第59話 暁、白昼、黄昏、夜半
「おお、そちらの方達がソメイの連れてきたお客人ですかな」
「聖王国キャメロットにようこそ、です!」
キンキに続き入ってきたのは老人と若い女の子だ。
老人は完全に白に染まった髪と髭をしているが、それが老いの衰えを感じさせることはなかった。
寧ろ放たれる雰囲気の厳粛さに少しハルマは緊張感を覚えるほどである。
とはいえ表情は柔らかで、まさに老紳士といった感じだった。
一方もう一人の女の子の方には特に厳粛な雰囲気を感じたりはしない。
綺麗な銀髪やハルマよりも少し低い身長、さらには感じる雰囲気の和やかさもあって『強さ』とは一見無縁に思えるくらいだった。
だが、彼女の騎士の格好にハルマは一切違和感を感じなった時点で、おそらくそういった雰囲気とは違う『強さ』を彼女は持っているだと推察できる。
ようするに、二人とも違いこそあれどどちらもかなりの強者であるようである。
まあ、五大王国の騎士って時点でそれくらいの強さを持っていて当たり前なのだが。
「えっと? キンキさんは4人の騎士団長と言いましたけど、この人達が残りの2人ですか?」
「いや、それは違いますな」
「え?」
会話の脈絡的にハルマはそうだと思ったのだが……。
老紳士からすぐに否定されてしまった。
じゃあこの人達は誰なんだろうか。
「じゃあ、二人はどこの誰で……?」
「儂とこの子は両方とも「暁」の称号を授かりし騎士なのです。まあ、正確にはこの子はまだ『暁の騎士』ではありませんがな」
「ああ、二人とも同じ称号の……。そういえば来る前にソメイが『新しい騎士が戴冠する』って言ってたな」
「はい! それが私という訳です! あ、申し遅れました。私、この国の次期・暁の騎士となる、マイ・リマヴェラと申します!」
「そして儂が一応現・暁の騎士、コウホク・リマヴェラという者です。どうぞお見知りおきを」
「あ、はい。どうもご丁寧にありがとうございます」
騎士と・次期騎士に一礼されるハルマとホムラ。
ホムラがある程度の緊張を感じているのに対し、こんな状況でも特に委縮したりすることはなく、普段のペースを保っているハルマはこのあたり流石と言うべきか。
まあ、さらに上の立場の覇王アラドヴァルの前でさえこんな感じだったので、もう今更何をといった話なのだが。
「……ってそうだ、まだ俺達も名乗ってなかった」
「そうね、……って、ちょっとハルマ!? いつものここでもやるつも――」
「俺は六音時高校生徒会長代理、天宮晴馬!」
「六音時高校生徒会長……?」
「ああ、気にしないでください。伝わらないのは分かってますから」
「じゃあ何で言ったの!?」
そしてその緊張のなさは自己紹介にまで。
流石に今回はホムラも止めようとするしたのだが、それよりも先にハルマが言い切ってしまった。
結果、いつものお約束はここで遂行である。
「もう! その挨拶本当に何なの!? 私ちょっと恥ずかしいんだけど!?」
「いや、まあ、ほら。今更止めるのも少し恥ずかしいしね……」
「どっちにしろって感じじゃね?」
ジバ公の手痛いツッコミ。
まあ、ハルマも2人の言いたいことはよくよく分かっているのだが……なんか急にやめると恥ずかしさを自覚したみたいで余計に辛いのだ。
それにあれだ、ハルマは中途半端は好まない男。
一度やると決めたら(それが転生したての変なテンションで決めたことでも)最後までやるのである。
「……もう、ホントにもう……。あ、すみません、お見苦しいところを。私はホムラ・フォルリアスです。そして、こっちの子がスライムのジバと言います」
「あ、いえ、お気になさらず……。えっと、ハルマさんに、ホムラさんに、ジバさんですね。では改めて聖王国キャメロットようこそです!」
まあとりあえず、いろいろぐたったがハルマ達の自己紹介は終わったのだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、ソメイが戻ってくるまでもう少し時間はありそうだった。
そんな訳なのでハルマは個人的に気になったことをマイ達に質問する。
「あの、ちょっと聞きたいんですけど。その『暁の騎士』とか『白昼の騎士』ってなんなんです? ただの役所名なんですか?」
