第58話 聖王国 キャメロット

「ん? なあソメイ! あれがキャメロットじゃないか!?」


「うん、そうだよ。あそこに見えているのが、僕の仕えている国。聖王国キャメロットだ」


 賢者の領域を出てから5日ほど。

 ハルマ達はようやく聖王国キャメロットが見える所まで辿り着いていた。

 現在ハルマ達が居るのは丘の上、そこから見下ろすキャメロットの姿は……まさに圧巻だ。


「凄え……。ザ・RPG感が半端ないじゃないか! そうだ、写真撮っておこう!」


「メチャクチャはしゃぐじゃん。いや、まあ確かに凄い国だとは思うけど……そんなか?」


「ジバ公には分からないさ。俺みたいな奴等からすれば、こんなのテンション上がるなって方が無理なんですよ!」


 聳え立つ白亜の城壁。

 そしてその中には石造りの街並みと、荘厳な雰囲気を纏い佇む城。

 元の世界にも昔はこういう光景があったのだろうが、ハルマの生まれた時代にはよっぽどの所に行かないとこんな光景はお眼にかかれない。

 故に、ノーマル現代日本人のハルマからすれば、今目の前に広がるキャメロットの光景は本来ゲームのなかだけのものなのだ。

 それが今、目の前にリアルとして広がっているのだから……ゲーム好きのハルマがテンション上がらないはずがなかった。


「ってか、それ前に使ってるところ見てたけど。本当に時間を切り取れるんだな」


「まあ写真ってそんな『時間を切り取る』って大層な物でもないんだけどな……。そもそもこれ携帯電話だから、カメラはメイン機能じゃないし」


「ということは、それはもっとさらに凄いことが出来るのかい?」


 興味深げにソメイはそう質問する。

 携帯電話という概念が存在しない世界だから、ただのガラケーでも彼らには珍しくてしょうがないのだろう。

 ハルマにとっては普段は自分が質問しソメイたちが答える側なので、こうやって質問されるは少し不思議な感覚だった。


「えっと……もっと凄いことってほどでもないけど。こっちにも電話があるだろ? それが何処でも出来るって感じなんだ。あと、何処からでも送れる手紙の機能。それから目覚まし時計の代わりになったり……。あとが何があったかな……」


「……凄いわね、それ。一つでそんなにたくさんのことが出来ちゃうんだ」


「うん。まあ、俺も原理とかはまったく理解出来てないけど」


「出来てないのかよ。自分で使ってる物なのに」


「ぐぬ……」


 ジバ公はそう言うが、果たして元の世界の住人のうち、何人が携帯の原理を理解して使っているのだろうか。

 ……てか、そう考えるとハルマは普段からどういう原理で動いているのか分からないものばっかり使っていることに気付いた。

 テレビも、洗濯機も、ゲーム機も、炊飯器も、冷蔵庫も。

 使い方は分かっていても、その原理は全然理解出来ていない。

 そう考えると自分達が使っている物の原理を粗方理解している異世界人達って結構凄いのではないだろうか。


「……勉強しておくべきだったな。そうすりゃこんなところで後れを取ることもなかったのに」


 まさに、後悔先に立たず。

 まあ後々異世界転生する可能性を考慮して行動するなど意味不明過ぎるのも事実だが……。




 ―キャメロット城下町―

「ソメイさん、お帰りなさい! 任務帰りですか?」


「ああ、そうだよ。」


「ソメイさん! 何か旅先で面白いことありました?」


「うん、たくさんあったよ。今度時間がある時に話そう」


「ソメイさん!」


 ……流石は騎士団長と言うべきか。

 キャメロットに入ってからずっとあんな感じだ。

 ちょっと歩くごとにソメイに誰かが話しかけてくる。

 その様子はさながらケルトの武術大会で優勝した後のハルマの様だった。


「すげえな」


「まあ、そうでしょうね。私達一緒に居るから忘れかけてるけど、ソメイって本当に凄く凄ーく有名な騎士なのよ?」


「らしいね」


 どうにも異世界転生してきたハルマは、この世界の常識が欠落しているのでいまいちピンとは来ない。

 がしかし、それでもなお今までの旅路で見聞きして来た少ないソメイの情報でなお、彼が本当に名の知れた存在であることは理解していた。

 その証拠にここからそれなりに離れたシックスダラーのヤクザでさえ、ソメイの名前を聞いただけで逃げ出していったのだし。

(厳密にはその瞬間をハルマは見ていないが)


