまえば流石に信じざるを得ない。……幽霊をしっかりと目にする、というのもなんだか不思議な話ではあるのだが。


「……何? もしかしてこの世界って案外幽霊ってポピュラーなものなの? 実は気付いてないだけで結構周りにいっぱい居たり?」


「え? いやー、それはないと思うけどな。多分」


「ない! ないですよ! ないに決まってます! というかそんな事があってたまりますか!!! ……ないって事にしてください、お願いですから……」


「……」


 シャンプーの最後の切実な『お願いですから……』が妙に物悲しい。

 まあ幽霊が怖くないハルマも「幽霊は貴方のすぐそばに居ます。目には見えませんが、今日も貴方の周りでいろんな困った問題を引き起こしていることでしょう」状態は流石に拒否したいとは思うが。

 実際、一度干渉出来ない幽霊たち相手に酷い目にあってるし。


「あれは、今思い返しても悲しい事件だった……。……で、明らかに犯人っぽい幽霊は見つけたけどどうします? まあどうすると言っても出来る事なんて交渉or力づくのどっちかなんですけど。……幽霊相手に力づくってのは正しいのか?」


「どうかな。でも物理攻撃はどうせ効かないだろうから、『力』づくではないんじゃない。……正しく言うなら魔術づくとか次元づくとか?」


「次元づくとは」


「え? そりゃ空間と次元ごとねじ切るような感じの攻撃に決まってるでしょ。やーねーもう、ハルマちゃんったら分かり切った事聞いちゃってさー」


「……」


 ……なんでこの人はどこぞのぱるぱるぅ神レベルでようやく出来そうな事を、さも当たり前のように言うのでしょうか。いや、まあ確かにハルマもヘルメスなら幽霊退治くらいどうにか出来るだろう、とは思っていましたけども。

 でもだからって(多分)人間のヘルメスがそこまで出来るとは思わないでしょう……普通。


「今度そこら辺の認識マジで改めるべきかもな……。……えっと、じゃあヘルメスさん。もうその次元づくでも何でも良いので、どうにか幽霊さんと話付けちゃってください。そろそろ長い雑談と無駄な前置き重ね過ぎたせいでシャンプーが『いい加減この件怖いからさっさと終わらせろ』って凄い圧送ってきて背中が限界なんです」


「なッ!? 私そんな事一言も言ってませんが!」


「だから『圧』って言ったじゃん。実際、お前内心じゃそう思ってるだろ?」


「それは……その、ノーコメントで」


「……」


 こいつもこいつで何で頑なに幽霊が怖い事を認めようとしないのだろうか。

 ぶっちゃけあんな分かりやすいリアクションを何度もしてたら、誰だろうとシャンプーが幽霊を怖がっている事くらい丸わかりだと思うのだが。

 ……ああいや、誰でもというのは訂正しよう。多分この状態でもホムラは気付かない。


「ほんと頑固な奴……」


「まあ頑固は頑固なんだろうけどね。でも、これはどちらかというとあれさ、ハルマちゃん。割とこの年頃のお嬢さんによくあるちょっとした見栄と意地ってやつだよ。君も結構いい男なんだからそれくらいは分かってあげないと」


「!? ちょちょっ!? ヘ、ヘルメスさん!!!」


「……? え? どゆこと?」


「お、今度のはマジで分かってない感じの顔だね。うんうん、実に素直な表情で大変よろしい。……がしかし、ここでそんな反応をするなら君も大人へのステップはまだまだって所だぞ。少年、これからはもう少ししっかりと精進したまえ」


「なッ!? ちょ、よく分かんないですけど子供扱いはしないでください!」


「はいはい。あ、ちなみに一つアドバイスすると子供扱いにキレるのが一番の『子供』の証拠だよ、よく覚えておくように。……さて、それじゃあいい加減僕もご要望通り幽霊退治に取りかかろうと思うん……だけどさ、その前に最後に一つだけ良いかな」


「……。……何です」


 完全に言い負かされおもっくそ不機嫌な表情と声色でヘルメスに返答するハルマ。

 そんな彼の様子にまたヘルメスは少しにこやかな表情を浮かべた……のだが、その次に述べた質問はそんな表情がすぐさま消え去るような、彼にしては珍しい少し真面目な質問だった。


「あのさ、ハルマちゃん」


「……。……?」
















「――君、なんで幽霊見えてるの?」




【後書き雑談トピックス】

 話が! 進むのが! 遅い!

 某ジャンプのアニメかウチの小説は!!!

 あ。どうも、ただでさえ更新遅いのに、話書いてると思い付いたネタと雑談全部入れたくなっちゃて結果超スローペースなお話になっちゃう未熟者。ハルレッドです。

 流石に次回は幽霊少女にも出番がある……はず。頑張って捲れ、俺。


 ???(全然話掛けてこないし、やっぱ見えてないのかなぁ……)



 次回 第135話「幽霊少女と夢追いの歌 Ⅴ」

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