「え? ソメイから聞いてませんか? これ結構旅をする上で大事なことだと思うんですが?」
「……全然聞いてないです」
「あはは……まあでも、確かにアイツならやりかねませんか。ソメイの奴はこっちから聞かないと、まったく自分のこと話そうとしない奴ですからね」
キンキは苦笑しながらそう言う。
……これは前にも言ったことだが、ハルマ達もソメイの『話さない癖』のことは知っている。故にハルマ達はソメイについて知らないこともたくさんあったが……それを無理に聞き出すのも良くないだろうと今日まで今の状態を保ってきた形だ。
がしかし、それはあくまでこちらに大きな影響を及ぼさない範囲での話である。
今までハルマ達は『○○の騎士』というはただの役所名だと思っていたので、大して深く質問してこなかった。だが、これが旅をする上で大事なものであるというのならば、流石に今までの様にはいかない。
何故なら共に旅をする身として、それくらいは話しておいてくれないといろいろと支障が出るというもの。特にこのパーティはハルマという『最弱』のお荷物を抱えているのだから尚更だ。
「……これはあれだな、今度ちょっとアイツに物申す必要がありそうだ」
「ええ、ぜひそうしてやってください。で、説明しますとこの『○○の騎士』っていうのは単なる役所名ってだけではないんですよ。私達、聖騎士団長はそれぞれ加護に似た特殊な力を持っているんです」
「特殊な力?」
「はい、それぞれ聖騎士団長は自らの適応する時間の間、ステータスが上昇するというものです。例えば私は『黄昏の騎士』ですので、夕方の間はステータスが上昇しますね」
「で、私は『暁の騎士』なので朝の間ですね!」
「へえ……。って! それメチャクチャ重要な感じじゃないですか! なんでアイツ話さないんだよ!!!」
「多分、『聞かれてもないのに自分の能力について語るなんて、まるで自慢しているように感じないだろうか』とか思ってやがるんだと思いますよ」
「ああ……」
確かに、ソメイならそういうこと考えそうだった。
さらには自他ともに認める『最弱』のハルマ相手なら尚更である。
その思考が完全に間違いだとは言わないが……だからって完全に黙っているのもうどうなんだろうか。
「これは今度要相談だな……。それで、その能力って加護とは違うんですか? 『似てる』って言ってましたけど」
「はい、これらは加護とは違う能力です。まず、加護にはある天恵苗字がありません。それともう一つ違う点としては、単純に弱いんですよね」
「弱い?」
「はい。今現在世界には5つの加護があると言われてしますが、そのどれもが7つの大罪の【権能】には及ばずとも、かなり常識外れな力を持っています。しかし我々の持つこの力は『決まった時間の間だけ、ステータスが上昇する』と加護と比べて非常に効果が弱いんです」
「へえ……」
加護とは似て非なる能力。
それが聖騎士団長には備わっているらしい。
そしてそれに対応する名前を、騎士団長名として名乗っているようだ。
「で、ソメイの奴も言っていたと思いますが、此度はそこのマイがコウホク殿からこの能力と騎士団長の座を受け継ぐんです。それが戴冠式ですね」
「なるほど。ってか、この能力って引き継げるんですね」
「引き継げますよ。それにそれは加護も権能も同じです。これらの力は所持者の意志で他者に譲渡するが出来るんです」
「そうなんですか。意外と便利なんですね」
ってことは、この騎士団長が特殊な能力を持っているというのはそれなりに昔からのことなのだろう。
恐らく今回のように昔から次の世代へと受け継がれ続けてきたのではないだろうか。
「さて、我々の異能について説明もし終えたことですし。そろそろ行きますか?」
「? 行きますかってどこにです?」
「それは玉座の間に決まっているでしょう。王もアメミヤさん達のことをお待ちしておりますよ?」
「え? 俺達ソメイに謁見できないって言われたんすけど?」
「あ、ああ……。ほら、アイツくそ真面目なんで、毎回毎回ちゃんと確認取るんですよ。王は別にそのあたりお気になさってはいないんですけどね」
「なるほどね……」
なんともソメイらしい。