「……ご、ごめんみんな。無視する訳にもいかないから一人ずつ対応していたら、案外時間が掛かってしまった……」


「別に良いよ、お前がそういう立場なのはちゃんと俺達も理解出来てるから。それで? まずは何処に行くんだ?」


「僕は城に行くよ。王に帰ってきたことや、任務のことを報告しないといけないからね。ハルマ達は別に好きにしていても構わないけど……どうする?」


「え? 『好きにしていい』ってことはさ、ワンチャンあの城にも入れる?」


「入れるよ。キャメロットは開かれた城だからね。流石に王に謁見は自由には出来ないけど」


「マジか!」


 ケルトとはまた違う荘厳な城。

 あちらが城塞といった感じなら、こちらはまさに王城と言うべきものだ。

 つまり、ハルマは……。


「ホム――」


「言わなくても分かってるし大丈夫よ。行きたいんでしょ?」


「うん。めっちゃ行きたい、そして見学したい」


「って、そんな訳だから。私達も一緒に行っていい? ソメイ」


「もちろんだとも」


「よっしゃ!」


 そんな訳で。

 ハルマ達一行はキャメロットの城の中へ。




 ―王城キャメロット―

「おおお……! すっげえな、マジですっげえな!!!」


「お前『すっげえ』しか言えないのかよ」


 ジバ公の痛烈な指摘が刺さる。

 がしかし、人間はテンションが上がると語彙力が著しく低下する生き物だ。

 故にハルマの「すっげえ」連呼も致し方ないといえば、致し方ない。


 フォルトとはまた違う厳粛さを醸し出す内装とか、床に敷かれたレッドカーペットとか。

 全部が全部ハルマの想像通りなのだ。


「だってこんなのリアルでは初めて見るんですよ? 興奮してしまってもしょうがないでしょーに」


「ま、別に良いけどさ。ここ、見れば分かると思うけど上品なお城だから、あんまり品性を汚すようなことするなよ」


「するか!!!」


 と、言いつつも、今日のハルマはちょっと危なっかしかった。

 実際こんな興奮状態の男の子が周りにちゃんと注意するなんて出来るはずもない。


「――! 足元よく見て!」


「え?  ――って、おうわ!?」


 故にハルマは足元の小さな段差に気が付かず、思い切りすっ転んでしま……。


「おっと、危ない危ない」


「……ん?」


 わなかった。

 思い切り前方にバランスを崩したハルマを誰かが支えてくれたのだ。


「大丈夫? 怪我してない?」


「えっと……はい。問題ないです。ありがとうございます」


「なに、そんなお礼を言われるほどのことはしたよ。故にもっとお礼カムカム」


「謙虚な人かと思ったらメッチャ積極的だった!?」


 ハハハと笑いながらハルマにお礼を要求するのは一人の女性だ。

 彼女はハルマと大差ない……というか全く同じくらいの身長に、茶色の短く整えられた髪をしていた。

 またその身に纏うローブのような服装や、腰に掛けている杖からするに魔術師か何かなのだろうか。


「ちょっと、大丈夫?」


「問題ないよ。この人が助けてくれたから」


「もう、ホントにいつもいつも……。えっと、うちの子がどうもすみません、それと助けてくれてありがとうございました」


「これはどうもご丁寧に、どうしたしまして。……で、君達はソメイの連れてきたお客人のハルマ君にホムラちゃんだろう? ま、これからどうぞよろしくね」


「……えっと、失礼ですが貴方はどちら様で? ソメイのこと知ってるみたいですけど?」


「おっと、これは失礼。まだ名乗っていなかったね。……私は聖王国キャメロット宮廷魔術師、マーリン!」


「……マーリン、さんですか」


「ああ、気軽にマーリンお姉さんと呼んでくれたまえ」


 宮廷魔術師、か。

 ていうかキャメロットの宮廷魔術師がマーリンって。

 ピッタリにもほどがあるでしょうに。

 ……まあこの人はアーサー王伝説なんて知らないでしょうけど。


「それで? 君達はその様子から察するに、今はソメイが戻って来るまで見学中といった感じかな?」


「そうですね。俺がちょっとこういう所来るの初めてなんで」


「そうだろうね。それじゃ、初めての王城の感想はどうだい、ハルマ君?」


「メッチャ凄えですね」


「語彙力が死んでいるよ。まあ、気持ちはわかるけどさ」


 ハルマの語彙力欠落は結構重傷気味。

 これは落ち着いた時に本でも読んで文才を磨く必要がありそうだった。

 (なおその為には異世界文字を学ぶ必要があるが)


「……おっと、出会って早々だが私はちょっとお仕事があるので失礼するよ。まあゆっくり楽しんでいってくれたまえ」


「はい! ありがとうございました!」


 そういうとマーリンはそそくさと何処かへ行ってしまった。

 具体的に宮廷魔術師って何するのか分からないが……まあ、何かしら忙しいようではある。


「さて、じゃあお言葉に甘えてもう少し見学していきますか!」


「それは良いけど、もうちょっと落ち着いてね。ちょっと興奮し過ぎだからね?」


「あ、はい。分かっておりますです」


「ホント?」


 思いっきり心配されてしまっているハルマ。

 ……今後は少なくとも転ぶことはないようにしなくては。

 そうでもないとまたさっきみたいにどっかで転びかねない。

 それは流石にハルマもメチャクチャ恥ずかしいのである。


「で? どこ行くの?」


「さあ? 俺も何処に何があるか知らないし……」


「……それなら、3階のバルコニーがおススメですよ。姉弟さん」


「え?」


 次に行く場所を検討していたハルマ達に掛けられた声。

 振り返ると、そこには橙色の髪をした大剣を担ぐ一人の男が居た。

 その風貌からして彼も騎士だろうか?


「えっと、貴方は?」


「これは失礼。私はは聖王国キャメロット聖騎士団長、黄昏の騎士 キンキ・ルブストという者です。どうぞ、以後お見知りおきを」


 ソメイと似た名乗りをする彼。

 違うのは騎士名の部分だ。

 ソメイは白昼の騎士と名乗ったが、今目の前に居る彼は黄昏の騎士と名乗った。


「貴方も……ソメイと同じ聖騎士団長なんですか」


「ええ、そうです。それであなた方はソメイのお客人で間違いありませんね?」


「あ、はい」


「それは良かった。ようこそ、聖王国キャメロットへ。我ら4人の聖騎士団長はあなたがたを心より歓迎いたします、姉弟さん」


 恭しく一礼する黄昏の騎士キンキ。

 すると、その礼を待っていたかのようにさらに何人かがハルマ達の元へやって来たのだった。




【後書き雑談トピックス】

 マーリンっていうとどうしてもグランドクソ野郎が頭に浮かんでくる……。



 次回 第59話「暁、白昼、黄昏、夜半」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る