どうにもあのイケメン天然騎士は、ちょっと人とズレているところがあるのだった。
―廊下―
そんな訳で、ハルマ達はキンキ達と共に玉座の間へ向かって行く。
聖騎士団長にエスコートされるとは、なんとも言えない気分だった。
「そういえば、聖騎士団長は4人居るんですよね。あとの1人は今は留守なんですか?」
「いや、多分アイツはどっかに隠れてるんじゃないですかね」
「隠れてる……?」
「聖王国キャメロット聖騎士団長、夜半の騎士。名前をシキザキ・エスターテと言うんですが……どうにも人間不信のきらいがありまして」
「そうなんですか……」
じゃあなんで聖騎士団長やってるんだろうか、とも思ったハルマだったがそれは口にはしないでおく。
あれだ、多分なんかしらの事情があるんだろう。
そういうことに安易に踏み込むと変な地雷を踏みかねないので、ここは黙っておくのが吉なのである。
「じゃあなんで聖騎士団長やってるんだろうね」
と、思ったら、それの地雷ワードを普通に言ってしまう人が。
目を見開いて振り返ると、そこに居たのはローブを身に纏う女性。
すなわち……
「!? マーリンさん!?」
「や、仕事が終わったからまた遊びに来たよ」
「いや、それは良いんですけど! 今のは流石に!!!」
「大丈夫、大丈夫。だって私はここに今の王が王になる前から居るんだよ? それくらいはもうちゃんと把握してるさ。今のは把握した上での発言」
「把握した上でも良くないのは良くないでしょうに……」
「ま、それもそうなんだけどね」
ケラケラと笑うマーリン。
怖いもの知らずとはこういう人のことを言うのだろう。
てか、地味に外見年齢ハルマとほぼ同じっぽかったのに、実はマーリンが意外と年上だったことにもびっくりした。
「さて! それじゃみんなで王の元へ行こうか。地味に王もハルマ君に会うの楽しみにしていたしね」
「え? そうなんです?」
「うん。アラドヴァル王からいろいろ話を聞いて楽しみそうにしていたよ」
なんてこったい。
アラドヴァル、余計なことや盛り過ぎた話をしていないと良いのだが……。
―玉座の間―
てな訳でマーリンも加わり総勢7人で玉座の間へ。
ドアを開けて何か入ると、既に中に居たソメイは驚いた様子だった。
「ハルマ、ホムラ、ジバ公!? なんでここに!?」
「なんでここに、じゃねえだろうよ。お前も王がアメミヤさん達に会うの楽しみにしてたの知ってるくせに、なんで謁見するなとか言ったんだ?」
「いきなりは良くないだろう。まずは準備や王の支度が整ってからでないと、最善の対応が出来ないじゃないか。それくらい君にも分かるだろう、キンキ?」
「まあ、お前さんの言ってることも間違いじゃないがよ。もうちょっと他にあっただろうに……」
「?」
微妙にすれ違う会話。
そしてハルマとホムラはキンキの口調が自分達の時とはまったく違うことに、ちょっと驚いていた。
あんなにもスッと変えられるものなのか。
と、その時。
「キンキ、その程度にしてあげてください。ソメイの行動も私を思ってしてくれたことですから」
優雅さと荘厳さを両立した女性の声が、玉座の間に響いた。
「さようで。まあ、王が良いと言うのなら俺……じゃなくて私は別に構いませんがね」
「ありがとう、キンキ。……さて、天宮さん、ホムラさん、ジバさん。まずはご挨拶を。私がこの国の王をさせていただいている、聖王ロンゴミニアドという者です」
そっと、玉座の後ろの幕から出てきた聖王。
その姿を見て――ハルマ達はまさに言葉の通り息を吞む。
「ようこそ、聖王国キャメロットへ。貴方達がいらっしゃるを心からお待ちしておりました」
柔らかく、されど何処か遠くに感じる不思議な雰囲気。
聖王が放つ気配はどこまでもどこまでも続く永遠の空色をしていた。
【後書き雑談トピックス】
暁:4時~9時 (5時間)
白昼:9時~17時 (8時間)
黄昏:17時~19時(2時間)
夜半:19時~4時 (9時間)
となっております。
なお時間が短ければ短いほど効果は大きくなるので、一概にどれが一番強いとは言えません。
次回 第60話「勇気を示す方法」
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